第五章 黄巾党征伐・後編
黄巾党の首領、天公将軍・張角には二人の妹が居る。
一人は地公将軍・張宝。
一人は人公将軍・張梁。
その内の一人である張宝が、まさに今、涼達率いる連合軍の前に立ちふさがろうとしていた。
数では両者共ほぼ互角。
激闘は避けられそうに無かった。
2010年1月10日更新開始。
2010年2月15日最終更新。
翌日、出陣の準備を終えた涼達連合軍は張宝率いる黄巾党の本陣が在る山へと向かった。
昨日の夕方迄に合流した曹操軍は約五千。更に兵を補充した盧植軍約一万も合流した為に、連合軍の総数は七万を超えている。
「月ぇ、本当に総大将にならなくて良かったの?」
「うん……私は余り戦いに向いてないし、だったら清宮さんや曹操さんに任せた方が良いと思う……。」
「折角の名を上げる好機なのになあ……。」
その先頭集団の中程で並んで進む董卓と賈駆は、そんな会話をしていた。
昨日の軍議で、総大将を決める事になった。
最後に合流した盧植は早々と辞退したが、桃香達は涼を、荀或は曹操を、そして賈駆は董卓を推薦した。
『徐庶はボク達との約束を守れずに敵将を討てなかったんだから、ここは辞退しなさいよっ。』
『私の落ち度は清宮様の落ち度ではありません。混同されては困りますね。』
『あら、軍師の実力を見極められない指揮官なんて、無能では無いの?』
『確かに。……では、荀或殿の実力を見極められなければ、曹操殿も同じく無能という訳ですね。』
『な……な……何ですってーっ‼』
こんな感じの口喧嘩が四半刻も続いた。
結局、仲違いを好まない董卓が辞退すると、次いで曹操も連合軍に参加したばかりと言う事で辞退し、残るは涼だけになった。
慌てた涼は桃香に替わって貰おうとしたが、当然ながら桃香が首を縦に振る筈は無く、そのまま涼が総大将の任に就く事になった。
「まあ……“天の御遣い”が総大将って事で、兵の士気はかなり高まっているけどね。」
賈駆は、連合軍の士気が今迄になく高まっているのを感じながら、涼が総大将になったのも悪くは無いと思っていた。
一方、曹操と荀彧、そして盧植は董卓達より少し先を進んでいた。
「……華琳様ぁ〜。」
「総大将の件ならさっき言った通りよ。」
「そんなあ……。」
荀彧の言葉を曹操が切って捨てると、荀彧は悲しげな声を出した。
曹操が総大将を辞退した事は、荀彧にとってかなりのショックだったらしく、それから何度も考え直す様に言ってきた。
だが、一度辞退したものをやっぱりやってみたい等とは、曹操が言う筈もない。
なので、曹操は荀彧の話が総大将の件と解ると、今みたいに直ぐ話を終わらせている。
また、曹操が総大将を辞退したのは、連合軍に参加したばかりという理由以外にもあった。
(フフ……噂の“天の御遣い”の実力、見せて貰うわよ……。)
曹操は涼の実力を見る為に辞退していた様だ。
それが何を意味するかは、曹操以外誰も知らない。
「……という訳だから、ちゃんと涼の命令を聞くのよ。」
「そ、そんなっ! 華琳様ぁっ!」
荀彧が涙を浮かべながら懇願するも、曹操はそれ以上何も言わなかった。
「華琳ちゃんは相変わらずね。」
そう言ったのは、少し前を進んでいた妙齢の女性だった。
「……ちゃん付けは止めて下さいと、以前にも申した筈ですよ、翡翠様。」
「あら、そうだったわね。ごめんなさい、華琳ちゃん。」
「……はあ。」
言った側からちゃん付けされたので、曹操は溜息しか出なかった。
「ふふ……。それで、曹操さんはこれからどうするのかしら?」
「どうするも何も、天の御遣いの采配通りに動くだけですよ、盧植様。」
曹操は前を向いたまま、翡翠――盧植の問いに答える。
曹操の視線の先には、部下である関羽達と共に進む天の御遣いの姿があった。
この世界には無い生地で出来ている白い衣服に身を包み、背中に一つ、左腰に二つの剣を差している天の御遣い――清宮涼の姿が。
「ふふ……華琳ちゃんが力になるのなら、清宮様も心強いでしょうね。」
「……翡翠様は、涼についてどう思っているのですか?」
「あら、もしかして清宮様は華琳ちゃんの好み?」
「違いますっ! 私は只、翡翠様が天の御遣いをどう評価しているのか知りたいだけですっ!」
「あら、そうだったの。……ふふ。」
曹操はからかわれていると理解しながらも、必死になって反論した。
盧植はそんな曹操を見ながら、口元を袖で隠して笑みを浮かべる。
「そうね……。今は未だ経験に乏しく、護られるだけの存在。けど、少しは兵法に通じている様だし、これからの成長に期待出来る程の大きな可能性を秘めている、と、私は見ているわ。」
「……そうですか。」
曹操はやはりという様な表情をして呟いた。
盧植が自分と同じ様な評価をしているのを知って、嬉しくもあり複雑でもあった。
「涼は張宝を討てるでしょうか?」
「大丈夫でしょう。彼には優秀な仲間が居ますし、華琳ちゃんも居ますから。」
「あ、いえ、私が聞きたいのは……。」
曹操は一度口を閉じ、暫く迷ってから尋ね直した。
「涼が、その手で張宝を殺せるか、という事です。」
曹操達がそんな話をしている頃、先頭を行く涼と桃香は一言も口にせずに進んでいた。
「……清宮殿、気持ちは解りますが、もう少し落ち着かれては如何ですか?」
「そ、そんな事言ったって……。」
そう言った涼の声は少し震えていた。
馬上の涼は姿勢正しく座っており、真っ直ぐ前方を見つめている。
一見とても落ち着いている様だが、実際はそうではなかった。
「俺なんかが董卓達を差し置いて総大将になるなんて、やっぱり無理だよ。」
その声はとても弱々しく、とても総大将の言葉とは思えない。
それでいて体はガチガチで、緊張しまくっている。
「そ、そんな事無いよ。涼兄さんならちゃんと出来るからっ。」
その緊張が隣を行く桃香にも移ったのだろうか、何故か桃香の口調も若干震えている。
「やれやれ……。」
そんな二人を見ながら、雪里は小さく嘆息していた。
それから数刻後、連合軍は山の麓に到着した。
