CARD33
◇
雨は明日からのはずだったが、実際は今日の午後から振り始めた。
単に面倒くさいというのもあったが、姉ヶ崎と合うのが気まずくて、部活に行く気にはなれなかった。幸い、五時間目は彼女と別の教室だった。だから、俺はそのまま帰ることにした。
建物を出ると、ナマズの像だけが雨の中で立っていた。生徒たちはみな部活動にいそしんでいるのだろう。
と、その時。ポケットでスマホが振動した。見ると先輩からのメッセージだった。
桜木あおい――今どこ?
一ノ瀬優輝――校門の近くです。
すると既読が付いた。でも、返信がなかった。
俺は少しだけその場で考えてから、とりあえず帰ろうと校門の方に向き直った。
だが、その時。
「ゆーきくん!!」
俺の背中に、彼女の声がダイレクトに伝わってきたのだ。
振り返ると、桜木先輩が校舎から飛び出てきた。傘も挿さずに、びしょ濡れになりながら、駆け寄ってくる。
なぜか彼女は満面の笑みを浮かべていた。
なんで傘ささないんですか、そう言おうとしたが、その前に彼女が口を開いた。
「あのね!!」
満面の笑みは、やっぱりどうしようもなく可愛かった。ちょっと天気が悪いくらいじゃ、彼女の明るさを曇ることはないのだ。
「あのね!」
と、先輩は駆け寄ってきて、そのまま俺の両手首を握った。雨に濡れたその手は、暖かかった。
「代表校の青葉高校が、出場を辞退したの!」
耳を疑った。
「それって、つまり」
「繰り上がりで関東大会に出れるんだよ!」
雨が地面に当たる雑音に負けない声で彼女は言った。その笑顔は、これまで人生で見た中で一番っていうくらい、明るいものだった。
「もう一回貴文と戦えるんだよ!」
ああ、だめだ。
この人はカードのことしか考えてない。アーツという競技が、俺と先輩をつなげているに過ぎないのだ。そのことを、改めて思い知る。
でも、なのに。いや、だからこそか。
桜木先輩はやっぱり魅力的だ。どうしようもなく惹きつけられる。こんなにまっすぐな人はいない。あまりにまっすぐすぎて、周りのことなんてまったく見てない。
彼女は太陽のようで、でも、ひまわりでなくても惹きつけられてしまうのだ。
「先輩、風邪ひきますよ」
俺は自分の傘を先輩の上に動かす。本当はハンカチの一枚でも差し出せればよかっただが、あいにく何も持っていなかった。
「とりあえず部室に行きましょう」
「うん」
先輩はひどくうれしそうな顔をした。そんな顔するなんて卑怯だ。
「もう時間ないよ」
先輩の一方後ろを歩く。ブラが、バッチリ透けていた。水色の、いかにも清楚そうな感じ。先輩に悪いなと思いつつも、まぁこれから大会に向けて頑張るのにご褒美も必要だろう。
◇




