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CARD28

 ◇


 準決勝。これに勝てば関東大会へ駒を進めることができる。だが、相手は桜華院、いや白河貴文だ。

「幕張南高校、桜華院高校」

 運営が俺たちの再戦を宣言した。

 いよいよだ。

「勝って幕張にいくよ!」

 先輩の掛け声に先導され、俺たちはテーブル前に向う。

 昨年度の覇者三人と対面する。彼らから緊張なんてものは一切感じさせない。自信に満ち溢れているのだ。まさに王者の風格。

 そして、今の俺たちは間違いなく挑戦者なのだ。

 お互い整列して、礼をする。

「よろしくお願いします」

 その後、運営によって対戦順の抽選が行われる。こちらの順番は、俺、ギャル子、先輩。そして桜華院高校の順番が画面に表示される。

 ――貴文の名前は、最初にあった。運命に導かれた気がした。

「まずは一勝とってきます」

 俺は先輩にそう宣言した。

「頑張って!」

 先輩の言葉に背中を押され席に着いた。貴文と相対する。彼と戦うのは実に二年ぶりだ。

 普段、あまり喜怒哀楽を見せないクールな貴文だが、今はどこか興奮しているように見えた。といっても、本当にそれはわずかに、なのだが。

「この日を待っていたよ」

「俺もだよ」

 世界ジュニアで戦ったあの日の興奮が脳裏に蘇る。身体の奥底にに刻まれた、あの時の興奮がじわじわと、汗のように内側からしみだしてくるのだ。

 先行・後攻を決めるダイスロール。ジャッジが降った二色の二十面のダイスが、板状を転がる。俺の目は十。天文は一。

「先行もらいます」

 お互いのデッキをシャッフル。三枚カードをドローして、脇においてあったスタハン二枚を加えて手札とする。そしてお互いのサーヴァントが呼びだされる。俺が<ゴブリンの指導者>を出した時、天文もまったく同じカードをフィールドに繰り出した。二人ともサーヴァントは<ゴブリンの指導者>。ミラーマッチだ。

 トップデッキのミラーでは、相性や引きといった要素ではなく、構築力とプレイングが勝敗を分ける。デッキの相性が悪くて負けた、そんな言い訳を一切許されない試合になる。

 ひとまず先行を取れたのは大きい。最初のターン攻撃できない代わりに、相手より一ターン早く展開できる。詠唱時間がある召喚アーツは基本的に初めのターン攻撃できないので、メリットのほうが大きくなるのだ。

「<ゴブリンの妨害部隊>を発動」

 俺はさらに追加でゴブリンを詠唱してターンを終了。ひとまず、手札はそこそこいい。想定どおりの展開ができそうだ。

 そして、貴文のターン。まずは<ゴブリンの妨害部隊>を展開して――

 だが。

「<ゴブリンの先鋭部隊>を召喚」

 彼が繰り出したカードを見て、俺は驚愕した。

 <ゴブリンの妨害部隊>を使わない!?

 いったい何が起きているのか、頭が追い付かない。

「さらに<ゴブリンの先鋭部隊>をもう一枚召喚。そして<ゴブリンの老兵>を召喚。ターン終了」

「……俺のターン」

 頭の整理はつかないが、考えずとも右手が勝手に、現在のハンドから考えられる最適なプレイングをしてくれる。

「<ゴブリンの老兵>を詠唱。<ゴブリンの衛生兵>を召喚。ターン終了」

 お互い事故なく展開していく。

 そしてゲームが中盤に差し掛かったころ、俺はあることに気が付いた。

 確かに、彼の予想外の一手に動揺はしたが、ミスはしていない。なのに、俺のライフのほうが多く削られている。

 いや、まて。

 そういうことか。

 そこで俺はようやく自分の過ちに気がついた。

 確かに<ゴブリンの妨害部隊>は極めて強力なカードだ。一枚で相手のアーツを封殺できるのだから。

 そのあまりの強力さ故に、大会に参加するプレーヤーのほとんどがスタハンとして採用している。

 そして、大会に参加するプレーヤーたちはバカではない。相手が強力なカードを“確実に”使ってくるとわかっているのであれば、そのカードに対する対策をしてくるはずなのだ。現に、俺たちも<妨害部隊>の影響を受けるカードに極力頼らない構築にしている。

