異世界の夢
僕は眠ると、異世界にくることが出来る。エルフやドワーフが街を歩き、酒場ではワーウルフやリザードマンが酒を飲み交わすようなそんなファンタジーの世界に。
その世界の名は『レリーフ』
レリーフでの僕は、現実とは違って超人だった。剣を使えば超一流。槍でも弓でも、あらゆる武器に精通し、格闘術もお手の物。魔法だって使える。とある盗賊団のアジトに単身で乗り込み、百人からなる団をたった一人で壊滅させたこともある。
顔もかなりの美形で、特に何もしなくても何時も女性に囲まれている。口を開けば愛を囁き、出会ってすぐだろうが一瞬で落ちる。この間、クーデターが起きて殺される寸前だったダークエルフの姫も助けた後、耳元で一言、美しいと囁いただけで僕に惚れた。
最初はただの夢だと思っていた。それが普通の人間の反応だろう。寝ている時に見る楽しい夢。人間が、その日あった出来事を寝ている間に整理するための脳機能の一つ。
しかし、一週間前にレリーフで出会った神官から貰った宝珠。これが、夢だと思っていたレリーフが、現実のものである証拠になった。
神官は、この宝珠を僕の世界の他の人間にかざすと、その人間をレリーフに召喚する事が出来ると教えてくれた。そして朝、目が覚めた僕の手には宝珠が握られていたのだ。
夢だと思っていたレリーフで見たモノと全く同じ宝珠が、現実世界の僕の手に有った。僕はその宝珠が本物か試してみたくなった。
学校へ行き、唯一の友人に今までの事を話した。友人は面白そうだと言って僕の実験に付き合ってくれることになった。
放課後、家に寄った友人に宝珠をかざしたが特に何も起きることはなかった。僕らは、当たり前だよなと笑った。友人は2時間ほど僕の部屋で談笑しながらゲームをして帰っていった。
その夜、いつものように僕はレリーフに居た。街を歩いていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。友人の声だ。声の聞こえてきた方へ行くと、そこには現実とは似ても似つかない、粗野な男が衛兵となにやらもめていた。
僕は男に、現実の友人の名で呼びかけた。男は驚いて振り向き、僕の顔をみて一瞬動きを止めたが、恐る恐るといった感じで僕の現実での名前を呼んだ。
街での僕は英雄だったので衛兵に話をつけ、友人を解放してもらい、僕らは酒場へ来た。そこであの宝珠は本物だったのかと話をした。最後の確認として、次の日学校でお互いに今の記憶があれば宝珠も、レリーフの存在も現実だという結論に達した。
朝目が覚めた僕は急いで学校へ向かった。教室の扉を開け、見回してみたが友人どころかまだ誰も登校してきては居なかった。それから十分後、廊下を走る音が聞こえてきた。教室の扉が勢いよく開き、友人が息を切らしながら入ってきて僕の目をみて頷いた。それを見て僕も頷いた。
レリーフでの友人は、現実とは違ってかなりの乱暴者だった。酒代を踏み倒し、露天の店主を殴り、僕の知らない所では様々な種族の女を犯していた。友人は、学校でそれを楽しそうに話してきた。
被害者家族から、友人を何とかしてくれと依頼を受け、僕はそれを引き受けた。
レリーフで友人が根城にしている廃墟へ来た。ボロボロのドアをノックして、友人の名前を呼ぶが返事は無い。だが、確かに中から人の気配がする。僕は静かに扉を開けて中に入る。奥から微かに物音が聞こえる。もう一度友人の名を呼ぶと、物音が聞こえる方から僕を呼ぶ友人の声が聞こえてきた。奥へ進み、見る。元は寝室だったのだろう。部屋の隅に殆ど朽ち果てたようなベッドがある。その上で友人は、年端もいかない少女を犯している最中だった。
「お前もまざるか?」
心が腐るようなそのセリフと、少女の助けを求める声を聞いた瞬間、僕の目の前が真っ赤に染まった。僕は腰に提げていたロングソードを一息で抜き、目にも留まらぬ速さで友人の首を切り落とした。泣きじゃくる少女にマントを羽織らせて、抱きかかえて廃墟から出る。
少し歩を進め、少女を抱きしめたまま振り返らず、左手だけを廃墟に向け炎の呪文を唱える。僕は少女に一言、ごめんと言った。
次の日、友人は学校に来なかった。
朝礼で先生が言う。昨晩、友人宅が火事で全焼したと。出火の原因は不明だが、最も燃え方が激しかったのは友人の部屋だった事から、火遊びが原因だったのではないかという話だ。
それから暫くしてある噂を耳にした。燃えて黒コゲになった友人の首は、胴体から離れた所にあったという噂を。友人の首は、燃えて脆くなった所に衝撃で取れてしまったのではなく、何か鋭利なもので切断されたかのように綺麗な切り口だったそうだ。
僕は今日もレリーフに居る。宝珠も、部屋に有る。
なんとなく思いついたので短編で書いてみました。