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近所の少女達とアラン

アラン5~6歳。アランが女の子が苦手になった理由。

少女達が年下の少年を暴言を吐く描写があります。苦手な人はご注意下さい。

 女の子は一見愛らしく見えても、加減を知らない凶悪な生き物であり、迂闊なことを言うとどんな目に遭わされるかわからない──とアランが痛感させられたのは、彼が五歳か六歳くらいのことである。

 女の子の集団、特に自分より年上であり、なおかつ自分を路傍の石ころのようにしか思っていない集団は、オークやオーガより無慈悲で残酷な生き物である。


 水瓶を抱えて井戸へたどり着き、一息ついたところで、近所に住む五~九歳上の少女が四~五人、駆け寄って来た。

 彼女らはいずれも、普段は彼がいてもいなくても変わらない態度なのだが、どうしたのだろうかとアランが首を傾げていると、少女達の一人が、その他の少女に促されて、歩み寄って来た。


「ねぇねぇ、アラン。レイの好きな食べ物って何?」


 声を掛けてきた少女──ヴァレリーはアランより七歳上で、長兄レイモンと同い年である。二軒隣に住んでいるため、直接会話した事はないが、顔を合わせたことは幾度かあるし、お互い名前も知っている。


「レイ兄は、好き嫌いないよ」


 レイモンは同じ家に住む家族で、れっきとした兄ではあるが、いつも穏やかに微笑んでいるが怒ると恐いという事くらいしか、アランは知らない。

 アランが物心ついた頃には既に両親の手伝いをしていて、食事時と就寝前くらいにしか顔を合わせないため、言葉を交わしたこともあまりない。

 次兄エルネストと違い、一緒に遊んだ事も喧嘩した事もない。


(レイ兄ってやさしいけど、何かんがえてるのか、よくわからないなぁ)


 というのが、アランの本音である。


「えー、何よ、それ。そんなこと聞いてないわよ。とにかく何でも良いから、何かないわけ? ほら、好んで良く食べるものとか、食べ物じゃなくても、何か好きなものとか、普通あるでしょ? 家族なのに知らないはずないわよね」


 不満そうに言うヴァレリーの他、「使えない」だの「役立たず」とか「バカなの?」や「頭悪いこと言わないで」などといった声が聞こえてきて、アランは思わずおののいた。


「え……そう言われても、レイ兄って何でも食べるし、食事するときは、ほとんどしゃべらないし」


 しかも表情もほとんど変わらないので、アランには判別がつかない。もしかすると母親のクロエならばわかるのかもしれないが、アランにわかるはずがなかった。


「何よ、もう! 聞くだけ時間の無駄だったわね。なんでそんな事も答えられないの? あんたバカじゃないの」


「家族のくせに何も知らないとか、いったい何見て生活してるの? ボンクラ」


「こんなのが弟だなんて、レイが可哀想」


「本当鈍臭いわねぇ、役立たず」


 何故そこまで言われなくてはならないのか。朝っぱらから唐突に集団で囲まれた上に、挨拶もなしに不躾な質問をされ、答えられなかったら罵倒の嵐である。アランが涙目になるのも当然と言えた、のだが。


「ちょっとアラン、何よ、その顔! まるで私達がいじめたみたいに。あんた本当に男なの?」


「全く失礼だわ」


「泣けば許されるとでも思ってるのね。バカみたい」


「バカで鈍臭い上に、意気地なしでひ弱だとか、何のために生きてるのかわからないわねぇ。生まれてこなければ良かったのに」


 涙目で震えるアランに、更に追い打ちを掛けた後、文句を言いながら少女達はその場を後にした。

 ヴァレリーはウル村内では、可愛いと評される容姿であり、その取り巻きもとい遊び相手の少女達も比較的容姿は整っていたが、それが余計にアランの傷を深くした。


 空のままの水瓶を抱えて家へ逃げ帰ったアランを、母は理由も聞かずに抱きしめ慰めてくれたが、なかなか泣きやまなかった。


「どうしたのかしらねぇ?」


 首を傾げるクロエに、レイモンが声を掛ける。


「俺が代わりに水汲みに行って来るよ」


「あら、じゃあ、お願いするわね、レイ」


 コクリと頷き、レイモンは水瓶を二つ両脇に抱えて外に出た。アランはそれを背中に聞きながら、母の胸で泣きじゃくった。

 家の外から少女達の声が聞こえてきて、アランはビクリと身体を震わせて、母にしがみついた。


「なぁに? 恐いの? 嫌なことがあったのかしら」


「……か、かあさ……」


「なぁに、アランちゃん」


 優しく微笑む母親に、ますます涙が溢れ、喉が詰まった。


「お外に出るの、恐い?」


 なかなか泣き止まないアランの背を、クロエはゆっくりと撫でながら尋ねた。


「お、れ、レイ兄のこと、よく知らなっ……けど、」


 クロエは聞こえて来た言葉に、キョトンとした。


「でもっ……ちゃんと好きだしっ……」


 アランは両手で涙を拭った。


「……おれ、生まれてこなければ良かった?」


「そんなはずないじゃない」


 クロエはそう言って、アランをギュッと抱きしめて、額にキスをした。


「あなたは大切な可愛い子よ。母さんも父さんも、レイもエルンもクリスも皆あなたが大好きなの。あなたを強い子に生んであげられなくて、ごめんね?

 何か言ってくる意地悪な人は、何かと理由つけて言ってくるんだから、気にする事ないわ。そういう人はあなたが泣くと喜ぶ頭のおかしな人だから、無視しちゃえば良いの。嫌だったら逃げてくれば良いわ。

 なんだったら、母さんがとっちめてあげるわよ?」


 微笑みながらも、どこか真剣な口調で言う母に、アランは首を左右に振った。


「……だいじょうぶ」


「そう? 無理しなくて良いのよ?」


 首を傾げて言うクロエに、アランは答えた。


「もう、だいじょうぶだから」


 だがこれ以降、アランはヴァレリー達を避けるようになり、それ以外の少女達ともなるべく接触を避けるようになった。

なるべくマイルドな表現にしましたが。十分酷いかも。

幼年・少年時代のアランの話は、ほのぼのとトラウマしかないような気がします。レオナールよりはマシですが。

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