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孤独と闇と希望と  作者: 普通人
第二章 オダヤカナニチジョウ
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18話 天戸零vs月下結衣

 夜が明けた。

 闇の中を降り注いでいた金色の光も、太陽が発する透明な光に飲み込まれ、夕べの出来事がまるで夢だったかのように思わせる。零は昨夜、重夫と別れた後、ずっと変わりゆく空を眺めていた。


 考えたいことが山ほどあった。

 自分のこと、明のこと、《組織》のこと

 考えて答えが出るわけもないが、それでも考えずにはいられない。しかも、こういう時はどうも悪い方に考えがちだ。今、零の頭の中には、考えうる限り最悪のシナリオが出来上がっていた。運が悪いことに、筋もしっかり通ってしまう。


(やめよう……)


 そう思って立ち上がると、隣の部屋へ向かった。

 白い髪と白い肌の少女が静かに眠っている。その様子は、どこかの絵本に出てくる人形のようだった。零は腰をおろすと、明のやわらかい髪を撫でる。


「……一体、何のために造られたんだろうな」


 返ってくるはずもない答えを求めて、零は未だ眠り続ける少女に問いかけた。


◆◇◆◇◆◇


 目覚ましの音で目を覚ました。

 いつもと違う天井。

 そう、昨日は月下家に泊まったのだった。


 明は奇妙な違和感を感じたまま寝返りをうつと、再び目を閉じた。

 月下家は本当に広かった。今寝ている部屋だけでも、零のマンション全体くらいの広さはあるかも知れない。

 部屋は障子と襖で区切られており、お風呂は伝統的なヒノキ風呂。お風呂が好きな明としてはとても嬉しいことだった。布団も、やわらかくて気持ちが良かった。


「アカリー 起きろー」


 聞きなれた声がして目を開けた。

 黒髪の少年の顔が目の前にある。


「アカリ、お早う」

「………」

「おーい、起きてるかー」

「………――――っ!」


 そこでようやく何が起きているのか気が付いた。部屋に零がいる。それはつまり、寝顔を間近で見られたということだ。恥ずかしさのために、真っ赤になって跳ね起きる。その反応に、零は「おおっ」と言って後ずさった。


「いつから……」

「ん?」 

「いつから……いた?」

「あー 十分前くらい?」

「あ……う」


 両手で顔を覆う。

 明はそのまま部屋を飛び出していった。


◆◇◆◇◆◇


「それはあんまりじゃないかしら~?」

「……申し訳ありませんでした」


 現在、零、土下座中。

 大陸最強の【万能者《オールマイティ》】が土下座をしているところなど、《組織》のメンバーが見たら目を丸くするだろうか。いや、むしろ大爆笑するか。

 しかし、これは仕方のないことだ。

 とてつもない笑顔でどす黒いオーラを纏う結衣と、とてつもない怒り顔で木刀を向ける芽衣、それに鏡花が加われば、プライドだの恥ずかしいだのと言っている場合ではない。こういう場合は素直に頭を下げるのが一番なのだ。


「それで~?」

「はい?」

「どうして十分も眺めていたのかしら~?」


 結衣と芽衣の気配が一層鋭くなった。どうやらこの返答次第で、今日学校に行けるかどうかが決まりそうだ。うまくいけば無傷で済む。だが、逆に大ダメージを負う可能性もある。それ故、慎重に言葉を選ばなければならない。まずは当たり障りのないところから攻めていこう。


「えーと、少し考えたいことがありまして」

「あら~ エッチなこと?」


 なんてことを言うのか。

 まるで開始一手目で王手をかけられたような気分だ。しかも、その横を飛車と角で武装している。これは相当うまくやらないと切り抜けられそうにない。

 とりあえず防御だ。守りを固めなければ負けてしまう。


「何を言ってるんですか鏡花さん。そんなことあるわけ――――ってちょっとタンマ! 違うから! 違うって!」


 鏡花の言葉で竜と馬に進化した姉妹が襲いかかってきた。鬼のような形相のふたりに命の危機を感じた零は、慌てて弁解する。それを見た鏡花はイタズラっぽい笑みを浮かべた。

 策士だ。

 間違いなく鏡花さんは策士だ。

 そう思いながら、自分の今朝の行動を後悔した。こんなことになるなんて夢にも思わなかった。どうやら、年頃の女性の寝顔を見るというのは大変なNGだったらしい。


「零、ちょっとこっちに来い」

「はい! 何でしょう師匠!」


 天の恵みとばかりに重夫のところへ飛んでいく。こういう時の重夫は期待を裏切らない。きっと何かいい解決案を提示してくれるはずだ。


「この状況を脱したいか?」

「はい……」


 是非。

 心の中で叫びながら、恩師の小さな声に耳を傾ける。


「だったらな……あの二人の耳元でこう囁くんだ」

「はい……」

「―――――ってな」

「……え、それだけですか?」


 なんとも普通の言葉に、零は拍子抜けたように聞き返す。それに、重夫は笑って頷いた。


「いいからやってみろ」

「……わかりました」

 

