表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独と闇と希望と  作者: 普通人
第二章 オダヤカナニチジョウ
20/90

17話 黄金の夜

重要な回になります。


やっとストーリーが……ちょっと進んだ。

 宮城進は生徒会の仕事を終えると、荷物をまとめて帰る準備をした。

 今日は大変な一日だった。

 大会の運営をしながら、自分も試合がある。しかも、4学年生である進にとっては非常に大切な試合だ。

 負けてはしまったが、自分の力を出し切れたので不満はない。いや、出させて貰ったと考えた方がいいか。おそらく天戸零は、進が力を出し切れるように手加減して戦っていた。端から見ればほぼ互角だったように見えるかも知れないが、実際に戦ってみると嫌でもわかってしまう。彼と自分では天と地の差がある。


(あの頭脳には驚いた)


 握手をしただけで進の武器を判断したであろうその分析力。

 一瞬で相手の癖を見抜くその洞察力。


 もはや超能力の域まで達していると言っても過言ではないだろう。むしろ超能力であると言って貰った方が納得できる。


 そのまま幼馴染の少女を見た。

 藤本千鶴

 この学校の生徒会長


 彼女は天戸零と神無月瑠璃を生徒会に入れたいらしい。そのために今、策を練っているとかいう話だ。


(まさか…藤本先生の力を使うつもりか?)


 何か企んでいそうな千鶴を見て、女の怖さを再認識した。


◆◇◆◇◆◇


 結局、夕食は玉ねぎと米をバターで炒め、白ワインと魚介類、肉、あわび等を盛り込んだものになった。

 名付けて「地中海風山菜リゾット」

 なるべく脂肪分を抑え、野菜で栄養バランスも整えた。我ながら良い出来である。


「「「御馳走様でした!」」」

「お粗末様です」


 零は全員の満足そうな表情に、ホッと胸を撫で下ろした。不評になるとは思わなかったが、やはり多少の緊張はするものである。


「将来が楽しみねぇ~」

「? どういうことですか?」

「一体どちらを選ぶのかしら~」


 何やらニヤニヤした顔を自分の娘達に向ける。その視線に気づくと、二人はボッと赤くなって目を逸らした。そのままアカリに目を向けると、不機嫌そうにこちらを見ている。

 

 どうやら、事情が飲み込めてないのは自分だけのようだ。


「零くんは相変わらずねぇ~」

「……鏡花さんに言われたくないんですけど」

「零、お前は変わってないな!」

「……師匠にも言われたくありません」

「零、バカ」

「なんでアカリまで!?」


 理不尽ではないか。

 そんな零を尻目に、結衣と芽衣はお互いに小さく火花を散らしていた。


◆◇◆◇◆


 夜

 

 重夫はひとり、庭に腰掛ける。


 今宵は月が綺麗だ

 まるで空が金の山をひっくり返したような色をしている。


 そんな月を眺めながら、無言で時を刻む。



「風邪を引きますよ」


 声がした方を見ると、鏡花が立っていた。

 手にはお酒を持っている。


「おお、悪いな」

「いいえ それより、何を考えていたんです?」


 鏡花の問いに、重夫は答えなかった。いや、それが答えと言ってもいい。

 そんな義父に対して、鏡花は笑いながらお酒を注いだ。


「嬉しそうでしたね、あの子達」

「…そうだな」

「あんな表情を見るのも久しぶりじゃないかしら」


 夕食時の様子を思い出して微笑んだ。


「6年前に零くんが来るまで、あの子達は抜け殻みたいでしたから」

「それはお前もだぞ」

「……え」

「アイツが死んでから、お前は時々魂が抜けたような顔をしていた。気がつかなかったか?」


 義父の言葉に、驚いた表情を見せる。

 重夫は笑って注がれたお酒を口に運んだ。


「そう…でしたか。気づきませんでした」

「無理もない。お前は誰よりも、この家を守ろうと必死だったからな」



 月下家から笑顔が消えた日

 自分が信じていたものが、大切な人を奪っていった日


 そんな時、国が保護した零を預かるよう命令が来た。


「あの時はどうなるかと思いましたけど…」


 鏡花の言葉に苦笑を返す。

 当時、子供を預かる余裕など、鏡花と重夫にはなかった。

 まだ幼い孫たちの心のケア、そして自分の心の整理

 それだけで頭が一杯だった。

 

