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Three Point Five  作者: 御告げ人
boy meets girl ─第一章─
3/13

別れや旅立ちはいつも唐突に。

帝国付近の住宅街もやがて夜が明けた。

日向(ひなた)のすぐ近いところに

息を潜めていたため、

灰になってしまいそうなほど

眩しい陽光を右手で遮りながら、

俺は漬け物石みたいに重たい体を起こす。


どうやら何の警戒も無く

寝てしまっていたようだ。


あくびを噛み締めながら周りを見回すと、

今は名がオッズとなった、

未だに靴を履かない素足の青年が

俺の後ろで まだ寝息をたてていた。


兵士が居ない。

そう思い至って俺は日向に立ち向かう。


向かって足を止めて、直ぐに下を向く。


実に陽光は強かった....。

いや、正面の家よりも

もっと遠くにある山々の間から

顔を出した太陽さんが眩し過ぎて

目が開かないだけなのだけれど。


俺もう頑張った、二度寝しようかな

そう思い至った瞬間、

住宅街の方から金属音混じりの

足音が訊こえてきたため、

押し寄せかけてきかけていた

眠気を全力で押し返して息を潜める。


「よお、起きたか。

朝市で飯買ってきてやったぞ」


兵士だ、

紙袋を抱えている。

紙袋から出した

ハムとレタスを挟まれた大きなパンを

一つ受け取ってから俺は兵士に言う。


「早いな、一つ いくらしたよ」


兵士も一つ取り出して笑いながら、


「金は構わん。

俺、これでも国に仕えてたんだぜ?」


そう言って鎧を軽く指ではじいて、

爽やかに笑う兵士が格好よく思えた。


「そうだったな、金を持ってそうだ」


いい匂いに起きてきて、

のそのそと うごめいていたオッズが

まだ目の開いてない犬のように、

パンだけを狙い澄まして

見事に俺のパンにかぶりついた。


「おい、それは俺のだ」


「───っ!旨い!」


「ほれっ!」


もうひとかぶりする瞬間を

狙って兵士がパンを放った!


兵士の狙い通り、

オッズの目は放物軌道線に釘付け。


兵士がパンを放り投げたのを、

オッズはキャンキャン言いながら

四足で追い駆けてゆく。


そして見事、

落とす前にキャッチした、口で。


俺はそれを見ながら笑って、


「あいつには首輪とリードが必要だな」


「だな」


兵士も笑った。


俺がパンを食べ終えたあたり、

息が苦しくなっているところで、

兵士は唐突に口を開いた。

昨夜決まった俺の名前を呼ぶ。


「ルー、もうこの空気には慣れたか?

この中で一番周りを警戒してたのは

他の誰でもない、アンタだろう」


俺はその問いに少々驚いた。

俺の顔を見た兵士は反応に驚いてか、


「あれ、違ったか?」


俺は少々慌てて笑みを作りながら返す。


「ああ、その通りだよ。

協定間にあるこの三人の

間に規則を設けたのは俺だ。

誰かが裏切るか、もしくは俺が

先手を打って二人を裏切って逃げ切るか。

死にたくなさにずっと、

本気でそれだけ考え続けてた。

......でも今は違うぞ?」


二人して一度オッズを見た。

俺たちよりも旨そうにパンを頬張っている。

すると、こちらの視線に気付いた

オッズがうなり声を上げた。

俺は 食わねぇよ、と視線を送って

手を振っておいた。


「訂正、今は二人と一匹だ」


俺の(げん)に兵士が

(ほう)じ茶を吹き出した。


しかし兵士は直ぐに真剣な顔で、


「俺、山越えてから港でしばらく稼いだら、

船に乗せて貰って着く島で暮らすことにした。

...アンタは、その......これからどうするんだ?」


短期間の付き合いながら、

兵士にしてはなかなか決断が早いな。

もうそんな未来設計を────。


俺の思考を読んだのか兵士は、


「あ、俺自身の

思い付きとかじゃないぞ?」


俺は思わず兵士を見た。


「おい、思った通りかよ。

──まあ、朝市で

老人達が話してたんだよ。

"帝国の監獄を脱走した兵士と

少年二人が居た"」


それは俺達の事に違いないな。


「"再び捕まれば確実に死刑。

自分なら港の船で別の島へ

移り住むな"ってな。俺には

金がかなり有るし、船賃稼いだら

すぐにこの島を発とうって思ったよ」


珍しく真剣なオッズが

指についた

パンのソースを舐めながら、


「それがいいな。

───兵士、

俺も付いて行っていいか?」


兵士は笑顔になった。


「おう、いいぜ!

