表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Three Point Five  作者: 御告げ人
boy meets girl ─第一章─
7/13

生活

額から落ちる冷や汗に相乗して、

嫌な思考が心の中を支配している。


ハニーが脱獄者だったとしたら

帝国側から記憶を消されているはずだ。

俺と似た境遇の者なのだとしたら、

帝国にこの子が近付くのはまづかろうか。

では、俺はこの子を連れ出して

親を探してあげるべきじゃないのか?


俺が探したいある奴を除いて、

俺の親の名前や住所なんて

もう正直どうでも良くなっている。


────だが、この子は違うはずだ。


見ろよこの可憐な容姿を見てくれ。

銀髪とも言える、見事な白髪。

華奢とも言えるが、

袖から窺えるシミ一つ無い手や、

ワンピースから見える

ホクロ一つ無い脚は美白そのもの。

陽光を弾き返してさえもいるのだ。


そして今はまだ

お握りしか見てない分

まだ未知数ではあるが、

料理の知識は確かに有る。

ここへ来る前に色々な話を

訊いてたが 内容からして、

多岐の事物に

博識がある事も確認している。

(なら)べたところ、

完璧だらけじゃないか。

確定した事項ではないが、

この子には元あった

ありふれた豪華な生活があったはずだ。

贅沢で何一つ不自由の

無い未来があったはずだ。

並外れた教養が窺えるように、

いい先生もいたはずなのだ。


俺の一存でそれを

奪い去ってしまっていいものか。

本当に好きだからとかじゃなくて

俺があの時に人工呼吸したから、

俺に付き添ってくれているはずなのだ。


そうだ、責任を取ってくれと

この子は俺に言ったんだ。


俺が責任取って親に

土下座でも何でもする。

罰でも受ける。

帝国にだって戻って殺されてやるさ、

この子の親を見つけた後にきっちりな。

仮にもう、この子に許嫁が居たのなら、

そいつからどんな罵倒だって受ける。

正味、死ねでもいい─────だから、


この子を元の場所に、

俺は責任持って

送り届けねばならんのではないか?



例えこの子の親も、

この子の事を忘れ去っていたのだとしても。

そうだ、俺がそこまで、

責任持って認めさせねばなるまい。

何としても、この子を返すんだ。

元居た場所に。


俺は何故に

ここまで思ったのか、ふと考える。


俺があの時もし

人工呼吸をしてなかったら

死んでたかも知れなかったんだよな。

確かにあの時 呼吸は浅くもなく、

全く無かった。


本当にそれだけの理由だろうか?


─────────────────


"作りたて"という意味と、

"メイキングしたて"という意味で、

できたてほやほやの

ベッドの上で頭を冷やす。


オッサンとステラさんが住んでいる家に

今は使われていない納屋があった。


そこに、実用性有る家具だけを

一から作ったり

製作困難な物は買って大体、

揃えてきた頃には夜になっていた。

それもこれも、

ほとんど俺に作れてしまったからだ。

オッサンの目が飛び出そうに

なってたのを今でも覚えている。

ついでに言うと、風呂を

作ろうとした時は

さすがに止められたので、

夫婦の家のを借りることにした。


(かわや)は、

納屋を少し拡張し、そこに水を

通してあるのでそれに合わせた事で、

結果、納屋にしては非常に

豪華な内装になっている。



目を瞑った瞬間、

頭の下で組んだ手の余り、

肘の部分にちょこんと

可愛らしく頭を乗せたハニーが

体を傍に寄せてきた。

そこ骨だぞ、頭痛くないのだろうか。


体と体の接着面が直ぐに温かくなる。

鼻孔には、

仄かなリリー・ウィッシュの香り。

俺は何となしに女の子を抱き寄せながら、


「ハニー、風呂に入ったの?」


ハニーは嬉しそうにしたが

すぐ不思議そうな顔で、


「ええ....でも、よく判りましたね?」


リリー・ウィッシュ、

それは透明感のある香りに清楚な

願いを込めてつけられた名前。


どうせステラさんが使ってた

シャンプーなんだろうが、

危うくハニーに名前の

由来を重ねそうになっていた。


「このシャンプー....

私が選んで使ってみたんですよ。

いかがですか?」



お?

なら名前の由来が、この子に

当てはまらない訳があるまい。

物を選ぶセンスもお持ちでいらっしゃった。


. . . . . . . . 。

俺はこんな目でこの子を見ていて、

仮に本当に俺の事を

好きで付き添ってくれてるのだとして、

こんな事を常日頃

考えてたのがバレたとしたら、

この子は悲しむのだろうか。

それってつまり、自分に合わせて

今まで生活を共にしてくれていたのか、

と捉えるられるからだろうかな。

それに加えて、

本当は自分の事を大切に

思ってくれてないのではないか、

とも捉えられよう。


見極めねばな。

だが、まだそんなに

時間も経ってない今なら、

聞くのは簡単なんだぞ、ルー。


"君は帝国からの脱獄者なのか"ってな。


そんな下種(ゲス)な事

訊ける度胸が俺に有るかよ!?