 それでも、重夫は零を引き受けた。


 理由はひとつ。


 息子に似ていたからだ。


 顔や体格が、という意味ではない。

 その目、空気が似ていた。


「俺は息子の育て方を誤った。優しいアイツに、ただ人を殺し、叩きのめすだけの剣を教えちまった」


 それは重夫の中で、一生続くであろう後悔。


「だからな、言ってみれば零は俺の罪滅ぼしみたいなモンだ」


 殺すための剣はやがて自分を殺す。

 このままでは、目の前の少年は自分の息子のような最期を辿ると思った。


「結局、俺は自分のために零を引き取ったんだ」

「でも、零くんにとって、お義父さんは恩人です。あの子達にとっても、そして私にとっても」


 鏡花の強い言葉が響く。

 それは、重夫の胸に溶けていった。


「……そうか。すまないな鏡花。お前には助けて貰ってばかりだ」

「いいえ 私こそ、お義父さんがいなかったら今こうして笑えませんでしたから」


 月明かりの中、二人は笑い合った。

 互いの存在を確認し、互いに感謝するように。



「零は道場の方か?」

「ええ、そうだと思います。何か?」

「…ちと、話したいことがあってな」


 そう言うと、重夫は黄金の光の中を歩き出した。


◆◇◆◇◆◇


 神経を集中させる。

 何一つとして動くものはない中、零は刀を取った。

 

 鳴神【雷切】


 重夫が打った刀にして、月下家の家宝

 同時に零の刀でもある。


 ゆっくりと息を吐く。


 抜刀


 その瞬間、今までの静かな空気が爆発したかと思うほど、零の『気』が変わった。

 感情という感情が消える。

 感覚が研ぎすまされ、全てが刀を振るためだけに機能する。


 そのまま一線。


 形のない大気に傷をつける。

 その傷が塞がる前にもう一線。


 目にも止まらぬ速さで刀を振るう。


 一通りの型を確認し、そこで刀を納めた。



「見事だな」


 道場の隅から声が響く。それは恩師である月下重夫だった。


「4年ぶりに刀を取ったとは思えない」

「俺の戦いの全ての核になってますからね。体に染み着いたままですよ」


 零は笑うと、刀を置く。



「零、お前に話しておきたいことがある」


 重夫がただならぬ雰囲気で言葉を発した。恩師のそんな態度に、零も正座をして姿勢を正す。普段は打ち解けたように話しているが、こういう時は正座をするのが零の中でのケジメだ。


「いいか、これから俺が話すことは証拠も何もない。単なる俺の想像だ。故に聞き流して貰っても(・・・・・・・・・)構わない。だがお前には一度、話しておきたかった」

「? はい」


 聞き流して貰っても構わない、という言葉に疑問を浮かべた。大抵、重夫がこの空気を纏う時は大切なことを言う。それを聞き流してもいいとはどういうことなのだろうか。


 零の疑問を余所に、重夫はなかなか口を開かなかった。まるで、何か躊躇っているようにも見える。

 零はひたすら待った。



「……お前が出ていってから、ずっと考えてたんだ」


 ようやく重夫が口を開く。

 零は黙ってそれを聞く。


「お前は研究者達に作り出された。そうだな?」

「はい」

「お前にはありとあらゆる人間のDNAが含まれてる。そうだな?」

「……はい」


 重夫が何が言いたいか理解出来ず、ただ頷く。





「おかしいと思わないか?」






 おかしい? なにが?


 零が科学者達に作られたことの一体何がおかしいというのだろうか?


 だが、零は嫌な汗が額を濡らすのを避けることが出来ない。


 なおも重夫が続けた。


「お前が完成するまで、ありとあらゆる実験を積み重ねたはずだ。時には失敗し、一からやり直したこともあったかも知れない。それは一体どのくらい時間がかかったんだ? 行われていた場所は? そして……」


 一旦言葉を切って告げる。





「その費用(・・)はどこから来る?」





 空気が止まった。

 蛇に睨まれた蛙のように動けない。



 考えたこともなかった。言われてみれば、疑問に思わない方がおかしい問題だ。


 零を作り出すため、あの研究者達は莫大な資金を必要としたはずだ。


 研究機材、施設、土地

 そして過去の偉人のDNAサンプル


 その入手源は?

 そのルートは?

 その費用は?


 とてもただの研究者達で解決できる問題とは思えない。


 そんなことが出来るとすれば……



「わからんぞ。言っただろう? 確証も何もないただの想像だ」

「………」

「だがな、そういう可能性もあるって話だ」



 それが事実だとすれば、「戦争用人型兵器」である零は、また別の目的があって作られたことになる。



 まさか【神々の黄昏《ラグナレク》】は予定されていたものだとでも言うのだろうか。




 ……その場合



 アカリは一体……




次回は零vs結衣になります。


少し遅れるかも知れません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