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(後編)

オヤジは旅行も好きだが、同じぐら好きなのが釣りだ。



オレもよく連れて行ってもらったものだ。



しかし、船酔いをしてからオレは釣りが嫌いになり二度と釣りには行かなかった。



そういえば後にも先にも一度だけオヤジとオレと姉、弟の四人で釣りに行った事があるが、幼い弟が船のロープを掴みそのロープに引っ張られ海に落ちた事があった。



オレと姉は慌てて他人の船に飛び乗り引き上げて助けた記憶がある。


今になって気になる事がある。



あの時オヤジは何をしてたんだろうか?



母に聞いてみたら母は覚えていた。



オヤジはただ見ていたらしい。



「何で助けなんだん?」



母の質問にオヤジは



「一人で上がってこれなかったら助けようと思ったんや」



そう言ったらしい。



良く言えばスパルタだが、次元が違い過ぎた。


オヤジは小さな船を持っていて船釣りが好きだったが過去に二回遭難している。


一回目の遭難は、流されて行くうちに近くを漁船が通りかかりオヤジは慌ててシャツを脱ぎ旗代わりにして手を振ったみたいだ。



しかし、それを見た漁船の人は手を振りかえして遠くへ行ってしまったらしい。


数時間すると再び漁船が仕事を終えて帰って来た。


その時、無事助けられたのだが後から漁船の人の話を聞くとオヤジのシャツを振ってた姿が



『今日は大漁だぞ〜』



と思われてたらしい。



全く運の悪い人である。



二回目はエンジンの不調を知りながら出掛け、案の定エンジンが壊れそのまま流された。



夕方、オヤジの船は日没までしか出せなかった為、暗くなっても帰って来ない事に気付き家族で大騒ぎになった。



そして大事件へとなり、親戚の人も騒ぎだし海上保安庁の捜査船も出動。



4時間後、捜査船の活躍でオヤジは救助された。



保安庁の人がオヤジの船を操縦し、オヤジは素晴らしい装備の立派な船に乗り、休ませてもらいながら港に帰ってきた。



連絡を受けていた家族や親戚が港に集まり、オヤジが到着するまで俺たちは頭を深々下げにまわってた。



緊張の中、オヤジは船内から出てきた。



オヤジはニヤニヤしながら船旅を楽しんだかの様に嬉しそうに降りてきた。



緊張など、まるでしていなかったのだ。



ただ、さすがに悪いと思ったらしくみんなに小声で謝っていた。



こんなドジの日本代表みたいなオヤジはこれからまだまだ歴史を残していく。



部屋に居た姉が足音を聞く。



それは階段を上がってくるオヤジの足音だとすぐにわかった。



足音が近付き、もうすぐ上がり切るかなって思ってた瞬間


 “ガタガターン”




姉はすぐ階段から落ちたとわかった。



普通は心配するのかもしれないが姉は落ちたオヤジを想像し堪え切れず部屋で一人で笑っていた。



しかし、10分してもオヤジの反応がなく姉は



“ひょっとして!”



と思い部屋を飛び出し階段を覗き込む。



うちの階段は2段上がりすぐに踊り場になって、その踊り場にヒックリ反された亀の様にオヤジが倒れていた。



両手、両足を天高く突き上げ覗き込んだ姉に向かって


「落ちた!落ちた!」



と伝えると

サッと起き上がり去っていった。



姉がさらに爆笑したのは言うまでもない。



そう、オヤジは人に気付いてもらいたく、落ちた自慢をしたくて身動きもせず誰かに気付いてもらうのを亀の態勢で待っていたのだ。


姉とオヤジの勝負、オヤジの方が一枚上手であった。


でも、やはり一番被害にあっているのは母である。



母が従業員から誕生日のケーキをもらった。



箱の中にはケーキが二つ入っていた。



一旦、家に持って帰りオヤジに



「私の誕生日祝いにケーキもらったけど二つあるから一つ食べていいよ」



と声をかけ母は仕事に出かけた。



夜な夜な迄働き帰ってきた母は、ケーキがある事を思い出した。


食べようと思うとケーキがなくオヤジに聞くと平然な顔で



「食べたよ!二つ」



と言われ、たかがケーキだったが非常識な取られ方をされた母は食物の恨みとばかりオヤジに説教を食らわした。



ケーキを全部食べる行為は太ってる母を思いオヤジからの誕生日プレゼントだったのかも…。



だが誕生日に誕生日ケーキを全部食べられた母の気持ちはオレにはわかる。



でも、母にも都合のいい事がある。


オヤジは耳がかなり遠いのだ。



だから母が



  「ブーッ」



と屁をしてもオヤジは


  「ん?何?」



と真面目に聞き返す。



そっとしてほしかった母は照れながら


  「何もない!」


      と言う。



中途半端に聞こえるのも善し悪しである。



オヤジは用心深く自分の物に必ずイニシャルを書く。

新品の電化製品は、たちまちデカデカとオヤジのイニシャルで台無しになってしまう。

ただオヤジは自分のイニシャルを書いても権力の無さから知らない間に誰かに取られてしまう。



それに気付いたオヤジは頭脳派になり自分のイニシャルに効力がない為、今では母のイニシャルを無許可で書いている。



しかし、誰も書かない場所にデカデカと書く癖と、あの独特な字が


  “私はオヤジだ”