 有言実行。

 すぐに二人に近付いて、耳元で囁く。


「『俺は笑ってる君達が好きだ』(棒読み)」

「えっ」

「なっ」


 効果はてきめんだった。ボッと音がしたかと思うと、突然湯気が上がる。

 予想外の効き目に驚きながら、心の中で重夫に感謝した。どうやら危機は乗り越えることができたらしい。



「面白いな」

「ええ、面白いですね~」

「ははははは」

「ふふふふふ」


 影で大人ふたりの不気味な笑い声が響いた。


◆◇◆◇◆◇


 今日行われるのは二試合だけである。


 藤本千鶴vs神無月瑠璃

 月下結衣vs天戸零


 くじ引きの結果、零の試合が午前、瑠璃の試合が午後になった。

『只今より、準決勝戦を開始します。0824A 月下結衣選手、322E 天戸零選手はステージ中央へお集まり下さい』


 放送を聞いて立ち上がる。


「じゃあよろしく、結衣」

「うん! 久しぶりだね~」


 もうすっかり普段通りになった結衣が嬉しそうに髪を結って刀を手に取る。それほどこの試合が楽しみだったということだろう。確か、戦ったのは4年前の道場での稽古が最後だったはずだ。


(あれからどれくらい成長しているのか……)


 楽しみにしていたのは零も同じだった。結衣は昔から、速さだけなら重夫に匹敵するのではないかと思わせるほどの才能を発揮していた。ただ制御が甘く、一振り目を避けられると大きな隙が生まれる。


「試合開始!」


 魔力を練ったのは同時だった。お互いに魔力を体内に循環させる。


≪身体強化≫


 そのまま結衣は刀を構えた。刀身を地面と平行にして先端を零に向け、息を大きく吐く。

 ―――陽の構え

 先程までののんびりした表情の面影はまるでなく、別人ではないかと思わせるほどの空気を纏った。なんとも懐かしい空気だ。


 地面を蹴ったのは一瞬。

 その一瞬の間に、結衣の刀は零の目の前にあった。


 想像以上の速さに判断が遅れる。(すすむ)の強化した状態よりもさらに速い。おそらく纏う魔力の密度の違いだろう。 零は刀の軌道を、結衣の腕を半径とした円運動の計算を用いて弾き出し、持っていた小刀で冷静に受け止めた。

 続いて結衣の薙払い

 これは今見た速さから結衣の筋力を推測し、そこから導き出される加速度から刀が届くまでの時間を計算してかわす。

 最後の突き。

 零はこれを待っていた。

 自ら前進すると結衣の懐に潜り込み、隙だらけの右腕を掴んで投げようとした(・・・・・)


(……?)


 異変に気付く。

 強化されているにも関わらず、結衣の抵抗する力はあまりにも弱かった。不審に思って確認すると、結衣の≪強化≫が解けている。代わりに左手に魔力が集中していた。


(マズイ……)


 急いで投げるのを中断すると魔力を練り、大気中の水分を凝縮させる。

 結衣の左手から雷が放出されると、間一髪のところで零の氷の盾がそれを防いだ。

 休む間もなく、結衣が長刀を逆手に持ち替える。

 結衣の左手からの攻撃に気をとられて、右から攻撃に対する注意が疎かになった零に、容赦ない一撃が迫る。


 一方の零の判断も早い。

 前か、後ろか。

 考えるより先に体は走り出し、結衣に向かって体当たりをする。宙を舞いながら放った結衣の一撃は、紙一重の距離を残して空を切った。


 目の前で繰り広げられる攻防に、観客全員が釘付けになる。もはや子供同士の戦いではない。達人同士の戦いと言っても、誰も異論を唱えないだろう。


 結衣が構えを変えた。

 今までの構えと違って、今度は刀を下段に構える。

 ―――陰の構え


 力で押す『陽』とは逆に、『陰』は相手の力を利用する構え。故に≪強化≫を施す必要がない。

 零は距離をとった。

 無闇に攻撃するのは危険だと判断したからだ。そのまま利用されてカウンターを食らう可能性がある。


 そう考えるのも束の間、結衣の周囲に魔力が集中していった。その魔力の質に眉をひそめる。

 これは「魔法」ではない。もう一段階レベルが高いもの……


 判断すると同時に、魔法陣が現れる。

 魔法の上級技「術式」


≪理魔法:雷:閃光雷鳴弾(スパークプラズマ)


 広範囲の空間に電撃が走る。

 いくつもの雷が落ち、零の周りの地面が窪んだ。

 命中するのは時間の問題か。

 いくら零でも、雷の落下点まで割り出すことはできない。

 零は走り出すと、唯一の安全地帯に向かった。その場所とは結衣の周辺だ。


 結衣は零が近づくのを確認すると再び構えを変えた。

 刀を鞘に納め、目を閉じる。

 ―――抜刀一線の構え


 実戦においては、対戦者のどちらがどれだけ早く相手の急所に手を伸ばせるかが勝敗を決める。

 この構えは、それを念頭に置いた『月下流』の真骨頂。

 鞘走りを利用した東国最速の剣技。


(……なるほどね)


 結衣の気迫に、零は唇の端を僅かに釣り上げた。

 『陽』で打ち合い、『陰』で距離をとらせ、『術式』で攻撃。そこで近づいてきたところを『抜刀術』で迎撃する。


 おそらく前もって考えておいたであろう作戦だ。零が夜、つまらないことで悩んでいる間、きっと結衣は布団の中で賢明に考えていたのだろう。

 今日のこの時のために。


 ならば、それに真っ向から立ち向かわなくてはならない。


 零は足を踏み出した。

 結衣の抜刀術の射程範囲は半径23mから。もうすぐその射程に入る。

 零は全身の神経を集中させ、五感を使って空気の流れを感じ取った。

 「感覚」が上か。

 「速さ」が上か。


 零はその射程に足を踏み入れた。



戦闘描写……書きにくいですね。


読み辛かったら申し訳ございません…

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