第17話:居候
朝。
俺は楓の朝食を食べていた。
まずい。しかし、口に出して言えるものでもなく、無理して。
「おいしいね」
と、言っておいた。
「あんた、未来から何しに来たんだ? ただの時間旅行でもなさそうだったけど」
「両親を助けに来たんだ」
「ふーん。助けられたのか?」
「いや、二人とも死んじまった」
「そうか。可哀想だな」
「ありがとう」
「あの怪物は何者なんだ?」
「テラ星人だよ。遠くて地球からは行けないけど」
「宇宙人なのか?」
「あー、うるさないな。静かに食えねえだろ?」
「……ごめん」
俺は臭い飯をなんとか平らげた。
吐かなきゃいいけど。
「あのさ、楓。学校は行ってるのか? 今日は平日だろ?」
「サボりだ」
「勉強しなくてもいいけど、学校だけは行けよ」
「いや、行きたくない。私、いじめられてるんだ」
「すまん。知らなかったとはいえ、すまなんだ」
「いや、いいんだ」
「俺も生徒になるよ。どこの高校だ?」
「北高」
「北高か。俺も元の時代では北高なんだ」
「そうなんだ。でも……」
「大丈夫。俺はいじめられないから。守ってやるよ」
俺はその日の内に、編入手続きをした。
編入試験に合格し、明日から編入生だ。
「聡美、合格おめでとう」
「容易い容易い。明日からよろしくな。それじゃ」
俺は部屋に移動し、布団に潜った。
翌日、俺は楓と学校に行く。
「あ、俺、職員室寄ってから行くな」
「一人だといじめられちゃうよ」
「その時は私を呼びなさい」
「聡美になってるし」
俺は楓と別れて職員室に。
「失礼します!」
俺は担任の宗方教諭に顔を見せた。
「おお、坂上か」
「今日からお願いしますね」
「ちょっと待て。お前のクラスには、近づいたらならんやつがいる」
「誰ですか?」
「小野山っていう女子生徒だ。やつは危険だ。関わるなよ? お前までやられちまう。これまでいじめられて、不登校や自殺した生徒が何人もいる」
「そんなことして、退学にできないんですか?」
「あいつの親は大物政治家で、モンスターペアレントなんだ」
小野山議員。五年後に殺されたな。犯人は長女らしいが、噂の人物か?
「わかりました」
「先生も後から行くから、先に行っててくれ」
「はい」
俺は教室に向かった。
扉を開けると、黒板消しが落ちて来た。
俺は咄嗟に避ける。
「チッ!」
舌打ちをするのは、後ろの方の席に座っている、目つきの悪い女子生徒だった。
「何見てんだよ?」
視線に気づいた女子生徒が消しゴムを投げて来た。
俺は咄嗟にキャッチする。
「な?」
「あなたが噂の小野山さん?」
俺は近づいて消しゴムを置きつつ声をかけた。
「だったらなんなんだよ? てめえ喧嘩売ってんのか?」
「いや、お友達になりたくて」
「友達なんていらねえよ。目障りだ。どっか行け」
「どっかって、ここ私の教室なんだよね」
「チッ!」
俺は空いてる席に座った。
隣は楓だった。
「聡美、すごい勇気あるね」
「星人に比べたらこのぐらい」
「そっか。でも気をつけてね。嫌になって自殺とかしないでよ」
「私、全て終わるまで死ねないから」
「そうだよね。地球の命運がかかってるもんね」
教師が入ってくる。
「出席取るぞー」
教師が生徒の名前を呼び始める。
小野山が立ち上がり、教室を出て行く。
「先生、トイレ行って来ます」
俺は席を立ち上がった。
「なんでさっき行かなかった?」
「今行きたくなったんです」
「わかった。すぐ戻ってこいよ」
「長くなりそうっす」
俺は教室を出て小野山を追った。
小野山は屋上に向かっている。
「小野山さん」
「なんだてめえ。ついてくんな」
