ダニエル先生のオーガにもわかる魔獣・魔物講座(前)
ほとんどダニエルの解説・ウンチク話なので、興味ない方はスルーでOK。
時期的にはレオナールとアランが14歳になる直前の13歳の秋、生贄事件後、ロラン近郊でダニエルの保護下にて見習い冒険者活動していた頃。
後編にて初めてのゴブリン戦。
「よ~し、じゃあ今日はロラン近郊で手軽に狩れる魔獣・魔物実践講座と行くか!」
「師匠大好き!!」
「……嫌な予感しかしないんだが」
ダニエルがニッカと笑って言うと、レオナールが喜色満面、アランが青い顔になる。
「ハハッ、そんなに喜ばれると教え甲斐があるってもんだな! アラン、心配しなくても今日は低ランク冒険者向けの獲物だけだ。死にはしないから、安心しろ!!」
「それが余計不安を煽るんだよ!!」
ダニエルが良い笑顔で、アランの肩をポンと叩きながら言うと、アランが噛み付くように怒鳴った。
◇◇◇◇◇
「ロラン近郊の魔獣で最弱が穴兎、次が角兎だ。穴兎は、こいつの通り道や巣の前にでも罠を仕掛ければ子供にも狩れるから、あまり高値では売れないが良く食べられているから年間通して需要があるという点で小遣い稼ぎには持って来いだ。
損傷が少ない方が高値で売れる。これは他の魔獣にもいえる事だが、損傷が少なければ毛皮が使えるからだ。自分で毛皮を剥ぎ取って上手になめしたら銀貨一枚くらいになるが、慣れない内は本職に任せた方が良い。ボロボロの毛皮じゃ買い取り拒否されるからな。
穴兎は名前の通り、地面に巣穴を掘って暮らす、体長0.5メトル弱で赤みがかった褐色の兎だ。こいつは臆病でヤバイと思ったらすぐ穴に逃げ込むから、巣の外へ出たところを狙うのがオススメだ。
弓矢で遠くから狙っても良いが技量がなけりゃまず無理だから、巣の近くに罠を作って追い込むのが一番簡単だ。狩人なら痕跡たどって仕掛けるけど、お前らには無理だろうからな。罠の作り方は後で教える。
次に角兎。体長1メトル前後の額中央に小さな角がついた灰褐色の兎だ。こいつも穴兎同様に地面に穴を掘って巣を作ることが多いが、額の角を使って比較的軟らかい岩を掘って巣穴にする事もある。
同じように臆病で危険を察知するのが得意だが、逃げられないと判断した時は飛び掛かって来ることもある。こいつの武器は角と跳躍力だ。腹や顔、特に目や鼻とかを狙ってくるから、気を付けろ。
攻撃に切り替える前に後ろ足を踏み鳴らしたり、尾を伸ばして耳を伏せたりするから、それを見たら注意しろ。
跳躍力は個体差があるが、屈んだり剣を構えたりしている時なら、平気で人の頭を飛び越える。慣れなきゃ死ななくとも痛い手傷を負う場合もあるが、柔いし攻撃力もそれほどないから、動きの癖さえ覚えたら、慣れれば狩るのは楽な獲物だ。
じゃ、実際やってみるか」
「うさぎ……弱そう」
レオナールが不満そうに呟くと、ダニエルはニヤリと笑った。
「今日の夕飯だから、頑張れ。獲れなかったら肉ナシな」
「わかった、頑張る」
レオナールの目の色が変わった。アランは溜息をついて肩をすくめた。
「どうせ罠担当は俺だろ。レオにも手伝わせるけど」
「どうしてそう思う?」
「だってレオってものすごい不器用だろ。一から十まで全部やらせたら日が暮れる。それに俺、畑荒らしに来る獣避けの罠をいくつか作ったことあるし」
「へぇ、アランは経験あるのか。じゃ、俺がわざわざ教えてやらなくても作れるな。よし、やれ!」
ニッカと笑って言うダニエルに、レオナールが眉をひそめた。
「ちょっとアラン、余計なこと言わないでよ」
「大丈夫だ。俺にまかせておけ」
安心しろ、と言わんばかりに真顔で頷くアランに、レオナールがむくれた顔をする。
「そういうことじゃないんだけど。アランが全部やるって言うなら、まかせるわ」
「じゃあ、手頃な木の枝を拾って来てくれ。こんなのとこんなの、それと……」
アランが地面に指でその形状を書いて、大きさを両手を使って指示する。それらを見ながらダニエルは顎をさすった。
(アランって小器用で有能でそこそこ察しも良いけど、ムダに過保護だよな。気を回して面倒見すぎて、かえって嫌われそうだ)
我の強い者、自分のやり方にこだわる者、仕切られたり一方的に指示されることを厭う者にとっては、嫌われかねない。本人は良かれと思っているし、悪気はないが。