と書いているのと同じであった。



ただ、オヤジはうまく騙せてると思っている。   


人には取られたくなくても知らない間に自分の物にしてるのがオヤジである。



めったに自分の物を買わない母がジャンパーを買い翌日仕事に着ていこうとしたら昨日買ったばかりのジャンパーがない。



“おかしいーなー?昨日は確かここに置いたはず”



母は時間が無かったので違う服を着て仕事に出掛ける。



夜、自営をしている母の店にオヤジがフラフラーっとやって来た。



母のジャンパーを来て。 


ごく普通に、ごく自然に自分の物にしていた。



母はまた被害にあった。



被害といえば弟も被害にあっていた。



殺虫剤が大好きなオヤジは一匹の蚊を見つけると殺虫剤を異常に撒き散らす。



どれぐらい撒くかと言うと丸々一本空にしてしまう。


嘘の様な本当の話である。


前に弟の部屋に用事で入ったのだが弟は寝ていた。



たまたまその時に蚊を一匹見付け、オヤジは弟が寝てる部屋へ殺虫剤を撒き散らした。         


密室の8畳一間の部屋に丸々一本空にしたのだ。



さすがに弟は怒り



  「殺す気か!」



と言って家出した事がある。



オヤジには弟が害虫に見えたのだろうか?



殺虫剤の匂いもかなりの被害を被るがトイレの匂いもひどい。



オヤジは開けっ放しでするので匂いがすべて二階に上がってくる。



二階に部屋のあるオレにはかなり苦痛だ。     


前に一度、家から片道20分程の場所に買い物に行った。



行く前にオヤジがトイレに入ってたから



「新宮に行ってくるわ」



と扉を開け伝えた。



うちのトイレは一つ扉を開けると男用になっていて、その奥に大用の扉がある。


サッと買い物を済まし又20分かけて帰ってくる。



玄関を開けると匂いがする。



すると、またオヤジがトイレに入っていた。    


何気なしにオレはオヤジに


「また、大してるんか?」


とトイレの最初の扉を開け話かけると中から



「足しびれた」



と答えが返ってきた。



ピンときたオレは



「まさか、さっきオレが新宮行く前からずっとしてるんか?」


    と問い掛けた。



 「おー」



そう言うとトイレの流す音と同時にオヤジが足を引きずりながら登場した。  


一時間以上和式のトイレに座れるオヤジを尊敬した。 


まるでトイレから足を引きずって出てきた姿は戦いに勝ってボロボロになって生還した勇ましい姿に見えた。



……そして時は流れ。



オレは結婚をして子供も三人授かった。 



オヤジは、おじいちゃんになったのだ。



子供の様なオヤジは孫に好かれいつもオレの子と一緒に遊んでくれていた。



…いや、遊んでもらっていた。



長女が生まれた時、なんとオヤジと同じ誕生日だった。           


「可愛そうに」



母は孫を哀れみに感じて言った。



でも、本当に可愛そうだったのは誰なのか後々わかってきた。



オヤジは初孫が自分と同じ誕生日だった事を喜んでいた。



我が家ではみんな誕生日にはケーキを買って祝い



 「おめでとう」



と声をかけられる。



ところが


その年から12月7日になると、みんな長女の誕生日を祝う。         



ケーキを食べプレゼントを渡され



 「おめでとう」



と温かい声をかけられる。


そして、一つのイベントが楽しく終わり夜も更けていき翌日を迎える。



何か一つ大切な事を忘れさられたまま…。



それ以来、オヤジは意地なのか自分から誕生日の事は一切口にしない。



そして今でも12月7日は季花(長女)の誕生日と言われオヤジの誕生日は完全に消滅した。       


新婚当初、誕生日を偽ったので12月7日に見離された様に思えて仕方がない。



最近は寂しげなオヤジにも友達が出来た。



 熱帯魚だ。


オヤジのいいところは根気強いところであり、一度ハマるとその趣味は最低10年は続く。



初めて生ものを飼いオヤジは大事に育て、ずっと熱帯魚を眺めている。



そしてたまに



 「可愛いなー」

    