ここからは山を登る事になる為、連合軍は小休止をとる事にした。
長い行軍から解放された兵士達は、思い思いの休息を取り始める。
勿論、涼達は只休んでいる訳にはいかない。
小休止の時間を使って、張宝戦の軍議を開いた。
台の上に山の地図を開き、それを囲み見る様に涼達は立っている。
「この山には何万もの人間が通れる大きな道はここしか無く、ここを押さえておけば黄巾党を逃がす事は無いでしょう。」
「勿論、バラバラに動くなら逃げ道は幾つか有りますが。」
荀彧と雪里が、張宝が陣取っているこの山について説明をする。
「なら、ここを死守しつつ張宝を討つという方針で行けば良いと思うけど……涼はどう思う?」
「りょ、涼っ!?」
曹操が涼に尋ねると、突然桃香が驚きの声を上げた。
曹操は桃香が驚いた理由に心当たりが有るのか、口元を緩ませて桃香を見つめる。
「どうしたの、劉備?」
「な、何で曹操さんが涼兄さんを呼び捨てにしてるんです!?」
「涼だって私を“曹操”と呼び捨てにしているわよ。なら、私が涼を呼び捨てにしても構わないでしょ?」
「そ、それは……兄さ〜んっ!?」
言い返せなくて困った桃香は涼に助けを求める。
「まあ、別に良いんじゃないか?」
「兄さ〜んっ。」
涼は特に気にしていないのか平然と答え、桃香を尚更困らせただけだった。
また、荀彧も似た様な理由で涼を睨んでいるのだが、涼は敢えてスルーしている。
「まあ、それは良いとして」
数名は「良くない!」という表情をしたが、やはりスルーした。
「俺達はこれから山を登る訳だけど、山を登りながら攻めるのは難しいんじゃないか?」
「その通りです。」
涼が疑問を投げ掛けると、雪里が肯定しながら簡単に説明を始めた。
「攻城戦において守る側が有利な様に、山攻めもまた上に居る側が有利です。」
「岩や大木を落としたり、矢を降らせたり出来るからな。」
「はい。」
涼の言葉を雪里は再び肯定する。
「それに、今回はもう一つ懸案事項が有るわ。」
そこに、賈駆が神妙な面持ちで口を開いた。
自然と皆が賈駆に注目する。
「懸案事項って?」
「張宝の妖術よ。」
「ようじゅつ?」
現実離れした単語に思わず聞き返す涼。
まあ、そんな事を言ったらこの世界や桃香達の存在もかなり現実離れしているのだが。
「張宝は妖術を使うのか?」
「らしいわよ。以前、朱儁将軍がこの先の“鉄門峡”を攻めた時、張宝の妖術で散々な目にあったらしいから。」
「妖術ねえ……この世界って、妖術を使う人は多いのか?」
「多くは無いでしょうね。現に私も桂花も妖術を使えないしね。」
涼の問い掛けに曹操が答えると、董卓達も同様に答えていった。
「なら、その妖術が本物か判らないんじゃないか?」
「確かにそうだけど、妖術の被害にあったって言われているのも本当だから、厄介なのよ。」
「厄介って?」
涼が尋ねると、賈駆の代わりに荀彧が答えた。
「妖術という常人には抗い難い現象で部隊が被害を受けてると言われているのよ。そんな事を知ったら、幾ら兵士とはいえ普通は恐れて近付きたくないと思うでしょ。」
「ああ、成程な。」
未知の現象に対する畏怖はどんな時代の人間も持っている。特に、この世界の人間はそういった事により敏感に反応するだろう。
「恐怖を取り除く事が出来ればその問題は解決するけど……。」
「そう簡単にはいかないでしょうね。」
「だよなあ……。」
涼がそう呟くと、即座に曹操が否定の言葉を返したので涼は軽くうなだれた。
考えながら涼は鉄門峡の方向に目を向ける。
両崖はとても硬そうな岩で出来ていて、その傾斜はとても急だ。
空はどんよりと曇っていて、今にも雨が降り出しそうな雰囲気だ。
それ以上に何か出て来そうな感じもする。その所為だろうか、妖術が現実味を帯びていた。
「因みに、張宝がどんな妖術を使ったのかは判る?」
涼が尋ねると、賈駆は即座に答えた。
「話によると、物凄い逆風が吹いて前に進む事が出来なくなって、その後に矢や岩が色んな所から飛んで来たらしいわよ。」
「成程……。」
話を聞いた涼は考え込んだ。
賈駆の話は三国志演義でもあった話だから、対応策が無い訳では無い。
只、今の状況は涼が良く知る三国志演義と似て非なるもの。果たして同じ様にしても良いのだろうか。
そうして散々考えた結果、先ずは軍師達に尋ねる事にした。
幸い、今この場には徐庶、賈駆、荀彧といった、三国志でも有数の名軍師達が居るのだ。頼らない手はない。
「取り敢えず、軍師達の意見を聞いてみたいんだけど、何か考えは有る?」
涼がそう尋ねると、軍師達は既に考えていたらしく順々に答えていった。
「妖術の真偽が判らない以上、只この場に留まるだけでは意味が有りません。有る程度は危険を承知で前に進む事も必要かと。」
「ボクとしては、妖術云々は兎も角、何らかの罠が仕掛けられている危険性が高い以上、全軍をもって進むのは反対ね。物見を放って様子を見るのが先決だと思うけど。」
雪里と賈駆はそれぞれ異なる見解を示した。
涼は雪里の考えに若干の違和感を感じたが、今は全員の意見を聞くべきと判断し、気にしない事にした。
「荀彧は何か無いの?」
三人の軍師の中で、未だ考えを言っていない荀彧に尋ねる。
「何でアンタなんかの為に献策しなくちゃいけないのよ。」
「何でって……一応、俺はこの連合軍の総大将だし。」
喧嘩腰になって睨む荀彧に対し、涼は平然と答える。それが気に食わなかったのか、荀彧は尚更強く睨んだ。
そんな風に荀彧が睨んでいると、今度は愛紗と鈴々が荀彧を睨み始めた。
桃香と董卓はオロオロしだし、賈駆は頭を押さえて溜息を吐き、盧植はそんな彼女達を静かに見守っている。
「桂花。」
「……解りましたぁ。」
場の空気を読んだのか、曹操が静かかつ強い口調で荀彧を諭す。
曹操に睨まれた荀彧は、肩を落としながら渋々涼に考えを述べ始めた。
「戦いにおいて、情報は必要不可欠。先程賈駆殿も仰られた様に、先ずは物見を放って敵の様子を探り、それから行動に移した方が被害も少なくて宜しいかと。」
