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ダニエル先生のオーガにもわかる魔獣・魔物講座(後)

戦闘および残酷な描写・表現があります。※グロ注意。

というわけでゴブリン戦。

「というわけでロラン東の森だ。北西の森でも目撃されたことがあるけど、残念ながら先月中規模の巣が発見されて掃討されたため、探しても新たな巣が見つかるかはわからない。

 ということで時折ゴブリンが目撃されているが、まだ巣が発見されてない東に来たというわけだ」


「それはとても残念ね」


「なんで残念なのか全く理解できない」


 アランは、ダニエルとレオナールの会話に、頭が痛そうに額を押さえた。


「この広い森を闇雲に探すのは埒があかない。だからまず水場を探し、その周辺の痕跡を調べ、ゴブリンがその水場に足繁く通っているようならそこで待ち伏せだ。

 足跡はあるが、それほど頻繁じゃないようなら、あとを追ってゴブリンどもが良く通る道を見つけたら、そこで待ち伏せだ。初めての討伐だから、はぐれもしくは巡回、狩り・調達役を狙うぞ」


「わかったわ」

「了解」


「とても都合が良いことに、森の比較的浅いところに小さな湖があることがわかっている。ゴブリンの足跡は0.010メトルちょっと、手の平より若干大きいくらいだな。

 生まれつき《暗視》を持っているが、それは洞窟で生まれる個体が多いためで、基本的に昼行性で、昼に狩りや食材調達などをする。夜行性の生き物相手に狩りを行えるほど強くないし器用でもないから、当然だな。

 ゴブリンは何でも食う。特に大型魔獣や人間を好んで食べるが、木の実や果物なども食べる雑食だ」


 ダニエルが説明しながら、二人を湖へと案内する。


「ここ数日は雨が降っていないが、水場付近は土が軟らかくなっているから、足跡が探しやすくなってる筈だ。俺はここで待っているから、探してみろ。ゴブリン以外の人型生物は、この近辺に生息してないはずだから、あればすぐわかるだろう。

 普通の魔獣はゴブリンを避けるから、たぶんすぐ見つかるはずだ。レオナール、アラン一人じゃ最弱魔獣にもやられかねないから、一緒に行動するんだぞ」


「わかったわ。二人一緒ね」


「頼むぞ、レオ。じゃあ、行って来ます、ダニエルさん」


「おう、そんなに強いやつはいないと思うが、気を付けろよ」


 頷いて、レオナールとアランは湖周辺を調べ始めた。湖を半周する頃に、ようやくそれらしき足跡を見つけた。手の平の付け根から人差し指の第一関節くらいの長さ、小さな子供のような足跡である。


「町の子供がこんなところへ来るとは思えないから、ゴブリンで当たり、かな」


「たぶん、そうね。これと、これと、これ。三匹で北の方角から歩いて来て、その内二匹が湖に近付いて水をくんだ、ってとこかしら。もう一匹はここで立ち止まって湖に背を向けているから、仲間が作業している間、周囲の見張りか警戒に当たってたのね、きっと」


「すごいな、レオ。その辺、草がいっぱい生えてて俺にはさっぱり区別がつかないぞ」


「アランは本を読みすぎなのよ。だから目が悪いんだわ。良く見たら草の葉が折れたり、土の部分にうっすらと足跡が残ってるじゃないの。それに、ほら」


「いやいや、お前に比べたら大抵の人間は目が悪いからな。って、何だよ、毛?」


「角猪の毛皮よ。たぶん、これ、ゴブリンの臭いだと思う」


「そんなのわかるか! 普通、こんな草むらにそんな物落ちてても見つけられねぇよ!! だいたい、レオ、その臭い初めて嗅いだんだろ? どうしてゴブリンだと思うんだ」


「勘? それに、師匠が言ってたじゃない。普通の魔獣はゴブリンを避けるって。ゴブリンの足跡の上に落ちてたから、そうじゃないかと思うの。風で飛んできたって可能性もあるけど、角猪のにおいってこれとは違ってたと思うし」