と小声で呟く声が聞こえる。



稚魚が増え、成長しオヤジは本当に嬉しそうに微笑んでいる。



一匹巨大になった熱帯魚にも専用の水槽を与え毎日金魚を二匹あたえる。



二匹で60円、オレの子供のおこずかいよりいい金額だ。



ある日、玄関に小さな魚が骨になった姿でひからびていた。



始めは疑問に感じた。



でも魚の死骸が玄関先にあることから、オヤジの魚の可能性が高い。     



誰かがわざわざか、たまたま、ここへ魚を捨てないかぎり。



だが、それは頻繁に見かけた。



そして見てしまった。



可愛いなーって眺めてた熱帯魚も死んでしまうと網ですくい玄関先に“ポイッ”と捨てていたのだ。



オレが飼っているわけじゃないが、そのオレでも“可愛そうに。



もっと違う捨て方あるやろ”そう感じた。



オヤジの気持ちの切り替えの早さは、世界一だと確信した。         


そんなオヤジを見ながら家族は生活している。



生活で家族が困っている事がある。



オヤジは字を書くのも読むのも苦手で特にカタカナや【、】【。】【ー】の入った字が苦手である。



例えば【バビブベボ】や【パピプペポ】などだ。



この地元では有名なオージョイフルというホームセンターがありオヤジのお気に入りの店なのだ。



熱帯魚の餌や庭の土や殺虫剤が売ってる場所だからだ。           


しかし、大好きなその店の名前が言えない。



始めは



「オーシャンアローに行ってくる」



と言っていた。



オーシャンアローとは特急電車の新型の名前であり言ってる意味がわからず聞き流していた。



数日後、また



「オーシャンアローに行って来る」


      と言う。



不思議に思いよくよく話を聞いてみた。



「広告に載ってたから」



それでオレはピンときた。


オージョイフルをオーシャンアローと呼んでいたのだ。



「オヤジ、オーシャンアローってのは特急電車の名前やで。オヤジの言うてる店の名前はオージョイフルやで」



そう教えた。



この一言でオヤジはパニックを起こしていた。



それ以降オヤジはオージョイフルを



 “オーションプル”



と呼んでいる。     


みんなは、もう何も訂正せず今もオーションプルと言いにくそうに言っている。


こんなオヤジだが、オレが物心ついた時には調理師として朝から晩まで休まず仕事を続けてきた。



間抜けなオヤジかもしれないが、そのオヤジに今のオレをつくってもらった。



母は苦労もあっただろうがオレは楽しいオヤジだったと今になり感じている。



母は言う



「おとうさんは私の家族を何より大事にしてくれた」

と。



オヤジの両親は他界したが、その時オヤジは泣かなかった。


だが母の親や兄弟が死んだ時には涙を流し話かけていた。



死んだ母方の祖父がオレに言っていた。



「こうやって何回も何回も遊びに来れるのは、おとうさんが優しい人だから」



その意味は、その頃幼かったオレには理解出来なかった。



結婚して子供が出来て理解できた。



オヤジは母の亡き父と、よく二人旅にでかけたり、母の弟と旅に出掛けたりしていた。         


オレには真似出来ないし義親もオレに気を使うため行きたくないだろうと思う。


オヤジは子供のままなのだ。



だからだれが来ても心から喜び向かい入れ、それが相手にも伝わるからこそ我が家には来客が絶えないのだ。



確かにドジなオヤジを沢山見てきたが海水浴場で溺れてる人を助け泳いでいったあの姿も母がからまれた時、別人の様に俊敏な速さで母の前に飛び出しかばった事、たくさんオヤジがスーパーマンに変身した姿を見てきた。         


まだまだオレはオヤジに追い付いていない。



今はよくわかる。



オヤジは今も相変わらずで、この前はポロシャツをボロシャツと言っていた。



「ボロシャツ出しといて」

と。



「そんなボロボロのシャツ何するん?」



母は日夜、謎解きをしている。



これがオレの家の日常だ。


我が家はこれで結構バランスがとれている。  



案外オヤジがバランスをとっているのかもしれないと最近思える。



長々とオヤジの話をさせてもらったがオヤジは自分の人生をどう感じているのだろう?



楽しい人生だったのか?



満足しているのか?



つまらない人生だったのか?



不満なのか?



オレには解らないが最近それをオヤジに聞いてみたい。



オヤジはどう思っているか解らないがオヤジの存在は俺たち家族に強く残った。


これからも自慢のたった一つのトロフィーを持って力強く生きていって欲しい。


今はオヤジの存在に



 “ありがとう”



と感謝したい。



そしてオレは初めてのトロフィーをもらえる様に努力を重ねたていきたい。




…END

最後までありがとうございました。是非、感想も頂けたらと思います。宜しくお願いします。

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