「つまり、進軍が一人、様子見が二人か。」
結局、涼は賈駆と荀彧の提案を採用した。
物見を放って二刻後、無事物見が帰ってきた。
大軍が通れる道は一つしか無いが、一人二人が通れる道は他にも在る。また、道無き道も、物見なら通る事は不可能ではなかったのだ。
「物見の報告によると、鉄門峡には落石の罠や弓兵隊が配置されている様です。」
「また、その先には張宝らしき女性の指揮官が居たとの報告も有ったわ。」
「そっか……。」
再び軍議が開かれ、雪里と賈駆が物見から受けた情報を皆に報告する。
敵の罠の確認が出来たのは良いが、張宝らしき人物がその先に居る事も判明した為、これからの行動が難しくなった。
「敵の罠を凌いで張宝を討つ……って、言うのは簡単だけど、実際はそう簡単にはいかないよなあ。」
「でしょうね。こちらの数が圧倒的なら力押しも不可能では無いけど、現在の戦力差はほぼ互角……。」
「この状況で戦えば、例え勝てても甚大な被害は免れないでしょうね。」
涼の言葉に、曹操と盧植がそれぞれの考えを述べる。
現状では、被害を覚悟して前進するのは下策でしかないが、このままでは進展は無い。
「どこかに道が在れば、この問題は解決するんだけどな……。」
涼は溜息をつきながらそう呟いた。
「道が無いなら造れば良いのだっ。」
そんな時、鈴々の元気な声が涼達の耳に届いた。
一同が鈴々に注目する中、涼が尋ねる。
「道を造るって、具体的にはどうするんだ?」
「そんなの簡単なのだ。あそこを登れば良いのだっ。」
元気にそう言いながら鈴々が指差したのは、右後方に聳える断崖絶壁だった。
「まさかあの崖を登ると言うの?」
荀彧が驚きながら尋ねると、鈴々は笑顔で肯定した。
驚いたのは荀彧だけではない。曹操も盧植も董卓も、その場に居る殆どの者が驚いていた。
「これだから義勇軍の武将は……。いい? あんな崖を何万人もの兵が登れるのなら苦労はしないし、もし登れるのなら張宝だってあそこに兵を配置して守っているわ。けどあの崖を登るのは不可能だし、それが解っているから張宝も兵を配置していないのよ。」
「けど、登れそうな所から登っても意味が無いのだ。だからもし、鈴々達があの崖を登って攻めたら、きっと黄巾党は慌てると思うのだ。」
荀彧の反論にたじろぎもせず、鈴々は逆に反論していく。
その言葉には説得力が有ったのか、荀彧も多少慌てるが、負けずに崖を登る危険性の高さと成功率の低さを論じていった。
そんな論戦が暫く続いていると、おもむろに涼が口を開いた。
「……確かに無理かもな。」
その言葉で鈴々の表情は曇り、荀彧は複雑な笑みを浮かべる。
納得がいかないのか、鈴々は涼の許に駆け寄った。
「お兄ちゃんもあの崖を登るのは無理だって思うの?」
さっき迄の元気が嘘の様に、鈴々の声は弱々しかった。
涼は鈴々を真っ直ぐ見ながら言った。
「ああ。……全員はな。」
その言葉に鈴々は勿論、曹操達も疑問符を浮かべた表情になった。
「どういう事? ……まさか!?」
荀彧は涼に尋ね、そして理解した。
「アンタまさか、少人数なら可能だとか言うんじゃないでしょうね!?」
「残念ながら、そのまさかだよ。」
荀彧にそう答えると、涼は皆を見回してから言葉を紡いだ。
「全員が崖を登る事は出来なくても、少人数……少なくとも五百人が登れたら、奇襲は成功する筈だ。」
「馬鹿言わないでっ! あんな断崖絶壁、幾ら少人数で良いといっても不可能よ! こんな危険な事に華琳様の兵を使わせられないわ‼」
「解ってる。だからこの策は義勇軍の兵だけでやるよ。その間、曹操達にはここで敵の注意を引きつけておいてほしいんだ。」
涼は、あくまで反対する荀彧に冷静に対応し、曹操達に指示を出していく。
尚も反対しようとする荀彧だったが、そこに涼が言葉を繋いで遮った。
「それに、俺の世界じゃ、ああいった崖を登るスポーツがある。」
「すぽーつ?」
「えっと……運動競技って言えば良いかな? まあ兎に角、遊びで登る人も居るって事。それも、あれより大きな崖をね。」
その言葉に全員驚き戸惑ったが、同時に、策が成功するのではという思いも出始めていた。
「……解ったわ。なら、詳細を詰めていきましょう。」
「か、華琳様っ!?」
曹操もその一人だったらしく、その表情は自信に満ち溢れている。
勿論、荀彧は慌てて曹操に考え直す様に言ったが、結局曹操が考えを変える事は無かった。
その後、盧植や董卓も涼の考えに賛同したので、崖を登る人員は直ぐに決まった。
大半は涼達義勇兵で占められたが、曹操軍、董卓軍、盧植軍からも数名から数十名が選ばれた。
義勇兵が中心という事もあって、奇襲部隊の指揮官には愛紗、鈴々に決まった。
そこで終わりかと思われたが、二人の言葉で軍議は更に長引く事になる。
「言い忘れたけど、俺も行くよ。」
「も、勿論私もっ。」
二人がそう言った瞬間、その場に居る全員が驚いたが、その中でも愛紗と鈴々が特に驚いていた。
「二人共、本気なのですか!?」
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、無理しちゃダメなのだっ。」
そんな風に慌てる二人だが、当の二人――涼と桃香は実にあっけらかんとしている。
「本気だよ。俺は鈴々の提案に乗ったんだし、最終的には俺が決めたんだ。なら、俺も行かないとダメだろ?」
「私も、涼兄さんと同じ義勇軍の指揮官だから一緒に行くよ。」
二人の決意は固いらしく、その瞳には迷いが無い。
それに気付いた愛紗と鈴々、そして曹操達は引き留めるのを止めた。
すると、涼はそんな彼女達の前に出る。
「董卓と曹操、そして盧植さんにはここに残って本隊の指揮をお願いします。」
「解りました。」
「解ったわ。」
「お任せ下さい。」
そう言って董卓達に本隊を任せると、義勇軍の中核で唯一ここに残る彼女に向き直った。
「雪里、君にはここで皆の補佐を頼みたい。」
「解りました。……皆さん、お気をつけ下さい。」
「ああ。」