「へぇ、ちゃんと聞いて覚えてたのか。偉いな、レオ」


「何? 私にケンカ売ってるの、アラン」


「違うって! 褒めてんだよ!!」


「そう。なら、良いけど」


「あれ? じゃあ、臭いがわかるってことは、待ち伏せしなくても追えるってことか?」


「においが古いものじゃなければね」


「ああ、さすがに猟犬みたいには行かないよな。ちょっと安心した」


「安心? どうして」


「いや、別にそれが悪いってわけじゃないけどさ、お前一人で何でもできるなら、俺、いらなくなるだろう?」


「そう? アランがいないと、不便だと思うけど」


「なら、良いんだ。じゃあ、ダニエルさんのところへ戻るか、レオ」


「そうね」


 二人がダニエルのところへ戻ると、ダニエルは乾いた草の上でゴロリと寝そべっていた。


「何してるの、師匠」


「おう、戻ったか。思ったより早かったな。うたた寝しようと思ったんだが、寝入る前に帰って来たな」


「ダニエルさんが寝てたら、俺達困るんだけど」


 レオナールの質問に笑いながら答えるダニエルに、アランが渋面になった。


「見つけたわよ、ゴブリンの足跡三匹分。たぶんここ数日中だと思う」


「へぇ、初めて見たのにそうだと断言できるのか」


 ダニエルが口笛を吹いて言うと、レオナールは頷いた。


「あればすぐわかるって言ったのは師匠でしょう。確かに、他に二足歩行で歩く生き物の痕跡はなかったから、わかりやすかったわ」


「う~ん、なんかお前ら、俺が手取り足取り事細かに教えなくても問題なさそうだな。ちょっと教えただけで理解できるって、すっげぇ楽だな! 俺って面倒くさがりだから、しつこく質問されるとやる気失せるんだよな。うっはぁ、やる気出てきた!!」


 機嫌良さげに楽しそうに言うダニエルに、アランがうわぁという顔になった。


「こっちよ、師匠」


「おっし、案内してくれ」


 楽しそうな師弟の姿に、アランは溜息をつきつつ、先程の場所へ戻る。


「うんうん、二匹分はともかく、三匹目は良く見つけられたな。そこまでお前らが見つけられるとは思ってなかったんだが」


「アランはともかく、私は目が良いもの」


「そういや、エルフって森の中で生きる種族だもんなぁ。その視力の良さと観察力は、冒険者として剣以上の武器になるぞ。じゃあ、もしかしてこの痕跡たどって行けるのか、レオ」


「途中で消えていなければ、たぶん」


「じゃあ、こいつらを待ち伏せするなら何処が良いか考えながら、追跡してみろ。ここだと思った場所で隠れて、やつらが来るのを待つ。何度も行き来しているようだから、湖周辺では多少足跡ばらついてても、巣へ向かう道はだいたい決まってるだろう」


「わかったわ」


 レオナールは頷いた。


「アランはどうだった?」


「俺より先にレオが見つけたし、俺がもし見つけたとしても、水辺の二匹の足跡しか見つけられなかったと思う。それに、俺にはこんな草むらに落ちてる角猪の毛とか見つけられない」


「へぇ~。おい、レオ、どんなのだった?」


「これよ」


 レオが手に持ったままだった毛を差し出した。


「確かに角猪の毛だな。皮を剥いだだけでなめしてないから、すっげぇ臭いだし、ゴブリン臭いけど」


 ダニエルの言葉に、アランは瞠目した。


「そんなことまでわかるのか?」


「ハハッ、こう見えても俺は村一番の狩人の息子だぞ。それくらいわからいでか。でも、こいつの臭いからたどるのは無理そうだな。ゴブリンの臭いより腐敗臭がきつい」


「それ、腐ってるってことか?」


「まだ大丈夫だ。腐ってはいない。皮の処理の仕方が悪いんだろう。まぁ、毛一本だけだからそこまで酷くはないが、これ着けてるやつは相当くさいだろうな。正直あんまり近付きたくねぇなぁ」


「師匠は見ていれば良いじゃない。私が狩るから」


「ん~、そうだな。じゃあ、やつらが武器を持っていたら気を付けろ。必ずしも習熟しているわけじゃないが、雑魚でも武器の使い方が上手いやつが混じってないとは限らない。

 たぶん水汲みの雑用する連中に杖持ちや弓持ちは混じってないだろうが、もしいたらそいつを先に片付けろ。アランと二人で、どうやって戦うか相談してから、足跡を追ってみろ。

