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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

TS・ウォーズ 愛しの姫様が性転換を企んでいる件について

作者: T・S

 昔々のことである。

 あるところに、チートと呼ばれる力で大国に成り上がったリアルチート王国という国がありました。

 彼の王家は『物理チート』なる不可思議な力と、並外れたリアルラックで瞬く間に周辺国を平らげました。


 何せ、拳を振れば一軍が風圧で吹き飛び、蹴りを繰り出せば大地が裂けます。

 恐ろしいのは攻撃力のインフレだけではありません。

 その体は剣や槍や矢を弾き、あらゆる毒を無効化し、空腹にも数年は気合で耐えてしまわれ、挙句の果てには類稀なる強運で稀に敵が自爆する始末。

 おかげで必ず天寿を全うするところもまた大層恐れられておりました。


 しかし、ある日突然に悲劇は訪れます。

 そう、アレはお転婆な姫様が敵の連合国が放った集団的戦略魔法『隕石落下的ストライク』を胸で軽々とトラップし、宗主国に華麗にもオーバーヘッド的シュートを決めて返礼してやった後のことでした。


「何、余に政略結婚に出ろだと!?」


 王家に生まれた方々は無敵でした。

 しかし、民はそうではありません。

 卑劣にも民間人と食料生産地域を重点的に狙いだした連合国の圧力に、民と大臣が耐えられなくなったのです。

 不運にもそれは、彼女の両親が仲睦まじくイチャイチャと結婚二十周年記念に世界一周旅行に出ている時でした。

 王様が居ないことを良いことに、彼らは水面下で暗躍していたのです。


 真っ先に動いていたのは連合国より賄賂を頂いた大臣たちでした。

 彼らは姫様が推し進める今期の目玉政策、『厚化粧による局部の局所的な詐欺禁止令』に反対する一派を味方に引きこみ、リアルチート王国から王政の廃止と、姫様の追放ならびに国防の要であるチートの血を連合国に売り渡そうと画策したのです。


「く、ぶち壊すのは簡単だ。しかし既に王国の名で持ちかけられ、広く世界に発信されてしまっている。それをただ反故にしたのでは、こちらが世界世論を敵に回すことになる」


「嗚呼、姫様おいたわしや」


 幼馴染の巨乳メイドは、世論をちゃんと気にする姫様の成長に感涙し胸を貸しました。


「そうだ、こんなときこそ奴の出番ではないか!?」


 胸を大胆に揉みしだきながら対策を必死に考えていた姫様は、ふと閃いたのです。

 教育係でもあった魔法使いのおじいさん、通称魔法爺<まほじい>なら、伝説のアレを用意できるのではないか、と。


 そうして、お姫様は彼の者を早速呼び出す決心をしました。

 呼び出すには見かけたところを捕まえるか、スカートが必要です。

 早速メイドのスカートをめくって魔法の呪文を唱えます。


「きゃっ、姫様そんなはしたないです!」


「シマシマパンツなど邪道!」


「いい歳してバックプリントの方が邪道じゃ! 色気が無いわい!」


 合言葉に反応し、魔法爺が姫のドレスの中から現れます。

 それを足蹴にしながら、お姫様は言いました。


「魔法爺よ、余の窮地は知っておろう。以前話していた伝説の魔法薬を用意せよ!」


「姫様がバックプリントを卒業し、末永く爺を養ってくれるならば手を打ちましょう」


「ぐぬぬぬ」


 足元を見られた姫様はしかし、意味深に巨乳メイドを見て頷きました。


「背に腹は変えられぬか。良かろう、今日からしばらく紐パンにしよう」


「何故そこでシマパンを選ばん!?」


 こうして、姫様は己の趣味を捨てる覚悟で魔法爺と手を組みました。


 数ヵ月後。

 結婚式当日の日がやってきました。

 魔法爺は間に合いませんでした。

 待合室でせめてもの抵抗とばかりにウェディングドレスではなく白のタキシードを纏った姫様は、貧乏揺すりで教会と胸を激しく揺らしながら言いました。


「何故だ、何故来ない魔法爺!? はっ、まさかシマパン女に色仕掛けでもされて余を裏切ったか!? ええい、これだからあざといシマパンは嫌いだ!?」


「馬鹿な、連中は清純さの欠片も無い連中とは違いますぞ!」


「きゃぁぁ!?」


 巨乳メイドのスカートの中から、魔法爺が遂に現れました。


「馬鹿者。清純とは余のメイドだけが持つ特権ぞ」


「姫様ぁ、怒るところが違いますよぉ」


 熟練を思わせる匍匐前進で床を這うように移動してきた魔法爺は、度を越して仲の良い二人を孫を見る目で見守りつつ、懐から小瓶を取り出します。


「姫様、約束のブツですじゃ」


「おお、でかしたぞ魔法爺! これで形勢を逆転できる!」


「しかし、良いのですか? その選択はあまりにも……」


「良い、良いのだ。子猫のバックプリントから卒業した日に、余の運命は決まってしまったのだ」


「さようですか……これで、姫様とも最後ですな。せめて、せめて一目姫様のシマパンが見たかった」


「貴様に見せるパンツなど無い」


 もう用無しとばかりに老人に蹴りをくれ、姫様は巨乳メイドの手を掴みます。


「準備は整った。行こう、余の花嫁よ」


「え、ええ?」


 なんだか良く分からないメイドさんですが、ご機嫌な様子の姫様の様子が嬉しくてついつい頷いてしまいます。


 そうして、遂に姫様は決戦場に赴きました。

 礼拝堂では、憎き連合国の代表や来賓の方々がニヤニヤと笑っています。

 しかし、姫様の姿を見るや一同は首を傾げました。

 そんな中、姫様は小瓶の蓋を開け、中にあった魔法薬を飲み干します。


 するとどうでしょう。

 美姫としても名高い姫様が、目も眩むような眩しい光と共に、凛々しい顔の王子様に代わってしまいました。


「な、ななななんだそれは!?」


 一同驚愕の中で、王子様となった元王女様はドヤ顔で言い放ちました。


「今のは伝説の魔法薬『TS薬』だ! 飲めば完全にトランスセクシャル<性転換>してしまう効果がある」


「――え、何やってんのお前?」


 新郎の心の底からの呟きが、見守る人々の心を代弁していました。


「つまり、この結婚は無効だということだ。何せ、貴様は男で余も男だ。これで成立する婚姻などありはせん。そして!」


 おもむろに困惑するメイドさんをお姫様抱っこする元王女。


「え、あの、姫様?」


「余はこれよりこの巨乳メイドと結婚する!」


 最後までいっぺんの曇りもないドヤ顔で言い切った元お姫様は、憑き物が落ちたような清々しい顔で宣言するとメイドの唇を奪い、去っていきました。


 こうして、男だから男と結婚できないという理由付けで政略結婚を回避したお姫様――もとい、王子様は、幼馴染の巨乳メイドを嫁にして怒り狂った連合国にすぐさま殴りかかり、己の拳で愛と国の平和を守りましたとさ。


 めでたし、めでたし。





「――と、これが我が王国の伝統的な政略結婚回避方法だ」


「いや、それは知ってますけどね」


 相変わらず我が祖国はデンジャラスだぜ。

 何度聞いても常識をぶっちぎってくれやがる。


「では今すぐにでも余の前にTS薬を持って来い!」


 読んでいた子供用の絵本を胸に抱き、魔法薬研究部の部室で姫様がふんぞり返る。

 彼女は人呼んでチートプリンセス。

 このリアルチート王国のお姫様であり、王家に宿る不可思議な力『チート』。その中でも単純かつ強力無比な『物理チート』をその身に宿す美姫である。


 はっきり言おう。

 このチート王家の方々は物理法則に喧嘩を売る存在だ。

 数々の学者が健康診断で王家の謎パワーに挑んだが、全て無為に終っている。

 現代科学も魔法理論も、とにかくこの王家に敗北してしまったのだ。

 しかも基本的に気合でなんでもしてしまうのだから、リアルチート王国は世界で最も恐れられている。

 