最後に雪里にそう指示すると、涼は桃香達と共に奇襲部隊へと向かった。
鉄門峡の戦いは、こうして始まった。
崖を登る部隊は、総勢五百余名。
当然だが、その殆どが身のこなしが軽い者ばかりだ。
とは言え、それだけで全員が断崖絶壁を登れるとは限らない。
そこで涼は、この中で特に崖登りに自信がある者を数名選ぶと、彼等に太く長い縄を渡して登ってもらった。
断崖絶壁とはいえ、幸いその角度は九十度を超えておらず、またでっぱりも沢山在るので登れなくはない。それでも普通は登ろうと思わないくらいの急な崖ではあるが。
所々に在る大きなでっぱりで休息しながら、彼等は無事崖を登りきった。
次に彼等は、渡された縄を繋いで更に長くし、一端を近くの大木に巻き付けてからその縄を下に降ろす。
繋げた縄は地面に着いても余る程長く、籠を繋げても余裕だった。
籠には新たな縄を複数入れ、登頂に居る彼等はその籠を引き上げた。
引き上げた籠の中の縄は繋いで別の大木に巻き、最初の縄や籠と共に下に降ろす。
その縄にも籠が繋げられ、やはり複数の縄が入れられた。
そうして引き上げたり降ろしたりを繰り返した結果、現在の崖には幾つもの縄が垂れ下がっている。
そして今は、剣や槍を束ねてその縄に巻き、登頂に引き上げる作業に移っていた。
また、引き上げたのは武器だけでなく、松明や太鼓、銅鑼といった物も有った。
そうして一通りの物資を引き上げ終わると、いよいよ次は奇襲部隊そのものの番である。
彼等は垂れ下がった縄の先を輪にし、その中に入ってから縄を掴み、登り始めた。
縄の両端がしっかりと巻かれていれば、登る際に解けて落ちる事も無い。
奇襲部隊はこうやって次々と断崖絶壁を登りきり、残すは涼、桃香、愛紗、鈴々だけになった。
「……ゴクッ。」
桃香はこれから登る崖を見上げ、その高さに思わず唾を飲み込む。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫だよっ。」
心配する涼を不安がらせない様に笑顔を見せながら、桃香は縄を掴んだ。
縄の輪に体を通し、縄を引っ張りながら足を崖に着ける。
崖を歩くかの様に、かつ慎重に足を動かし、少しずつ登っていく。
「ほらっ……涼兄さんも早く早くっ。」
「ああ。」
桃香に促され、涼も同じ様に縄に手を伸ばす。
よく見れば、愛紗と鈴々も既に登り始めていた。
そうして慎重に、でも出来るだけ速く登り続け、全員が無事に崖を登りきった。
「……大丈夫か?」
「わ……私は平気……。」
桃香は息を切らせながら答えた。
勿論、息を切らしているのは桃香だけではない。
桃香の隣に座っている涼もそれなりに息が乱れているし、愛紗や鈴々も同じだった。
(やれば出来るもんだな……ロッククライミングやフリークライミングの知識は有っても、やった事は無かったのに……。)
涼がそう思うと、何故だか手足が震えているのに気付いた。
今更ながらに恐怖を感じているのかも知れない。
(かなり無茶したな……けど、これで奇襲が出来る筈だ。)
涼は震える手足を気力で抑え、しっかりと立ち上がった。
崖下からは、連合軍が鳴らす銅鑼や太鼓の音が鳴り響いてくる。
黄巾党が奇襲に気付かない様に、本隊が注意を引きつけているのだ。
「董卓達も上手くやってる様だし、俺達も早く支度をしよう。」
呼吸を整えながら、奇襲部隊に指示を出す。
それを受けて各員は武器を手にし、銅鑼や太鼓を持つ。
「よし、それじゃ……。」
「あ、涼兄さん、ちょっと待ってくれる?」
出撃の号令を出そうとした涼だったが、そこに桃香が割って入った。
「どうした?」
「戦う前に、ちょっとね。愛紗ちゃん、小さい火を焚いてくれる?」
「火、ですか? それは構いませんが……。」
「折角回り込めるのに、何をするのだ?」
「まあ、見ててよ。」
鈴々の疑問に桃香は曖昧に答え、愛紗は枯れ木や落ち葉を集めて火を点ける。
やがて小さな焚き火が燃え始めると、桃香はその前に立って靖王伝家をゆっくりと鞘から抜いた。
愛紗や鈴々、そして奇襲部隊の面々は桃香が何をするのか判らないまま、その様子を後ろから見ている。だが只一人、涼だけは桃香の行動に心当たりがあった。
そんな涼も静かに桃香を見守る。
桃香は靖王伝家を両手で持ち、目の前で真っ直ぐに立てる。
それからゆっくりと目を閉じ、何かを呟き始めた。その声は小さくてよく聞き取れないので、何と言っているかは解らない。
暫くしてその呟きが終わると、閉じていた目を開いて靖王伝家を左上から右下、右上から左下へと振り、再び目の前に立てると浅く御辞儀をし、やはりゆっくりと鞘に収めた。
一連の動作が終わると桃香は小さく息を吐き、奇襲部隊の面々に向き直った。
「皆、今のはちゃんと見ていた?」
桃香の問いに全員が頷いて答える。
それを確認した桃香は微笑みながら言った。
「今のは破邪の祈祷。私の御先祖様、中山靖王劉勝より伝わる由緒正しい祈祷だよ♪」
(破邪の祈祷? ……成程。)
愛紗は桃香の意図に気付いた様だが、敢えて何も言わずに桃香を見守る。
一方、鈴々は未だよく解っていないらしく、首を傾げていた。
「この祈祷で、張宝さんの妖術は効力を失いました。もう、皆が怯える事はありません。」
桃香がそう言うと、それ迄どこか暗かった兵達の表情が明らかに明るくなっていった。
元々、張宝の妖術を避ける為に集められた奇襲部隊だが、彼等もやはり人間。恐怖が無いと言えば嘘になった。
「皆、空を見て。下に居た時に見た空は曇っていたのに、今はこうして青空が見えている。これが、張宝さんの妖術の効力が無くなった何よりの証ですっ。」
笑みを浮かべながら高々と空に向かって指差す桃香の姿は、そんな彼等を勇気付けるのに充分だった。
今の兵士達には、恐怖という感情は微塵も見られない。
(三国志演義でも、劉備が破邪の祈祷を行って兵の不安を取り除いている。女の子になっていても、桃香はやっぱり劉備玄徳なんだな。)
涼は桃香達を見ながらそう思う。
「それじゃあ、今度こそ行こうか。」