 強力なカードゆえ、皆が対策をしてくる。だから、この環境では<妨害部隊>のパワーは半減してしまっているのだ。貴文のチームは、それを見越して<ゴブリンの妨害部隊>の代わりにあえて<ゴブリンの先鋒部隊>を採用して、速攻を仕掛けるほうが有利だと読んだのだ。

 彼のデッキは、いわば【アグロ・ゴブリン】。攻撃に特化してるがゆえに、他の<妨害部隊>を採用している【妨害ゴブリン】に対して優位に立てるのだ。

 環境を読み切った、完璧なデッキ選択。これが白川貴文。これが、常勝無敗の男の力。

 【ゴブリン】は極めて安定したデッキだ。だからデッキ構築が完璧であれば、あとはミスをしなければ勝てる。運の要素が極めて少ない。

 デッキ構築で貴文に負けている。この時点で勝負は絶望的だ。

 そして貴文のプレイングは正確無比。こちらもミスのなく試合を進めるが、貴文はそれに対して的確に返していく。プレイングは互角。であれば、構築でまさる貴文の勝利は確実だ。

 カードゲームは何が起こるかわからない。貴文がミスする可能性はゼロではない……その僅かな可能性を信じて冷静にゲームを進める。

 だが、彼は最後まで彼であり続けた。その集中力が途切れることはなかった。結果、初めに速攻をかけた分の差を埋められず。

 次のターンの攻撃を防げないことが確定した時点で俺はデッキトップに手をおいた。

「負けで」

 俺はそう言った後、息を吸い込み、そして大きく吐き出した。

 あー負けちまった。

 意外と悔しいとは思わなかった。

 ついさっきまで、勝てる気でいた。でも、敗北は当然の結果。考えてみれば、彼に勝ったことがあるといっても、ただの一度だけなのだ。

 五年間負けなしの男に負けた。極めて順当な結果だ。

「ドンマイ!」

 と、先輩がチームを盛り上げようとする。

 だが、俺もギャル子も、そしておそらく先輩も、理解していた――もう、おしまいだ。

 当たり前だが、三戦中二勝しなければいけない。だが、ただでさえデッキ構築で負けているのに、初心者のギャル子が桜華院の選手に勝てるわけがない。

「すまん。あとは頼んだ」

 ギャル子にバトンタッチ。

「頑張ってきます!」

 ギャル子は、勢い良くテーブルに向う。だが、彼女は言わなかった――勝ってきます、と。きっと、彼女自信が一番わかっている。

 そもそもデッキ構築で負けている以上、プレイングが未熟なギャル子に勝てるはずもない。彼女自身が、誰よりもそのことを理解しているのだ。

 だが、ギャル子それでも完全に諦めてはいないようだった。だからだろうか。気合は空回り、いつもならしないような、本当の初心者のようなプレイミスを繰り返して、あっという間に敗北。

 これでチームは二敗。もう敗退は決定だ。

 だが、学生大会のルールでは、敗北が決定していても、三人目が勝負をする権利がある。それは敗者への配慮だった。

「三試合目はどうしますか」

 先輩は迷うことなく、戦うことを選んだ。

「戦います」

 先輩にとっては、一年間ずっと恋語かれていた戦いだ。例え、負け戦とわかっていても、戦わずにはいられないだろう。

 だが、結論だけ言うと、先輩も負けた。考えもしなかった地雷デッキになす術なく、あっけなく敗北。

 三戦三敗。完敗だった。

 勝てると、思っていた。でもそれは幻想だったのだ。

 言葉もなく立ち尽くしていると、貴文と目があった。彼の表情には、落胆の表情がにじみ出ていた。

「残念だよ」

 ボソリと言った。

 その言葉は魚の骨のように俺の中に刺さって抜けそうになかった。


 ◇

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