 暗殺ができず、何故か皆病気にも掛からないし毒も無効化で空だって飛んでしまう。

 加えて、皆共通してリアルラックさえも常人を振り切っている。

 空腹も一年ぐらい気合で耐えるし、皆老衰以外で死んだ記録がない。

 戦場を歩けば弾丸の方から姫を避け、敵の放とうとする戦略魔法が偶に暴発さえするのだ。正に味方となれば頼もしい最終兵器なお方である。


「ぐぬぬ、国一番の魔法学園に転入してもうそろそろ一年だぞ。なのに何故だ、何故発見できんのだTS薬! ネットの口コミだとここが怪しいとされていたのだぞ!?」


「やっぱり、存在しないんじゃないですかね」


「そんなわけがあるか。伝説の魔法薬は確かに実在するのだ!」


 それは我がリアルチート王国のTS<性転換>した王女や王子、当時の人々の記録からも明らかである。

 つい二代前もそんなことがあったせいか、TSの瞬間とぶち壊すまでの一部始終までが記録映像に残っていた。

 おかげで同姓愛者の方々やTSしたい者たちが王国に居住しに来ている。

 しかし王家はそれらに対して沈黙を保ち続けていた。

 それが、かの魔法爺との約定であるからである。


『その伝説の魔法薬使い、王国が政略結婚の波に襲われしときに現れTS薬を授ける』


 嘘臭いことこの上ないが、奴は存在している。

 必ず若く見目麗しい女性のスカートの中から現れ、下着に文句を言ってから代価として薬を授けるそうだ。

 ただし、奴がTS薬を与えるのは王家だけではない。

 各国でそんなものを授かったのはチート王家だけだが、民間人ならば偶に遭遇することがあるという。おかげで水面下ではTSしている人口は徐々に増えているらしい。

 噂では、その魔法使いは『魔法薬チート』を授かっている存在ではないかいう話しだ。


「お婆様……じゃなかった。お爺様も言っていたぞ。奴はドレスの中から現れたと!」


「じゃ、いい加減男物の制服を着るのやめませんか。せめてスカートに変えましょう」


「それとこれとは話しが別だ」


 何度と無く繰り返したやり取り。

 帰ってくる言葉もまた決まっていた。


「余も何れは男になるのだから、ズボンに慣れておかねばならんのだ」


「なんて勿体無いことを……」


 そもそもであるが、男装がまったく似合っていない。

 それぐらいに彼女は可愛らしい顔立ちをしていた。

 この姫様、勿体無いことだらけなんだ。


 美しい金髪をリボンで無造作に束ね、後ろに纏めているのももったいない。

 ワイシャツの中に隠しているブツもそうだ。

 ちょっと丈が長すぎて両手足のそれを捲くっている所なんか正に女子だ。

 誰がどう見ても女の子だというのに、来るかも分からない時のためにTS薬を探して男になろうとしていらっしゃる。

 宮廷魔法使いの息子兼学校での護衛役の俺からすれば、普通にして欲しいものである。


「大体ですよ姫様。政略結婚が嫌なら、さっさと彼氏を作ればいいんですよ」


 リアルチート王家の血を巡り、各国はよく婚約者にどうかと子息子女を送ってくる。

 チート目当てなのは一目瞭然だが、それを避けるのも王家の役目。

 しかし、中には色々と強引な手を使ってくる奴らも居た。

 まぁ、そういう普通の外交で屈したときに限ってぶち壊す奴が現れるのだが連中は懲りない。そして厄介なことに、王家の者が居る場所へとピンポイントで留学生を送り込んできたりするのだ。

 それらと姫様の接触をできる限り防ぐのも俺の役目なので、気の滅入る話しだ。


「な、なんなら俺が彼氏役やりますよ。仲良さそうにしてたら連中だって諦めるでしょ」


「はぁ? 何を言っているんだ馬鹿者。余は男なぞ嫌いだ」


 お前は阿呆か、などと言うような目で姫様が俺を見る。

 これでも、渾身の提案なのだが。


「お前は男か女かも分からん幼き日、余に忠誠を誓った子分だから我慢してやっているが、それ以外など余の半径五十メートル以内から消えてしまえばいいのだ」


「そんな無茶な」


 マジで、どうしてこうなったんだろうな。


「ふふふ。やはり血は争えんな。異性嫌いな王家の子女の所にこそ魔法爺は現れると聞く。伝説の魔法薬使いが現れるのも、きっとそう遠くはないだろう。はーっはっはっは!」


 高笑いしながら、姫様は部室に設置されたベッドに飛び込んで漫画を読み漁る。

 最近は戦車物を卒業し、サバゲ物とやらに夢中なようだ。その前は確か、水着魔女軍系だったか。

 この姫様、庶民の娯楽が大好きである。


 特にTS物が大好物だ。

 しかし、男の娘物はダメらしい。

 好みが煩いお方で、特に魔法薬関連は欠かさずにチェックしていらっしゃるようだ。

 俺は、ため息を吐きながら魔法薬部の給湯室でお茶の準備をする。

 と、暫くしていると数合わせで入部した妹がやって来た。


「到着!」


「おお、クリックではないか」


 黒髪ショートの妹の登場に、姫様が目の色を変える。

 飛び級で無理矢理上がってきたので、高等学校相当の魔法学園においては小さい方だ。

 というか、こいつ普通なら小学生半ばだから相当にちんまい。

 そのせいか、姫様はよく構おうとするのである。ぐぬぬ。


「さっさとお茶を入れよドラッグ! 今日も宮廷からくすねて来た菓子があるのだ」


「わーい!」


「よしよし、素直に喜ぶところが本当に可愛いなぁ」


 なんというか、デレデレだ。

 男には見せない笑顔で姫様がスキンシップを始める。


「あっ、姫様そんな無理矢理……」


「ふふふ。そんなことを言いながらほら、お前の口は欲しがっているぞ。そら、その可愛い唇を開けなさい。悪いようにはしないから……」


「ああ、姫様そんなお戯れをー」


「……何やってんだ」


 お茶を運びつつ、盛り上がっているところに邪魔をする。


「見ての通り、膝の上に乗せて食べさせてやっているのだ」


「自分で食わせてやってください」


「ダメだ、クリックの綺麗な手が汚れてしまうだろう。嗚呼、クリックは可愛いなぁ。なんで余に妹が居ないのか。なぁクリック。将来、世の嫁に来ないか。毎日美味しいお菓子が食べ放題だぞ」


「わーい!」


「早まるな妹よっ!」




「おっと、そろそろ迎えが来るな。さらばだ、未来の嫁クリックよ」


「ばいばーい」


 そうして、一時間ぐらいすると姫様は近衛騎士さんが迎えに来たので帰っていった。

 すると、妹が姫様専用の肘掛け椅子に座り、すぐさまダンッとテーブルに両足を乗せて組んだ。


「――たく、今日もベタベタしやがってよぉ。まったく姫様の接待は疲れるぜ」


「……お前、本当に表裏が激しいよな」


「兄貴だって似たようなもんじゃねぇか。何だよ、その無害そうな面は家ではあんなものを崇めている癖に」


「おい、その話しはよせ」


「盗聴器か? それなら新しいのも含めてぶっ壊してるっての」


 ポケットから取り出した残骸をテーブルに放り出すと、クリックは鼻で笑う。


「そもそも、性転換したいって言うんだからさせてやりゃいいじゃねぇかよ。あのお姫様にはその資格がある。大ジジの秘伝薬ぐらい、ちょっとくすねてくればいいじゃんか」


「そうなるとお前、嫁にされちまうぞ」


「別に? そうなったらそうなったでお姫様と一緒に世界征服してやんよ。前世で征服の魔天使だった血が騒ぐってもんだぜ。俺様の『魔法チート』と姫の『物理チート』、上手く使えばいいところまで行くぜ」


 妹は早熟なせいか、もう魔法使いが一度は感染する重病、厨二病に感染している。

 奴の封印された人格(本物)は非上に大人しいのだが、裏人格(設定)はこうして誇大妄想を現実にしようとしやがるのだ。


 そもそも、前世も何も無い。

 俺達は伝説の魔法薬使いの子孫であり、単純にその恩恵を受けているだけに過ぎない。

 受け継いだ力と特殊性癖ぐらい、とっくに制御できるように教育されているのだ。

 だから勿論、左手が疼くのも卒業した。


「というわけで、向こうが本気なら姫さんも俺様が可愛がってやるよ。お菓子くれるし」


「餌付けされてるだけじゃないか!」


 いやまぁ、可愛がられてるから単純に慕っているだけなのだとは思うが。


「姫様が大好きな兄貴は、あいつに男になられると困るかもしれねぇけどな。けけけ」


「一言多いんだよっ」


「きししし。でも今時逸らないぜ。何年越しの片思いだよ」


 兄の純情をからかう妹に制裁を加えるべく拳骨を振り上げるも、クリックは転移魔法で距離を取る。ええい、猪口才な奴よ。


「無詠唱転移とは……腕を上げたな」


「これぐらいできねーと飛び級させてくれねーじゃん」


 虚しく振り上げた拳を下ろし、姫様が置いていった菓子を制裁として強奪する。


「ああっ!?」


「まだまだだな。守るべきものを疎かにするとは未熟だぞ」


 お、このチョコ美味いな。


「う、う、うわーん。今度姫様に、兄貴が卑猥な目で見てくるって言ってやるー!」


「なっ!? 待て、俺が悪かった!」


 そんなことをしたら、あの物理チートが俺を宇宙の果てまで殴り飛ばしちまうよ。


「くっ、何が望みだ」


「この魔天使クリックの軍門に下り、永遠の忠誠を誓え。そうすれば水に流してやろうじゃあないかブラザー」


「お、俺は既に姫様に忠誠を誓った身だ。二君には仕えん!」


「じゃあ姫様に、兄貴にお風呂覗かれたってメールするぜ」


「やり方がえぐいわっ」


 なんてこった、一方的に押し付けられるだけだと?

 しかし、逆らうことはできない。

 今でさえ、俺は姫様にとって子分その一。

 ここで評価をマイナスにされる訳にはいかんのだ。


「ほら。嘘でもいいから言っちゃいなよブラザー。別に心のそこから言わなくてもいいんだからさぁ」


「あ、悪魔め……」


「きしし。敗者の嘆きは何故こんなにも心地よいのだろうなぁ」


 再び肘掛け椅子い腰掛け、妹様が楽しそうにスマートな携帯電話<マジフォン>を弄るべく余所見をする。


「させるか!」


「わわっ」


 一瞬で距離を詰め、体格に任せてマジフォンを取り上げる。


「はい、強制転送!」


「ああっ!?」


 形成は逆転だ。


「どこにやったの!?」


「家に帰るまでは内緒だ」


「ううー! マジフォン世代からマジフォンを取り上げるなんて酷いよぉ。これ黄金の国からお米と味噌と醤油を取り上げるような暴挙だよぉ……」


 あ、出てきたな表人格。

 涙目になってポカポカと胸を叩いてくる。


「なら、今後は兄を脅迫するなよ」


 これで俺の忠誠心と兄の威厳は守られた。

 そう、安堵したところでいきなり部室の部屋が開いた。

 その向こうから、帰ったはずの姫が現れた。

 途端に、妹が態度を改める。


「あっ、忘れ物ですか」


 あざとくも可愛らしく尋ねるクリック。

 いつもなら頷いて頬釣りし、抱きついて振り回すのだがその時の姫様は違っていた。


「どうしよう。どうすればいいと思う!?」


「な、何か問題でもありましたか? まさか、帰りに変態に襲われたとか……」


 今まで見たことのないような真っ青な顔で、姫様は手に持っていたマジフォンを掲げた。

 見ろということだと解釈し、それを受け取る。

 画面にはメールがあり、どうやらそれが問題らしいが……なんだとっ!?