そんな後ろ暗い

思考を振り払って俺は、

可愛らしく首を傾げている

ハニーの目を見てみて、


「控えめなんだな、君は。

凄く透明感のある香りだと思うよ。

リリー・ウィッシュ」


ハニーは驚いた表情で、


「ぁ........ぇ........?

お買い物、一緒に

来られてませんでしたよね?」


「うん、ずっと

タンスやらデスク作ってた。

ちなみにシャンプーの

パッケージとかも見てないよ」


俺はそう言って笑って見せた。

ハニーも口に手を当てて笑い、


「ふふふっ。ダーリン、

お花言葉の知識があったのですか?」


「いや、何故かこれだけは知ってるんだ」


「........。.....不思議な人」


ふっと笑った

ハニーはそう言って、

静かに俺の胸に顔を当ててすり寄った。


「っておい、

俺まだ風呂に入って

ないんだから...それ、臭いと思うよ?」


「全然匂いませんね、汗。天使?」


そんな訳があるかよ!!

働いて汗かいたのに

臭くなかったから

それで何で天使になったよ!?

その思考に至った君の方が天使か?!


内心だけでツッコミ炸裂しつつ、


「そんな訳ないっ、

俺も風呂に入ってくるよ」


慌てて立ち上がって

手を振った俺を見て、

ハニーは上品に口に手を当てて笑って、


「ふふっ、

いってらっしゃいませ。ごゆっくり」


納屋ならぬ即席マイホームから出た俺は、

タオルだけ持ってオッサンの家に入った。



鍵が開いてた───。

入れたけど..........?

不自然か、今の違和感は?

普通鍵がかかってるものだったっけ?



扉を開けながらふと、

そんな事を思い、

オッサンがこちらに

向かってきたのを見て俺は、


「あ、オッサン ちと風呂借りるぜい」


オッサンは俺を認識すると、

笑顔でこう返した。


「お?おお、構わんが、

やけに機嫌良いじゃねえか。

さては新居で何かやったか」


片目を吊り上げて

そんな事を問うオッサンに俺は笑いながら、


「何かってなんだよ」


そのまま家の中に上がろうとすると、


「おお、

鍵閉めといてくれよ。

盗人入られたら困るからな」



ああ、掛けてなかったか。



俺は振り返って扉の鍵に手を伸ばした。



あれ、掛かってる。

俺が無意識に掛けたのか?



「オッサ........」


オッサン、と

言いかけたところで後ろから声。


「なんじゃ、

なははっ!閉まっとるが。

アンタさてはボーッと

してて掛けた忘れてたか?

ステラはさっき入ってったから

残り湯はもう、ルーの独占じゃな」


オッサンはゲラゲラ笑いながら

風呂の場所を言って去った。



鍵閉めた記憶が無い────。

まあ、いいか。

今は風呂だ風呂。



脱衣場にはカゴが並んであり、

その一つには、明らかに

女の服とその上に下着が有った。



あんの........エロオヤジ!!!

まだステラさん入ってんじゃねえか!

テキトーな事言いやがって....さては

俺を浮気者に仕立て上げるつもりか!?

ん、でも肝心の風呂からは、

水音一つ無いぞ?入ってない?



忍び足で風呂の方に寄る。

────あ、浸かってるのか?

なら音は有るまいか、

なら俺はやはり出ておこうか。



でもこんなに静かなものか?


────長風呂って線もありそうだが。

それともオッサンの

"さっき"って言葉はそんな長えの?


判らん、チラッ─────とだけ!

チラッと見るだけだから!


................。

ハッ!?



慌てて脱衣場入り口を見るも、

そこには誰も居ない。



たいていこのタイミングで

オッサンかステラさんが

背後からやってくる....かも知れないとも言い切れないけど来たら絶対誤解される!



俺は入念に、

脱衣場の周囲の部屋と、

廊下をよく見回してから、

いざ 覗きに入った。


入ったと言っても、

覗いてるだけ...だから。



「(広いな........

まるで銭湯みたいだ。

ここからじゃあ、遠いのと

立ち込める湯気のせいで

湯船が全く見えないな...)」



選択肢

1入らずに出て待つ

2服着たまんま入る

3....服脱いで入る


3かな、見る限りでは

水音無ければ

人影一つ見当たらない。

服が置いてあるってだけで、

誰も入ってないんじゃねえの──?



服を全部脱いで、

風呂の扉を開けたところで、

一つ閃いた。


「ステラさーん、居ませんよね?」



返事はない、

やはりあれは服の置き忘れだ。

多分、二着持ってるんだろう。

今時珍しいな服が沢山ある人って。



こうして俺は、

風呂に長々と浸からせてもらった。

・公開設定


この世界の人たちは、

風呂を保温や娯楽として使用します。

風呂に入らなかったと言って、

皮膚病になったり

痒くなったりする事はありません。

汗かかなくても

何日も風呂に入らないと

臭くなるという事はありません。


汗かいた、汗で服が臭い、風呂に入ろう。

同じく、

汗かいた、服は臭くない、飯食べて寝よう。

くらいの概念です。


ルーの名前はオッサンや

ステラさん、女の子に知られています。

オッサンは基本的に"アンタ"で、

ステラさんに"ルー君"と呼ばせています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