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CARD26

 ◇


「一回戦から当たるなんてね」

 テーブル越しに中島さんたち君津総合の面々と相対する。

 いきなりの昨年の代表校との対決だ。彼女たちの強さは、合宿で体験済み。合宿では俺たちが大きく負け越している。

 だが、こちらとて万全の準備をしている。

「それでは対戦カードを決定します」

 ジャッジの持っているタブレットで対戦順の抽選を行う。結果、中島VS姉ヶ崎、小川VS桜木、一ノ瀬VS大野、の順に対戦することになった。

「負けないよ」

 まず、第一戦はギャル子対中島。ギャルとギャルの対決は、トレカ界では異色の“ミラーマッチ”だ。

「頑張って!」

「まぁ気楽にいけ」

 それにしても、ギャル子にとっては初の公式戦の相手が、県内屈指の選手とは。

 合宿で何度も君津総合の三人と戦ったが、中島が一番やり手だと感じた。正直、プレイングスキルの差は歴然だ。今のギャル子に勝てる相手ではない。

 しかも彼女たちは環境トップデッキではなく、独自の地雷デッキを用いてくる。環境デッキ相手なら、何とか一通り戦えるようになったギャル子だが、知っているデッキタイプが少ないギャル子に、彼女たちのデッキは攻略できないだろう。

 デュエルがスタートする。

 中島さんのサーヴァントは<火力の行使者>。つまりデッキは【バーン】だ。予想通り、予想していなかったデッキタイプ。

 バーンとは、戦闘によらず、直接相手のサーヴァントにダメージを与えるカードを多用するデッキタイプだ。

 ギャル子にとっては初めてみるカードのオンパレード。中島さんがカードを出す度に、カードの効果を確認するギャル子。

 一方、中島さんは常に最善のプレイング。正直、俺でも必ず勝てるという自信はない。

 的確な対抗手段を打ち出せず、ずるずるライフを削り取られていく。

 ギャル子もなんとかゴブリンを展開し、反撃を試みるが、そのひ弱な抵抗を前に、中島さんは最終宣告を突きつける。

「<強者の傲慢>発動」

 勝敗は決した。ピッタリギャル子のライフがゼロになってデュエル終了。

「ありがとうございました」

 唇を噛み締めたような顔で、彼女は帰ってきた。

「ごめんなさい」

 そういってギャル子は頭を下げた。

「よく頑張ったよ」

 先輩がそう励ます。

「トップレベルのプレーヤー相手によく善戦したよ」

 まあ勝負はここからだ。ギャル子には悪いが、最初から俺と先輩は一敗もできない前提でここにきてる。

 続いて先輩と小川さんの戦い。

「絶対勝ってくるから」

 先輩はそう力強く宣言した。

 対戦相手は小川さん。

「よろしくお願いします」

 背が小さい(ついでに胸も小さい)小川さんだが、しかし明らかにその眼には闘志を燃やしていた。

 だが、闘志では桜木先輩負けていない。

「よろしくお願いします」

 小川さんのサーヴァントは<予言の解読者>。デッキは【予言】。デッキに眠る五枚の<予言>カードを全てフィールドに展開したとき勝利が確定する特殊勝利デッキだ。当然、完璧な地雷デッキ。

「<ゴブリンの妨害部隊>発動」

 この会場で幾度となく発動されたそのカードからデュエルがスタート。

「<封印の呪術>を発動」


<封印の呪術>

 相手のモンスターを1枚選択して発動する。その効果を二ターンの間無効にする。


 小川さんは<妨害部隊>を無効化するカードを使ってから、展開を試みる。

 やはり先輩は強い。相手が使ってくるカードは、どれもマイナーなものなのに、それを的確に捌いていく。

 環境外のカードへの理解は、一朝一夕では身につかない。アーツを第一に考えて生きている先輩の強みは、こういうところにあるだろう。

 純粋なデッキパワーは【ゴブリン】の方が上だ。

「負けました」

 小川さんがデッキトップに手を置いた。サレンダーだ。

「ありがとうございました」

 相手に礼をし、次の瞬間先輩は振り返って俺たちにVサインを送った。

「桜木先輩さすがです!」

 これで一勝一敗。

「優輝くん、あとは任せた」

 戦費はそう言って俺の方に手を乗せた。

「まあ、安心してください。勝ってきますから」

 ただカッコつけたかっただけじゃない。その言葉には、自分自身を奮い立たせる意味もあった。

 実に二年ぶりの公式戦。この舞台に、俺は戻ってきたのだ。

「よろしくお願いします」

 大野さんと向かい合う。

「よろしくお願いします」

 大野さんがメガネをクイっと上げた。

 ダイスロールで先行を勝ち取る。お互いにカードを引いたところで、サーヴァントを開示する。

 大野さんのサーヴァントは、俺の分身ともいえる一枚だった。

 青と白の甲冑を着込み、大剣を構えた少女のイラスト。大野さんのデッキは【アリスワルキル】だ。

「<アリス>の効果、カウンターを乗せます」

 そのカウンターが七つ溜まったとき、必殺の一撃を放つ。その時までに、ケリをつけなければならない。

「カードを二枚伏せてターンエンドで」

「俺のターン。ドロー。<ゴブリンの妨害部隊>を召喚。さらに<ゴブリンの角笛吹き>を召喚。効果で<先遣部隊>を手札に加える。カードを伏せてターンエンドで」

「私のターン、ドロー。<アリス>でゴブリンに攻撃。カウンターを乗せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー。<角笛吹き>の効果発動。<ゴブリンの騎兵>をサーチして、そのまま詠唱」

 俺はいつも通りの安定した展開で大野さんのライフを削っていく。

 だが、大野さんも着実にセブンスターカウンターを貯めていく。

 俺自身が熱心な【アリス】使いだっただけに、大野さんのプレイングとデッキ構築が卓越しているのがよくわかる。

「私は<休戦の使者>を発動」

 だが、デッキパワーでは【ゴブリン】が遥かに勝る。

 除去カードを的確に使って致命傷になるカードだけを防いでいく。そして<ゴブリン>の攻撃で少しづつ追い詰めていく。

「ドロー」

 大野さんがカードを引く。だが、それをデッキトップに戻して、そのまま掌をデッキに乗せた。

「サレンダーで」

「やった!」

 俺よりも、先に声を上げたのは先輩だった。それで気が付いた。去年の代表校に勝ったのだ。

 「ありがとうございました」と礼をしてから、大きい気を吐き出した。

 俺は立ち上がって、先輩たちのほうに向きあがる。

「優輝くん!」

 次の瞬間だった。先輩が抱き着いてきた。

 目の前に、先輩の顔があった。ふわっとした匂いが衝撃波になって脳に直接届く。

「やった! 優輝くんすごい!」

 細身に見えて、意外に柔らかい先輩の身体。勝ったことなんて、もうどうでもよかった。

 時間にして、実は数秒のことだった。離れるときに、また香りが鼻孔をくすぐる。

 と、別の香りが後ろから漂ってきた。

「あー去年の代表が一回戦で負けちゃうなんて」

 中島さんが俺に手を差し出す。

「完敗だよ」

 俺は彼女の手を握り返した。

「勝ってよね、白河貴文に」

「必ず勝つよ」




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