「政略……結婚? 姫様が……そんな、だって……」


 俺の目の前もまた、当然のように真っ黒になった。




「ねぇ聞いた? 姫様が電撃結婚なされるんですって」


「お相手は遠方の小国、イケ・メンドウ王子ですって!」


 翌日、某国からのツイートによって拡散した情報が、チート魔法学園にも猛威を振るっていた。

 美人な近衛騎士に送迎されてきたというのに、姫様のお顔は優れない。

 クリックを見ても、力なく笑うだけだ。


 俺は歯噛みした。

 昨夜は姫様を送った後、学園の寮に戻らず転移魔法で実家の両親に事の次第を問い詰めたが、もはや決定事項だという冷たい言葉が帰ってくるのみ。


『大人になれ、ドラッグ。これが政治という奴だ』


 政争はからっきしであり、宮廷魔法使いの母に養われている家政夫の父は、何故かアタッシュケースの中の札束を数えながら悦に浸っていた。

 今回のことでインサイダー取引をして稼いだとか。

 とりあえず母がぶっ飛ばし、今度こそ離婚すると息巻いて警察に通報した。


 母はダメ人間が好きな人だったが、もはや勘弁ならんという顔であった。

 父が何か喚いていたが、警察にお縄を頂戴されて夜闇に消える。


 嗚呼、ご近所さんの眼が痛い。

 俺は抱きついてくる妹の背を優しく抱いてやることしかできない。


『兄貴、これで親父の不味いハンバークを食べなくて済むね』


 けれど、俺の心は裏腹にどこか清々しささえ見せた妹の顔が、妙に印象的だった。

 父は極普通のチンピラもどきの入り婿で、何も母の家のことは知らない。

 知っていれば、碌でもないことになったに違いないが、そこは母さんのファインプレーだろう。伝説の魔法爺は系譜も当然表に出てきてはいけないのだ。


――って、俺の家族など今はどうでもいい。


 問題はどうやって姫様の政略結婚をぶち壊すかだ。


 授業も上の空でひたすらにマジフォンを弄る姫様は、教師に当たり前のように注意されて廊下に立たされてしまっていた。

 心配して休み時間に廊下へと飛び出せば、姫様は左手一本で倒立しながら腕立てし、右手でマジフォンを操りネットサーフィンをするという離れ業でお心を慰めておられる。


 相変わらず、スケールの違う人だ。

 汗の一滴も流さず、黙々とストイックに続けなさるので俺の胸は張り裂けそうになっていた。


「ネットと運動に逃避することでしか、自分を保てないのですか……」


 常々政略結婚をTS薬で阻むと公言してきただけに、それが見つからない現状を嘆いていらっしゃるのだ。


「……もう、これは戦争で有耶無耶にするしか無い。拳を紅く染める日が来たのだ」


 耳を済ませば、ブツブツと何か呟いていらっしゃるが、このまま体調を崩さないかが心配だ。


「姫様、右手も使わないと筋肉が偏ってしまいますよ」


「む? そうだな」


 もっとも、どれだけ鍛えても姫様は細腕なので鍛えられているのかは謎だが。

 右手での倒立腕立て伏せに変更し、姫様はその日は一日中廊下の一角を占拠なされた。

 どうせ魔力の無い姫様が魔法学園でできることは座学ぐらい。

 テストを山勘とリアルラックで乗り切ってしまう姫様には必要のないことだ。


 俺は、せめてこの努力を無為にしないようにと周囲に結界を張って密かに隔離した。

 勿論、体調不良だと教師に言い張るのも子分である俺の役目である。




「ドラッグにクリックよ。昼間に情報収集に励んだが、不味いことになっているぞ」


 夕暮れの部室の中、いつもと違う真面目顔で妹を膝上に乗せていた姫様が言った。


「TS薬、どうやら先月に会員制のネット通販サイトで取引きされていたらしい。そして、入荷した最後の一本が厳選なる抽選の結果奴の手に渡っていることが判明した」


「奴、とは?」


「イケ・メンドウ(池 面道)。通称、イケメン王子だ!」


「ええっ、てことは……」


 クリックが驚愕の視線を上げながら饅頭に喰らいつく。


「そうだ。仮に私がTS薬を手に入れて目の前で使ったとしても、奴も遅れて飲めば結婚を成立させられるのだ!」


「野郎、恐ろしいまでの覚悟で望んでやがりますね」


 俺は当然のように戦慄した。

 俺にはTS願望などないので、女体化するなんて想像もしたくない。

 しかし、奴はそれも辞さないというのだ。

 その自己犠牲精神には、畏敬の念しか浮かばないぜ。

 などと正直に吐露すると、姫様が仰った。


「何を言っているんだ。奴はホモだから寧ろご褒美だろう。その証拠に、もう十年も前から女体化して逆ハーレム作りたいという赤裸々なツイートが残っているぞ」


「腐ってやがる!?」


 訂正する。

 奴は化け物だ。

 自然の摂理に知性で抗う、完全に向こう岸のモンスターに違いない。


「個人の趣味嗜好はあまり否定したくないが、奴と私は思想からして相容れぬな」


「え、姫様がそういうことを?」


 クリックが驚く。


「余は女好きであって男好きではない。これはひよこのオスとメスぐらいに隔たりがあることだ。だから間違ったらだめだぞ」


 妹の頬を指でツンツンする姫様は、自分のことを完全に棚に上げていることに気づいていない。

 まぁ、チート姫様ならしょうがないな。常識もチートしてしまうのだから。


「結論としてホモはいかんということだ。しかし百合はまだ可愛いから許せる。ふっ、奴と討論するまでも無く決着は着いたな。この戦、始まる前から余の勝ちよ」


「姫様の斜め上な価値観はともかく、これからどうしますかね」


「式まで後六日ある。それまでになんとか対策を考えよう」


「その、ご両親は?」


「勝手をやらかした大臣たちを伝統に則り血祭りにした」


 このご時世に封建制度を守り続けるだけあってバイオレンスだぜ。

 王族のとりあえずぶっ飛ばす権は半端ない。


「そ、それではお二人も姫の味方なのですね」


「安心しろ。お爺様も余の水着写真一枚で味方となると確約してくれた。学園指定のスク水でいいそうでな。随分と気前の良い話しよ」


 よし、何はともあれ最低でも物理チートが三人揃った。

 これだけの戦力があれば、小国の一つや百個どうとでもなる。


「だが、どちらも同じ条件を出しおったのだ」


「じょ、条件……」


 あまりにも真剣な顔で姫様が言うので、俺は思わず身を乗り出す。


「代わりの結婚相手を連れて来いと余に言うのだ」


「は、はぁ……」


 断る理由にするつもりだろうか。

 そういえば、破談する際はそのまま結婚するのが王家の慣例。

 最悪その伝統だけは守りぬけというお達しか。


「というわけで探すぞ。我が愛しの君『ドロップ』を!」


「え? クリックを担ぎ出すんじゃないんですか」


「馬鹿者。それは最後の手段であろう。まずクリックの年齢に問題がある。クリックは余が即位し、一夫無限妻制度に法改正してから嫁にする。それまではグッと我慢の子だ」


「は、はぁ……」


 そうして、その日から俺たちは姫様の思い出の君を探す手伝いをさせられた。

 そう、存在するはずのない少女の捜索を。




「何故だ、何故見つからないんだドロップ! こんなことなら、あの頃にすぐさま指名手配して探しておくんだった!」


 近衛騎士たちに戸籍を捜索させているらしいが、三日かけても見つからないそうだ。

 部室で愚痴る姫様は、余りのストレスに耐えかねてか小指一本での倒立片手腕立て伏せに耽っておられる。

 指先一つで敵を倒すための修練だそうだが、姫様なら吐息だけで十分なのにな。

 まったく大した努力家であらせられるぜ。


「そもそも、リアルチート王国の人間じゃないんじゃないですかぁ」


「黙れ、電撃転校生イケメン」


「粗茶ですがどうぞ」


「あ、すいませんドラッグくん。きゃっ、手がっ」


 甘いマスクを何故か俺に振りまく、銀髪の優男の娘こと転入生のイケメン王子。

 おい、ちょっと手が触れたぐらいで恥らいの顔を俺に向けるな。


 いきなり魔法薬部に入部しやがったときは怪しんだが、どうも話しを聞いてみると彼も乗り気ではないらしい。

 どれだけ女性徒の黄色い声を浴びせられても奴は舌打ちするだけ。

 まるで姫様からチートを取り除いて男にしたような奴だった。


「そう思うなら女装は止めてください」


「ええっ? この学園は制服の指定はあっても性で指定していないはず……だよね?」


 姫様が強引に校則を変えさせたからな。

 しかし、そのせいで堂々と女装して登校するとは。

 その中世的な容姿のせいか、一部の女性徒がキャーキャー言っている。

 男共も彼に大してはいろいろな意味で距離を測りかねているが、気にもしない奴の堂々とした男の娘ぶりに色々と諦めていた。


 むしろ、何人か勘違いして犠牲者が出ている。

 業が深き男だぜ。

 勘違いして校舎裏に呼び出した哀戦士たちよ、安らかに眠れ。

 そして向こう側へと往ってしまった連中よ。

 俺達の友情は死んだ。二度と近づくなよバーロー。


「ボクの国が調べた限りでは、姫様がドロップなどという少女と戯れた記憶はないみたいだよ?」


「少なくとも、俺が姫様の子分になってから、そんな名前の奴に出会った記憶がないが」


「お前が知らないのは当然だ。ドロップは私が力を満足に制御できない頃に出会ったライバル<好敵手>だからな。今ではきっと、相当な美少女に成長しているだろう」


 ラ、ライバル? 


