CARD10
◇
なーんて妄想をしていると、あっというまに十分が経った。
そしてチャイムが俺のためだけに響き渡った。
玄関にいって扉を開ける。その瞬間、ふわっといい香りが鼻孔をくすぐった。
ゆるめのニットにミニスカート姿(流石にTシャツ一枚ではなかった)。彼女の私服を見るのは初めてだ。もともと可愛い方だとは思うが、今日は三割ましで可愛くみえる。
「おじゃまでーす」
スニーカーとサンダルしかない玄関に、ヒールのオシャンティな靴が置かれているのは違和感しかない。
「とりあえず上行こうか」
階段を上り、部屋に招き入れる。
「おじゃましまーす」
彼女は再びそういうと、ちゃぶ台の横に敷かれた座布団に座り込んだ。
と、服の隙間がかなり大きめに開いているのに気が付いた。俺は視線は彼女の谷間に吸い寄せられてしまった。普段制服の上からだとあまりわからなかったが、なかなか立派なものをお持ちだった。
「ん、どうかした?」
「い、いやなんでも」
危ない危ない。数秒とはいえ、俺は完全にギャル子の胸を凝視してしまった。
俺はごまかすように口を開いて、
「で、なにしにきたの」
「そりゃ、楽しいことだよ」
「え」
楽しいことって、まさか。
と。
おもむろにギャル子がスクールバックから何かを取り出す。
「え、」
俺は思わずそう呟いた。
彼女がギャル特融のキラッキラしたバッグから取り出したのはデッキケースだったのだ。
「あたし、自分でデッキ組んでみたんだ」
ギャル子がバーンとデッキケースを俺の目の前に突きつける。
「えっと、デュエルするの?」
そうか。コイツは、平日だけでは飽きたらず、決闘相手を求めてやってきたのか。
「他に何するの?」
ギャル子はしごく不思議そうな表情を浮かべた。
確かに、彼女のアーツへのハマりっぷりは、かなりのものだった。部室で熱心にプレイするのはもちろん、授業中や休み時間もスマホでずっとデッキのことを調べているみたいだ。
「いや……そうだな」
エッチな妄想をしていた自分が異様に恥ずかしかった。
俺はごまかすように、机からデッキケースを取り出した。ちゃぶ台にラバーシートを引いて、携帯のライフ計算アプリを起動する。
フェイバリットデッキである【アリス】で相手しようかと思ったが、試合も近いのでやはり【ゴブリン】を使うことにした。
現在、各種大会では【ゴブリン】が大流行している。ギャル子にとって、まずは試合で一番戦う確率が高い【ゴブリン】の経験を積むのが、強くなるには必須だろう
「お願いします」
まだまだデッキをカットする手つきがたどたどしい。
「じゃぁ、ギャル子先行でいいよ」
お互いカードをセットしてデュエルを開始する。
ギャル子はこの一週間で一通りルールを覚えたが、まだまだ細かいカードの効果を勘違いしていたり、明らかなプレイミスをすることが多いので、そのたびに指摘していく。
ギャル子は俺のアドバイスを聞くだけでなく、いちいち携帯にメモしていた。学校の授業でもここまで真面目に聞く人は少ないだろう。
そしておバカな見た目とは裏腹に、このゲームの駆け引きを理解していた。まだ正しい選択を少ない時間で導き出すことはできないものの、バカ正直につっこんできたりはしない。
「ターン終了」
俺の場にはゴブリンが一体だけ。一方相手の場にはゴブリン三体と伏せカード一枚。
「ドロー」
いいカードを引いた。
<ガストオブウインド>
詠唱中のアーツを一枚選択して、破壊する。
ギャル子のフィールドには前のターンに詠唱した正体不明のアーツが一枚。
「<ガストオブウインド>でそれ破壊で」
彼女の伏せたカードを指差す。するとギャル子は満面の笑みを浮かべた。
「ひっっかかった!」
得意げにカードを裏返す。
「<連鎖爆撃>発動!」
その得意げな表情がかわいかった。よくできましたと頭を撫でてあげたい。
だが、
「残念でした」
「え?」
「これはね“強制効果”なんだよ」
「強制効果?」
「たとえば破壊するという効果には、二種類が考えられる。破壊“できる”という任意効果か、あるいは破壊“する”という強制効果」
俺は連鎖爆撃のテキストを指差す。
<連鎖爆撃>
このカードが破壊され墓地に送られたとき時、フィールド上のカードを二枚破壊する。
「この<連鎖爆撃>の効果は、強制効果。テキストに“破壊する”と書いてあるでしょ。しかも、テキストには“相手の”とはかかれていない。つまりたとえ自分のカードでもいいから、何かを破壊しなければいけない、ということなんだ」
「自分のカードなのに破壊しなきゃいけないの?」
「カードに書いてあることがすべてだからね。強制効果を持つカードには、自滅の可能性もあるんだよ」
「難しい……」
「まぁ一つ一つ覚えていこう」




