CARD16
◇
式根島に無事に到着。
船から出ると、入れ替わりに船に乗る人たちと、民宿の名前が書いてある旗をもって客を迎えに来た人たちが港に溢れていた。
船から降りるための橋を、船員と、なぜか警察も一緒になって抑えていた。やはりこういう田舎では、警察が民間の人たちを助けるなんて光景が当たり前なのだろうか。
「上陸!」
「とりあえず写真取りましょ」
そう言って、ギャル子が自撮り棒を取り出す。でました、リア充グッズ。
「とりまーす。はい、チーズ」
上手く笑顔が作れなかった。もっと自然に笑顔が作れる「はいチーズ」に代わる言葉を誰か考えて欲しい。
「これから泊まる民宿が‘三木’ってとこね。迎えに来てくれてるはずだから、名前を見つけて」
しばらくキョロキョロしていると、扉に三木と書いた車を見つけた。麦わら帽子をかぶっていて、いかにも田舎のひと、って感じのおじいちゃんが乗っていた。
「お世話になります!」
「どこから来られたんですか」なんていう定番な質問から本当に当たり障りのない会話をしているうちに、ものの五分で宿に着く。
「ありがとうございます」
車から出ると、もう本当にTHE家っていう建物が現れた。民宿って、思ったよりもはるかに普通の家なんだなと驚く。本当にどこにでもある瓦屋根の木造建築。
「お邪魔します」
中に入るとおばあちゃんの家と同じ匂いがした。玄関には靴が散乱している。おじいちゃんに先導されて、幅の狭い階段を昇っていく。
「こっちが男性、こっちが女性の部屋ね。トイレは廊下突き当りに、シャワーは下の階にあるから」
「シャワー使っていい時間とか決まってますか?」
先輩が聞くと、おじいちゃんは「ご自由に」とぶっきらぼうに答えた。
「じゃあ、荷物置いたら、ひとまず観光しましょ。服の下に水着来て、タオルとかだけリュックに入れて外に集合ね」
そういって先輩とキャル子は自分たちの部屋に入っていった。
俺も自分の部屋に入り、着替えていると、隣の部屋から声が聞こてくる。
「っていうか先輩水着かわいいですね」
壁が薄すぎて、話がまる聞こえだった。
「晴夏ちゃん胸おっきー」
別に悪いことはなにもしてないのに、罪悪感を覚える。
俺は手早く、着替えて先に外に出る。その後数分で先輩たちも外に出てきた。
「よーし。じゃぁいきましょうか」
宿の人がくれた島の地図を広げる。地図によると、島は外周で五キロほど。
「とりあえず、自転車を借りましょ」
民宿のすぐ隣が自転車のレンタル屋だった。一日三千円で電動自転車を貸しだしていた。
「まぁ大丈夫だと思うけど、電池切れたら持ってきてくれたら替えるから」
電動自転車というものの存在は知っていたが、実際に乗るのは初めてだ。
「よーし、出発」
先輩の掛語で俺たちはサドルにまたがった。
ベルの横にあるスイッチを押し、ひとこぎすると、一拍おいて急に加速しする。
「おー。すごい!」
本当になんの力もいらない。どんどん進んでいく。
「やばい、どんどん坂のぼりたい」
一同、電動アシストの偉大さに感動する。ほんとに数カロリーの消費でビーチについてしまう。
「海だぁ!」
「めっちゃ綺麗ですね」
白い砂浜にエメラルドブルーの海。弧を描くように岩の絶壁に囲まれていてる。
考えてみれば、家族以外と海水浴なんてこれまた初めてだ。
「テンションあがってきたぁ!」
まだついこないだ春になったばかりの5月。海水浴なんて時季外れすぎると思ったが、太陽の光はさんさんと降り注いでいる。今日ばかりは温暖化に感謝したい。
「さっそく入りましょー」
先輩はそう宣言すると着ていたTシャツを勢い良く脱ぎ捨てた。ギャル子もそれに続く。
二人共ビキニだった。
先輩のは真っ白なビキニ。本当にまばゆい白さ。小さすぎず大きすぎない、形の良い胸。それに、緩やかな流線型の美しいアーチを描いた太もも。非の打ち所がない。
一方、ギャル子は、思ったよりはるかに巨乳だった。青色の水着に包まれた、その深い谷間に思わず視線が釘付けになってしまう。そして、ほどよく肉のついた太ももも魔的なものを放っている。
いったいどこを見ていいのかわからなかった。彼女たちのほうを見れば、胸に視線が吸い寄せられてしまうし、かといって海の彼方を見ているのも不自然だ。
「日差し、意外と強いからねー」
と、先輩たちは日焼け止めクリームを塗りだす。それは、なんとなく見てはいけないものな気がした。
「ほら、優輝くん」
そう呼ばれたので振り返ると、先輩が俺にクリームを差し出てきた。
「塗らないと後で痛い思いするよ」
「あ、ありがとうございます」
と、クリームを受け取ろうとして、俺はそれを地面に落としてしまった。クリームではなく、先輩の胸に視線が吸い寄せられてしまったからだ。
「すみません」
俺は慌てて拾って、あさっての方向を向く。
「よっしゃー、いざ突撃!」
そういって先輩は走り出し、何のためらいもなく海に飛び込んだ。
バシャーン。そして先輩の悲鳴。
「冷たっ。寒っ」
俺とギャル子は顔を見合わせる。さすがにギャル子も五月の海に飛び込む勇気はないようだ。
俺たちは歩いて海に近づき、波に恐る恐る足を伸ばす。
「うわ、冷たっ」
波が足首に当たるだけで、もう海に入る気が失せてしまった。本当に冷たい。
と、そんな俺を見て先輩が笑顔を浮かべて、ついでに胸を揺らしながら、寄ってきた。
「ほらほら、ちょびちょびやってたらいつまでたっても入れないよ!」
腕を思いっきり引っ張られる。次の瞬間、俺は真っ青な世界に引きずり込まれていた。
「あぎゃぁ」
慌てて起き上がって息を吸い込む。あははと、先輩とギャル子が笑っていた。
「ガチでちょっとやめてくださいよ!」
とはいいつつも、確かに、一度つかってしまうと冷たいという感覚はどこかに消えていた。。
「もっと奥いこ」
唇をなめると潮の味がした。
エメラルドグリーンの海が広がり、下を見ると六角形に光がプリズムしていた。
と、もう少し深いところに歩いていくと、足もとで何かが動いた。
「めっちや魚いる!」
灰色の地味な魚が目立つが、派手な色をした、いかにも南国って感じの魚も泳いでいた。
「ニモいないかな」
そりゃいないだろう、イソギンチャクがないんだから。
「あ、でもドリーみたいなのはいるぞ」
「え、どこどこ」
「ほら、その辺」
「うわぁ、ほんとだぁ!」
◇




