20話 あちこちで
今回は極端に短いです。
ちなみに、主要キャラは出ません。
ごめんなさい~
「負けたわ」
「千鶴、お疲れ。でもよく頑張ったじゃないか」
宮城進は戻ってきた幼馴染に声をかけた。
「これで決勝はあの二人ねぇ」
「ああ、全てお前の言った通りになった」
「うふふ、これで卒業まで、私のお昼は進の奢りね」
進は笑う千鶴に向かって苦笑いを返した。
「それにしても……何かしらね。あの規格外な展開速度」
千鶴の言葉に無言で頷く。それは進も思っていたことだった。
天戸零にしろ神無月瑠璃にしろ、「術式」の展開スピードが速過ぎる。
月下結衣との試合でもそうだったが、最後に彼が使った術式はほんの一瞬の間に構築された。あれでは動きようがない。
(俺の時はほとんど体術だけだったが…)
やはり手加減されていたのは間違いなさそうだ。
怒りはない。むしろ感謝している。
実力も出せないまま負けてしまったら、卒業後の進路にも影響が出る。取りあえず、自分の力はどこかのお偉いさんに見て貰えただろう。
(彼らは……卒業後どうするのだろうか)
圧倒的な力を持つ二人のことを考えた。
零と瑠璃が、それでも実力のほんの一部しか出せない状況にあるとは、彼らに知るよしもない。
◆◇◆◇◆
~職員室~
「やはり、こうなりましたか」
教頭、ケビン・フロルは眼鏡をかけ直した。
先程、神無月瑠璃が勝利し、決勝はイレギュラーな二人の対戦となった。予想はしていたものの、実際そうなってみるとやはり驚きを隠せない。
「さて片山先生、天戸零のAクラス昇進は決定でいいですね?」
「……俺、結構アイツ好きだったんですけどね」
片山徹が少し残念そうな顔をする。
スペックが高いくせに、妙にいじりがいのある零を、徹は気に入っていた。
それを見た浅沼幸平が口を開く。
「徹、諦めろ。天戸の力はさんざん見たはずだ。少なくとも学生時代のお前よりは強い」
「んだ? それを言うなら幸平だって同じだろ」
二人は学生時代からの同期だ。故にお互いを名前で呼び合い、時々このような口論が起こる。別に仲が悪いわけではなく、むしろ逆でとても良い。それがわかっているので、ケビンは二人を放置して藤本香織へ顔を向けた。
「藤本先生、またもう一人増えることになりますが、よろしいですか?」
「はい! まあ、生憎彼とは面識がありますからね」
「…ああ、なるほど」
そう。
彼女の担当科目は「言語学」
天狗になりがちなAクラスの生徒の豊かな人間性を育むための大切な科目。
そして、零が最も苦戦している科目。
(どうなることやら)
ケビンは腕を組むと、書類に目を落とした。
◆◇◆◇◆
「さぁて、いよいよかしらね」
女の活発な声が響いた。東国の言語ではない。
その声は弾むような口調で、パーティー前の子供達を連想させる。
服装は極めて派手だ。
全身にアクセサリーを取り付け、歩く度に金属音が響く。
しかし、誰も女の方を振り向かない。
あまりにも目立つ格好のはずなのに、すれ違った人でさえもその女に目をむけようとしない。否、女に気付いていないのだ。
別にそれに気にした様子もなく、むしろ当然だという顔で女は人々の中を歩く。
「……あららら」
突然足を止めた。
苦い顔をしながら、向かってくる人影を眺める。
その人物は白いスーツ、白い帽子、赤いネクタイ、それに、口元には微笑を浮かべていた。
今朝のキザったらしい男だ。
それを確認すると、女は耳についたリングに指を通し、リィィンと音を響かせた。
「「「!?」」」
人々が驚いた顔で女を見る。
100人いたら100人が振り向くであろう格好をした女に、今まで気付かなかったことを驚愕した。
異質なこと。
普通なら有り得ないこと。
それでも、その現象は確かに起きた。
「アンタも観戦?」
さっきとは違う言語で白いスーツの男に問いかける。
この言語を知らない人間はいない。
大陸共通言語、別名CL(Central Language)と呼ばれるものだ。 問いかけられた男も同様の言語で答える。
「もちろんだ。こんな面白い戦いを私が見逃すと思うか?」
そう言って帽子をかぶり直す。
女は嫌そうな顔をした。
「まあ、誰かに会うんじゃないかとは思ったのよ。よりによってアンタとはね」
「お前は何のために来た? まさか貴様が観戦のためにだけにわざわざ西から来るとは思えない」
そう言う男に対し、女は得意気な顔で鞄に手を入れた。
中から数枚の写真が現れる。
それに、納得したように頷いた。
「なるほど。隠し撮りとは相変わらず趣味が悪い」
「苦労したのよ。あのコの気配察知力は尋常じゃないからね。このアタシが660m離れた暗闇から、細心の注意を払って撮影したのよ」
「高性能なカメラを無駄なことに使うな」
男が呆れたように言い放つ。
真横にいても気付けない程に気配を殺せる彼女が、そこまでしなければならない人物。
その人物に驚きを表さないのは、それが当然のことだからか。
「ま、おかげでたんまり儲けたけどね。売り上げは想像以上よ」
「フッ 奴も大変だ」
写真を見ながら男が笑う。
「あー ところでアンタだけ? もう一人ぐらい来るんじゃないかと思ったけど。婆さんとか、どうせ暇でしょ?」
「直接は来ないだろう。もしかしたらその辺に目が浮いてるかも知れないぞ」
「……気持ち悪いこと言わないでくれる?」
女はゲンナリした顔をした。
「それなら、あの熱血バカは?」
「『制御状態での戦いなんかつまらない』とか言ってた」
「………いや、全力でやられたらこの国なくなっちゃうでしょ」
「それだけで済めばいいがな」
聞いたら目ん玉が飛び出そうな話を、平気な顔をして語る。
「アンタは聞いてる? 今度の集まりのこと」
「聞いている。再来月の17日に中央に集合というものだろう?」
「そう。なんか『牙』の連中が動いててね」
「キバ? 東寄りの……この国の周辺ではないか」
「だからアタシがここにいるのよ。もう少ししたらまた潜ってみるつもり」
アクセサリーを弄びながら楽しそうに言う。
一方の男はヒュ~と口を鳴らした。
彼らの腕には、零や瑠璃と同じような黒い腕輪がついていた。
次回は決勝戦になる…かな?
毎度読んで下さってありがとう御座います~