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王国歴1044年

 本編第一部第一章の終盤の時間から始まります。

 その一撃には必殺の威力があった……我が主は剣を受け流しきれずに後ずさる。しかし、そこに彼の騎馬たる私が踏みしめるべき大地は存在しなかった。

 主と私は。底深き谷底へと静かに落ちていった。


 岸壁を落ちつつも私はバランスを取ろうと試みた。しかし、この試みは必ずしも成功してはいなかった。谷底へと足を踏み外した時、主は岸壁に頭を打ち付けたらしく、昏倒している様子だ。

(死なせてなるか……今度こそは――)

 私は、声ならぬ声でそう叫び、未だに体勢を保てぬその身で、主が岸壁に叩き付けられるのを防ごうと苦心した。平衡を保とうと、岸壁の足場に蹄を打ち付ける。そうした試みの幾度目かの時に、嫌な音が響く。金属がひしゃげる時の音だ。そして、私の脳裏に警告情報と痛みが響き渡る。

〔・・・右前肢下腕部損傷・・・下腕部支持骨の金属疲労による右前肢下腕部損傷――〕

 その警告を充分に認識する間もなく、私の視界に岸壁が接近してくる。次の瞬間、私の右側視界が暗転する。もう片側の視界からは、紅い硝子片が虚空に舞い上がり、渓谷の底へと落ちて行く様が映し出されていた。

〔・・・右眼全壊・・・右眼全壊――〕

 脳裏に響き渡る警告を聞きながらも、私は主の受ける被害を最小限に留める試みを止めようとはしなかった。身を捻り、主人が打ち付けられるのを防ごうとして、私の腹部に強い衝撃が走る。

〔・・・平行維持機構損傷・・・平行維持能力30%低下・・・平行維持機構損傷・・・平行維持能力50%低下――〕

 それでも、私は諦めはしなかった。私は大きく嘶く。

(……オーバードライブ開始!)

〔・・・オーバードライブ稼働・・・動力110%・・・平行維持能力70%・・・・・・動力130%・・・平行維持能力90%・・・・・・動力160%・・・平行維持能力120%・・・動力200%――〕

 私の動きはより素早く、より正確になっていく。だが、私の関節と言わず……損傷部位と言わず、各所から私の血が煙の如く噴き上がっていく。

〔・・・体内薬液残量70%・・・体内薬液残量65%・・・体内薬液残量58%――〕

 何とか体勢を整えかけたが、私の動きが再び鈍り始める。そして……

〔・・・左後肢関節系機能停止! ・・・左後肢関節系機能停止! ・・・体内薬液残量40%以下に減少・・・各種機能維持に障害発生・・・体内薬液残量40%以下に減少・・・各種機能維持に障害発生――〕

 渓谷の半ばも過ぎたばかりというところで、私は足を踏み外した。血を失い、意識を保ちきれなくなった私は、瞳の光を失ったまま渓谷の底へと墜落していった……



 この後、本編第一部第二章に続くことになります……

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