「そう、アレは開き直って力を制御することを放棄した頃だったか」


 腕立てを続けながら、姫様は嬉しそうに語り始めた。





 アレは人里離れた山奥だったか。

 物理チートはとにかく厄介だ。

 何せ、暴れたり八つ当たりすれば呆気ないほど簡単に人の命を奪ってしまう。


 余を止められるは祖父と母だけ。

 しかし、躾ける母も余の相手だけをしては居られん。

 その隙をつき、悪戯と称して建造物の破壊や山に拳でトンネルを掘って遊んでいた当時の余は、あの日初めて母と祖父以外の人間に出会ったのだ。

 あいつは余と同じぐらいの歳の、黒髪の子供でな。

 余は思わず問いかけてしまった。


「き、きしゃまは何者だっ。ここは王家の所有する山なのだぞ」


「俺の名はドロップ。面倒だけど、お前と遊べって言われたから来てやったぞ」


「遊ぶ? 余が誰か知ってのことか! 余は――」


「物理チート持ちだろ。関係ないね。俺だってチート持ちだ」


「な、なにぃ!?」


「いつまでもお前が山やら建造物やらをぶっ壊しまくるから、一緒に遊んで力の制御を教えろってさ」

「むむむ!」


 今思えば、偉そうな奴だった。

 左腕が疼くとか第三の眼が開くとか、戦隊ヒーローのピンクが恥ずかしがらないからけしからんとか、よく言いおってな。

 頭に来たからピンクの心意気を語っておったら何故か喧嘩になり、気づけば余は奴にスカートをめくられていた。


「いい加減反省しろよ。力を制御できない未熟者め。そんなんじゃ、えいごーに俺に勝てないぞっ。この猫パンツ主義者め!」


「な、な、な、なにぉぉぉ! ええい、めくり返しだっ」


「ちょ、おまっ」


「きしゃまこそ真っ白おこしゃまパンツではないか。自らをかえりみよっ」


「う、煩い! 今度はユニックロンで色つきの買って貰うんだよ!」


 そうして、余とドロップは半泣きで殴り合い、何時しかライバル<好敵手>になったわけだ。

 戦いはいつも母が居なくなったのを合図に行われ、我等は幾度と無く争った。


 ピンクは淫乱パンツ要因ではないと。

 いいや、ビッチだと。

 イエローが女になれば、やっぱりカレー好きなのかとか。

 孤高のレディライダーはいつ現れるのだ、という魂の咆哮。

 また或いは、シマシマパンツは邪道で、ノーマルな純白こそ至高だと。


 とにかく、我等の主張はよく食い違い、徹底的に戦って戦って戦い抜いた。

 だが、そんな輝ける日々にも終わりはやってきた。


 忘れもしない。

 完璧に力の制御を覚えたあの日、余裕が無くなった奴は、追い詰めた余に対して一世一代の勝負を持ちかけたのだ。


「くっ、次の一撃で最後にしよう。負けたほうが勝った奴の願いを一つ叶える。どうだ、受けるか猫パンツ」


「よかろう。ならば勝ってきしゃまを返り討ちにし、一生猫パンツを崇める子分にしてやるぞ!」


「なら、俺が勝ったらお前を前世からの約定に従って嫁に貰ってやる。この今にも燃えそうな慟哭の左手、沈めるための包帯にしてやるぜ!」


 そうして、最後の一撃を放ったところで余は意識を失った。




「そんな、信じられません。子供時代でも最強の物理チートが敗北するだなんて!?」


「気がつけば母が余に膝枕していて、ドロップはいなくなっていたよ。ふっ、あの日から余はドロップの者だという事だな」 


 そう締めくくる姫様は、柄にも無いことを言ったとだけ言い腕立て止めた。

 すかさず俺はお茶の用意に入る。


「しかし、今思えばアレこそが余の趣味嗜好に多大な変化を与えた一因と言えような。ふっ、若き日のこととはいえ、昔語りは存外に恥ずかしいものだ」


「でも、それならご両親に尋ねればいいのでは?」


「それがな、尋ねたがそんな子は知らんというのだ。恐らく、奴はあの山に遊びに来ていただけの女の子だな。近くに秘密基地があるとか言っていたぞ」


「チート持ちの女ドロップ……一体何者なんでしょうか」


「分からん。だが、奴を嫁にしないなど余は考えられんよ」


 決意は固いようだ。 

 俺は湯を沸かすために席を立つと、給湯室で天を仰ぐ。


「ねぇねぇお兄ちゃん」


 と、そこでお菓子を取りに来た妹が耳元で言った。


「兄貴、負けたから子分になったんじゃなかったんだな」


「いや、俺は負けたと思ってたんだ。気絶して母上に回収されてたからてっきり……」


 なんてことだ、相打ちだったのか。

 約束通り、再開してすぐに軍門に降り、好きでもないバックプリントを無理矢理に崇めてきたが、こんな衝撃的事実があったとはな。


 ええい、ようやくイチゴを卒業して猫の良さが分かってきたというのにこれか!

 俺のこれまでの人生は一体なんだったんだ!?


「ていうか、ドロップって何?」


「ふっ。時の一滴。時元を切り裂く裂光魔ドロップ。前世の俺の名だ」


 それは、ソウルフルネームという奴だった。

 魔法使いが一度は掛かる病の名残りであり、コンセントレーションするための瞑想中に悟ってしまう職業病でもあった。


「ドロップは、決意で焼かれた左腕と一緒に封印されたからもういない。二度と現世には光臨しない存在だ。この世界は、奴が生きるには眩しすぎるんだよ」


「そんな……ダメだ兄貴。封印を解こうぜ。そして我が軍門に――」


「ダメだ」


「馬鹿な、宇宙的損害だよ! 天界からお迎えが来ちゃうぐらいの惨事だよ!」


 所詮は昔の古傷だ。

 奴を現代に呼び起こしても意味は無い。

 第一、TS薬がなければドロップは現れられんのだ。

 一月もしない間に俺は遊び相手として紹介されたからな。

 それでもバレなかったのはドロップ<女子>ではなくドラッグ<男子>だったからだ。

 そう、だから。


「ドロップはもういない。忘れろ、彼女のためを思うならもう静かスリーピンさせてやってくれ」


「そんな、そんなことって……」


 絶望的な表情を浮かべる妹の頭の中で、一体どんな厨二ストーリーが展開されているのだろう。

 気にはなるが、俺はすぐにお茶を運ぶべく部屋に戻ろうとする。

 と、そこで何故かドアノブが開いているのに気づいた。

 その小さな隙間のその向こうで、何故かこちらをガン見している目があった。


「ひ、姫様……」


「あ、ボクもいますよー」


「えと、紅茶ならここに」


「お前、今妙な話しをしていなかったか?」


「き、気のせいではないでしょうか」


「馬鹿者、余の耳は物理チートのちょっとした応用で地獄耳なのだぞっ!」


 言うや否や、姫様はドアを開け放ち俺の襟首を掴む。


「言え、奴は……ドロップは本当に貴様の左腕に封印されているのか!?」 


……は?

 え、もしかして中途半端にしか聞いてないのでせうか?


「そういえば、ドラッグ君はこの魔法学園の成績上位者でしたねぇ」


 イケメン王子が、ワクワク顔で俺を見ている。

 それを聞き、姫様が行動開始。


「命令だドラッグ。今すぐドロップを解放しろ」


「ちょ、姫様落ち着いてください」


「これが落ち着いていられるか! 奴との約束のためにも、私は常にドノーマルな白パンで過ごしてきたのだぞ! ちゃんと上も合わせたというのになんということだ」


 い、いかん。

 制服の上着が怒りで千切れそうだ。

 姫様がチートちーとちからを解放しかけている。


「ドロップを解放しろドラッグ。さもなければ――」


「さ、さもなければなんなんですか」


「お前の左腕をもぎ取り、国立魔法研究所に向かう。一秒でも早くドロップを助け出すのだ」


「ッ――そんな、子分よりも昔ちょっと遊んだだけの女の子を取ると言うのですか!」


「当たり前だ! 貴様は男だろうが。優先度に天と地ほどの差があるわっ!」


「姫様ぁ……」


「すまんクリック。しばらくは目を瞑り耳を塞いでいろ。ここから先はR15指定の残酷描写路線だ。良い子は見てはいけない」


 涙を浮かべるクリックでも止まらないとは。

 片手で宙吊りにした俺を、給湯室の外へ運んでドアを閉める。


「お兄ちゃん!? お兄ちゃん逃げてっ!」


 クリックがあけようとするが、イケメン王子がドアを押さえた。


「姫様、今のうちです! ドロップさんを解放し、政略結婚の破棄を!」 


「ふふふ、今日は良い、良い天気だ。空を飛ぶには最高の日だぞドラッグ」


「ま、まさか――」


 姫様窓を開ける。

 そうして、上履きのままに部室の外へと跳躍。学園の遥か上空へと飛翔した。

 俺は、紅茶が乗ったトレーを部室に転移させながら苦渋の表情を浮かべる。

 何故だ、何故こんなことに!?


