大人の事情で短縮した日本昔話
長編小説を2夜連続で読破した勢いで書き上げたものである為、読まれた方は笑って許して下さい。
むかしむかし、あるところに、ステレオタイプのおじいさんと、モノクロ基調のおばあさんがおりました。
おじいさんは家でテレビっ子。
おばあさんは山で芝刈り機を駆動し、駆け上がる際に立ちはだかる大木があれば手刀で薙ぎ倒していきました。
そうして山を駆け下り、川へと到着したおばあさん。途中出くわしたイノシシとの激闘の末に刻まれた戦傷の血を洗い流していたところあら不思議。七夕でもないのに笹が茂った竹がどんぶらこっこと川を流れてくるではありませんか。
しかも、光輝いています。
おばあさんはすかさず川へと飛び込み、流れに逆らいながら泳いで竹の元へと向かいます。捕まえるや元居た場所へと難なく戻り、早速竹を手刀で真っ二つにしました。
すると、そこには親指ほどの大きさしかない一人の女の子が収まっていたのです。なんとも可愛らしい親指姫。一体誰が着せたのか、華やかな衣装を身に纏っています。
おばあさんは大層喜びました。
薪の材料にと薙ぎ倒した巨木を一本肩に担ぐと、買い物かごを下げるように芝刈り機をもう片方の腕に下げ、思い出したように腰を折り曲げつつ親指姫を抱え込んで家路につきます。
そして、温かく出迎えてくれたおじいさんと共に可愛がりました。
時は流れ、打ち出の小槌を使ってすくすくと成長した親指姫の元に、月の使者を名乗る女性が訪れます。それは、暮らし始めて七日後のことでした。
──おじいさん、おばあさん、ごめんなさい。私は月に帰らねばなりません。
親指サイズを脱した姫は言います。なんでも、実は月のお姫様なんだとか。
おじいさんとおばあさんは悲しくなりました。しかし、今は鬼が当たり前のように出没する時代。月へ行く方が安全に不自由なく暮らせるだろうと泣く泣く姫を送り出します。
──おじいさん、おばあさん、向こうに着いたら文を送りますね。
そう言って、姫は鶴に変じた月の使者に跨がり月へと帰って行きました。
翌日、月へと帰った姫から一通のメールが届きます。添付された画像には、幸せそうに笑う姫とたくましい男性が寄り添う姿が写り込んでいます。
おじいさんとおばあさんがその画像を見て切ない気持ちになっていると、突然外からずしりずしりと地面を踏み鳴らす音が聞こえてきました。
何事か、とおじいさんとおばあさんが外へ飛び出します。すると、熊に跨がり、大きな斧を肩に担いだたくましい男性が現れました。そうです、姫と一緒に写っていた男性です。結婚の挨拶ついでに鬼退治に来たと言うではありませんか。
おじいさんはひきこもりぎみ。
おばあさんも高齢でか弱いという設定です。若者の晴れ舞台とあってはでしゃばるわけにはいきません。
それならば、とおばあさんは刈り取った草で作った大量の傷薬を渡します。
そして、男性は鬼が島へと熊と共に旅立ちました。頼もしい相棒がいるため、仲間を集める必要はありません。堂々と鬼が島へと船で乗り込みます。
すぐに鬼達に気付かれ、取り囲まれてしまいました。
鬼の鋭い爪が男性を切り裂き、バラバラにされて地面に落ちます。しかし、いくら細切れにされようとも、男性の身体から血の一滴も落ちませんでした。
それもそのはず、男性は金太郎だったのです。どこから切ろうと同じ顔。絵柄が変わることはありません。さらに、切られた部位から一寸法師へと変じ、どこに隠し持っていたのか都合良く針を装備して鬼達に襲いかかりました。
途端に「ぎゃー」と上がる悲鳴。
四方八方から突かれた鬼達が、これは堪らんと逃げ出しました。
ついに鬼達を撃退したのです。
男性と熊は鬼達の住処を物色すると、残された宝を戦利品としておじいさんとおばあさんに届けました。
出迎えたおじいさんとおばあさんは、一寸法師の群れを見て孫が沢山できたと大喜びです。それに気を良くした一寸法師が宝の山を差し出しました。
宝をどうぞと差し出され、おばあさんが何の気なしに大きなつづらを開けた時、もうもうと煙が中から広がりました。何も見えず、うっかり煙を吸い込んでしまいます。しばらく咳き込むうちに煙が晴れてきました。
そして、おじいさんはおばあさんの、おばあさんはおじいさんの姿を見て驚きます。なんとそこには若返った二人の姿がありました。
おじいさんは、かつて鬼退治へと出掛けた時の姿へ。
おばあさんは、鬼退治の際にお供した時の姿へ。
二人はかつて鬼を退治した、桃太郎とその仲間でした。
しかし、おばあさんはイヌでもサルでもキジでもありません。鍛え抜かれた身一つで鬼達を退けはしましたが、村を練り歩けば誰もが目を奪われる屈強な女性です。
桃太郎に尽くす様をイヌに例え、鬼を前に力強く跳躍する様をキジに例え、攻撃を高い所へ上って避ける様をサルに例えることで、おばあさんの勇士を控えめに伝えたのです。
その後、鬼さえ手刀で倒す英雄が全盛期の力を取り戻したことにより、鬼達が人里を襲うことはなくなったという話です。
おしまい
おかしい、と思った貴方は正常だ。