「うん!」
そして、程良く場が温まった所で改めて号令し、皆と共に進み出した。
涼達が張宝の本陣に向かっていた時、その反対側の森の中では別の一団が動いていた。
短い髪の少女が木々の間を縫う様に走る。
その先の茂みには、四人の少女が身を屈めて辺りを窺っていた。
その中の一人、眼鏡の少女が走ってきた少女に小さく声をかける。
「黄巾党の様子はどうでした?」
「官軍と対峙したままだな。」
「つまり、官軍は未だ動いておらぬのか?」
走ってきた少女が答えると、今度は白い衣服の少女が尋ねた。
「攻め倦ねてるって感じじゃないけど、未だ攻撃していないな。」
「成程ね……ねえ、貴女はどう思う?」
走ってきた少女の報告を聞いていた長い黒髪の少女は暫く考え込み、次いで左隣に居る長い金髪の少女に尋ねる。
「すぴー……。」
だがその長い金髪の少女は寝息をたてて眠りこけていた。
「寝るんじゃないっ!」
「……おおっ!?」
それを見た長い黒髪の少女は、思わず左手で長い金髪の少女の後頭部を軽く叩く。
「いや〜、稟ちゃんと違って結構痛いですね〜。」
「今ので痛いのなら、誰が叩いても痛いわよ。」
長い金髪の少女は頭をさすりながら、ヒラヒラと手を振る長い黒髪の少女をジッと見ていた。
「そんな事はどうでも良いから、雫、風、稟。これからどうするか決めてくれ。」
走ってきた少女は長い黒髪の少女、長い金髪の少女、そして眼鏡の少女をそれぞれ雫、風、稟と呼びながら尋ねた。
「そう言われてもねー。時雨ちゃんだって、どうしたら良いかは解っているんでしょ?」
「解ってはいるが、軍師であるお前達なら何か策を考えられるかと思ってな。」
雫は走ってきた少女を時雨ちゃんと呼んだ。ちゃん付けした所を見ると、二人はかなり仲が良いらしい。
そんな中、その時雨を見ながら軍師組の二人が口を開いた。
「……時雨さんは軍師を何か勘違いしているのでは……。」
「軍師にだって、出来る事と出来ない事が有るのですよ〜。」
二人は呆れながらそれぞれそう言った。
軍師組の残る一人である雫も、深く溜息を吐いてから意見を述べる。
「ここは、黄巾党が官軍の攻撃を受けて混乱する迄待つべきよ。」
「何だ、雁首揃って俺とそんなに変わらない考えなのか。」
「そう言うな時雨。こちらは五人しか居ないのだ、仕方あるまい。」
雫の提案に時雨は落胆するが、すかさず白い衣服の少女が窘める。
「お前は何とも思わないのか、星?」
時雨は白い衣服の少女を星と呼んだ。
すると、星と呼ばれたその少女は時雨に向き直り、不敵な笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。
「……大軍相手に一人で立ち向かうというのも、確かに悪くない。」
「だろ? なら……。」
「だが、こんな所で命を散らす訳にはいかぬ。我々には、それぞれやるべき事が有るのだからな。」
「くっ……!」
未だ何か言いたかった時雨だが、星の言葉も理解出来る為、結局二の句が継げなかった。
時雨は無意識に手のひらを堅く閉じ、力を入れた。力を入れ過ぎて、手の甲の血管が浮き出た程だ。
「時雨ちゃん、私達がここに来た目的は忘れていないよね?」
そんな時雨を案じる雫が、時雨の右手を両手で包みながら尋ねる。
突然の事に戸惑いながら、時雨は呟く様に言った。
「世を乱す黄巾党を倒す事と、劉玄徳……桃香の力になる事だ。」
「うん。なら、桃香ちゃんの為にも今は様子を見ようよ。ね?」
「……解った。まったく、雫には適わないな。」
苦笑しながら雫の頭を乱暴に撫で、時雨は風の左隣に腰を下ろした。
暫しの休息に入る時雨達。だが、彼女達が再び動き出す迄、そう時間はかからなかった。
涼達や時雨達が動く少し前、鉄門峡の前では連合軍が先に動きを見せていた。
「良い? 銅鑼と太鼓は思いっきり鳴らすのよ!」
「最前線の部隊は、私の合図と共に前進し、敵の動きに合わせて後退を。決して前に出過ぎないで下さい。」
賈駆と雪里はそれぞれ馬上で前線の兵に指示を出し、同時に辺りに注意を払った。
「……敵の動きが無いわね。」
「そうね……私達が此処に攻めてきたのは判ってる筈だし、あちらも様子見という事かしら。」
二人の少し後方では、馬に乗った曹操と盧植が並んでその様子を見ていた。
そこに、曹操の命令を後方部隊に伝えに行っていた荀彧が戻り、話に参加する。
「この場に居るのは黄巾党の主力部隊。幾ら賊でも用心深くなっているという事でしょうか。」
「恐らくね。」
荀彧もやはり馬に乗っていたが、曹操の近くに来ると即座に下馬し、身を屈める。
どうやら、主従関係をハッキリさせている様だ。
「曹操さん。」
「どうしたの、董卓?」
次に曹操に声をかけたのは董卓だった。
初めは曹操達と共に前線の指揮をしていた董卓だが、奇襲部隊が気になっていたらしく、途中で指揮を賈駆に任せて後方に下がっていた。
因みに、勿論董卓も馬に乗っている。
董卓は盧植の隣で馬を止め、そのまま言葉を紡いだ。
「つい先程、清宮さんの部隊が全員崖を登りきりました。」
「本当に? ……やるわね。」
「ふふ。流石は天の御遣いさんといった所かしらね。」
「只の偶然ではないですか?」
董卓の報告を受け、三者三様に感想を口にする曹操達。
「それじゃあ、そろそろかしらね。」
「だと思います。」
「なら、一度部隊を纏めましょうか。華琳ちゃんはどう思う?」
「私も同意見です、翡翠様。」
盧植と曹操の意見は直ぐに一致した。
「良かった。なら、戻ってきたばかりで悪いけど、桂花ちゃんは前線の徐庶ちゃん達にこの事を伝えてきてくれるかしら?」
「了解しました。」
盧植の命を受け、荀彧は再び騎乗し前線へと進む。
それから暫くして、雪里と賈駆は部隊を纏めて後退してきた。
「あとは、涼達の働き次第ね。」
「清宮さん達なら、きっとやってくれますよ。」
曹操と董卓は、共に崖の上を見ながらそう言った。
奇襲部隊が上手く事を運べば、直ぐに戦いが始まる。
