26話 中間テスト
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正直信じられません(汗)
駄文ですが、大目に見てやって下さい~
例えば、陰謀によって、自殺に追い込まれた人がいる。
例えば、陰謀によって、巨万の富を得た人がいる。
例えば、陰謀によって、憎しみに胸を焦がした人がいる。
このように、一つの陰謀は百の人生を変える力を持っている。その力は、歴史をも大きく変えてきた。
何故こんな話をしているのか?
それは、今この瞬間、陰謀が働いたことに気付いた少年がいるからである。
時は中間試験、真っ直中。
数学、物理学、練金学と、今回は大陸史も完璧だった。
わからない問題などひとつもない。そもそも、普段生活している中で、テストよりも遙かに複雑で難解な演算をこなしているのだ。その膨大な計算すら頭の中、しかも一瞬で行う零にとって、学校の問題などお遊びにもならない。丁度、大陸の最先端で活躍する研究者が、幼稚園児のクイズを解くようなものだろう。どのくらい余裕だったかと言うと、後ろの席である明が発する鉛筆の音から、その答案を頭の中に再現し、かつ採点まで済ませるほどだった。(ちなみに今のところ、彼女はひとつも9割を切っていない)学校の名誉のために言っておくと、カルディナ学校のテストは決して簡単ではない。むしろ、他校から比べれば、とんでもなく難問だ。それでも平均点が高めなのは、この学校の生徒のレベルが高いことを示している。とは言っても、この二人は異常だが。
そして科目はついに最後。天戸零の天敵、または唯一の弱点とも言える科目「言語学」。
四月はこれの補習のせいで、大変な目に合った。(『自業自得』という四時熟語は禁句である)
師匠である月下重夫に会いに行くことは叶わず(時間が来ると稽古が始まってしまうため)、藤本香織には散々馬鹿にされた。大体、「100字以内で書け」という表現はおかしいと思う。
カルディナ王国が誇る辞典「コウジーエン」には次のように書かれている。
いない【以内】
『それを含み、それよりうちがわ。また、距離や時間、数量などで、それより少ない範囲』
つまり、100字以内なのだから、別に10字や20字で書いたって文句を言われる筋合いはないわけである。それを、あの先生は「最低8割書け」と言う。たかが一教師がコウジーエン先生に逆らってよいのだろうか。零は密かに憤慨していた。
前半100点部分のCLを難なく通過し、いざ問2へ。
第二問 主人公の「僕」は、同じクラスの美咲に、密かに思いを寄せている。ある日「僕」は、親友の健二が美咲に告白しているのを目撃してしまう。本文はそれに続く内容である。これを読んで、以下の問いに答えよ。
…………
例えば、陰謀によって、テスト中もがき苦しむ人がいる。
ぬあ――――!!
問1、「僕」が下線部Aののような気持ちになったのはなぜか。80字以内で記述しなさい。
下線部A『僕は、落ち込む健二を励ましながらも、胸の内で魚が跳ねるような気持ちを抑えられなかった』
汗が額を濡らすのが分かった。そんなことは分かるのに、肝心の答えは全く分からない。ふと前を見ると、藤本香織が邪悪な笑みを漏らしていた。睨み返すと、ますます笑みを深くする。まるで悪魔だ。これからは、彼女をオニではなく、デーモンと呼ぼうと思った。記念すべきデーモン・香織誕生の瞬間である。
そんな零の事情などお構いなしに、時計の針はどんどん進んでいった。
ピラッとページをめくる音が後ろから響く。どうやら明も、CLを終えて小説に入ったらしい。と同時に強烈な視線を感じた。感覚が鋭い零だからこそ、より鋭敏に感じてしまう。明が後ろから凝視しているのは間違いなかった。
こっそりと芽衣の方に目を向ける。彼女は何やら笑うのを必死に堪えるような顔をしていた。
一段と汗が噴き出す。かつて魔獣と戦った時でも、ここまで汗をかいたことがあっただろうか、いやない。
しかし、焦れば焦るほど分からなくなってくる。だんだん、自分が何をしているのかすら分からなくなってきた。
文字の渦に飲み込まれる。
溺れ死にそうになる直前……
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
(色んな意味で)終わりの鐘が鳴った。
◆◇◆◇◆
「数学200点、物理学200点、練金学200点、大陸史200点、言語学……112点」
「相変わらず極端だな、あいつは」
「でも今回は小説で12点取ってる」
「まあ、決して誉められた点ではありませんが…」
