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孤独と闇と希望と  作者: 普通人
第二章 オダヤカナニチジョウ
19/90

16話 天戸零vs天戸明

たくさんのご意見ありがとう御座います!

 藤本千鶴

 神無月瑠璃

 月下結衣

 天戸零


 決勝トーナメントの1日目は、結局この4人が勝ち残った。

 明日は藤本千鶴vs神無月瑠璃、月下結衣vs天戸零 という組み合わせになる。


 零にとっては予定通り。

 だが多くの人間にとって、それは異例の事態でしかない。

 零はEクラスの人間で、しかも1学年だ。国中のエリートが集まるこの学校で、それは本来あり得ない。

 当然のように、注目の的になった。


「……疲れた」


 ドサッ という音を立てて零が倒れ込む。

 今までの《組織》の任務でも、ここまで疲れを感じたことはなかった。月下家を出てから、ほとんど一人だったことも影響しているのかも知れない。そもそも、大勢の人に囲まれることに慣れていないのだ。


「大丈夫? まあ、私も最初はそうだったよ」


 声がした方を見ると、瑠璃が缶コーヒーを持って立っていた。

 ありがたい配慮に、お礼を言ってコーヒーを受け取る。


「リリ、そう言えば一つ聞きたいことがあったんだ」

「うん? なに?」

「……カレーニナ先輩だけど」

「……ああ、会ったの?」


 瑠璃の言葉に無言で頷く。

 そんな零に対して、表情を暗くした。


「別に零が気にする必要なんてない」

「出来ることだけでもしておきたいんだ。それで償えるとは思わないけど」

「償うなんて言わないで」


 瑠璃が悲しそうな表情を見せた。

 懇願しているようにも見える。

 そんな瑠璃に笑いかけた。


「全て背負うことに決めたから。何もかも自分がやってきたことは、全部」

「……」

「どこ?」

「……北カルディナ総合病院、だったと思う」

「総合病院か…… まだいい方だ」

「うん……」

「リリ」

「……」

「ありがとう」


 その言葉に込められた二重の意味を瑠璃は理解した。否、理解してしまった。

 そのために

 ただ黙って立っていることしかできなかった。


◆◇◆◇◆◇


「そうだ~ 今日は久しぶりにウチに泊まったらどうかしら~?」

「はい?」

 瑠璃と別れると、いきなり鏡花が話しかけてきた。

 それは意外な提案。

 突然のことに驚いた声を出した。


「どうかしら~ お義父さんも賛成よねぇ~?」

「そりゃあいいな! どうだ零?」

「あぁ、でも……」


 四年ぶりの月下家

 行きたくないと言えば嘘になるが……


「アカリがいますから」


 そう、明がいる。

 零が泊まることになれば、彼女はひとりになってしまう。いくら鏡花の提案でも、それはできない。


「だったら、明ちゃんも一緒に来て貰えばいいじゃない~ 知ってるでしょ? ウチは広いのよ~」

「まあ、そうですけど……」


 確かに月下家は広い。零と明の二人どころか、団体で訪れてもまるで問題ないだろう。


「零くんの部屋も、あの時のままにしてあるのよ~ 掃除だってしてるわ~」


 暖かい目。

 月下鏡花特有のものだ。

 

 零はこの人の空気が好きだ。一緒にいると、こっちまで和やかな気持ちになる。

 重夫に目をやる。

 いつものように笑っていた。


「……では、アカリに言ってみます」

「そうこなくっちゃ~ 楽しみにしてるわ~ あの子達にも伝えておかないと~」


 嬉しそうに走り出す鏡花に、自然と笑みがこぼれた。


◆◇◆◇◆◇


「………って、俺が作るんですか!?」

「言ったじゃない~ 楽しみにしてるって~」

「料理のことだったんですか!?」


 現在、零と明は月下家の台所で、大量の食材を前にしていた。かつて零がここで暮らしていた時は、鏡花の手伝いでよく料理をしていた。その時に覚えたものも多い。その味を忘れていなかったのだろう。いきなり夕食を任された。