そして、敵将張宝を討てば、黄巾党は弱体化する。
その為の時を曹操達は待っていた。
そんな連合軍を前にして、黄巾党は動けずにいた。
山の上に陣取り、数も互角。普通に戦えば負ける事は先ず無い。
だが、それは調練された兵を擁する軍同士の戦いなればこそ。
きちんとした調練を受けず、只闇雲に人を殺してきた賊である黄巾党の人間には、そんな技術も度胸も無かった。
数日前なら、数に任せた戦いが出来ていた。
だが、この数日で何万もの仲間がやられた結果、数的有利の状況は瞬く間に消えて無くなり、今迄通りにはいかなくなった。
山に陣取り、罠を仕掛けていても有利な気には全くなれず、更にはその罠すら連合軍には通じていない。
それどころか、いつ総攻撃を仕掛けられるかとビクビクしているくらいだ。
「状況はどうなってるの!?」
そんな黄巾党の本陣に、フードが付いた黄色い羽織りを纏った少女の声が響く。
少女は苛立ちを隠さずに、目の前に並ぶ黄巾党の男達を睨んでいた。
「官軍はこちらの罠を警戒しているのか、依然として鉄門峡の手前に陣取ったままです。」
一人の男がそう答えると、少女は苛立ったまま尚も尋ねる。
「弓矢は撃てないの?」
「残念ながら、射程範囲外です。」
男は申し訳なさそうに答えた。
「……援軍は来そう?」
「張角様、張梁様共に官軍と交戦中らしく、恐らく援軍は見込めないかと……。」
「そう……。」
男の言葉を聞いた少女は男達に背を向け、思案を巡らせる。
(官軍なんて以前は簡単に倒せたのに……このままじゃ、ヤバいじゃない……っ。)
好転どころか悪化しつつある状況に、張宝は焦りを感じていた。
そんな時、少女達が居る本陣の後方から人の叫び声や騒音が聞こえてきた。
「一体何の騒ぎ!?」
騒ぎがする方に向かって声をあげると、その方向から一人の男がフラフラになりながら走ってきた。
男は少女の近く迄来ると倒れ込む様にひれ伏し、報告を始める。
その背中には、無数の矢が刺さっていた。
「た、大変です……こ、後方から攻撃を……っ!」
「何ですって!?」
報告を聞いた少女及び周囲の者達は驚き、言葉を失った。
「……後方には崖しか無い。なら、裏切り者が出たと言う事か!?」
「お、恐らく……。」
暫くして少女の側に居る男が報告してきた男に尋ね、報告してきた男はそれを肯定した。
「こんな時に裏切りなんて……。」
少女は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、後方に目をやった。
「……裏切り者の数は解る?」
後方に目をやったまま、少女は尋ねる。
「ハッキリとした数は判りません……。只、自分が攻撃を受けた際は……少なくとも五百は居ました……。今はもっと増えている可能性もあります……。」
男は苦しみ、言葉を途切らせながらも何とか答えきった。
そんな男に温かな笑みを向けながら、少女は言った。
「……報告を有難う。休んで良いわよ。」
「は……はい……っ。」
男はそう答えて目を閉じた。
二度と覚めない深い眠りに落ちたのだ。
少女達は男に感謝の意を示した後、近くに居た兵を呼んで男を運ばせた。
運ばれていく男を見ながら、少女達は話し始めた。
「……どうします?」
「……裏切り者を説き伏せるわ。私が行けば反乱は収まる筈だし。」
「しかし、危険です!」
「そんなの解ってるわ。でもね、アンタ達は私が誰だか忘れてない?」
少女は笑みを浮かべながら男達に尋ねた。
「私は……ちぃは皆の妹、地和ちゃんよ。ちぃが話して言う事をきかない黄巾党員は居ないんだからっ。」
そう叫ぶと、近くに繋いでいた馬に飛び乗り、陣の後方へと向かう。
男達は慌ててその後を追い掛けた。
その黄巾党本陣の後方では、涼率いる奇襲部隊が黄巾党に対して攻撃を仕掛けていた。
「皆、後少しだよ! 頑張って‼」
「ここが正念場だ! 一瞬たりとも気を抜くな‼」
「「「「「おおーっ‼」」」」」
桃香と涼の檄を受けた兵士達の咆哮が、辺りに響き渡る。
否応無しに士気が上がる奇襲部隊に対し、黄巾党は混乱し士気が著しく低下していた。
人が来る筈が無い断崖絶壁を背にしていた彼等は、有り得ない筈の後方からの攻撃を受けて只逃げ惑うしか出来なかった。
そんな中誰かが、「裏切り者が出た!」と叫びだした。
確証は何も無いが、まさか崖を登って来たとは考えない彼等はそう結論付け、いつの間にか「裏切り者」が存在している事になった。
すると、程なくしてそこかしこで同士討ちが始まった。
結果、黄巾党は涼達奇襲部隊だけでなく、味方である筈の者達とも戦わなくてはならなくなったのだ。
「御主人様。」
「どうした、愛紗?」
指揮をとる涼の許にやってきたのは、「別行動」をしていた愛紗だった。
愛紗は青龍偃月刀を利き手に持ちながら報告を始める。
「鉄門峡に配置してあった“罠の排除”、完了しました。」
「……そうか。疲れているとこ悪いけど、このまま攻撃に参加してくれるか?」
「勿論です。それに、疲れる程動いてはいませんので大丈夫です。」
愛紗はそう言って青龍偃月刀を構え、前へ出る。
「……解った。なら、頼むよ。」
「承知しました、御主人様。」
愛紗は涼に頷いてから前へと駆け出した。
依然として混乱しつつも、涼達に気付いて攻撃を仕掛ける黄巾党も少なからず居る。
そんな敵を、愛紗は一刀のもとに斬り捨てる。
黄巾党が反撃してきても、剣や槍での攻撃は勿論、弓矢による攻撃をも完璧に防いだ。
そうして防御に徹した後は、直ぐ様攻撃に転じてその数を減らした。
相手が二人掛かりや三人掛かりでも怯む事無く、愛紗は青龍偃月刀を振って敵を確実に仕留めていった。
始めの内はその威勢を若干取り戻していた黄巾党も、愛紗の強さにその勢いを削がれると、次々と背を向けて後ろへと駆け出した。
勿論そんな好機を見逃す愛紗ではない。
「弓兵隊、構えっ!」
凛とした声で味方にそう命じると、兵達は瞬時に弓に矢をつがえる。
「撃てーっ‼」
その声と同時に放たれた矢は、次々と黄巾党の体に命中し、その命を奪っていった。