 俺はお前達が間違っていてもその場では指摘せずに見ている。夕飯の時にでも答え合わせしようか」


 微笑みながら言うダニエルに、レオナールとアランは顔を見合わせ、頷いた。



   ◇◇◇◇◇



 昼よりは夕方に近いがまだ明るい時間、森の北西から南東へ向かって微風が吹いていた。そこは若干窪地になっていて、両脇の木々の枝が空を覆い、人の腰まであるような茂みが生い茂り、影が多い。人が歩くには少々茂みが邪魔になりそうな、狭い獣道がある。

 そこへ、大きな空の水桶を抱えたゴブリン達が三匹、ギャッギャッという何か言い交わしながら歩いて来る。桶を持たない一匹は棍棒を片手に持ち、桶を運ぶ二匹は素手であり、棍棒を持つ個体がなめしていない角猪の皮を腰巻き代わりに身に着ける他には、衣服も防具もまとっていない。

 棍棒持ちは周囲を警戒するように左右を見ながら歩いているが、足下がおろそかになっていた。パキリ、という小枝が折れる音にギクリと立ち止まるが、それが自分の足下であることに気付くと、気を抜いたようである。


「《炎の矢》」


 低く背を屈めて木陰に隠れていたアランが、小声で術を発動した。杖の先は、棍棒持ちへと向けられている。それと同時に、その手前の茂みに潜んでいたレオナールが前傾し、抜刀しながら駆け出した。


「グギャギャァ! ギャッ!!」


 ゴブリンが警戒するような鳴き声を上げ、桶を運んでいた二匹は桶を放り出して逃げようとするが、レオナールが回り込み、腹を薙ぎ払うように剣を振った。


「ギャッギャア!!」


 アランの放った《炎の矢》は棍棒持ちの肩先をかすめて、背後の木に当たった。アランは思わず舌打ちしつつ、《鈍足》の詠唱を開始する。

 レオナールは悲鳴を上げて転げ回るゴブリンには見向きもせず、剣を振り上げて棍棒持ちに斬り掛かった。怒りの声を上げる棍棒持ちを、唐竹割りで斬り捨てた。


「あら、意外ともろい?」


 返り血を浴びてキョトンとするレオナールに、アランが低く叫ぶ。


「レオ、後ろだ!」


 付近に落ちていた石を持ち上げて振り下ろそうとしていたゴブリンの下腹部を、厚底のブーツで蹴り上げ、そのまま蹴倒すと、心臓の下辺りに剣を突き刺した。

 アランが新たな詠唱は開始する前に、レオナールは足を掛けて剣を抜くと、まだ転げ回っていた最後の一匹の心臓目掛けて剣を振り下ろした。


「う~ん、目標が小さいからかしら。相手が動いていると、思ったところとちょっとずれるわね」


 そう言いながら剣をひねり、脇側へ切り裂くようにして抜いた。蹴倒して刺したゴブリンはしばらくピクピクと痙攣していたが、レオナールが最後のゴブリンにとどめを刺している間に動かなくなった。