オッズも来るなら心強い!

ルー、アンタも来いよ」


俺もそれに乗れば

そんな気持ちになれるだろうか。


しばらく、下を向いて考えていると、


「やっぱり、

この島にやり残した事あったか?」


俺は静かにその問いに答える。


「やり残した事はある、

それに確認したい物もある。

なあ、

俺はそんなに自分の身の上話を

してこなかったつもりだけれど、

兵士はどうしてそう思うんだ?」


この問いに兵士への猜疑心(さいぎしん)

まとわりついている訳では

ない事は兵士にも伝わっている。

兵士はまるで、

言葉を選ぶかのように

ゆっくりと紡ぎ出した。


「昔の記憶って...

捕まる前の記憶って、

どのくらい覚えてるか?」


そんなもの覚えて────

─────いや、そんなまさか。



自分の本当の名前が思い出せない!



それだけじゃない、

自分の両親ってどんなだった?

名前は?兄弟の顔と名前は?

そもそも兄弟なんていただろうか?

くそっ!

くだらない協定を組んでる暇が有れば、

皮膚にでも刻んでおけばよかった!

少なくとも、

"あの瞬間"までは

確かに覚えていたはずだ!


「ルー!落ち着け!!

記憶が無いんだろう!?」


なに!?どうしてそれを?

それこそ正に、"あの瞬間"だ!

不思議な椅子に座らされて、

ずっと流れてくる謎の言語を

聴いている内に眠くなったんだ。


兵士は俺に静かに語りかける。


「落ち着け。

アンタは忘れたんじゃない。

記憶を消されたんだ、帝国側に」


「どうして、そんなこと───」


起きた時には直ぐに気付けなかった。

だが異端審問の時に初めて

記憶の欠損に気付いて、

裁判長の質問に

ほとんど何も答えられなかった。


記憶を消す意味が判らない、

メリットなんて無いはずだ。


「俺は帝国側に付くつもりは毛頭ないが、

こればかりは納得しているよ。

記憶を消すのが、帝国側の配慮なんだ。」


「───つまり?」


「異端者の記憶を操る際、

家族の同意を得ている」


「両親までもが俺を

消そうとしたってのか?」


兵士は目で 落ち着け、

と視線を送ってくる。

俺はひとまず、いつの間にか

立ち上がりかけていた事に

気付いて体を下ろした。


「アンタの両親からも

記憶を消してるんだ。

アンタに関わること全部」


「ということは、

必然的に周りの人間の記憶も──?」


兵士は静かに頷いた。


「どんな技術なのかは判らない。

だが、未熟でもその技術を帝国は

保持して、異端者全員に使っている」


しばらく、

俺は目を伏せてから

ゆっくりと開けて兵士を見据える。


「────俺、

この島に残るよ。

大切なものを探してるんだ」


「───そうか」


俺は自分に言い聞かせるように、


「うん」

荷支度を終えて、

立ち上がった兵士が俺に声を掛ける。


「ルー、アンタにこれをやるよ」


「ん、なんだ これ」


それは白と言うより、

銀色に近い大きな羽の首飾り。

それを首に掛けると、


「探しもの...見つかるように」


「ありがとう。でも、

俺が渡せるものが何も無いんだが」


「そんなものはいい。

それよりも──────」


オッズと兵士の

大きな手が俺の手を掴んだ。


「「また会おうぜ、必ず!」」


俺は驚いても、


「おうよ!!────必ず!」


この世界のどこかで。

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