(ところが冒険者に多いんだよな、そういうやつ。人の指示通りに行動したがるやつなら、兵士とか丁稚に向いてるし。……良くも悪くも、レオは他人に好きに扱われるのに慣れてるからなぁ)
ダニエルは生温い目でアランを見つめた。ちなみに、アランが設置したくくり罠で、兎は無事三羽捕獲できた。
「じゃあ、兎に関しては全く問題ないな」
ダニエルが腕を組んで頷くと、レオナールが眉をつり上げて言った。
「師匠、私は何でも良いから斬りたいんだけど!」
「じゃあ、次はロラン近郊最弱、冒険者ギルド常時討伐推奨魔物だ」
ダニエルが言うと、レオナールが力強く頷いた。
「それって、アレだよな。一匹見掛けたら百匹いるかも、とかいう」
アランは嫌そうな顔で溜息をついた。
◇◇◇◇◇
「ゴブリンは身長0.9メトル前後、体重2クロン(1クロン=1kg)前後の、緑の肌に赤い眼をした人型生物だ。平べったい顔、つぶれた鼻、とがった耳、大きな口と小さな牙が特徴で、討伐部位は左耳。
ギィギィと軋むような鳴き声、もといゴブリン語を話すが、キングとか変異種でごく稀に共通語を話す個体もいる。こいつは繁殖力が高くて、一匹見つけたら少なくとも三十~四十匹はいる。下手すると数百匹以上いることもある。
巣穴は自然洞窟だったり、他の魔獣・魔物の巣の再利用だったり、ダンジョンだったり、廃村だったり、何でもありだが、何もないところに自分らで作ることはあまりない。コボルトとか手先の器用なやつに作らせることはあるけどな。武器や道具も自分達では作れないから、他から奪ったり、作らせたりすることが多い。
こいつは見つけ次第、速やかに討伐することが推奨される魔物だ。他種族の雌または人族の女に生ませている場合はともかく、ゴブリンの雌がいた場合、一匹の雌が一度に四十匹を生んだ事もあるらしい。
とにかくやたら増えるから、見つけ次第ぶっ殺せ。その辺歩いてる雑魚単体なら、角兎より弱くて遅いから、適当に剣や棍棒振り回しても十分倒せる。
だが、巣に乗り込んで討伐する場合には注意が必要だ。数が多いのが一番の理由だが、他にも連携したり、哨戒したり、罠があったりする場合もあるからな。
あと、特殊個体も多い。一番強いのがキング、次がクイーン、ナイト、杖持ちのマジシャン、ソルジャー、最弱がウォリアーでこいつが良く見掛けるやつな。
武器持ってる個体は気を付けろ。通常個体なら問題ない場合の方が多いが、たまに進化直前なのか強いやつが混じってる場合もある。
マジシャンは魔術使って来るし、ナイトは硬くて強い。キングやクイーンは個体差があり過ぎて、一言では説明できないな。人と同じで色々なやつがいる。
マジシャンまではお前らなら油断しなけりゃ倒せると思うが、ナイト以上を見掛けた時は、冒険者ギルドに報告して指示を仰げ。自己判断は絶対するな。
ナイト以上がいる群れを一パーティーで討伐するとか、無茶だからな。そんなことが出来るのは、王国内じゃ俺だけだ。お前らには無理だから、やめとけよ、ハハッ」
「……ムカつく」
「下剤いるか?」
こそこそとささやき合う二人に、ダニエルが怪訝な顔をする。
「おい、何を話してる?」
「問題ない。今日の夕飯の話だ」
アランが笑って言った。ダニエルは肩をすくめた。
「まぁ良い、講義の続き行くぞ。ホブゴブリンは身長1.8~2メトル前後で、ゴブリンの近縁種だが、一回り大型で毛深く、ゴブリンより賢く凶暴、攻撃力もある。主にゴブリン語と共通語を話す。毛の色は赤褐色が多い。こいつの討伐部位も左耳だ。
ロラン近郊で見掛けることはほぼないと思うが、もし見つけたらこいつはちょっと要注意だ。危険度で言えば一体でオークと同等、複数体だと連携するからCランク以上でかなりの実力がないとキツイな。
低ランクで発見した場合は、速やかに最寄りの冒険者ギルドに報告して、指示を仰ぐこと。でなけりゃ死ぬか大怪我するぞ。こいつが単独行動することはまずないから、群れの規模によって招集もしくは強制依頼で、複数パーティーに討伐させるのが順当だ。
場合によっては、王国軍や領兵団が出動することもある。
