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王国歴368年

 その日、彼はイェスラー下級将士の息子のウェイラス下級尉士たちと伴に、トルヴシティ(第十二都市)の駐留軍人たちと軍事演習の途中にあった。彼等は大陸を縦断する “神々の背骨” 山脈東側山麓において、山岳戦の演習と、大陸東部に広がる “黒き森” への調査を行っている。

 “黒き森” は黒竜王の鎮座する地であり、魔獣の出没も報告されている。王国はこの地を避ける様に拡大していたが、この地の脅威を何とか把握し直す事を王国が判断した為でもある。

 この演習で、彼はトルヴシティで生まれ育ったと言う古参のメタルゴートのサイラスと親しくなった。サイラスは、有名な技術匠のフォウム氏により生み出された彼に、羨望を持って語り掛けてきた。サイラスの長い髭と穏やかな瞳に、彼は生みの親のフォウム氏に似た親しみを感じていた。

 彼はサイラスから、山岳地帯の走り方のこつを教えて貰えた。足場の見極め方や跳躍のバランスの取り方等を、実践を用いて教えてくれた。対して、彼も平原駆ける時の注意点や、ドールたちを把握指揮するこつ等を教えたりした。


 そんな日々が過ぎたとある日、演習中の彼等の頭上が大きく翳った。

「……ん? ……ナイツティ(第十九都市)がこの辺りを通過するのは、もう少し後の筈だが――」

 誰かがそう言った。そして、空を見上げた者たちは、頭上にあるのが浮遊都市 “ナイツティ” ではないことに気付いた。その正体も……それを悟った者たちから騒然とした状況が拡がっていく。

「り、竜……!?」

「あれを見ろ! でかいぞ! あの大きさでは公竜かもしれん……っ。」

 そこにいたのは、浮遊都市にも匹敵する巨竜と、それに率いられた数十体もの竜たちの姿であった。竜たちの目指す先にあるのは、アティス王国である。

 その様子を見上げていた上級士官の一人が叫ぶ。

「急ぎ隣接した都市へ連絡を……!」

 士官の言葉に、傍にいた軍人の一人が通信用機械の操作を始める。

「駄目です! 既に遠隔通信は使用できません……っ!」

「今は総員撤退が急務だ!」

 そんなやり取りがあった後、軍人達は山岳を懸命に西進し始めた。


 彼は山脈を越え、森林を抜け、単騎でトルヴシティの目前まで来ていた。既に友軍はあの巨竜に随っていた飛竜等に屠られ、見る影もない。親しくなったサイラスも赤き飛竜の吐いた炎によって灼き熔かされていた。

 執拗なまでの竜族の追撃と、メタルホースに不慣れな山岳と森林の走破は困難を極めた。しかし、彼は懸命に彼の主を護って駆け抜けた。

「……ダルケー、もう少しでトルヴシティだ。」

 彼を励ますウェイラス下級尉士の声が聞こえる。彼の魔力は底を尽きつつあったが、あの都市に駆け込めれば、何とかなる筈だ……しかし――

「……何っ!?」

 ウェイラスの叫びが聞こえた。そして、彼は後方の上空より迫る銀色の飛竜の姿を視界に捉えた。彼はそれから逃れる為にも、必死に駆けた……自身の限界を超えて、血色の煙を噴きながら――

 しかし、竜族最速を誇る銀鱗の飛竜より逃れることは、出来る筈もなかった。


 ……そして、その飛竜の放った雷撃は……

 ……彼の主を打ち貫いた……

 ……彼は主の断末魔を聞きながら……

 ……トルヴシティの城門へ突入していた――



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