天職と転職
一話ごとに、
ルーや女の子の関係、または
何かと親しみやすい農家のオッサンと
ルーの親密度合いが上がっていたりします。
そのためか、
一話ごとに口調やその仕草、
態度や行動までもが
少しずつ変わってゆくお話です。
現代的な口調や言葉、物がある
"気がします"が、馬車や
銀棒(お札というカテゴリの無いお金)
があるように設定的には、
少し古いもので語られています。
ちなみにオッズや兵士は
しばらく後になって
再登場する予定なので、お楽しみに。
そこ頃には兵士にも
オッズが付けたユニークな名前がありますよ。
人の繋がりや物の価値観などを
主人公:ルーの視点で
これからもお楽しみ下さい。
ルーの性格は、
Blade And Hatchettsの人々では
見られないように、主人公にしては
ちょいワルの一面があったりします。
根はいい奴なんです、
ただ根腐れした部分が一部あるので...。
なのでこれからも生暖かい目で
見守ってやって頂けたら幸いです。
それでは、お話の始まりです。
「アンタ、
これからここでずっと働かね?」
木こりの仕事を紹介された
朝方から時は進んでお昼時。
力だけはある俺は僅か四時間を本気で働き、
二本目の葉巻を
指の間から落としたオッサンに
遂に本気のスカウトをされていた。
おい、
山火事とかシャレにならんぞ?
まあ、仕事内容は地味にも───
山から運んできた木々(総量60kg)を
一人で担いで来て全て一人が薪割りだ。
ちなみにそれらがもう直ぐに終わる。
オッサンは30kgも運べないらしかったから、
俺はプラス10kgで来たのだ。
オッサン曰く、
『重り抱えて山下るようなもの
なのにあり得ん精神力だ』、だそうだ。
「オッサン、悪いな。
俺には綺麗な嫁さんが居るんでね。
アイツを安心させて
やれるような職をこれから探すよ」
俺の渾身の、
初ドヤ顔には目もくれず、
オッサンは困ったような顔をして
俺の隣に山積まれた
木々をボーッと眺めていた。
「誰が今のアンタ見ても、
これ天職って言うだろうよ。
もったいねぇよ........。
本職捨ててまでしたい
仕事なんて何かあんのか?」
残念ながら、これは本職ではない。
俺は記憶を失った無職だ。
この仕事をしない、
と言って別の仕事をしても
転職したことにはならないが。
仮に、
昔からこんな仕事をしていたのなら、
俺にとってこれは
本当に天職だったのだろう。
だが帝国に連行されたのには
変わりないとさえ後ろめたく思えてしまう。
あいつらは捕まってないよな?
そう思いながら
羽の首飾りをぎゅっと握る。
連行されたのに
変わりないと思えたのは、
今なお俺は無罪だと思っているからだ........。
「オッサンと出会った時の
言い分で合ってるよ。
俺には本職と呼べるものが何もない」
「ならせめて、
仕事見つかるまで
俺んところで食ってくかよぉ?
贅沢はさせらんねえが、
仕事代はきちんと払えるし、
仕事自体は沢山ある。
ほらあれだ、働き次第では昇給や
ボーナスってのもありだ。
あんまり悪い話じゃねえだろう....?」
「........」
「悪くない話だろう?頼むよ」
あまりの重要事項さに
気付いて二回言いやがった。
そう、今俺に必要なのはお金だ。
自立してこの子を養ってやれるだけの。
女の子の方を見ると、
オッサンの家で作ってきたらしい
お握りを大切そうに抱えて、
風に舞う長くて白い髪を
片手で押さえて笑顔でこちらを見ていた。
それにしばらく見蕩れていた
俺は改めて女の子に惚れ直す。
じっとこっちを見ているオッサンに
慌てて目を戻し、
「昼ご飯食べながら考えていいか?」
オッサンは断られたと
勘違いして残念そうにしたのか、
俯いたが気付いて即顔を上げて、
「────ああ、是非是非!」
........どうやら、
今完全に女の子に見蕩れてだろう、
という目で見ていた訳ではないらしい。
────────────────────
「ダーリン、塩加減どうかしら?」
丸太椅子に腰掛けた俺は
お握りをもきゅもきゅ頬張りながら、
「最高です」
同じく隣の丸太椅子に
腰掛けた女の子は口に手を押さえて、
「あらあら、お世辞がお上手ね」
そう言って女の子は、
俺が口から離したお握りに
手を添えてきて、
顔を近付けてきたかと思うと、
口を小さく開けてかぶりついた。
先程まで沢山お握りを
抱えていたはずの膝の方に目をやると、
そこにはお握りが一つも無かった。
一方オッサンは俺たちの
やり取りを見てお握りを落としかけていた。
おい、
吸いかけの落とした葉巻は捨てても、
それは拾って食えよ?
