団子屋にて。3
「美味しいですね~このお団子!あ、もう一皿くれません?」
ぱくぱくとスナック感覚で団子を食べ終えおかわりを要求される。この人の胃袋はどうなってるんだ。もう10皿はいってるぞ。
「少々お待ちを。」
にこり、と愛想笑い浮かべ軽く頭をさげその場を離れる。お団子を皿に盛り付けてお役人様のところへ戻ろうとすると、時計が目に入った。その時刻を見てあぁ、まだ2時なのか。と時間の進みを遅く感じた。あの方はいつまでここに滞在するのだろうか。正直堅苦しいし早くおいとま願いたいものだ。いや…堅苦しいというよりは、相手がお気楽すぎて気を遣ってしまう、という方が正解なんだろう。
「お待たせ致しました。」とお役人様の隣にお団子を置き再度頭をさげる。つい、と湯のみの方に視線をおよがすといつの間にか空になっていた。
「お茶、お淹れさせてもらっても?」
「あぁーお構いなく!もう少しで帰らせてもらうんで!」
にぱ、と笑われそう告げられる。やっとか、なんて本心を心の奥にしまい「残念です」というとお役人様はもう少し居たいんですがね、と苦笑いした。すると、相手は自身の頭部の首近くを撫で「ヘアピン疲れるなぁ、」とぼそり、と呟く。へあぴん?なんだろうそれは。首をかしげているとその様子に気付いたのか、お役人様は「気になります?ヘアピン。」とにこり、また笑みを浮かべ問うた。気にならないこともないので、素直にこくり、と頷くと相手はふむふむ、と意味深に相槌を打ち撫でていた場所から黒く細い髪止めを出す。これがへあぴんかぁ、とまじまじと見つめているとまた同じ場所から1本、2本と次々出していき最終的に10本近く出した。短いように見えたがそんなに髪が邪魔だったのか、とヘアピンからお役人様の方へと視線をずらすとぎょっとした。ふわ、と鮮やかな緑色の髪が、なんというかのびたのだ。もしやこの10本のヘアピンで髪を短く見せていたのか。ははぁ、と感嘆の声を漏らすと、その声をこれが気に入ったと思ったのか「いります?2本ほど」と話し掛けてくる。
「いいんですか?こんな貴重なものを…」
「あっはは!輸入すればいくらでも入るいいんですよー、貴女みたいな綺麗な人の方が似合います、きっと。」
じっとしてて、と告げられその通りにしていると左側に2本、ヘアピンを留められる。なんだか不思議な感覚だ。
「うん、似合う似合う!あ、そうだ、わたくし加奈と申します、以後よろしくお願いしますね!」
にこにことしながら聞いてもいない自己紹介をする。加奈さん、珍しい名前だなぁ。
それにしても妙に女々しい名前………
「えっ、あ、もしや女性で…?」
「あ、はいはいそうですよー!」
一瞬?と頭上に浮かべていたがすぐにその質問の意味がわかったのかいい笑顔で肯定される。なるほど、この世の中では男性しかお役人を勤めれない。それで髪を短くして変装…というところか。声も顔も中性的なため、全く気づかなかった自分を恥じる。しかし、それを聞いたらなんだか安堵した自分がいることも確かで。
「周りにはカロって呼ばれてます、ってああ、もうこんな時間かぁ…」
加奈さんは腕にある小さい時計を見るとそこらに散らばったヘアピンを集め器用にまた髪を元の長さに戻すと「また明日お勘定しますんで!」とせわしなく出ていった。呼び止める暇もなく、それを呆然と見つめてハッと気付く。となると、明日も会うことになるのか、と貰ったヘアピンを撫でて溜め息をついた。




