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孤独と闇と希望と  作者: 普通人
第二章 オダヤカナニチジョウ
25/90

22話 雲の上の戦い 後編

3日間更新できなくてゴメンナサイ~


急いで投稿したので、誤字脱字が多く、読みにくい可能性が大です(汗)

 コンクリートをノコギリで削ったような鈍い音が響いた。


(ま、そう簡単にはいかないよね)


 内心でそう呟くと、零は大鎌を防いだ「物体」を見据えた。

 奇妙な撫で肩、3m程の長身、無機質な表情


≪召喚魔法:土人形(ゴーレム)


 ゴーレムはその太い腕で零の氷の鎌を掴むと、そのまま粉々に握り潰した。

 なおも、未だ空中にいる零に殴りかかる。

 零は体を捻り、足をゴーレムの方に向けると、その腕の動き合わせて膝を曲げ、バネの原理を用いて瑠璃と大きく距離をとった。


 零は一旦深呼吸すると、頭を回転させる。

 斬撃武器は相性が悪い。土人形を撃破する方法は主に二つ。

 (ランス)で貫くか、大槌(ハンマー)で粉砕するか。

 ただ、どちらにしろ今の零には問題があった。

 確かに氷を纏わせて武器の形を変えることはできる。しかし、それはあくまで「形状を変化」させているだけであり、実際の武器より性能は大きく劣る。

 故に、撃破するまで零の武器の耐久値がもたない可能性があった。


 土人形(ゴーレム)はとにかく 堅い。

 動きは鈍いが、その分普通の攻撃や魔法ではびくともしない。

 攻撃が二発入って、何とかなるかどうか五分五分という所だろう。


「―――!」


 完全に油断していたためか。一瞬判断が遅れた。

 零がそれに気付くことができたのは、背後で何かが風を切る音が聞こえたからだ。

 後ろを振り向く間もなく、本能に従って全身のバネを左に傾ける。

 爆音と共に、零が今いた場所には巨大な拳が降ろされていた。


(もう一体いたのか……)


 土人形(ゴーレム)―――しかし普通のものではない。

 さっきのとは違って、コイツは手の部分だけが異常に大きく、代わりに全身が細い。その姿は異形。存在は不気味そのもの。


≪召喚魔法:狂った土人形マッド・ゴーレム


 ただのゴーレムよりも動きが速く、かつ攻撃的なゴーレムの亜種。このゴーレムは厄介なことに、知能が低過ぎて感情というものを持っていない。つまり、殺気がないということだ。零は基本、殺気を頼りに攻撃を察知するので、このような敵とは非常に戦い辛い。瑠璃もそのことを計算に入れて召喚したのだろう。“古池”が召喚の名門だと言うのが馬鹿らしくなってしまいそうな鮮やかさだ。


 零は天を仰ぎ、二匹のゴーレムと、さらなる術式を展開させる瑠璃を眺めた。


◆◇◆◇◆◇


「あっはっは! 随分とやられてるじゃない!」


 派手な格好の女が笑い声を上げた。

 その横には白いスーツの男。


「イリス様もえげつないことするわねー なに? 惚れたコはいじめたくなる性格?」

「うるさいぞ。少しは落ち着け」


 男は呆れたように言いながら足を組み替えた。

 その仕草は様になっていて、赤い薔薇を持っていたら間違いなく絵になるだろうと思わせる。


 二人の存在は誰から見ても異常だった。

 まず彼らがいる場所。それは観客席ではない。そこよりもずっとずっと上の方。

 つまり空中だ。

 空中に二人の大人が浮いていた。男の方は腰まで掛けている。

 さらに、そんな目立つ行動をしているにも関わらず、騒ぎだす人間は一人もいない。と言うより、誰も彼らに気付いていない。


「まー 今回の戦いは【万能者《オールマイティ》】には制限が有り過ぎるかしらね。武器も魔法も満足に使えないなんて、さすがのあのコでもキツイでしょー」

「それでも、奴がアッサリ負けるとは思えない」

「あら、アンタはそっち派?」

「どちら派でもない。私は私の意見を言っただけだ」

「フン」


 つまらない奴だとでも言いたそうに、女は鼻を鳴らした。

 それを気に留めた様子もなく、男は微笑を浮かべて観戦する。


「お前は見たことがあるか?」

「はぁ?」

「お前はあの目を見たことがあるか?」


 男に言われ、今戦っている少年の目を見る。途端、背筋に悪寒が走った。

 氷のような瞳。

 戦いながらも、全く別のこと(・・・・・・)を考えているような目。


「……ナルホドね」

「ああ、たぶんな」

「だったら、久しぶりに拝ませて貰おうかしらね。あのコの特技を」


 再度笑顔になった女が笑う。

 風に揺れて、アクセサリーが「リンッ」という音を響かせた。


◆◇◆◇◆◇


 足場が全て火の海になった。

 零は薙刀に形状変化させた武器を用いて地面を円錐状に抉り取り、瑠璃の炎が進入できない足場を作り出す。


 29……28


 その少ない足場を目掛けて、二匹のゴーレムが零に襲いかかった。

 その4本の腕を避けながら、零はタイミングを見計らう。


 16……15


 瞬間、零の目の前に火柱が上がった。瑠璃の魔法によるものだ。それを確認して、零は魔力を練る。


≪武器形状変化:大槌(ハンマー)