次にコボルト。身長0.6~7メトル、体重2クロン未満だ。鱗に覆われた皮膚と、鼠のしっぽのような毛のない尾、犬のような頭に小さな角が特徴だ。討伐部位は尻尾。
臆病だが狡猾で、一体ならゴブリンや角兎より弱い最弱魔物で、ゴブリンと同じく繁殖力が強いから、同じく常時討伐推奨されている。
徘徊しているやつとはぐれは子供でも殺せる雑魚だが、巣にいるやつは別だ。
強さ的にはFランクでも討伐できるが、気を付けないと、罠とかにハメられて殺されることもある。駆けだし冒険者の登竜門、初見殺しとも言われてるな。
こいつらは竜語を話すらしいが、キャンキャン鳴いている犬の声にしか聞こえない。めったにいないが、魔術を使う個体もいる。小器用で、道具や罠を自作するから、同種で群れ作ってることもあるが、ゴブリンとか他の魔物に使われていることも多いな。
今回、こいつらの目撃情報は仕入れて来られなかったが、ゴブリンのは入手できたから、後で狩りに行こう」
「やったあ! ステキ!! さすが師匠ね!!」
「ほら、もっと褒め称えても良いんだぞ、レオ」
どや顔で胸を張るダニエルに、アランは半眼になる。
「レオのやつ、おっさんの言ってること、ほとんど聞き流してるのに、どうして自分に都合良い話だけは聞こえるんだろうな」
呆れたように呟くアランに、レオナールがきょとんとする。
「え、何、アラン、何か言った?」
「独り言だ。気にするな」
「アランのひとりごとってムダに大きいわよね。人に聞かせる気がないなら、口にしなけりゃ良いのに」
「……まぁ、確かに、何を言っても無駄だよな」
アランは肩をすくめた。
「この辺は狩る予定ないから話だけだが、常時討伐推奨されている人型魔物ってことで、もうちょい説明するぞ。
まずはオーク。Dランク以上推奨の常時討伐魔物だな。一応Eランクから狩れるようになる。身長1.8メトル前後で人間と同じくらいだが、体重は95~100クロン以上と肥満体だ。
豚のような大鼻に、大きな牙を持つ、褐色肌の人型魔物だ。髪は黒または暗褐色の個体がほとんどだが、垢や泥や脂でベタッとしてるから、本当は違うかもしれない。主に共通語およびオーク語を話す。
繁殖力が強く、残忍で残酷、傲慢で、攻撃的だ。怪力で、肉が厚いせいで攻撃が通りにくく、頭はあまり良くない。斧や曲刀を好んで使う個体が多い。
繁殖以外の目的で、人を含む他種族をさらう事がしばしばある。女子供や老人など、弱者をいたぶるのが大好きという連中だ。
やることは山賊や強盗と変わらないがより残虐で、村や集落を襲って根こそぎ強奪・虐殺した上、焼き討ちしたりする。オークの歩いた後は雑草も生えないと言われる事もあるくらいだ。
脳筋で挑発に乗りやすいから、フェイントを上手く使えば、近接戦闘でも十分倒せるが、攻撃力と防御力が高いから、魔術・魔法の支援があった方が楽だ。魔法も肉が厚いせいで若干通りにくい。
毒もそこそこ有効だが、効くまでちょっと時間がかかるから、強めの毒を使うか、動きを鈍らせる程度に考えた方が良いけどな。
次にトロル、こいつはCランク以上推奨討伐魔物だ。身長2.7~3メトル前後、体重230クロンくらいの巨人だ。
鼻や耳が大きく、腕と脚がやたら長く、手足の先がでかくて、指の爪が長く尖った巨人だ。体表は緑で、猫背でゆっくり、大きな音を立てて歩く。
怪力で、動きは鈍く、頭もあまり良くない。粗暴かつ凶暴で、多少の傷なら回復・再生する。ものすごく不器用だから、武器は棍棒を振り回すくらいしか能がない上、狙いも雑だが、とにかく再生力と怪力が厄介だ。
肉や皮膚が厚いから、一撃で致命傷を与えるのは難しい。魔法抵抗力はそんなに高くないから、前衛が足止めして、弓矢や魔法で削るのが良いだろうな。
大振りだが攻撃が当たると痛いから、足止め役は回避優先だ。ドワーフかオーガ並に頑丈で腕力あるやつにガンガン攻撃させても良いが、そうそういないからな。
こいつを相手する場合、レオは絶対に攻撃を受けるな。お前の体格と力じゃ、流すのも払うのも無理だ。紙一重で避けようとするのもヤバイ。余裕を持って避けろ。風圧だけでも飛ばされかねない。一撃でも食らえば動けなくなる。アランなら確実に死ぬな。