片山徹、浅沼幸平、藤本香織の三人は、零の得点について話し合っていた。
彼の得点は、912/1000
今回も、見事トップを飾った。
二位は天戸明。
901/1000 という数字は、普通ならトップ間違いなしの得点だ。彼女も、零ほどではないが、言語学があまり得意ではないらしい。唯一、9割を超えていなかった。
「しかし、レベルが高いな…」
「ええ、そうですねー」
「藤本先生の娘さんだって凄いでしょう?」
「とは言っても、彼らほどではありませんよ。千鶴ちゃんは人間ですから」
「……軽く酷いこと言ってますよね」
香織の黒い発言に、徹は冷や汗を流した。
「普通なら、月下芽衣の得点で十分トップが狙えるんだがな」
「何点だ?」
「827点」
「……そうだな」
「いっそのこと、彼らだけ違う内容のテストにしてみますか?」
「それすらアッサリ解きそうな気がする……」
「同感だな」
「何なんでしょうね、あの二人は」
職員室にて、天戸の二名は密かに人外認定された。
尤も、この事実が零たちにとって笑えないものであることを、彼らが知る由もない。
◆◇◆◇◆
翌朝、神無月瑠璃はいつも通りに登校した。
この前の大会で「無敗」は崩れてしまったが、周りの環境は何一つ変わらなかった。(零と瑠璃の戦いの内容を、何人が正確に理解できているかは甚だ疑問だったが)唯一変わったことと言えば、零との関係を頻繁に聞かれるようになったことだろうか。その度にバクバクする心臓を抑えるのは、瑠璃にとって易しい作業ではなかった。特に、ターナはそれすら見抜いてくる。そのため、顔が赤くなるのを抑える、という作業も加えなければならなかった。ちなみに、全然抑えられてない、というのはターナの談である。
「神無月さん、おはようございます!」
「ああ、おはよー」
律儀に挨拶する男子生徒に笑顔で返すと、彼は赤くなって去っていった。
気にも留めず、自分の教室へと向かう。
掲示板を見て、いつもと違う紙が貼ってあることに気付いた。
赤点補習者
002A 天戸零 (言語学:小説)
(ぷっ! まったくも~)
「うちのダンナったら、しょうがないんだから~」
「ホントそうよねー? ……ってターナ!」
いつの間にか、赤毛の少女が隣に立っていた。
心を読まれたようなタイミングに、動揺を隠せない。
「あーヤダヤダ。朝から脳内ピンク色?」
「ち、違……」
最早たじたじである。
ターナの攻撃は止まらない。
「イチャイチャを見せつけるのは、この前の写真撮影だけで十分でしょ。やめてよ、暑いから。もうすぐ衣替えだし」
「だから違うって……」
「ルリって実はムッツリ? あの写真も、夜中に使ってたり……」
「なっなっなっ何言ってんのー!」
「え? まさか図星? 清楚な顔して意外と……」
「してない! してないから!」
その会話を聞いていた男子生徒全員が真っ赤になり、席を立ったのは余談である。
◆◇◆◇◆
「それで!? 零君はどんな反応してた!?」
「なんか、屍みたいになってたわよ。明さんが入れたコーヒーだけはしっかり飲んでたけど」
「いーなー 芽衣ちゃん、同じクラスになって。なんで私は1年早く生まれちゃったのかなー」
「…仕方ないんじゃない?」
結衣は恨めしそうな視線を妹に向けた。それに対し、芽衣はいたずらっぽく笑う。
「じゃあ、私は上だから~ またお昼ね~」
「うん、また後で」
芽衣と別れ、結衣は二年の教室へ向かった。
「結衣さん、おはようございます」
「あ、葵ちゃん、おはよ~」
「見ました? 天戸零さん、また赤点みたいですよ?」
「あはは、そうだろうな~ って思ってたけどね。何たって零君だから~」
結衣に話しかけてきた少女は、同じく2-Aに所属する柳沢葵である。ちなみに生徒会役員でもあり、会長の千鶴からも頼りにされている。本人は否定するが、かなり整った顔立ちをしており、結衣と並んで2学年の二大美女とも言われるほどだ。(結衣が黒髪のストレートであるのに対し、彼女は天栗色でふわふわした髪が特徴である)そのため、二人が並んで歩く様子はとても人目を引いていた。
「なんか、会長が零さんを役員に推薦してますよね」
「あー この前零君と火花散らしてたよ~」
「もしそうなったら、私はうまくやっていけるでしょうか…」
「それは問題ないよ~ ただ…… うーん」
「何ですか?」
「…やっぱいいや」
「はい?」
複雑そうな結衣の顔を見て、葵は不思議に思った。
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