「はーっはっはっは! さすが我が君を封印した男よ。一瞬で成層圏まで上がって来たというのに意識を保っていられるとはな」


「何故ですか、何故こんな高空に!」


「決まっているだろう。地上では被害が大きすぎるからだ。左腕をもぎ取るついでに、ドロップの仇を討ってやる」


 十数メートル程度の距離に投げられた俺は、風魔法と飛行魔法と強化魔法その他諸々のちょっとした応用で体制を整える。

 対峙する姫様はといえば、物理を無視するチート力を駆使し、空に突っ立っていた。

 相変わらず気合でどうとでもするなんて、存在そのものが科学を否定するようなお方だ。


「さぁ、構えろ」


 言うなり、姫様は自らも右腕を引いて戦闘態勢に入った。

 見たことがある構えだ。

 あれは、まさか千年紀に落ちてくると予言されていた巨大隕石<命名 恐怖の女王>を跡形も無く消し飛ばした隕石砕き<メテオブレイカー>の構え!?


「――ドラッグよ。余は間違っていたようだ。男で唯一見込みのある奴だと思っていたが、それも今日までだ。最後にもう一度だけ問おう。真に余に忠誠を誓っているのであれば、ドロップを解放しろ」


「……できません。姫様俺は……俺は……」


 いっそ、正体を明かそうかと迷う。

 しかし、今怒り狂った状態の姫様が信じてくださるだろうか?


「そうか。では、貴様との付き合いも今日までだな。やはり男など信用できん生き物か」


「待っ――」


 そうして、姫様は躊躇無くチートでゴイスーなパンチを放った。

 喰らったら勿論、タダではすまない。

 俺は、反射的に無詠唱転移を発動して逃げた。




 姫様は追撃の手を緩めはしなかった。

 指名手配はもとより、賞金まで俺の左腕にかけたのだ。

 ちなみに、左手さえ無事なら生死は問わないそうだ。


 おかげでこの二日間逃げ惑うしかなかった。

 こんなこともあろうかと速攻で家で準備し、貯金を下ろして現金を手に入れていたので助かったが、街角のテレビで母と妹が涙ながらに自首を進める映像を見てしまうと余計に帰る気が失せてしまった。二人とも目がお金目当てだって顔に書いてたからな。


 帽子とサングラスで変装した俺は、野宿用の物資をホームセンターで小分けにして買いあさり、食料も買って絶対安全な場所へと避難していた。


「マジフォンのGPS機能は切ってるし、ここは当分人が来ない。ここならきっと……」


 ここは、ドロップだった頃の俺が王家の山にひっそりと作った秘密基地だ。

 山の斜面に穴を空けて作っただけのものだが、歴代のチート王家の方々が同じようなのを作っているので、一つぐらい増えても気づかれる心配はない。

 餓鬼の頃はここを拠点に、世界征服の計画を立てていたものだ。それが安全地帯になるとはな。人生とは分からないものだ。


「今となっては、何もかもが懐かしい」


 石作りの釜戸の上にポットを載せ、湯を沸かす。

 そうして、一人虚しくカップ麺を食べていると不意に奥から一人の老人が数冊のグラビア雑誌を片手に現れた。


「我が系譜よ、こんなところで何をしておる」


「大ジジ様、何故ここに!?」


 伝説の魔法薬使い様は、俺の問いには答えずに一冊のグラビア誌を投げてきた。

 受け止め、言われるがままにページをめくるとあられもない姿のシマパン女性が目に入る。


「……俺は純白のスタンダード派ですが」


「ふっ若いのう。だが、お前は基本なんでもイケる口じゃ。ワシの眼は誤魔化せんぞ」


 鋭い眼光は、俺の全てを見透かしたかのようにパンツ性癖を暴き出す。

 その眼力に気圧された俺は、不覚にもゲロってしまった。


「う、それは……はい。ですが、バックプリントはまだ完全には許せておりません」


「それで良い。バックプリントは魔法系チート保持者にとって大敵だからの」


 何せ絵柄が邪魔だ。

 ただの色なら魔法の邪魔にはならないが、複雑な図形は繊細な魔法制御をダメにしてしまう。その日のパンツの柄で負けた魔法使いの話しなど、掃いて捨てるほどにあるのだ。

 故にこの業界で長く生きていくなら、バックプリントなどの華美な装飾パンツの存在を認めてはならない。

「しかし、随分と弱体化したのう。お主の『無限魔力チート』が泣いておるぞ」


「っ……」


「まぁよい。恋心に殉じたお主を、ワシは否定はせんよ」


「大ジジ様……」


 嫌に優しい目でご先祖様が励ましてくださる。

 視線の先に雑誌のグラビア誌がなければ、素直にリスペクトしたいほどだ。


「しかし、このまま逃げ続けても碌なことにならんぞ」


 言いながら、自分のマジフォンでニュースの音声をお流しになる。


『えー、こちら教会です。既に明日に迫った電撃結婚会場ですが、着々と準備が進んでいるようです。あっと、今なんでしょうか。爆発? え、テロですか!?』


 現地のキャスターが焦った声でレポートしている。

 これは、どうやら三時間前の映像か。


「心せよ。アンチート秘密結社が再び暗躍しておるようじゃ」


「そんな、アレはもう解体されたはずでは!?」


 奴らは生まれながらのチート技能者を『先天的卑怯者』と呼び、その排除に命を掛けた人々だ。

 国の垣根を越えた無チートの輪で、チート人員保有国に何百年もテロってきたカルト集団。しかし、リアルチート王国と同じくチート保有国による合同捜査によって壊滅したはず。


「奴らは死んだ振りをして、地下で力を蓄えていたのだ。噂では、魔法チートを弱体化させるために下着メーカーとタイアップし、キャラモノのバックプリントを痛パンツとして広める計画を推進しているらしい。コミケでも既に、レイヤーの一つの選択肢とされているようじゃ」


「なんてことだ、このままでは世界がバックプリントで埋め尽くされてしまう!?」


「そして去年。リアルチート王国を直撃するはずだった恐怖の女王も、奴らの儀式魔法によるものだと結論付けられた。公にはされていないがな」


「あの規模の隕石を制御するなど、無チートたちでは無理でしょう!?」


「どうやら、チート保持者に裏切り者がおるようじゃ」


 つまり、チートを持ってチートを制するつもりなのか。

 考えたものだ。

 チート同士でぶつかればどちらにしろチート持ちが一人減るのだから、奴らにとっては都合が良い。


「今にして思えば、アレで姫様のチート力を測っていたのやもしれぬな」


「しかし、そんな大事な話しを何故俺に」


「ニュースの通り、此度の標的にリアルチート王家が選ばれたからじゃ」


「物理チートは世界最強のチート能力なんですよ。そんなことは不可能で……いや」


「そう、別に不可能ではない。少なくとも相打ちにまでは持っていけることをお前がドロップとして証明してしまっている」


「では相手は」


「無限魔力チートの可能性がある」


「で、ですがあのチートは魔法使いとして優れていなければ無意味です!」


 如何に魔力が無限にあろうとも、その魔力を制御できなければ意味が無い。

 それが無限魔力チートの限界なのだ。

 姫様のような気合でどうとでも制限を無視する物理チートには、何れは届かなくなる程度の力しかないはずだが。


「そう、普通は使い物にならん。しかし、奴は違う。あのバックプリントの小悪魔は、魔法使いの弱点さえも克服してのけた天才じゃ」


 なんてこった。

 そんな奴に姫様は狙われているというのか。


「よもや魔法使いでバックプリントとは思わなかったからな。さっきの現場にはワシもおってな。奴の背後を取り、勝利を確信したワシだったが、突然の視線誘導の果てに不意を突かれてしもうたわい。おまけに姫様のために用意していたTS薬まで掠め取られてしもうた。クマだ、クマに気をつけよ。猫などと比べ物にならんほどに我等の魔法を阻害してくるぞ!」


「クマパンツの小悪魔ってことですか。得意の魔法は?」


「分からん。根本的に体系からして既存のそれとは違う。オリジナルを生み出したのだろうが、そのせいで正体が分からん。おまけに魔法少女のコスプレをしておって判別ができんかった。ただ、背格好からすると年はお前さんよりもずっと若い。そのせいかまだ経験不足に見えた。じゃがあれは化けるぞ。早いうちに無力化してしまわなければSSS級のチート技能者たちでさえ危険だ。そこで、お主の力を借りたい」


「俺の? ですが俺は……」


「お前しかダメなのだ。同じチートを持ち、物理チートと引き分けられるレベルの力を行使できるお前でなければのう。仮に、姫様や王家の物理チートがぶつかって万が一のことがあれば、この王家の圧倒的チートパワーで守られてきたこの国の面子が危うい。いや、世界のパワーバランスが崩れ去る危機といっても過言ではない。後は、言わずとも分かるじゃろう?」


 なんてことだ。

 クマパンツ一人裏切った程度で、世界が暗黒時代を迎えるというのか。


「……分かりました。なんとかやってみます」


「うむ。それと、一応はこれを預けておくぞ」


 懐から取り出した二つの小瓶。

 そのラベルにはTSの文字がある。


「これは……TS薬!? 一体何故それを俺に」


「お前さん、指名手配されておるじゃろ。ちょっとやそっとの変装では気づかれる。じゃが、女になっていれば別だ。誰も今のお前の女姿など知らんからな」


「な、なるほど……」


 変身用と元に戻る用の二つを受け取る。


「一応、それらしい服も用意しておいた。適当に好きなのを選べ」


 亜空間に仕舞っていたダンボールをいくつか取り出し、大ジジ様は言った。


「安心せい。ちゃんと素材にこだわったシマパンを各色きちんとそろえてある」


「それは結構です」


 この変装に細部まで拘る必要などない!