レオの攻撃力だと、一人で倒すのはまず無理だ。可能性あるとしたらアランの火魔法だな。レオはやるなら牽制と最後のトドメくらいにした方が良い。急所を狙ってもおそらく無駄だ。
腹も首も意外と硬いから、効かないだけならともかく、最悪弾かれる。トロル相手に近接戦闘で攻撃ミスるとか、わざわざ死ににいくようなものだ。
次にオーガ。これは最低Cランク、Bランク以上推奨討伐魔物だな。身長3メトル前後、体重はおおよそ300クロン。人を食らう鬼として有名だな。人型魔物の中では最強と言われてる。
髪の色は黒か暗褐色で、鉄のように硬く分厚い皮膚一面に黒いイボ状の突起があり、脂と泥と垢に塗れた髪と体表が特徴だ。主に巨人語を話し、中には共通語を話せるやつもいる。
とにかく攻撃的で、何事も力で解決しようとする傾向が強い。バカの代名詞にも使われる通り、かなり強いが、賢くないから動物用の罠にも掛かる。ただ熊魔獣用の罠程度なら、ぶっ壊して逃れるから意味は無いが。
めっぽう強い上に、攻撃範囲も広くて、トロルと違ってそこそこ早くてガンガン攻撃されるから、避けるのがキツイ敵だな。もちろん攻撃を受けるのは論外だ。ちゃんと避けたつもりでも攻撃食らうが、かすめる程度なら諦めろ。
やたら頑丈だから魔力付与がないと、斬撃も打撃も刺突も弾かれることが大半で、毒や睡眠薬、麻痺薬なんかも効きづらい。魔法抵抗力は低いから、近接で足止めして後方から魔法・魔術でガンガン削るのが一番楽かもな。
でも、《鈍足》はともかく、《眠りの霧》《束縛の糸》はあまり効果がないから気を付けろ。運が良ければ効くこともあるかもしれないが、高位魔術師じゃないとまず無理だ。
バカだから落とし穴とかでハメるのもありだが、相当深く掘らなきゃ意味がない。水を入れて泥沼っぽくしておいたり、《炎の壁》や《石の壁》で行動制限するのも良いかもな。
まあ、俺なら一撃必殺できるからカモだけど、レオは危ないから絶対真似すんなよ。じゃなきゃ最悪一撃死、手加減されたら死ぬまでタコ殴りだ」
「すっごいムカつく」
「今更だ、諦めろ」
眉を上げるレオナールの肩を、アランがポンと叩いて慰めた。
「この辺はまず遭遇することがないし、見掛けたら即逃げ推奨だ。
幻獣として有名な鷲獅子。体高体高1.5~7メトル、体長3メトル前後。王国軍で数体飼育されている。
実は俺、野生の鷲獅子はまだ見た事ないんだよな。王国で飼われてるやつと、王宮魔術師が使役しているやつしか知らない。一度で良いから斬ってみたい魔獣の一つだな。
まぁ、うっかり声に出して言っちまったから、誰も生息地を教えて貰えてないだけかも。お前ら、どこかで見掛けたら教えてくれ。礼はするから。
で、魔獣最強のドラゴン。体高10メトル以上、体長30メトル以上。個体差あるけど、とんでもなくでかくて、べらぼうに強い。王国内じゃ俺くらいだな、こいつらを単独でガチで倒せるのは。
さすがの俺も、こいつは一撃ってわけにはいかないが、最低三日、最長一週間斬り合えば討伐できる。でも死んでも真似すんなよ。普通は近付く前にぶっ殺される。
空を飛べる上に、ブレスで中距離、魔法で中距離から遠距離攻撃してくる。近寄れば、噛み付き、手足の爪による攻撃、長い尻尾による薙ぎ払いだ。しかも物理法則無視した動きをするから厄介だ。
物理・魔法共に高い攻撃力・防御力・抵抗力を持ち、薬や毒も効きづらい。Aランク冒険者パーティーでも一個師団かき集めてやっとだな。一般兵なら一日もたずに壊滅だ。
故に災害級とも言われてるな。痕跡見つけたらギルドに報告、避難推奨だ。命が惜しけりゃ絶対近寄るな。ドラゴンと殴り合、もとい正面から斬り合えるのは人外と呼ばれるようになってからだ」
「……なにか自慢されてるみたい」
「みたい、じゃなくて実際されてるんだろ」
レオナールとアランがボソボソ言い合うのに、気付いているのか気付いてないのか、ダニエルはけろりとしている。
「んじゃ、早速ゴブリン狩りに行くか」
「了解」
「わかったわ」
そして、一行はロラン近郊の森へ向かった。
うっかり前後編になりました。
本編で解説その他全くしていないので、ここにぶっ込みました。
書くとやたら長くなるので。
修正したつもりでしたが、まだ体重・体長おかしかったので修正しました(うっかり過ぎる)。




