人は神に何度もその存在理由を尋ねる。
異端審問、
傍聴席には人だかり。
中には
「今度はあの黒髪の
少年が殺されるのか」
「まだそんなに
歳もなかろう、可哀想に」
などと。
助けもしてくれないくせに
よくもまあ、抜け抜けと。
裁判長みたいな人が
少し不敵に笑って見せた気がした。
「異端審問者、遺言は有るかね?」
そう言われて顔を上げる俺は、
裁判長めいた人の顔を睨んで、
後ろの青年兵に小声で話し掛ける。
「なあ、おい」
「静かにしろ、"あいつ"が
言った時間はもうそろそろだ」
槍を一度床に鳴らし立てると、
兵士は黙りこむ。
だが散々
待たされている俺は愚痴をこぼす。
「....信じていいのかよ、本当に」
「それは俺も不安なところだが、
正直のところ俺もこの件がバレると
お前より酷い事になりかねん。
その上では俺とお前、そして
もう直ぐ来てそうな"あいつ"も同じだ」
そう、
俺達はある一つの事で
利害関係が成立した、
本来は敵対してあるべき
立場の人間なのだ。
どうしてこうなっているのかは、
また別の機会の話だ。
そして今は────
俺は静かにもう一度口を開く。
「"あいつ"が正面のデカい
ステンドグラスぶち壊したら、
俺達は西出口へ
走り出たんでいいんだよな」
「ああ....。そろそろだぞ」
予定では、
派手にステンドグラスを
破る奴のお陰で、
俺達の行方は目撃されない。
そのまま一目散に
西出口へ走って
三人で この迷宮を脱走。
この城を出るまでは
俺達三人は"誰も裏切らない"のを
原則にして協定が成り立っている。
だがしかし、正直のところ
誰も裏切らないとは
限らないのが現状だ。
何せ失敗して
捕まった奴はすぐに死刑だからだ。
原則であって厳則でない。
それは、裏切っても即座に
そいつを罰せられる奴が
三人の中に居ないからだ。
更に利害が一致していることにおいて、
害が一致している事に関しては
目を瞑るが、
利までが一致している事において、
殺すのは惜しい。
それは自分の首を早く
絞めてるのと
同じ事だと思われるからだ。
俺は
やり残したことだらけなのに、
今すぐここで死ぬ予定はない。
また、捕まる予定もない。
まあ、なら脱走せずに
釈放を待てという話なのだが、
話はややこしく、
俺こと、
異端審問者は本当の
意味では何も犯しちゃいない。
無病 息災で
ただの髪が黒くて大樹のように
あちこちの方向に髪の毛が向いてて
18歳 一般少年少し低めの体格を
持った善良な帝国民だ。
すると、
裁判長みたいな人が大声で宣言する。
「時は来たり!
これより、そこの兵に
異端審問者の処刑を命ずる!」
「はっ!!」
俺の後ろの兵士が
鎧の音を立てて敬礼した。
兵士がこちらに向き、
俺に手を伸ばすと────
パリ─────ンと大きな破裂音。
よし、全員が顔を頭上に上げた。
目を押さえている者さえ居る!
チャンス!!
「よし、行くぞ!」
兵士は俺にそう言って西出口へ走る。
俺もその後に続く。
またも黒髪だが、
背が高く日焼けして
少し肌が茶色の青年が、
俺の後ろから走ってくる。
こいつがさっき、
ステンドグラスを
素足でぶち破ったバカで、
今も尚、素足で帝国内を
素足で走っているバカだ。
俺達の走るスピードに追い付くと、
「どうだ、本当に来たろっ!?」
俺はそれを訊いて、
「ああ、驚いた!
おい、兵士!約束だぞ、
俺達を外まで案内しろよ!?」
前を走行する槍兵に声をかけた。
「ああ、判ってる!
その代わり、
───誰も裏切るなよ!」
その願いが今の
三人にはとても虚しく、
俺達は半ば怪しく
間を開けると、
「「──ああ!!」」
三人は同時に思った。
──俺はいつ裏切られて
どのように帝国から
殺されてしまうのだろうか、と。