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プロローグ

 歓声が街中に響き渡る。

ここ数年人々を苦しめてきた脅威が去って、安堵と喜びを分かち合う為。

そして、それに身命を賭して戦い平和に導いてくれた人たちを迎える為。

城へと続く大通りは、少し前までの閑散とした様子を忘れさせるくらい沢山の人が集まっていた。

道の端に寄った人々は、ゆっくりと中央を歩く数人の一行に拍手喝采をおくる。

無事に帰還した一行に、誰もが笑顔で感謝を伝えている。

長い丈のローブを着こなす魔術師も、屈強な体を惜しげもなくさらして快活に笑う剣士も、疲れた表情すら見せずに馬を操る。

そして先頭では神子を抱きかかえるようにして馬に乗る護衛騎士の姿。


よかった 本当によかった 

これで安心して眠れる

次は誰の訃報かと怯えることも無くなる


そう言っては拝むように一行に手を合わせる大人達。


これもたった数人でも勇敢に立ち向かってくれた神子様達のおかげ

素敵な人達

魔術師様は希代のと言われていただけある

流石、我が国トップの剣士様

神が我々の為にと遣わせてくださった神子様

神子様をお守りする護衛騎士は陛下の覚えもめでたい方なのでしょう?


そう言っては称賛の視線をおくる若者達。

その中で、女は周りの様子とは正反対に静かな表情でそれを眺めていた。


―――なんで…

そう泣き崩れてもいいはずなのに、そうできないのは心のどこかでこうなる事を予想していたからだろうか


視線の先には、信頼しきったように体を預ける神子とそれを当然のように受け入れる騎士の姿。

仲睦まじい2人の様子はまるで…そう、


「恋人みたいね、神子様と騎士様」


心中でよぎった考えがタイミングよく隣から聞こえて、つい女は肩を震わせる。


「そりゃ神子様だって女だよ、あんなかっこいい騎士様に四六時中守られてたら恋に落ちるさ」


したり顔で語るその声に伝染するかのように、群衆の話題は2人の仲の憶測でもちきりになった。

一人の女が耐えきれないと言うようにその場を去っても、誰も気づかなかった。




女はちらりと振り返り、微笑み合う2人を眺める。

騎士の優しげな眼差しが、女の心に更なる傷みを招く。


それは数カ月前までは自分に注がれていたものだった。

その腕に包まれていたのは確かに自分であった、はずなのに。

どうしてこんなにも遠くなってしまったのだろう。


どんなに眺めても、たとえ張り裂ける程に叫んだって、今の貴方は私の存在に気づいてくれないかもしれない


そう思うと、女はこれ以上この場に居ることはできなかった。

滲む視界で守るように手を当てたそこを見下ろす。


―――ちょっと前まではどんな風に伝えようか、喜んでくれるだろうかと想像を膨らませながら撫でていたそこを、こんな気持ちで見つめるなんて


神に遣わされた神聖な神子とそれを命がけで守る騎士。

なんてお似合いの2人なんだろう。

そこに、騎士に惚れて押しまくって奇跡的に妻にしてもらえた平民上がりの女なんて全然入る余地ないではないか…


「だいじょうぶ……私が、守るから」


そう言って袖で涙を拭った女は、決意を秘めた瞳で御者の待つ通りへとひとり向かった。



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