 無難にTシャツとデニムにした俺は、どこかがさつな少女姿であった。

 背はそこそこ、まぁ女子の平均だろう。

 俺は、鬱陶しい黒髪ロングを纏めたシュシュを弄りながら大ジジ様に尋ねる。


「何故、結婚式をコハマ競技場で?」


「ここなら観客を守るための流れ弾を防止する障壁発生装置が使える。元々、あの教会にもあったが、出力が小さすぎたからのう」


 おかげで、会場設営のために結婚式が一日だけ伸びた。

 中止や延期も考えられたが、国の面子のためにもやるのだそうだ。

 そうして、式の開始時刻が迫ってきた。


 姫様にはこれから、ジジ様がTS薬を二本渡しに向かうそうだ。向こうが一本使おうが、これなら対応できる。

 嫁役はクリックがやるようで、男装して執事服を着ているとか。

 まぁ、他に姫様が巻き込めそうな人もいないし無難な選択だな。

 兄として、また初恋の姫様のその決断には思うところはある。でも、あの方はもう一の子分ドラッグなど眼中に無いだろう。ならば、初めから実らぬ恋だったのだ。


 だが、それでも。

 姫様の威厳と門出ぐらいは最後に守らせてもらおうか。


「よし、それではクリックのスカートの中に転移してくるわい」


「気をつけてください。姫様の趣味に合わせて最近はバックプリントにしてますから」


「馬鹿な、姫のためとはいえ遠い孫がそんな苦行を!?」


 血涙を流しながら、大ジジ様は転移なされた。

 いかん、これでは魔法薬による助力を期待するのは無理かもしれん。

 俺は当たり前のように唇を噛んだ。

 何せチート持ちはパンツの拘りが半端ではない。

 魔法が魔力を消費して行使されるように、チート力は好みの相手のパンツ性癖を犠牲にしてなされているという不可思議な法則が発見されている。


 ご先祖様はシマパン派だ。

 そして魔法薬チートの使い手ではあるが、熟練の魔法使いでもある。

 バックプリントは二重の意味で天敵なのだ。


「それに、この観客保護用の障壁も厄介だ」


 魔法競技用のアリーナである以上、その強度はそれなりに高い。

 この障壁、俺からすれば中途半端な上に邪魔だ。

 これでは姫様を直接襲われたとき、カバーに入るために穴を開けなければならない。

 つまり、一工程費やすわけだ。

 一瞬が命取りになるようなチート戦において、このラグが恐ろしい。

 無事に終ってくれれば良いのだが。




 数分後、盛大な演奏と共に式が始まった。

 大ジジ様は、今回はできる限り裏方に回る方針だそうだ。

 一応、俺の撤退ルートの確保と一般市民の安全確保に回ってくださるのだとか。


「だ、大丈夫ですか?」


「くっ、恐ろしい威力だ。だからシマパンにしろと毎年誕生日に贈ってやっているのに」


 それ、孫に対するセクハラじゃないですかね。

 血涙流しながら言われてもキモい気がする。


「一枚百万チートはするのに……何故じゃ!?」


「俺に聞かれても分かりません。乙女心は複雑なのでしょう」


 高価だろうと高貴だろうとパンツだからな。他人の選んだものは早々受け付けまい。

 無難に愚痴をかわしていると、慣例どおりに新郎が先に入場してきた。


 そして、王子の国の国歌『顔面偏差値の嘆き』が流れる。

 初めて聞いたが、変えられない運命に対する絶望感を嫌というほど味わえる曲だ。

 感覚席からは悲哀に同調しすぎて泣いている者まで居た。

 さすが、世界三大非曲に数えられるだけのことはある。


「おお、艶やかな」


 それが終れば、遂に姫様が新郎姿でやって来た。

 流れる音楽は当然のように我が国の国歌である『チート世代への憂鬱』だ。

 偶々運で手に入れたようなチート能力程度で驕り高ぶるなという教訓が込められた歌だ。


「驕るチートは久しからずやじゃ。忘れるでないぞドラッグ」


「はい」


 堂々と歩く姫様の左手には執事服を着たクリックが居る。

 昨夜の特番の影響もあり、伝統が行使されることがこれで民衆にも確定した。

 ふと、姫様が静止なされる。

 アリーナ内の中継テレビは、そこで姫様が掲げる魔法薬の瓶をアップにした。

 次々とカメラのフラッシュが焚かれるなかで、遂に姫様がTS薬を飲み干していく。

 一気飲みだ。

 下手な男より男らしくグビグビと飲み干しなさる。

 しかし、数秒経ってもも変化が訪れない。


「馬鹿などういうことだ!?」


 隣で、大ジジ様が狼狽した。

 TSしない……だと!?

 アップされたテレビが、姫様のトランスセクシャル<性転換>の瞬間を捉えようとしていただけに、観客席からもざわめきが起こる。

 姫様の顔も驚愕に彩られ、本気で驚いておられるのがここからでも良く分かった。


「いかん、詰んでしもうた」


 姫様がもう一本を取り出して飲む。

 それでクリックを嫁にしてごり押す気だろう。

 しかし、それでも変化が無かった。


「ありえん……ワシが直接調合したのだぞ!? 二本とも調合ミスなど――」


「擦りかえられたのでしょうか?」


「どうやってじゃ。今しがた渡してきたんじゃぞ」


「つ、追加を届けるのはどうです。予備ぐらいはあるでしょう」


 今からでも届ければいい。

 大ジジ様が無理なら、俺が障壁をぶち抜いて届ければそれでなんとかなるだろう。


「予備はこれ一つしかない。家に取りに帰らなければないぞ」


「俺の分が一つあります。それで二本。なんとか、筋書きを戻しします」


 受け取り、念のため魔法で亜空間に仕舞いこむ。

 そうして、飛び込もうとした刹那の瞬間。

 アリーナの内部が突如として爆発した。


「くっ」


 爆音と同時に舞い上がった粉塵。

 結界の向こうの様子に、観衆が一斉に言葉を失った。

 沈黙は次の瞬間には動揺へと変わり、当たり前のように喧騒を爆発させた。


「くっ、結界内部に莫大な魔力反応! ついでに外部からもかなりの魔法使いがきたようです。外は任せますっ」


「こら早まるでないっ」


 我慢できなくなった俺は、チートを解放して魔法を行使。

 結界をぶち抜いて競技場へと侵入した。




 全ては一瞬であった。

 中に飛び込んだ俺は、邪魔な粉塵を風魔法で上空へと吹き飛ばす。

 そうして、見てしまった。


 あの無敵なはずの姫様が、蝶を模した仮面を被った小学生ぐらいの少女に足蹴にされているところを。

 しかし、本当に魔法少女っぽいコスプレだ。

 純白な翼にヒラヒラの衣装。

 無駄に似合っているところが許せないぜ。


「ば、馬鹿な……」


 高僧でもある神父様はカツラを吹き飛ばされて気絶し、選りすぐった近衛騎士隊まで全滅。そして、イケメン王子はドサクサに紛れてTSし、寝たふりを決め込んだ。

 俺は咄嗟に転移魔法で蹴り飛ばされた姫様の後ろに回って受け止める。

 くっ、凄まじい衝撃だ。

 あと少しで結界に衝突するところだった。


「信じられん。この私が、数撃でこれほどのダメージを受けるとは……」


 肩で息をしながら、姫様は闘士を奮い立たせる。

 まだ、やる気なのか。


「お下がり下さい姫様。後は俺がやります」


「……貴様、その出で立ち。民間人ではないのか」


「覆面騎士です。会場警護をしておりました」


 咄嗟に嘘をついて切り抜ける。


「ふっ。だとしても、余が敵わぬ者に戦えるわけがあるまい」


 いいから撤退しろと、俺の体を押しのけようとする姫様。

 俺は、首を振るうともう一度転移。

 魔法少女がラブリーな杖から放った魔力砲をかわす。

 放たれた桃色の閃光は容赦なく結界を突き破り、コハマ競技場の上空へと抜けていく。


「調子に乗るなよバックプリント<クマパンユーザー>」


 奴の背後に転移した俺は、姫様の手を離して奴の背に魔法を励起させた手を押し当てる。


「――やるね。俺様の魔法は常人では反応できない速度のはずだが」


「降伏しろ。あの程度なら俺の方がまだ早い」


「くーっくっくっく」


 後ろを取られたというのに、奴は余裕で笑う。

 業を煮やした俺は、零距離で魔力砲をぶっ放そうとしたがそれを察してか奴が名乗った。


「我は可憐にして無敵なマジック天使メテオ。恐怖の女王さえもひれ伏した、悠久の眠りから目覚めたこの星の旧支配者よ」


 こいつ、完全にトランスしてやがる!?

