CARD34
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関東大会前、最後の土曜日。俺たちは部室ではなく、カードショップ集合した。例によって、今日は新弾の発売日だ。
店に入ると、新弾発売日ということもあってか、かなり賑わっていた。テーブルの対戦席は、新弾のボックスを開封する人たちで溢れている。
「先輩は今回は何箱買うんですか」
「今回は一箱かなー。あ、でも“あれ”が当たらなかったら、もう一箱買うけどね」
今回の新弾は、再録カードが中心のパックだった。全四十枚のうち、三十枚は過去のパックに収録されたカードの再録だ。新規カードはたった十枚。
だが、その中には環境に大きな影響を与えるカードがあった。
「あ、あたし当たりました」
「ほんと?」
今回のトップレアカード。
<繁盛する酒場>
発動後3ターンの間、相手が召還アーツを使うたびにカードを1枚ドローする。
効果はたった一文。だが、往々にしてシンプルな効果を持つカードは強いものだ。
強力なサモンメタ。サモンデッキである【ゴブリン】が支配するこの環境で、このカードの強さは火を見るよりも明らかだろう。
「いいなー」
なんて言っていたが、そのうち先輩も<酒場>を引き当てる。俺は結局一箱では当たらなかったので、おとなしくシングル買いする。
「さて。デッキ構築どうしようか」
新弾の発売と同時に、新しい制限カードリストが発表された。
制限カードとは、強すぎる故に、デッキに投入できる枚数を制限されたカードのことだ。本来同じカードはデッキに三枚まで投入できるが、“準制限カード”は二、“制限カード”は一枚しか投入でず、その上をいく“禁止カード”は、公式デュエルで使用不可となる。
ゲームバランスをとるために、三か月一度リストが更新され、強いデッキが弱体化することになる。
今回の制限対象はもちろん、環境を支配している【ゴブリン】だ。デッキのアドバンテージ獲得能力を支えていた<ゴブリンの角笛吹き>と<ゴブリンの召喚士>が二枚とも制限カードに指定された。これで、ほぼ永続的だった【ゴブリン】のアドバンテージ獲得能力が限定的になった。
だが、それでもなお、ゴブリンデッキは環境トップに居座るだろう。<ゴブリンの角笛吹き>が一枚でもある限り、序盤にアドバンテージを稼ぐ能力は失われないからだ。
新弾のカードをデッキに投入して、デュエルをしてみる。
他のデッキに<繁盛する市場>を入れて試してみるが、やはり【ゴブリン】のスピードに追いつかない。
「やっぱり、デッキは【ゴブリン】以外ではありえませんね」
これまで以上に繊細なプレイングが求められることにはなるが、それでもまだデッキパワーの高さを実感する。次の環境も、どうやら【ゴブリン】環境になりそうだ。
と、
「いらっしゃませ~」
視界の奥に、一人の少年。俺の焦点は一気に彼にフォーカスする。
白河貴文。
あの大会以来の再開だった。
だが、
「やあ、優輝くん」
と、彼はそれだけ言って、立ち止まることもせず、店の奥に行った。帝王が、もはや俺に対する興味を失っているのは明白だった。
その瞬間。
あの日の記憶がフラッシュバックする。
――残念だよ。
ギャル子の言葉。
「負けたら悔しい、当たり前じゃん」
その瞬間、俺の中で何かが再び燃え上がった。
そうか。
そうだよな。
負けたら悔しい。
負けたくない。
勝ちたい。
たったそれだけのことじゃないか。
意味があるとか無いとか。
将来役に立つとか立たないとか。
そんなのは関係ないんだ。
「先輩」
俺は前向いて宣言した。
「俺、必ず勝ちます」
それはもはや独白。でも、それでもいい。
「貴文に、必ず勝ちます」