小野山に突き飛ばされ、俺は階段を転げ落ちた。
「痛!」
聡美ちゃん、この程度じゃ諦めないから。
俺は起き上がり、階段を昇る。
小野山と一緒に屋上へ。
「快晴だね」
「ついてくんなって言ったろ?」
「別について来たわけじゃないよ。たまたま目的が一緒だっただけ」
「チッ!」
「折角だからちょっと話でもしようよ?」
「うるさい。呼吸すんな」
「死んじゃうよ」
「死ねばいいさ」
「先生から聞いたよ。素行、酷いんだって?」
「お前には関係ないだろ」
「関係あるよ。皆、仲良しじゃないと、落ち着かないんだ」
「クラス変えれば?」
「それじゃあ、意味がないのよね」
「ふん」
小野山が、フェンスに背中を預ける。
「危ない!」
ネジが緩んでいたフェンスが外側に外れて小野山が落ち始める。
驚いた顔をする小野山。
むざむざ死なせはせん。
俺は小野山を捕まえ、空中で静止する。
「え?」
俺を見つめる小野山。
「う、浮いてる? お前、マジシャンか?」
俺は徐に屋上へ着地した。
小野山を下ろす。
「礼なんか言わないから」
「なんでネジが緩んでたのかしら? 誰かが小野山さんを消そうとしたのかしら?」
「私を殺す? 誰が?」
「いや、思い過ごしかも。てか、ここ危ないね」
小野山は他のフェンスを背中を預けた。
「私さ、この街に来たばかりなんだよね。前に通ってた学校では、身体能力のせいか、番長呼ばわりされてて、それがいやで越して来たんだ」
半分嘘。
「お前、そんなに強いのか?」
「戦ってみる?」
「いや、無駄な体力は……!?」
小野山が上を見て驚いている。
俺も上を見える。
何も見えないが……。
「うわ!」
目を離している隙に、怪物が小野山を投げ飛ばした。
床に転がる小野山。
「何やってんだお前!」
俺は怪物に叫んだ。
怪物は振り返る。
「関係ない。俺の獲物はあいつだけだ」
俺は小野山の元へ高速移動する。
「小野山さん、こいつは?」
小野山は気絶していた。
「邪魔をするというならお前から血祭りにあげてやろう」
「テラ星人……には見えないわね。何者?」
「これから死ぬやつに言っても意味がないな」
「死ぬのは、貴様だ……!」
「なんだと?」
俺は怪物の懐へ一瞬で移動し、鉄拳で腹部を貫いた。
「うっ!」
爆裂霧散する怪物。
「おい、編入生」
いつの間にか意識を取り戻した小野山が口を開いた。
「今のやつ、お前が倒したのか? 爆発してたけど」
「うん」
「番長って言われる理由がわかった」
「あの怪物、いつもやってくるの?」
「ああ、なぜかわからないけど、私を狙って」
俺は小野山に精神を集中させた。
マナの数値が高い。垂れ流しか。
「狙われる理由がわかったわ。小野山さん、数値の高いマナを垂れ流しにしてるのよ」
「マナ? なんだそれ?」
俺は光弾を作り出した。
「これがマナだよ。マナは誰にでもあってね。これを使って……」
聡美はどこからか拾って来た小石を上空に投げ飛ばし、光弾をそれに命中させて破壊した。
「このように攻撃したり、さっきみたいに浮いたりできるのよ」
「その説明だと、私はそれが高くて、気づかぬ内に垂れ流してて、それを察知した怪物が襲ってくるってことか?」
「よく今まで殺されなかったね」
「さっきフェンスが外れたのも、あいつのせいかな?」
「気合でネジを外したのかも」
「あ、ありがとうな」
小野山は、はにかんで?を赤らめた。
「さて、教室戻るか。なんだかんだ言って一時間経っちゃったからね」
「なんで私を助けた?」
「人を助けるのに理由が必要かしら?」
俺はそう言い残して教室に戻った。
そして、教師にこっ酷く叱られるのであった。