 厨二病設定を心底受け入れることで、魔法力をチートブーストしているのだ。

 なんて痛々しさだ。

 だが、それでも捕縛しないわけにはいかない。


「……もう一度だけ言う。降伏しろ」


「断る。世界がクマパンツを認めるまで、我は抗い続ける覚悟があるのだからっ」


 はた迷惑な信念を語ったかと思えば、いきなり目の前から消えうせるマジック天使。

 く、転移の瞬間が感知できない。

 やはり、大ジジ様が言うように術式が既存のそれとは違いすぎるのかっ。


「ええい、どこに消えた!?」


 反射的に姫様が駆け寄り、俺と背中合わせになって奴を探す。


「くくく、どこを見ている」


「なにっ」


「上か!?」


 二人揃って見上げれば、奴はステッキを空に掲げて巨大な魔力の塊を展開していた。

 し、信じられん。

 あの大きさで、一秒を当然に切ってくるこの展開速度。

 ドーム一個分ぐらいはあるんじゃないかと思わせるほどに巨大なそれは、空を覆う程だぜ。

 問題はそれが内包するエネルギーか。

 感知できるチート力は、余りにも絶大。

 そのスケールには、姫様共々冷や汗を流すしかなかった。


「いかん、これはかわせん」


 避けたら競技場は元より、リアルチート王国が吹き飛ぶ。


「受け止めるか消し飛ばすしか、ない――」


 メテオブレイカーの構えを取る姫様に併せて、俺もまた魔力を限界一杯まで練り上げる。


「こちらからも言おう。大人しく降伏し、我が軍門に降れ。そしてクマパンツを愛用するんら許してやろう」


「断る!」


「……いいのか? 物理チートで守られたお前はともかく、それ以外は根こそぎ吹き飛ぶことになるぞ」

「ふっ。その威力で放てば星が砕ける。お前には撃てまい」


「くくく、何を言っている。砕けたら作り直せば良いだけよ」


「狂ってやがる……」


 クマパンツの布教のためだけに星を砕くというのか。

 会話の間に魔力を命一杯溜めているが……これだけでは到底足りない。

 やはり、今の俺では……。


「ふむ。いや、待て。条件次第では引いてやろう」


「なに?」


「我にとって、この星よりも価値があるものがある。それを寄越すのであれば、手を引いてやっても良い」


「マジック天使、話しが違うぞ!?」


 観客席から拡声器で怒鳴るアンチートらしき者の声。

 一般人を避難誘導させるために外ではチート保持者が奮闘しているようだが、まだ五分五分の様子だ。


「知らんな。選ばれし力を持たぬ者との約束など、俺様が守る義理もない」


「お、おのれぇぇぇ!?」


 歯軋りするその男は、目だったせいですぐに捕まってしょっ引かれていく。

 しかしどういうことだ。

 こいつはアンチートに協力する奴だったはずなのに。


「チートプリンセスよ。貴様の子分を我に寄越せ」


「何故そこでドラッグが出てくる!」


「奴は前世で結ばれることが無かった我の番いよ。我の空虚な心を慰められる唯一の男。欲しいと思っても不思議ではあるまい」


「そうか。よし、いいぞ持っていけ」


「そんなあっさりと!?」


「ふん。奴はもう余の敵なのだ。ただし、左腕だけは余に渡せそれが条件だ」


「くーっくっくっく。所詮、貴様のドロップへの愛などその程度か」


「な、なんだと!? 貴様がドロップの何を知っているのだ!」


 いや、ほとんど何も知らないでしょう姫様。

 突っ込みたいが、せっかく平和裏に話しがまとまりかけているそれを水を指すことができない。


「それが分からんから貴様は我に勝てぬのだ」


 馬鹿な、あんな大魔法を維持しながら転移する余裕があるだと!?

 驚愕した俺の前に現れた奴は、無様にも隙を晒した俺の口に瓶を突っ込んだ。


「げふっ。な、何を飲ませ――」


 一瞬、俺の体を光が包み俺は男の姿にTSさせられてしまう。

 助かった、ゆったり系の服を着てなかったら大惨事になっていたぜ。


「おおドラッグ、なんだそこに居たのか。よし、左腕以外をもっていけ」


「では貰っていくぞ。――時の一滴、裂光魔ドロップの正体、ドラッグを!」


「なぁにぃっ!?」


「ぐふぁっ」


 それは、一瞬の出来事であった。

 全身に痛みが走ったかと思えば、俺はマジック天使に担がれていた。

 何が起こったかわからないほどの圧倒的速度。

 く、強さの次元が違う。

 くそったれ、体が動かない。


「アレだけ側にいて気づかなかったのか? ドロップはその男がTSしていた仮初の姿に過ぎんというのに」


「そんな馬鹿な……」


「左腕に封印など無いのだ。ドラッグはお前と相打ちになったあの日からずっと、子分となって約束を守っていた。約束どおり毎日泣きながら猫パンツを家で崇めて、な」


「嘘だ……嘘だろうドラッグ。て、敵の言うことなど余は信じないぞ!」


 姫様が悲痛な顔で否定なさるも、俺は何も言えなかった。

 遂に、バレてしまった。

 墓の下に持っていくべき秘密が。


 しかも公共の電波に乗せられた。

 もう、俺はこの国では表通りを歩けない体になってしまったのだ。

 お先が真っ暗とはこのことか。

 就職活動をしても、きっと俺は『猫パンツを崇めるような人は』と失笑と共に不採用にされてしまうのだ。


 人生、終った。

 などと思っている間も、二人の会話は続く。


「ならばお前の母に聞けばよい。未熟なお前を、一体誰が相手をしていたのかを」


「は、母上に、だと?」


 縋るように来賓席を見上げる姫様に、拡声器を盛った王妃様は答えた。


「娘よ、そやつの言う通りです」


「あ、嗚呼……嘘だと言ってよ母上……」


「私はドラッグに貴女の制御習得までの相手を依頼しました。しかし、彼は女を殴る男は格好悪いから嫌だと駄々を捏ねたのです。ですのでTS薬を使わせました。ドロップはドラッグなのです」


「……そうか。そう、だったのか。だから、あの時お前は余を嫁にと……」


「――では、約束どおりお前がイラナイと言ったドラッグは貰っていく。これで、これで前世では敵わなかった願いが叶う。ドラッグ、必ず幸せにするぞ。我が禁断の愛で!」


「う、う、うわぁぁぁぁぁ――」


 姫様が感情を爆発させる。


「させん、絶対にさせんぞマジック天使ぃぃ!!!」


 咆哮と共に飛び出し、マジック天使に襲い掛かる姫様。

 星を素手で割りかねない程のチートパンチの連打。

 しかし、その剛撃さえも奴の張った魔法障壁で全て防がれてしまう。


「ありえない……」


 何故、こんなにも姫様のチート力が通じないのだ。

 弱体化し、力を満足に振るえない俺ならば分かる。

 しかし、姫様は違うんだぞ。


「俺様の編み出したメルヘンマジックは、物理チートに極めて近い特性を持っている。そして奴の力は気合に左右されるが有限だ。だが無限魔力チートを持ち、魔法チートさえも持つ我の出力は無限である。初めから勝負は着いている」


 なんてことだ。

 姫様のKIAIが通じないというのか。

 というか、ダブルチートなんて、伝説のスーパーチート人の末裔じゃないか!?


「おのれ、おのれおのれぇぇぇ。何故だ、何故砕けない。余のドロップが、ドロップが目の前に居るというのに」


 拳から血を流しながら姫様が慟哭する。

 それを哀れむように、奴は言う。


「だから言っているだろう。貴様には愛が足りないと」


「ッ――」


「性別が変わった程度で嫌うようなものは真実の愛ではない。恋愛ごっこがしたければ他所でやれ。可愛いは正義など手緩いわっ。もっと堂々と、愛しているから正義だと赤裸々に公言してみせよ。そうすれば、その拳も少しは届いただろうに――」


 ステッキを一閃。

 ただの一振りで、姫様の華奢な体を客席の障壁にまで吹き飛ばす。


「姫様っ――」


 障壁をつきぬけ、観客の居ない客席に突っ込んだ姫様はしかし、諦めない。

 タキシードをボロボロにしたままで突っ込んでくる。


「ハネムーンに着いて来られても面倒だ。これでお仕舞いにしよう」


 転移し頭上に浮かべたままだった魔力の上に移動するマジック天使。


「ふっ、避ければ王国が吹き飛ぶぞ。受け止めながら愚かな自分を呪うがいい!」


 そうして、奴は極大のそれを競技場へと落とした。


 落ちていく。

 落ちていく。

 ゆっくりと、まるで見せ付けるように。


 観客の悲鳴が聞える。

 降り注ぐ絶望の光。

 ピンクの光が、会場を染めて飲み込もうとする。


「余を、余を舐めるなぁぁぁ!!」


 光が競技場の上で止まる。

 だが、それも一瞬。

 姫様の抵抗を嘲笑うかのように、すぐさま動き始めてしまう。


「ふざ、けるなっ――」


 俺は何を呆けているんだ。

 ダメージがでかいからどうした。

 このままでは姫様が王国と共に消えてなくなってしまうんだぞっ。


 体が動かないからどうした。

 俺は無限魔力チートの魔法使い。

 魔力さえ使えれば、魔法さえ使えれば体などどうとでもなるだろう!