 そのまま大きく振りかぶり、ゴーレムに向かって振り抜いた。


 9……8


 零の大槌が砕け散る。

 その一撃によって大きくバランスを崩したゴーレムが、瑠璃の炎の渦に飲み込まれていった。

 一体撃破。

 しかしもう一体いる。

 マッド・ゴーレムは、武器も持たず、大きな隙を作った零に、容赦なく拳をおろした。

 もちろん、零は無抵抗である。


(あれ? いけるかな?)


 瑠璃が僅かに勝利を思った。

 疑問形なのは、この程度で目の前の少年が倒せるとは思っていなかったからである。零は、今までどんなに劣性でもそれを覆してきた。相手に安心感を与えることすら、彼の計算の内なのだ。ならば今回も……


 瑠璃がそう感じた瞬間だった。


 1……0


 時間差展開(トラップスペル)発動


≪召喚魔法:氷狼アイス・ウルフ


 三匹の真っ白い狼が、地面から突然現れた。

 それらはゴーレムの腕を噛み千切り、瞬く間に氷漬けにする。

 零はゴーレム二匹の四本の腕を避けながら、その勢いも利用して一カ所にダメージを与え続けていたのだ。

 瑠璃の予想が見事に的中した、ということになる。



 時間差展開(トラップスペル)

 これは大陸で【万能者《オールマイティ》】にしか出来ないと言われている技である。

 その理由は二つ。

 一つは、たとえ出来たとしても、タイミングが合わなければ意味がない上に、魔力の無駄使いになるということ。

 もう一つは、そもそもの魔力のコントロールが限りなく不可能に近い、ということだ。


 これを使うには、一度構築した魔法を展開させずに留めておく、という離れ技を行わなければならない。

 ある研究者曰く、『つまようじの上に鉛筆を乗せ、その上に槍を乗せて、さらにその上に木の丸太を乗せたものを、指一本でバランスをとることより百倍正確なコントロールが必要』らしい。

 ちなみに、この話を聞いた零が、「それは指が痛そうだ」などという180度ズレた感想を述べた時は、《組織》の人間全員が驚きを通り越して呆れた、というのは余談である。



 形成逆転。

 瑠璃はその状況を冷静に分析した。

 自分のゴーレムはことごとく破壊され、逆に零の周りには氷狼が三匹。

 さらに零の術式が発動した。


≪理魔法:氷:暴風雪(ブリザード)


 吹雪が吹き荒れる。

 瑠璃が作った火の海は見事に氷漬けになり、歪な氷山がいくつも出来上がった。

 しかも、白い雪に溶け込んで氷狼の姿が見えない。



 彼らの術式は天災に匹敵する。

 それ故に、今の狭い(?)場所を吹き飛ばさないよう、威力をかなり抑えている。


 勝機があるとすればそこしかない。


 瑠璃は目を≪強化≫すると、吹雪の中を動く影を探った。


(いた……!)


 まず一匹、見つけた瞬間に術式を構成、展開。


≪理魔法:火:炎渦陣(エル・ファイア)


 一撃で氷狼を撃破。

 続いて二匹目、三匹目も同様に撃破。

 残るは零だけ……


 その瞬間、蛇のように姿勢を低くして疾走しながら、零が小刀を振り抜いた。

 全身のバネ、遠心力、全てを左手に集中させた最速の一撃。


(間に合うか……!)


 瑠璃は魔力を練ると、自分と小刀の間に土の壁を作り、その一撃を防ぎきった。




(ふぃ~ 間に合った)


 瑠璃は手で汗を拭く。

 零の氷狼は全て撃破した。

 零の最速の一撃も防いだ。

 これでまたお互い――――ん?


 瑠璃は零の顔を見て思考を止める。

 笑っていた。

 思わずその笑顔にドキッとなる。


 零は指をパチンと鳴らした。

 氷狼が瑠璃の背後に現れる。


(あっ、もう一匹……)


 それは先程自分が零に仕掛けた戦術。

 しかも、この時の瑠璃は完全に無防備だった。


 氷狼が瑠璃へ向かう。


「チェックメイト」


 パリン


 小さな音と共に、瑠璃の防具が破壊された。



「最後油断したね」

「いや、それは……」

「ん?」


 零の笑顔に見惚れたから……と言いかけて、慌てて口を噤む。

 そんなこと恥ずかしくて言えない。


「どうかした?」

「……何でもない」



『優勝は天戸零さんです!!!』



 大歓声の中、零と瑠璃はお互い笑い合った。


次回は校内模擬大会編ラストです~


感想、意見などが御座いましたらどうぞ~

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