故郷への手紙
アラン視点で冒険者登録直後、手紙の文面。
『父さん母さん、レイ兄、クリス、カロル、ばあちゃん、ついでにエルン兄、元気か?
先日、レオの誕生日にようやく念願の冒険者になったよ。
見習いの頃との違いは、後見人の付き添いがなくても依頼受注などが行えること、正式登録には保証金が必要なこと、これからは依頼を受けて失敗すると違約金が発生すること。また冒険者ギルドに不利益を与えたり、罪を犯したりすると、内容によっては除名されたり、罰金食らったり、降格されたりする場合もあること。
でも一番大きな違いは、税金を取られることだ。その代わり、受けられる依頼の幅も収入も増える。制限もなくなる。自由がある代わりに、責任や義務を負うことになる。
今まで通り、薬店への納品は続ける予定だ。Fランクの薬草採取依頼より、調合した薬の納品の方が、報酬良いんだから、やらない理由なんてないよな。
レオは早速ゴブリン討伐依頼を受けたいと言ったが、最初の依頼は無難に穴兎の毛皮と肉の納品にした。
散々文句言われたけど、初日からゴブリン討伐なんか受けて万一失敗したらどうする気なんだと思う。
少しずつ様子見ながら、受ける依頼の難易度を上げていく予定だ。
薬草その他採取はレオがやりたがらないので、討伐や魔獣素材収集依頼のついでに俺が採取して宿に戻って調合して、薬店に納品することにしている。
そうすればついでに自分達用の薬も調達できる。買うと地味に高いからな。しかも消費期限がある。だからといって、ケチるといざという時に困る。
だから、常に傷薬と風邪薬と胃腸薬は常備・携帯している。
念のため、依頼を受けて出掛ける際には、三種の解毒薬も持っていく。幸い一度も使ったことはない。
冒険者は他の職業に比べ、一度の仕事に対する報酬が比較的高い職業だが、ロランの町民にはあまり受けは良くないようだ。
それは荒くれ者が多かったり、手に職つけられないあぶれ者や、定職に就けない他の町や村からの流れ者や出稼ぎ者がなる事が多いと思われているからのようだ。
流民や自由民は後見人や高ランク冒険者の推薦が必要で、通常なら戸籍持ちの平民以上しか登録できないのに。身元照会はできる人でなければ、登録できないはずなんだよな。
それ聞いた時、正直面倒臭いと思ったけど、冒険者って武装した状態で頻繁に町や村を出入りするから、身元が保証・確認できない人物には、危なくて許可できないらしい。
そう言われたら仕方ないと思うけど、だったらもうちょっと町の出入りの確認しっかりしたり、巡回まめにすりゃ良いのに。
実際にやると面倒かもしれないし、もしかしたら人件費とか経費の問題もあるかもしれないけど、門番やってる兵士見てると、真面目なやつはすごく真面目なんだけど、不真面目なやつは仕事する気があるのか聞きたくなる。
とある門番なんか、相手が男女いずれか、あるいは年齢や美醜でずいぶん態度が違うんだ。
ちなみにそいつ、俺とレオはからかったり遊んだりする対象だと思ってるっぽいんだ。やたら馴れ馴れしくて、親切な時もあるけど、つまらないこと言って絡んでくることもあって、感謝すべきか疎んで距離置くべきか、時折悩むよ。
冒険者って、才能のあるごく一部の例外を除き、Cランク以上に上がることはほぼなく、大抵はEかD止まりらしい。
最低がFランクで、真面目に依頼をこなしてたら、半年~一年以内には昇格するというのにだ。 ダニエルさんみたいなSランクって特例でしかなれないらしい。まぁ、確かにあの人は別格みたいだし、そもそも英雄だから比較対象にするのが間違っていそうだ。
冒険者登録は、ダニエルさんが事前に根回ししてたらしくて受付で名前言ったら、奥の応接室に案内されて、ギルドマスターに引き合わされた。
顎に無精髭生やしたおっさんだったよ。ダニエルさんより若いらしいけど、見た目はギルドマスターの方が老けてて、もしかしてこっちが普通なのかと思った。
登録が済んでやっと帰れると思ったら、サブギルドマスターにも引き合わされて、夕食をご馳走になった。
たぶんレオの様子からして料理はおいしかったんだと思うけど、緊張とかで味がわからなかった。勿体ないことした。
色々話しかけられたけど、緊張してたから内容もサッパリ覚えてない。
レオに聞いたら、一応まともに受け答えはしてたらしいが、レオは話全く聞かずに食べてたから内容は良く覚えてないって言われた。
そういう時は代わりに聞いておいてくれよって思ったけど、あいつに期待するだけ無駄なのかな。
ギルドマスターやサブギルドマスターなんて、新人冒険者じゃそうそう会えない相手なのに、何も覚えていないなんて!