丁度その頃、鉄門峡の前に陣取っていた連合軍に動きがあった。
「憂いは絶たれた! 今こそ賊共を討ち滅ぼす時‼」
「全軍、突撃っ!」
曹操と盧植の号令が連合軍全体に響き渡ると、兵士達はいつも以上に気合いの入った雄叫びをあげながら駆け出し、山道を埋め尽くす程の兵士達の足音が、途切れる事無く大地を揺らしていった。
「先ずは、幸先が良いという所かしら。」
「そうですね。奇襲で敵を混乱させるだけでなく、罠を排除してくれるとは、意外とやります。」
兵士達と共に進軍しながら、盧植と曹操はそう話した。
そう、連合軍の懸案事項だった鉄門峡の罠は既に無い。
この少し前に罠は、いや、罠を担当していた黄巾党は全て排除されていた。
涼は黄巾党本陣に攻撃を仕掛ける際、奇襲部隊を二つに分けていた。
一つは、本陣に向かう涼達が率いる本隊。もう一つは、愛紗率いる遊撃隊だ。
遊撃隊の使命は、鉄門峡守備隊の殲滅。
気付かれない様に近付いた愛紗達は、罠担当の黄巾党を矢で排除していき、討ち漏らした分は愛紗達が自ら得物を振るって倒していった。
そうして罠の場所に居た黄巾党を全て倒した愛紗達は、崖下の曹操達に向かって叫んだ。
『落石の罠も、弓矢を撃つ黄巾党も最早居ない! 安心して進まれよ‼』
だが、連合軍は張宝の妖術を恐れているのか中々進もうとしなかった。
そこで愛紗は、青龍偃月刀を天高く掲げながらこう続けた。
『皆の不安の原因、それは恐らく張宝の妖術だろう。……だが、その心配は無用だ。全員、空を見よ!』
愛紗の迫力に圧されたのか、兵士達は皆素直に空を見上げた。
『張宝の妖術は、劉玄徳が行った破邪の祈祷によって打ち消された! 先程迄曇っていた空が、今は青蒼と晴れているのがその証だ!』
愛紗の言う通り、先程迄曇っていた空は、今やその大半が澄み切った青で構成されている。
それを見た兵士達は、妖術の心配が無くなったと捉えたらしく、表情がどんどん明るくなり、士気が高まっていった。
そこに再び、愛紗の凛とした声が響き渡る。
『黄巾党を倒すべく集まった勇士達よ! この機を逃さず、前へ進めっ‼ 我等には清宮殿の天の加護と、劉備殿の天分の才が有る事を忘れるなっ‼』
その言葉が決定打となって、兵士達が持っていた恐怖心は完全に無くなった。
それから曹操達の檄が入り、今に至る。その間も士気は上がり続けていた。
士気が上がり続ける連合軍は、何の抵抗も受けないまま山道を登り続けた。
また、黄巾党の本陣が在ると思われる方角からは、剣と剣がぶつかる音や人の叫び声が聞こえてくる。
どうやら、今まさに奇襲が行われているらしい。なら、一刻も早く合流しなければならない。
進軍速度は否応無く上がっていった。
(それにしても、涼だけでなく劉備にも戦いの才が有るとはね……。)
そんな中、曹操は涼と桃香について考えていた。
嘘か真か知らないが、天の国から来たという少年、清宮涼。
その涼を慕い、共に義勇軍の大将を務め、漢王朝の血をひくという少女、劉備玄徳。
二人共、見た目は強そうに見えないが、人望を集める徳を持っている。
曹操は二人を徳だけの人間かと思っていたが、その二人がそれぞれ崖に登って奇襲を行い、不安で一杯の兵士達の士気を上げている。
(これは、二人の評価を改めないといけないかもね……。)
兵士達を鼓舞しながら曹操はそう思う。
これから先、共に戦う事も有れば敵対する事も有るだろう。その際に相手の力を見極めておく事は大切だ。
そう思っていると、何故だか曹操は自然と笑みを浮かべていた。
そうして曹操達が山道を進んでいる間、涼達は黄巾党の本陣に向かっていた。
「でやあああぁぁーっ‼」
愛紗の青龍偃月刀が舞う度に、
「うりゃりゃりゃりゃーっ‼」
そして、鈴々の丈八蛇矛が空を切る度に、黄巾党の命と勢いが次々と消え去っていった。
そうして愛紗と鈴々が部隊を率いて戦っている間、涼と桃香もまた自らの部隊を率いて戦っていた。
「建物は全て火を点けるんだ! 松明や火矢を放てっ‼」
「風向きには気をつけてね!」
涼と桃香の指示を受けた奇襲部隊の面々は、直ぐ様松明や火矢を辺りの建物に向かって投げ入れ、放っていく。
木造の小屋や食料庫はたちまち燃え盛り、炎や煙が辺りを包み、そこかしこから悲鳴が聞こえてくる。
「……っ!」
「……気にすんな、とは言えないけど、気に病み過ぎるなよ。」
「うん……。」
辛い表情の桃香に声をかける涼。
敵とは言え、人が苦しみ死んでいく様を見るのは心苦しいのだろう。
勿論、いつ迄もそんな事を言っていられる訳じゃ無い事は、桃香も涼も理解していた。
そんな中、聞き慣れない少女の声が涼達の耳に届く。
「アンタ達、暴れるのもいい加減にしなさいよね!」
声に気付いた涼達は、その方向に向き直る。
そこには、馬に乗った少女を先頭に、十数人の黄巾党が居た。
「官軍の大軍を前にして臆病風に吹かれるのも解るけど、だからってこんな事したって意味無いわよ!」
馬上の少女は涼達に向かってそう叫んだ。
だが、当の涼達には彼女が何を言っているのか解らなかった。
「……涼兄さん、意味解る?」
「よく解らん。」
「だよねー。私も解らないし。」
涼と桃香、そしてそれぞれの部隊の兵士達は少し混乱しつつも、馬上の少女の言葉の意味を考え始めた。
考えながら、涼は馬上の少女を見た。
瞳は紺色、髪型は水色の髪を葉っぱの様な十字形の髪飾りで左に纏めたサイドテール。
肩やお腹を大胆に露出した白い服と袖。露出の割に胸は小さい。
二の腕には蕾の形をした緑色の腕輪、よく見ると髪飾りの形を少し変えただけにも見える。
胸の真ん中で分かれている胸当ても緑色で、中央には桃色の花が描かれている。
黄色のプリーツスカートに重ねるように白い布を巻き、白と黄色で構成されたロングブーツを履いている。
左手にはさっき迄着ていたのか黄色い羽織を抱え、右手首には蝶結びにした黄色い布を巻いていた。
(可愛い女の子だけど……こんな所に居るって事は、もしかしてこの娘が……?)