「無駄な抵抗をするなドラッグ。魔法使いとして死に体のお前では何もできんよ」


「まだだ、俺はまだやれる。何故なら俺は。俺は――」


 痛みに震える左腕持ち上げ、亜空間にしまったTS薬を一本飲み干す。

 そして、すぐさまTSし、封印したはずのあの名を告げる。


「――時の一滴。時元を切り裂く裂光魔ドロップだっ」


 記憶をこじ開け、設定を思い返す。

 前世、嫁、ライバル、能力、ダークでシリアスでコメディな世界観。

 昔に忘れ去ったはずのそれを、無理矢理に想起する。

 感染開始。


「開け時視の瞳。慟哭に泣け我が左腕<かいな>よ!!」


 存在しない第三の眼が開眼し、左腕が懐かしき痛みに震える。

 待たせたな相棒。

 もう一度だけ、力を貸してくれ。


「馬鹿なっ、あれだけ弱っていたチート力がっ――」


 痛い。

 視線が。

 心が。

 公共の電波で垂れ流されるこの恐怖が。


 終った、俺の人生。

 後で一緒に体育座りでもして、砂浜で泣こうぜ。


 でも、今は。

 そう、今は。


 先にやることがあるからちょっと待っていてくれ。


 無詠唱転移。

 両手を掲げて淫乱ピンクの魔弾に挑む姫様に、前世の約定に従いて馳せ参じる。


「――なんだ、その程度でへばってるのか猫パンツ」


「き、貴様……その姿は!?」


「ふっ。性別なんかどうでもいい。それに、今の俺はドラッグじゃあない間違えるな」


「……ええい、格好をつけるなドロップ。目の前が滲むだろうが」


 左腕を突き出し、猫パンツの背に乗せる。


「俺との特訓、覚えているな。併せ技で行くぞ」


「ぐす。当たり前だ。余は一日たりとて忘れてなどいない!」


「オーケイ。なら、反撃と行こうぜっ!」


 左手が無尽蔵にくみ出した魔力を使い、魔法で猫パンツの身体能力を強化魔法をかける。


 昔、俺達は力の制御特訓をした。

 もっとも、この猫パンツに必要だったのは手加減の仕方だ。

 チート制御はその後で、基礎は徹底しようとして挑んだ手加減練習のその合間に逆に強化して遊んだことがあった。

 俺はそこでの発見で前世を明確にし、猫パンツはあろうことか無意識的にチートを使ってとんでもないチート力の使い方を会得したのだ。


「来る、入ってくる。ドロップの力が余の中に!」


 虚空で両足を踏ん張り、ピンクの魔弾を少しずつ押し返していく猫パンツ。

 当然だ。

 人間として扱えるチート許容量を、彼女は俺のチート魔力を燃料に無限大にまで何故か跳ね上げたのだから。


「これで勝つる!」


 一瞬だけ押し返し、その隙に構えて彼女はそれを放つ。


「必殺、十倍返しの隕石返脚撃<リバース・ホワイトデー・キィィィック>!!」


「な、なにぃぃ!?」


 ピンクの魔弾が、チートキックにより跳ね返される。

 当然、それは当たり前のように真上に居たマジック天使を飲み込んで上がっていく。

 姫様の物理チートで威力十倍に跳ね上がったそれだ。

 これなら奴とて無事では済むまい。


「お、覚えてろー、俺様は絶対にいつか禁断の愛をぉぉぉぉ――」


 ドップラー効果を残し、奴は流れ星となった。

 俺達は勝った(笑)。




「終ったなドロップ」


「ああ、終ったな」


 俺の人生が。

 懐から取り出した最後の小瓶の蓋を開けて飲み干し、ドロップを封印する。

 途端に、さっきまで溢れていた懐かしきチート力が掻き消えてしまう。


「ドラッグ……本当に、お前がドロップだったのだな。あれはドロップだけにしかできない技だ。今まですまない。余は、余はあんなにも近くに居ながら……」


「お兄ちゃーん。姫様ぁぁー」


 妙にボロボロになった執事服姿で、クリックが観客席で手を振るっている。

 それに手を振り替えし、俺は姫様に背を向けた。


「さよならです姫様」


「な、何を言う」


「俺はもう、賞金首なのですよ」


「ば、馬鹿者。それぐらい取り消せばいい!」


「姫様は政略結婚をぶち壊すためにクリックを娶るのです。俺などに用はないはずで――ぐふぇっ」


 振り向かされたところに、問答無用の腹パンであった。

 チート力をほとんど失っている俺は、当たり前のように意識が刈り取られてしまう。


「戯けたことを抜かすな。約束だ。余はお前の嫁になろう。白パンツの責任を取れ」


 薄れ行く意識の中で、俺は姫様の優しげな声を聞いた。



 

 かくして、つつがなく結婚式は続けられたそうな。

 気絶していた俺はその時のことを覚えては居ないが、妹が録画していた記録映像をホテルの中で見てみれば、姫様にお姫様抱っこされた俺が新婦となって存在していた。


 そして姫様は新郎であった。

 なんだこれ、意味が分からないぜ。

 きっと何かの間違いだ。

 止めろ、TV中継!


「控え室でお色直しをしていたら魔法爺がまた現れてな」


「も・ど・せ!」


 なんで俺がウェディングドレス着ているんだ。

 しかも真っ白だ。

 純白だ。


 そして考えたく無かったが下着もだ。

 なんて嫌なホワイトカラーだ!?

 おい、誰がつけた!?


「嗚呼、ドロップ。まさかこんな日がくるなんて」


「嬉しそうに抱きつくな猫パンツ!」


 なんという恥辱だ。

 身の危険を当たり前のように感じた俺は、封印されし裂光魔に舞い戻ってテレビの前に転移離脱する。

 

 チート力もさすがに身の危険に敏感であるようだ。

 第三の眼も当たり前のように開いてしまったぜ。

 嗚呼、時が視える。


「今の余は男だぞ。猫パンツなどと呼ばれる筋合いは無い」


 イケメン王子よりも中世的なチート王子が、なんだか息を荒げながらのたまっているが知ったことではない。

 しかしどうする、この格好で家に向かうのか?

 早く戻らないと貞操が危ないぜ。


「しかし、二人の共同作業は良かったな。武力行使で有耶無耶にする必要もなく相手が辞退したからな」


「イケメン王子か。そういえば、あいつはどうなったんだ」


「女になったから、祖国で幼馴染の男共と結婚するそうだぞ。男子校だから選り取り緑らしい」


 ぶ、ブレない奴だ。

 ていうか、転入できないだろ今は。


「ふっ。まぁ奴のことはいい。さぁ、余と今こそ――」


「お兄ちゃーん。これ、貰ってきたよー」


「クリック!?」


 室内に転移してきたクリックが、一瞬で俺とチート王子の口にTS薬の瓶を突っ込んだ。

 TS薬だと気づいたのは、体が光に包まれたからだ。


「良くやった妹!」


「嗚呼、余のドロップが男にぃぃ!?」


 姫様が絶叫、俺は歓喜。

 思わずクリックを抱きしめてほお擦りしてしまう。


「お、俺様はあ、あ、あ、兄貴の味方だからな!」


「そうか。これで丸く収まった」


「んー、でも結局この結婚て無効だよね? 結局勝負は相打ちだったんでしょ。どうせならもう一回やりあって白黒つけたらいいのに」


「よくいったクリック!」


 姫様が再起動。

 鼻息も荒くクリックに頬釣りする。


「ドラッグ! 余ともう一度勝負しろ! 余が勝てばお前はドロップとして嫁になれ。負けたら余はこのままお前の嫁になってやる」


「――えっ?」


 そして、突如として王家の山で決闘が行われることになった。


「え、な、ええ!?」


 妹に転移で送られた懐かしきその場所で、俺達はもう一度対峙する。


「せめて着替えを寄越してください」


「はーっはっはっは。お前が不利であればあるほどに余の勝率が上がる。その話しは聞けんなぁ」


 ふんぞり返りながら、姫様は仰る。

 俺は、覚悟を決める。

 逃げるなドラッグ。


 一世一代の大勝負。

 これに負けるわけにはいかない。

 そうして、二人が再戦しようとした刹那。

 再び奴が爆音と共に現れた。


「マジック天使、禁断の愛のために推参!」


「な、なにぃぃ生きていたのかっ!?」


「ふっ、乱入とは無粋な奴よ」


 身構える俺達の前で、奴は言う。


「勝てばドラッグが手に入るなら、我が参戦しない道理なし!」


「ドラッグ」


「ええ、一時休戦で」


「あ、ずっこい!」 


 こうして、なんだか有耶無耶のうちに勝負は流れ、俺は姫様の子分に戻った。

 だが、毎日がデンジャーだ。

 何せ姫様がTS薬で虎視眈々と俺をドロップにTSさせようとしているのだ。


 その度にマジック天使が乱入して助けてくれるが、あいつはあいつで俺の身柄を狙ってやがる。

 しかし、奴のクマパンツ。

 どこかで見た気がするが……。


 まぁいい。

 とりあえず今は、チートプリンセスの猛攻から逃げねば。


「何故だ、何故余から逃げるドラッグ!」


「姫様がTS薬を所持しているからです!」


 封印とかなんとかなんて言ってられない。

 慟哭の左手を解放しながら、俺は魔法学園を舞台に逃走した。


「啼け、時の一滴<タイム・ドロップ>!」 


「くっ、役々チート力が上がっている。そんなに余のことが嫌いか!」


「男な姫様だけ嫌いです! 俺は今の可愛らしい姫様がいいのですっ!」


 こうして、決着が着くその日まで俺と姫様のTS戦争が始まった。

 嗚呼、全ては愛ゆえに愛ゆえに。


 夏の暑さで脳をやられながら書きました。

 そのせいか、何故こんな話になったのかが今でもわかりません。

 しかし、マジック天使……一体何者なんだ。


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