「お嬢さん、すまん。
つい食い過ぎた。
ウチの嫁の握り飯と違って、
塩加減や中の具も絶品だぜ」
そう言った瞬間、
背後から突然現れた嫁さんらしき
人から音のいいグーを貰っていた。
その手には桃の缶詰め。
片方の手には紙の袋を抱えていた事から、
この人は先程まで買い物に
行っていたのだと推測できる。
「いってぇ!?
何すんだ手前ぇいきなり........!?」
嫁さんらしき人は笑顔でこちらを見て、
「ハロハロー、お二人。
この人が言った新入りさんかな?」
オッサンはボソッと
聞いちゃいねぇ、と呟いたが渋々、
「コイツはステラ。俺の嫁だ」
めっさめさ若い!!
オッサン老けてるけど嫁さん若いな!
「オイオイ、失礼な顔するなよ.....。
これでも俺まだ29だぞ、髭面だけどなあ」
ステラさんはオッサンの
肩をバシバシ叩きながら、
「アンタが老け過ぎなんだよ!」
「うっせえ........」ボソッ
オッサンが照れている。
一方ハニーはお辞儀しながら、
「初めまして、奥様」
どうやら自己紹介のようだ、
そう言えばこの子の名前は?
「私は──────」
そう言ってこちらを見るハニ─
.....ってまさか覚えてないのか!?
ハニーは困ったような
顔をして俺の方を見た。
「どなた?」
ハニーのその問いに、
俺は冗談のように強引に、
自分の自己紹介に繋げてみた。
すると、驚きの現象が─────
「あ、俺?俺はルーって言います。
しばらく宜しくお願いします、ステラさん」
おい、俺は!?という
オッサンの抗議をよそに
ステラさんはニッコリ笑って、
「ルーね、宜しく。
ねえルー君、私何歳に見える?」
あれ──────?
俺は思考しながらも慌てて答えた。
「ええと........24?」
「おしいっ!正解は26でしたー!」
何でハニーの名前、
スルーされてるんだよ。
オッサンは笑いながら目を細めて、
「ルー、本当は女を見る目
だけは有るんじゃないか?」
ステラさんは声を上げて笑った。
「フフフッ!本当はって何よっ!
アンタじゃあるまいし.....ねぇ?」
ステラさんはハニーの方を見た。
ハニーは笑顔で返す。
皆の目線とは別に、
俺は食べかけのお握りに
視線を落としていた。
おかしいじゃないか。
誰もこの違和感に
気付いちゃいないのか───?
それとも何かの暗黙の了解?
少なくとも
無視じゃなかったはずだ、
ステラさんの先程の
言には明らかに
名前を入れられた筈だ。
"名前を聞いてあれば"だったが。
ハニーが自分の名前を言えないのは、
覚えてないか消されたか
はたまた隠してるかの三択だけだろう。
深く考えずに
そこまで導き出してから、
ある一つの結論に至った瞬間、
身体中から汗が噴き出して寒気がし、
心臓が一跳ねした。
ハニーも脱獄者、なのか?
俺は努めて、
何気ない顔でハニーの方を見た。
ハニーは、どうしたの?
という風に笑って見せたが、
俺はそれに何も無いよ、と笑って返した。