王国歴1028年
彼はあの時以来、王都にあるロフト家の蔵の地下に仕舞われたままになっていた。彼は忌まれ、この蔵の奥で埋もれたままになっていたのだった。
その日、あの子がここに紛れ込んでくるまでは――
……ドタドタドタ……
……ガタッ! ガタガタッ――
「……ったーっ。」
その場所、彼の眠る場所に落ちてきたのは、少年と言うより幼児と呼んで差し支えない年頃の男の子だった。少年は、蔵の奥に隠されたここへの階段に、誤って落ちてきたようである。少年は、打ち付けたところを手でさすりつつ、周囲を見渡した。そして少年は、薄暗いこの場所で微睡む彼の深紅の瞳に魅入られた。
「うわぁ! 綺麗な瞳だなぁ――」
暫し、両者は見詰めあう……
「……! 坊ちゃまっ、そこで何をしていらっしゃるのですっ!」
少年と彼との一時は、この場に踏み込んできた一人の老執事によって遮られた。
「あっ! 爺……ごらんよ。こんなとこに真っ黒で綺麗なドールホースがいるよ。」
少年の返事を待たず、老執事は少年の元に駆け寄り、彼から引き離そうと手を引いた。
「坊ちゃま! その様な忌まわしい輩から離れるのです!」
「え? どう言う事?」
「それは不吉な鋼馬なのです! 良いですからこちらに……!」
「……そんな風に見えないけどなぁ――」
老執事に引きずられるようにしてその場を後にする少年は、彼を見詰めながらそう呟いていた。
この少年と伴に、彼がフォーサイトの広大な平原を駆けるのに、後十年余りの時を必要としていた……