全部忘れたから教えて下さいなんて言える立場でもないしな。凹んだし反省したけど、忘れた記憶を甦らせる方法ないかな。忘れたというより、緊張しすぎて聞こえない状態だったんだと思うけど。
すまない、ちょっと聞いてくれよ!
あいつ、俺がこの手紙書いてる間に、他の冒険者と乱闘騒ぎ起こしてやがった!
レオ本人は多少擦り傷と打ち身作った程度だが、相手のDランク冒険者集団──《草原の疾風》というパーティーらしい──は治癒師または神官の治療を受けないで自力で治した場合だと、全治三週間相当の怪我を負ったらしい。
冒険者ギルド規約に、「施設内での私闘を禁ずる」という項目があったから、ものすごく焦ったけど施設外なら、然したる理由もなく死なせたり回復不能な怪我を負わせたりしないしない限り、自己責任で冒険者ギルドは関与しないらしい。
また、今回の騒ぎは登録したての新人に、施設から後をつけたDランクパーティーが、因縁つけた上に金銭を要求した事が原因なので、治療費や賠償が必要になる事もないらしい。それどころか相手が罰金を払わせられるそうだ。
安心したけど、都会って恐いな。
レオの言うことを真に受けると、面識ない相手に「金を貸してくれ」と言われて断ると、大勢で暴行されそうになるらしい。
これってロランの風習なのかな。それとも、そいつらがたまたまそういう連中だったのかな。
ギルド職員の女の子が言うには、あいつら常習だって!
レオの外見と、新人なのに結構良い装備なのを見て、金持ちの坊っちゃんだと思ったらしい。
でもある程度観察力があって、あいつと少しでも会話したら、そんなことは絶対考えないと思うんだ。
でも、一番俺がまいってるのはレオが「殺さなかったから問題ない」「斬らずに素手だから大丈夫」と考えてるらしいことだ。
目撃者の話によると、「金を貸してくれ」と言われて「いや」と答えた後は一言も口を聞かずに、相手が殴ろうとしたら避けて殴り返した後は、手加減なしの一方的な猛攻だったらしい。
首や頭は狙わなかったらしいけど、四人全員腕か足が折られてたってあいつ、ためらい無さすぎだろう。これから夕飯前に説教する予定だけど、何て言えば良いかとても悩む。
できたら、何故人に暴力を振るってはいけないか、何故加減が必要なのか、暴力を振るう前に言葉で対話することの大切さをいかに諭すべきか、参考になりそうなことを助言してもらえると助かる。
それでは、また。
アランよりウル村の皆へ』
後日、その返信。
『頑張れ。同封されていた大銀貨は大切に使うから安心しろ。
嫌なことがあればいつでも帰って来い。
ウル村から愛を込めて 父より』
「……それだけかよ」
アランは小さな薄っぺらい木板を何度も見直したが、他には何も書かれていなかった。
祖母以外の近親者で文字を書ける者はおらず、祖母も最近は目や耳が弱くなっている。無理はさせられないとわかってはいるが、
「参考にならない……」
アランはガックリと机の上に顔を伏せた。
アラン父「酒が旨い!」
アラン母「あなた、せっかくアランちゃんが初めて稼いだお金を送ってくれたのに!」
アラン父「おっと、やべえ、見つかった!」
レイ「……(またか、懲りないな)」
エルン「何書いてあるのか読めねぇ」
クリス「……(早く夕飯食べたい)」
カロル「今度おばあちゃんに読んでもらわないと」