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王国歴524年

「アルバート、どうやらここが最深奥のようだぜ……」

 彼は微睡みの中より、この部屋の隔壁の開く音を聞いた。

 彼の光宿らぬ瞳には、隔壁の先より漏れ出た光を映した。

 その部屋に入ってきたのは、十数人の人間たちだった。その殆どは、無骨な鎧に身を包み、その手に大剣や鎚鉾を手にしている。そして、他の数人は皮革製の軽装に小剣や短槍を所持していた。

「…………素晴らしいな。何という眺めだ――」

 最初に入室を果たした者は、そう言って感嘆の呻きを上げる。

「すげぇーな! こんなにドールが並んでるなんてよっ!!」

「ほんとに……こんなに保存状態の良い遺跡は始めてみますよ――」

 続いて部屋に入って来た者たちが発した各々の感嘆の声を、微睡みの中にある彼は、微かに聞いていた。


 彼はその後に、覚醒措置を施され、この部屋に最初に入室した騎士アルバート=ロフトにより、フォーサイトへと連れられていった。彼と伴に連れて行かれたドールたちは、そこで多くの人々の注目の的となった。

 そして同時に、彼はアティス王国が滅び去ったことを知ったのだった。

 アルバート卿やフォーサイトの殆どの人々は、アティスの文明を悉く忘れ去っていた。それは百三十年余り続いた竜世紀――竜王の統治せし時代の影響が、色濃く残っていた故であろう。

 しかし、アルバート卿は、魔法機械の知識豊かなかつての主たちには及ばぬものの、良き主であった。アルバート卿は彼を愛馬とし、よく世話をやいた。それは普通の馬のように扱うことが多かった。それは普通のドールにとってはかなり不都合があったろうが、生命体と呼べる彼にすれば差程苦痛はなく、快適であったと言えるのかも知れない。

 彼は、アルバートに “シャーフィール” の名を与えられた。このことに、周囲の者は良い顔はしなかった。“シャーフィール” とは、戦死の運命を与える死天使が騎乗する漆黒の騎馬の名であったから――


 しかし、そんな良き日々は、ホンの一時の泡沫に終わった。隣国セクサイトの侵攻である。

 フォーサイトの国王より封じられたアルバート卿の所領となる小村とフィルネック工廠跡を、セクサイトの大軍数万が大規模な包囲陣を布いてきた。この時、アルバート卿の所領には、アルバート卿の配下と王国の技術士たち百数十人ばかりの兵力しかなかったのだ。

 絶体絶命の状況の中、騎士アルバート=ロフトは、少年と呼べる騎士見習いを彼の前に呼び、ある命令を下した。

「……良いか、其方は王都にこの危急を知らせてくれ。この私の “シャーフィール” を使え。」

「閣下、よろしいのですか? この漆黒の鋼馬は、閣下の愛馬ではありませんか!」

「構わぬ、今手持ちのドールホースで最も足の速いのが、こいつだ。……事は一刻を要する……頼むぞ。」

「……はっ!」

 少年はアルバートに一礼を見せると、すぐさま彼の背に乗り王都へ駆けた。


 その日の夜半をかなり過ぎ去った時、少年は王都に辿り着き、この急報を伝えた。

 そして、夜明けとともにその少年は息絶えた。

 彼のオーバードライヴ時の衝撃に、少年の身体が耐えられなかったが故にであった。


 そして、急遽編成された騎士団は、アルバート卿の救援に向かった。もちろん、彼もこの軍に加わった……アルバート卿の嫡子を乗せて――

 彼とそして従軍する多くの人々は、強い焦燥の色を見せ、軍は予定を越えた迅速さでアルバートの元へと急いだ。

 しかし、彼等がこの地に布陣を果たした時、その場にいる筈の大量の敵軍は、その姿を消していた。そして更に、領民の姿も消え果てていた。

 領内各所に、敵の砲撃や剣撃の跡が残されており、そして彼等には、戦線が小村から工廠跡へと移動していったことはすぐ判明した。

 彼は思わず工廠跡へ駆け出していた。

「……あっ! おい! ……え!? こ、これは?」

 騎乗の青年は突然の事に一瞬狼狽していたが、その行く先に気が付き、気を取り直し其方に駆けさせていた。


「……父上! 父上、御無事ですか! ……父上!」

 工廠に近付き、声を張り上げる青年の元に近付く者があった。それは彼等の望んでいた者であり、望んでいた者ではなかった。

「父上……?」


(……イセキニチカヅクモノハ、ユルサヌ――)


 ……彼の瞳は、彼の主が主の息子の首を刎ねる様を目撃していた……

 ……彼の瞳は一瞬大きく見開き、その心は砕けた――



 そして、“陰の騎士”伝説が幕を開けることになります……

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