 そんなレオナールを見て、アランが硬直する。レオナールは前髪から汗と血が滴るのを、邪魔くさそうに掻き上げ撫でつけたため、血の汚れが更に広がった。


「それは数をこなして慣れれば大丈夫だ。ただし、相手が動いていることを忘れず、次にどう動くか予測して攻撃しないと駄目だけどな」


 二人が隠れていた場所より更に後ろの木陰から出て来たダニエルが、そう言った。


「なるほど。しばらく練習しようかしら」


「実践や身体を作った訓練も大事だが、頭の中で敵を想像したり、対処方法を考えたりするのも大事だぞ。頭は普段から使わないと、いざって時、役に立たないからな」


「わかったわ。ところで師匠、もう少し狩りたいんだけど」


「今日はやめた方が良い、もう日が暮れるぞ。明るい内に薪とか拾って野営の準備しないと、すぐ暗くなる。夕飯食いっぱぐれたくはないだろ?」


「それは困るわね。アラン、湖付近まで戻るついでに薪拾いしましょう。……アラン?」


 アランは口を少し開け、虚ろな目であらぬところを見つめたまま、ピクリとも動かない。レオナールが近寄って、目の前で手を振ってみても反応がない。


「師匠」


 珍しく困ったような顔で振り返るレオナールに、ダニエルは苦笑しながら頬を掻いた。


「……う~ん、気絶してんのかね。これはちょっと予想外だ」


 どうしたもんかな、と呟きながらダニエルがアランに近付き、荷物のように担ぎ上げた。


「レオ、ゴブリンの討伐部位は覚えているか?」


「確か、左耳だったわよね」


「その通りだ。剥ぎ取り、一人でもできるか?」


「誰に言ってるの?」


 胸を張って言うレオナールに、ダニエルは微笑んだ。


「じゃあ、見ているからやってみろ」


「わかったわ。ところで、どうだった? 師匠」


「せっかちなのは、お前の悪い癖だ。答え合わせは夕飯の時だって言っただろ」


「ケチ」


「どうせアランにも聞かせるんだ。今話したら二度手間だろう。腹を満たして、落ち着いたところで話してやる」


 ダニエルがそう言うと、レオナールは諦めて、屈み込んだ。腰に提げている副武器でもある大振りのダガーを鞘から引き抜くと、ゴブリンの大きめの左耳を左手でそっと掴み、右手に握ったダガーで耳の根元付近に刃を当て、すっと削ぎ落とした。


「あれ? 初めてにしちゃ、思ったより上手いな」


「何度か斬ったら、加減くらい覚えるわよ。それに剣で生き物を斬ったのは初めてだけど、短剣は普段から使ってるもの」


「俺がやったダガー(それ)、生き物切るのに使ったことあったっけ?」


「これとは違うのだけど、あるわ。必要だったから」


「ふぅ~ん。教えなくても良いのは楽だけど、ちょっとつまんねぇな」


 ダニエルの言葉に、レオナールが不思議そうな顔になった。


「どういう意味?」


「やっぱ、初めての弟子だ。一から全部手取り足取り教えてやるのも、楽しみだろ?」


「そうなの?」


「うん、いつもなら面倒くせぇとしか思わねぇけど、たまには良いだろ、新鮮で。それに、弟子が失敗したところで、『そこは違う、こうだ!』みたいに言って成功例見せてやった方が、師匠っぽいだろ?」


「…………」


「おい、いや、その、すまんっ、ごめんなさい! その、虫けらを見るような目つきで見るのは勘弁して下さい、レオ、いやレオ様!! 俺が悪かった……っ!!」


「別に怒ってはないけど」


「だったら、その白々とした蔑むような目つきはやめてっ! 勘弁して!! シーラそっくりのその顔でそんな目で見られたら、心えぐられるから!!」


「そんな目つきをした記憶はないわ」


「お前、ものっすごく整った美少女顔だから、真顔になると恐いんだよ。できればなるべく笑っててくれ。その方が安心する」


「そうなの?」


「少なくとも俺はな。笑えないのに笑えとは言わないが、お前は絶対笑ってた方が良い」


「そう。努力するわ」


「なぁ、おい、できないなら良いんだぞ。無理はすんな。できれば、お前が心の底から笑ってくれればもっと嬉しいけど、笑いたくもないのに笑えとは言いたくない」


「……良くわからないけど、その方が嬉しいとか安心するって言うなら、そうするわ。傷付かれたり、悲しまれたり、心配されるよりは良いから」


「レオ、お前、良い子だなぁ」


 そう言って、ダニエルがレオナールの髪をグシャグシャ掻き回すと、レオナールが不機嫌そうに腕を払った。


「師匠、邪魔。違うところ切ったらどうするの」


「すまん」


 ダニエルは即座に謝った。

ちなみにダニエルもレオナールも料理できないので準備だけして、アランが夕飯を作りました。


答え合わせ?

接敵までは合格、戦闘および戦闘後は駄目出しアリ。レオナールは赤点ギリギリ合格で、アランは赤点(後日レオナールと共に追試)。


後日談書くと思いますが、先に本編書きます。


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