4話 Eクラス
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長い廊下を歩くと、零のクラスに着いた。
――1-E。
大きく表示してあるプレートを見ると、零達はゾロゾロと教室の中に入っていった。
ひとつの学年に八百人もの生徒が居るこの学校は、AからJのクラスに分かれていた。クラス分けは入学試験の出来や、入学書類のデータ――魔力量や過去の経歴など――を参考に、評価が高い生徒から順番にA、B、C、と分けられる。零のクラスはE、つまり丁度真ん中である。書類等は全て国がやってくれているはずなので、何が書いてあるか全く知らなかったが、それでもEクラスは妥当だと思った。
《組織》の人間は、通常制御装置と呼ばれる腕輪をつけている。これは魔力の循環や、肉体運動の際に発せられる電気信号を阻害する効果があり、零たちを縛る「鎖」でもある。解除しない限り戦闘能力のほとんど――数字にして約九割と言われている――が抑えられ、極めて平均的な身体能力、魔力量になっているはずだった。加えて、過去の経歴も何もない。よって、書類のデータだけを見れば、零がEクラスであることは当然のことだった。
……学年が上がるごとにまた成績で振り分けられるらしいけど。
現に二つ上の学年である神無月瑠璃はAクラスのトップだ。また、校内模擬大会では全戦全勝、つまり学園最強の名を欲しいままにしている。本人曰く、普通にやっていただけだと言うが、所詮、《組織》の人間と一般の人間の実力差は、力を抑えたくらいで埋まるものではないのだ。
しばらくして教室のドアが開くと、担任と思われるガッチリした体型の男が壇上に立った。
「まずは入学おめでとう。俺はこのEクラス担任の片山徹だ。これから一年間よろしく」
そう言って小さく礼をする。零はいつもの癖で目に魔力を込めると、筋肉のつき方や体型、纏うオーラから、担任のデータを概算で弾き出した。
――近距離戦闘が主体だけど魔力量も多い。
自分の席から一歩も動かずに力を測定した零は、純粋に優秀な教師だと判断した。
この世界には、大きく分けて分けて、理魔法、光魔法、闇魔法、空間魔法の四つがある。理魔法はさらに五つの属性、火、雷、氷、風、土に細かく枝分かれする。
基本、人々はこの五つの属性の中から自分に適した属性を選び、専門属性とする。正確に言うと一つしか選べない。
魔法の属性は、そのほとんどを生まれ持った才能に依存している。火属性が適する人間もいれば、風属性に長けた者もおり、原因は未だはっきりとは解明されていないが、一般的に血筋にも依存すると言われている。中には、稀に二つの属性を持つ人物もおり、その大抵は天才と呼ばれて国から重宝されることになる。
そんな中、全大陸中で、五つ全ての属性全てを極めた人間が二人だけ存在する。
二人は大陸全土の民の憧れの存在であり、また《組織》に所属することは、最も名誉なことと言われている。ちなみに、光、闇、空間の属性を持つ人間は、理属性に比べて圧倒的に数が少ない。特に空間属性の人間は大陸中を探しても僅かである。
武器の方は主に剣、槍、斧、弓、銃の五つに分類され、そこから細かく派生する。剣の派生形として大剣、刀など。槍の派生形として薙刀 といった具合だ。魔法と同様に、普通の人はこれらの中から一つの武器を選び、主要武器とする。
武器は魔法と違い、生まれついての属性は存在しない。そのため複数の武器を「使う」だけなら誰でもできるのだが、ほとんどの人間は一つに絞って鍛え、また、学校もそう指導するように定められている。これは、二つの未熟な武器を使うよりも、一つの極めた武器を使う方が、実践では圧倒的に役に立つからだ。それに、武器によって使用する筋肉の部位が異なるため、必ずその人との相性がある。中にはその相性が存在せず、全ての武器を一流に扱うものもいるが。
「今日はこれから一人ずつ自己紹介をしてもらう。じゃあ廊下側から」
片山先生がそう言うと、前から順番に自己紹介が進んでいった。
零の席は廊下側の後ろから二番目だったため、順番はすぐに回ってきた。
「天戸零と言います。属性も主武器もまだ決まっていません」
少し教室がざわざわしていた。
――流石に属性も武器も未定ってのはおかしかったか。
今までどうやって生活してきたのか、という疑問が自然と生まれるのも不思議ではない。そんなことを思いながら、自分が使用する武器と、選択する魔法をなににしようか考える。学園に通うことになった以上、零も一つ選ばなければならない。
「よし。全員終わったところで、明日の予定を話すぞ。明日は春季休暇明け試験の後、身体検査だ。持ち物は教材が全部入りそうな袋を、各自持って来い。合格に浮かれて休み中、遊んでた奴はいないだろうな? 明日のテスト頑張れよ」
全員の自己紹介が終わると、片山先生はニヤニヤしながら、突然そんなことを言い出した。聞き覚えのない単語に、思わずポカンとしてしまう。
当然、テストなどというものを、零は知らない。単語自体は知っているが如何せん経験したことがない。驚いて周りを見渡すと、「わかってますよ」という自信満々顔の人間と、「そうだった」という青ざめた顔の人間に綺麗に分かれていた。しかし、零の反応はそのどちらでもない「何それ?」だった。
「……先生、それは全員強制ですか」
「当たり前だ。入学書類に書いてあっただろう?」
そんなことを零が知るはずもない。
「天戸、お前――浮かれてたな?」
クラス全員の視線が零に突き刺さる。完璧な誤解を前に、しかし零はそれを解く材料を持ち合わせていなかった。別に浮かれてたわけではない。そもそもの話、零に春季休暇などないのである。小学校、中学校と共に通っていない零にとって、学力試験は未知数だ。
――リリから何か教えて貰おうか。
明日が少し憂鬱だった。
ようやく世界観の説明が終わりました。
2012/07/12 改訂