表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/46

CARD31

 ◇


 授業が終わった瞬間、俺は誰よりも早く席を立った。

 一刻も早く教室を出ようと出口に向かう――だが、誰かが俺の腕をつかんだ。

 近くの席に座っていたギャル子だった。

「ねぇ、優輝」

「何」

「今日は来るよね」

「えっと……」

 行く気などなかった。さらさらなかった。

「まあ、あれだよ」

 用事がある、そう言おうとしたが。

 彼女の小さな手が、俺の腕をガッシリと掴んだ。

「行くよ」

 クラスメイトたちはの「何事?」という視線を感じる。そういえば、クラスで俺とギャル子は毎週おうちデートを重ねる中ってことになってるってことを思い出した。

 だが、そんなことギャル子は気にせず、俺を引っ張る。その気迫に圧倒されて、手を離せとは言えなかった。それこそ、浮気した彼氏に問いただすみたいな雰囲気を醸し出していた。

 あっという間に部室まで来てしまう。

 部室には既に先輩がいた。いつも先輩は先に部室にきている。この人より早く来れた試しがない

「お疲れ様です」

 一週間ぶりに見た先輩は、やっぱり可愛かった。そう、忘れていた。俺は、この人ことがが好きだったんだ。

「優輝くん!」

 練習を休んでたことを怒られるかなと思った。でも違った。

「私昨日デッキ組んだばっかりなんだ。試させてよ!」先輩はそう言ってデッキを突き出す。「結構自信あるんだ」

 ほんとに何事もなかったかのようなノリで彼女はそう言った。

 俺は少し肩の荷が下りた感じがした。

「どれ見せてください。……確かに<薔薇の契約>、意外と強そうですね」

「環境次第でワンチャンあるでしょ?」

 いつものように、プレイについてああだこうだと言い合いならがゲームをする。

「そう考えると、一強環境なら【メタビ】とかも全然アリですね」

「うんうん」

「【メタビ】ってなんですかぁ?」

「環境デッキを徹底的に対策して、動きを縛るデッキだよ。例えば、【ゴブリン】環境なら、サモンカードを妨害するカードとか、サーチを禁ずるカードばかりを積んで、相手にアドをとる動きをさせないんだ」

 プレイしていると時間はあっという間に過ぎる。下校のチャイムで、もう五時半だと気が付くのだ。

 部室を出て、駅まで歩き、電車に乗っても、先輩の環境分析は続く。

 俺たちはいつも通り先輩より先に電車を降りる。

「じゃあね」

 先輩は満面の笑みでそう言った。

「お疲れ様です」

「お疲れ様です」

 ドアが閉まる直前。

「まあ明日、ね」

 桜木先輩は俺の目を見てそう言った。

 俺は答えられなかった。代わりに曖昧に頷いただけだ。

 その後、数分電車に揺られていた。

 と、ギャル子が俺の制服の袖を引っ張った。

「ねぇ、この後なんか用事ある?」

 このパターン、デートのお誘いでないことはもうよく知っている。

「別に無いけど」

「じゃぁ練習付き合ってよ」

「じゃあうちでいい?」

「いいよ」

 駅から十分弱歩く。

「お邪魔します」

「あいよ」

 もう、俺の家にギャル子を入れるのも慣れてしまった。

 テーブルを挟んで俺はベッド側、ギャル子は反対側に座る。これが定位置だった。

「食べる?」

 とギャル子が乾パンの袋を差し出してきた。そろそろお腹が空く時間だったので、俺は無言で袋に手を突っ込んだ。二、三個まとめて口に放り込んでからデッキの準備をする。

 練習なので、俺はゴブリン以外のメジャーなデッキを使う。

「あ、このデッキはここで除去っちゃダメだよ」

「え、なんで?」

「だってまだデッキに<活路への希望>が眠ってるかもしれないでしょ。そこを確実に潰さないといけないから」

 そして七時頃、やっていたゲームの決着がついて、そろそろお開きにしようという雰囲気になった。

 カードをケースにしまいながら、俺は彼女に尋ねた。

「なんでさ、そんな頑張ってんの? もうしばらく試合はないのに」

 どんな答えを期待しているのだろう。

「私だけ役に立てなかった」

「そりゃお前は初心者で」

「だからこそだよ。何年もやってる人たちに追い付くために頑張らないと。まだまだ知らないカードや戦術がたくさんあって、自分のデッキがどんな可能性を秘めているのかもわからない。知らなきゃいけないことが途方もなく沢山あるって、それがわかったの」

 この子は、本気でアーツに取り組んでいるのだ。たった数ヶ月前に始めたばかりなのに、本気で、日本一を目指しているんだ。

「それにさ」

 一呼吸。そして彼女の瞳が俺を見据えた。

「負けたら悔しい。当たり前じゃん」

 その言葉は、妙に心に響いた。

「ねぇ」

 と、彼女は突然、

「家まで送ってよ」

 そんなことを言い出した。

「いいけどさ」

 俺はスマホだけ持って、立ち上がった。

 家を出て、駅までの道を歩く。

 家を出て数分、ギャル子は黙っていた。だが、彼女は突然、思わぬことを言い出した。

「優輝ってさ、先輩のこと好きだったでしょ」

 そういえば、前にもそんなことを言われた。

「急になんだよ。大体俺が先輩のこと好きって前提はいつできたんだよ」

「いいから、そういうの。前は好きだった。それは事実でしょ」

 俺は返事をする代わりに沈黙を選んだ。

「でさ、今どうなの」

 その質問に、俺は考える。そして本音を言う。

「別に、好きじゃないよ」

「そう」

 と、突然彼女は立ち止まった。

 そして、

「じゃぁさ、あたしと付き合わない?」

 何かの聞き間違いかと思った。

「えっと、それって……」

 あまりに突然のことで、俺は言葉を失ってしまった。

「あたし、もし優輝が部活辞めちゃっても、いや、辞めてほしないけど、とにかく、一緒にいたい」

「えっと、つまり俺が辞めるかもと思ったから?」

 と、姉ヶ崎は小さく頷く。

「優輝とカードやってるとき、本当に楽しいから」 

 俺はなんていえばいいのかわからず、黙り込んでしまう。本当に何か言わなければいけないって、わかっているのに、なにも言葉が出てこない。それでなんとか出した言葉は 

「ごめん、返事。保留にしていいかな。突然のこと過ぎて」

 そんな、情けないものだった。でも、それが俺の精一杯だったのだ。

「うんわかった」

 と、姉ヶ崎は再び歩き出した。俺もついていこうとするが、

「お見送りありがとう。ここまででいいよ。じゃ、また明日」

「――またね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