「いや~ 楽しみねぇ~ 零くんの手料理なんて久しぶりよ~」

「こういうのって、俺が御馳走して貰う方じゃないんですか?」

「いいじゃない~ 細かいことは気にしないの。 ねぇ? 明ちゃん」


 話を振られて、明は少し困った表情で零を見た。

 少し珍しい。

 普段の明なら、無言で頷くか首を振るかのどちらかだろう。


「まぁ、いいですけど。アカリ、手伝ってくれる?」

「……わかった」


 零が頼むと、明は嬉しそうに頷いた。

 彼女は、零が何かを頼むと割と喜んで引き受けてくれる。表情こそ変わらないが、纏う空気が明るくなる。今のような料理の時などは特に顕著だ。



「おお、零が作るのか。そいつは楽しみだな」


 そこで重夫が道場から戻ってきた。

 零たちが来たことを喜んでいるのは重夫も同じのようで、まるで子供のようにはしゃいでいる。こういう所も相変わらずだな、と苦笑した。


「そう言えば、あの二人は?」


 考えてみると、結衣と芽衣がいない。

 零たちが来るや否や、どこかへ走っていったように見えたが……


「なに、大方自分の部屋の掃除でもしてるんだろう」

「随分とまた突然ですね」

「片付けるモンでもあるんじゃないか? 見られたくないやつとか」


 ニヤリと口元を曲げる。

 その真意を図りかねて、零は首を傾げた。


◆◇◆◇◆◇


 さて、何をつくるか。


 考えを巡らせながら冷蔵庫を開いた。テーブルに食材は大量にあるが、どうせなら中途半端なものから使った方がいい。鏡花のことだから、使いかけのものは別にしてあるはずだ。


「あー よし! アカリ、玉ねぎを微塵ぎ……」

「イヤ」

「……」

「……」


 そう、いくら零の頼みでもこれだけは聞いてくれない。零がニッコリ笑いかけると、逆にニッコリ笑い返してきた。普段無表情な分、そのギャップからくる攻撃力は計り知れない。さすがの零も一歩押された。

 

 だが、嫌なものは嫌なのである。


「前回は俺が体を張っただろ! 今日はアカリの番だ!」

「イヤ。玉ねぎは零の仕事」


 冗談じゃない

 そんなものが仕事にされてたまるか。


「……よし、ルールを決めよう」

「?」

「これから玉ねぎを刻むのは交代で行う。いいな」

「わかった。前回は私がやったから、今日は零がやる」


 コノヤロウ……

 意地でもやらないつもりらしい。


「……何故そこまで玉ねぎを拒む? いいか? 玉ねぎには栄養が満点だ」

「食事をきちんと取らないくせに、よく言う」


 ……くそ、反論できない


 ちゃんと食事を取れ、という明の説教を今まで無視し続けたことを、今更ながらに後悔した。



「楽しそうねぇ~」


 鏡花は台所で繰り広げられる戦いを観察しながら微笑んだ。二人の様子はまるで新婚夫婦のようである。


「お母さん、もしかして零君が料理してるの?」

「あら~ 結衣ちゃん、部屋の掃除は終わったのかしら~?」

「う、うん。まあね~」


 ぎこちない様子で結衣が答える。それを見て、鏡花は新しいおもちゃを見つけた子供のような顔になった。


「仲いいわねぇ~ 零くんと明ちゃん」

「……うん」

「もう夫婦みたいよねぇ~」

「…………うん」


 結衣は見るからに萎んでいった。そんな娘を、鏡花は抱きしめる。


「いや~ん 結衣ちゃんカワイイ~」

「ち、ちょっとお母さん!」


 鏡花はそのまま自分の娘をもみクチャにし始めた。


「零くぅ~ん、見て見て! 結衣ちゃんかわいい~」

「わっわっわ―――!」


 暴走した母親を止める術は、もうなかった。




「じい様、これは?」

「おお、芽衣か ……ってまた随分と気合入った服装だな」

「き、気のせいです! それよりも!」


 芽衣は至るところで繰り広げられる戦いを指差した。顔は半分唖然としている。呆れ顔と言ってもいい。


「これは一体…」

「だ――――――! お前、今変えたろ!」

「変えてない。私は最初から、チョキ」 


 一際大きな声が響いた。

 どうやら零と明はじゃんけんをしているようだ。


「ほら、お前は零の手伝いでもして来い」

「あ、はい」


 芽衣が零たちの所へ向かう。


「お、芽衣! いいところに…… って着替えたのか?」

「え、ええ。ちょっとね」

「まぁ、いいか。それよりもアカリが冷たくてさ~」

「……む」

「玉ねぎを…」

「零、私がやる」

「はいぃぃぃ!?」



 その様子を眺め、重夫はひとり微笑んだ。



 願わくばこんな日々が……



 いつまでも続きますように。




皆様からの意見をもとに、最終的な判断はまた後ほどお知らせ致します。

それまでは、まだ意見を出していない方も、どんどん送って頂いて構いません。

もちろん普通の感想も大歓迎です。

より多くの方に楽しんで頂けるよう頑張りますので、これからも応援よろしくお願い致します。

それでは、これにて~

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