拭い切れない違和感. . .
風呂から上がってさっぱりした俺は、
白と灰のストライブの服に手を通し
着古しの黒いパーカーを上から着て、
ポケット四つの黒いスボンを履いた後、
オッサンの家を徘徊してみた。
というより、
オッサンが座ってるのが
見えた部屋まで歩いてきただけだが。
「おお、どうだったよ風呂。
めさめさデケェだろう?自慢なんだよ」
「あ、ああ...。
石で囲まれた露天風呂がデカかったな」
「ルー君、シャンプー
あの子と一緒の使ったんだねぇ。
リリー・ウォッシュ」
おお、あれだったのか
リリー・ウォッシュって、え。
突然 後ろからやって来た
ステラさんに頭をワシャワシャされる。
「わっ....。え...............?」
オッサンが元気そうにダベってる。
のはいい、が........
ステラさんの、
いかにも風呂上がりで御座い、
な格好はなんだ?
濡れた髪をタオルで丁寧に
拭きながらソファに腰かけている。
その姿はまるで今さっき
風呂から出てきたかのよう。
あれはさっき脱衣場のカゴに
置いてあった服じゃないか。
「ステラさん、さっきまで風呂に?」
ステラさんは不思議そうな顔をして、
「ええ、そうよ?あ、
髪が濡れてて色っぽく見えたの?
やだぁ~、ルー君ったら!」
なんて事言ってるが、変だぞ。
風呂は二つも無い筈だ。
この部屋と、
脱衣場と向かいの倉庫、
そして隣の台所と寝室以外、
この家にはあと二階しか無いはずだ。
二階に風呂とか、まずあり得ない。
そう思えるのは、
今のステラさんの服装を見たら尚更だ。
「ああ、それとルー君。
さっきお風呂で私のこと、呼んだ?」
俺には、
"私のこと、呼んだ?"だけが
声色が明らかに変わって聞こえた。
────真声とも言うべきか。
「いえ....呼んでませんよ」
突如きた寒気に負けまいと、
さり気なく嘘を言ってしまった。
だが嘘でないところが一つある。
俺がステラさんの
名前を呼んだのは"さっき"じゃないぞ?
俺が風呂に入る前、すなわち
"かなり前に"となるべきだ。
俺の"さっきまで風呂に?"に対して
ステラさんのそれは、
ニュアンスがあってるのか?
オッサンの"さっき"と言い........。
閉めた筈の鍵の事を思い出したが、
ハニーが風呂から出て家から
出てきた時に鍵が開いていた
のだろうと目星をつけて、
鍵の事は俺の勘違いだと思うことにした。
未だ、自分で閉めた記憶が無いが。
俺は一度、
考えるのを止めて我が家に帰った。
単に考えることに疲れただけだが。
ダブルベッドの上で、
お姫様が可愛らしく寝ていた。
顔を半分枕に埋めて、
俺が風呂に近付くと目だけが
開いてこちらを見た。
「お目覚めかな、お姫様」
起き上がった女の子は、
ニコッと綻んだ後 目をこすって、
「.......長かったのですね お風呂」
「大きくて驚いたよ、
ハニーが入った後にステラさんが?」
「.....?ええ、そうですよ」
....ハニーの言ったことと、
ステラさんの言ったことが
双方に正しいのなら、
要するにステラさんは俺と
同じ時間に風呂に入っていたことになる。
でも....確かに居なかったんだよな、あの時。