涼は馬上の少女を観察し終えると、一歩前に出て尋ねる。
「君が張宝か?」
尋ねられた馬上の少女は、一瞬戸惑った表情になるも、直ぐに気を取り直して答えた。
「当たり前でしょ。アンタ、黄巾党の一員のクセにちぃの顔を知らないワケ?」
その声は少し不満げだ。
だが、その言葉で涼や桃香は勿論、部隊の兵士達も漸く、馬上の少女−ちぃこと張宝が先程言った言葉の意味を理解した。
張宝は、涼達を反乱を起こした黄巾党の一員だと勘違いしている。
だからこそあんな物言いだったのか、と思いながら、涼は言葉を紡ぐ。
「悪いけど知らないよ。」
「……失礼な奴ね。まあ、黄巾党も沢山居るから、ちぃの顔をちゃんと見れてない人や、天和お姉ちゃんや人和の方が好きって人も居るだろうけど……。」
張宝がそこ迄言った時、後ろに居た黄巾党の一人が焦りながら張宝に近付き、耳打ちした。
「あの……何か様子が変です。」
「変って? 確かにちぃの顔を知らないのは変だけど……。」
「……その答えは、あれかも知れません。」
男はそう言って或る場所を指差す。
その先には涼の部隊が在り、その中の一人が大きな旗を持っていた。
その旗に書かれている文字は、「清宮」。
「……“清宮”? そんな名前の指揮官、ウチに居たっけ?」
「……居ません。」
男がそう断言すると、張宝は漸く慌てだした。
「えっ!? それって一体……!? ちょっとアンタ、名を名乗りなさい‼」
慌てながら怒り、涼に名前を言う様に命令する張宝。
涼は黄巾党の一員では無いので、答える義務は無いが、一応答えた。
「俺の名前は清宮涼。官軍の総大将だ。」
涼が冷静かつ自信満々にそう言うと、張宝を始めとした黄巾党は驚き戸惑い始めた。
「清宮涼って、最近ウチの各部隊を倒してきた義勇軍の指揮官の一人の名前じゃない!」
「まあ、その本人だからねえ。」
慌てふためく張宝に対し、涼はあっけらかんと言った。
その言葉で、黄巾党の動揺は更に大きくなっていった。
「……本人だったとして、どうやって此処に来たのよ? 鉄門峡は未だ破られていないのに……。」
「簡単だよ、そこの崖を登っただけだから。」
「な、なんですってーーっ!?」
驚いた張宝の声が辺りに響く。
また、黄巾党の動揺も計り知れない程だった。
「バ、バカ言わないでっ! あんな崖を登れる訳が無いじゃないっ‼」
「それが登れるんだよ。……俺は天の御遣いだからね。」
動揺する張宝達を見据えながら、涼は涼しげにそう言った。
涼の言葉を聞き、目の前の現実を見た張宝達は信じられないといった表情で涼を見て、無意識に後退りしようとする。
それを見た涼は冷静な表情を崩さず、張宝達を見据え続けた。
(……このハッタリで降伏してくれると良いけど……無理かなあ。)
涼は内心こんな事を思っていた。
そう、張宝に言った「天の御遣いだから出来る」発言は、単なるハッタリに過ぎない。
この世界の人間が、不可思議な事に特別な畏怖の感情を持っているという事を涼は知っている。
だからこそ、このハッタリは有効だと思い、言ってみた。
果たしてその効果は――。
「……君達が降伏し武装解除してくれたら、黄巾党の身の安全は保障する。」
念の為、もう一言付け加えた。
「……本当に?」
「俺は総大将だ。それ位は出来る。」
張宝は明らかに動揺しながら、涼の提案を受け入れようとしている。
「ちぃは……どうなるの?」
続けて、少し声を震わせながらそう尋ねた。
「……君は黄巾党の乱の首謀者である張三姉妹の一人だ。全くの無事って訳にはいかないだろう。勿論、寛大な処置を願ってはみるけど……。」
涼もまた、少し表情を曇らせながら答えた。
こればかりは、流石に涼の一存で決める事は難しい。
「解った……なら……。」
暫く考えていた張宝が、そう呟きながら下馬しようとする。
だが、
「ダメだ、地和ちゃん!」
周りに居る黄巾党の一人が突然そう叫んだ。
「俺達は地和ちゃん達に惹かれてついて来たんだ! なのに地和ちゃんが居なくなったら、俺達が助かっても意味は無い‼」
「そうだ! 俺達は最後迄地和ちゃんを守るぞ‼」
その一人の言葉から、黄巾党は堰を切った様に声を上げていく。
そこには、涼を畏れ戸惑っていた先程迄の黄巾党の姿は微塵も無かった。
そんな光景を見ながら、涼は一つ溜息を吐く。
「……交渉決裂、かな?」
「そうみたいね。……アンタ達、ちぃの敵をやっつけちゃって‼」
「「「おおおぉぉーーっ‼」」」
張宝の号令に、黄巾党は雷鳴の様な声をあげて応えた。
「仕方ない……皆、黄巾党を倒すぞ! 但し、張宝は生け捕るんだ‼」
「「「はっ‼」」」
涼もまた部隊に号令をかけ、兵士達が黄巾党と戦い始めた。
その様子を見ながら、涼はゆっくりと抜刀する。
「雌雄一対の剣」の一振りである「蒼穹」は、もう一振りの剣「紅星」と同じく日本刀の形状をしている。
この世界には当然ながら日本刀は無く、その材料も無かったが、涼が鍛冶屋の女主人に事細かに説明した結果、何とか出来上がった。
材料が違う為、日本刀本来の切れ味は無いかも知れないが、軽くて使い易い。
もっとも、未だ人を斬った事は無いのだが。
「桃香。」
「解ってる。私も覚悟はとっくにしてるから。」
隣に居る桃香に声を掛け、共に構える。
二人共、手や足が震えているのが解っていた。
それでも、やらないといけない。いつ迄も兵士達だけに任せる訳にはいかないから。
「頼りない兄だけど、俺から離れるなよ。」
「はいっ。」
桃香の返事を待ってから、涼は黄巾党に向かって駆け出し、桃香も離れない様に走る。
目指すは張宝只一人。
余計な殺生はしたくないし、戦う回数が増えればそれだけ命の危機も増える。
戦い方を知っていても、今迄それを実践する機会が無かった二人にとって、戦う回数は少ない方が良いに決まっていた。
幸い、兵士達と黄巾党が入り乱れている中で、張宝迄の道が拓けた。
涼と桃香はそこを見逃さず走っていく。
当の張宝は馬に乗ったまま黄巾党を鼓舞しており、涼達の接近に気付いていない。
(このまま、張宝を捕らえる!)
そう思いながら、涼は張宝に向かって剣を振るった。
怪我させない様に、ちゃんと峰打ちにして。
だが、涼の剣は張宝に当たる事は無かった。
「地和ちゃんは殺らせないっ!」
「ちぃっ!」
黄巾党の男が涼の前に立ちはだかり、自らの剣で涼の剣による攻撃を防いだ。
その男はさっき張宝に向かって叫び、投降を思いとどまらせた一人だった。
「邪魔するなっ!」
涼は一旦間合いをとって再び剣を振るう。
だが男はそれを軽く避けていく。
「どうしたあ!? 天の御遣い様の太刀筋ってのは、こんな物か!? ……こんなんでこの馬元義様を殺れると思うなっ‼」
男はそう叫びながら剣を振り回す。
(こいつが馬元義……。そう言えば、この世界だと未だ馬元義が居るんだな。あと、登場人物が必ず女になってる訳じゃ無いみたいだ。)
涼は、馬元義の攻撃を必死にかわしながらそう思った。
その割には意外と余裕が有る様だ。
一度も戦った事が無い涼がこれだけ動けるのは、涼の「戦いの先生」達のお陰だろう。
(そう言えば、桃香はどうした!?)
そんな中、涼はハッと思い出す。
涼と共に張宝を攻撃しようとした桃香だが、今は近くに居ない。
不安になった涼は、攻撃をかわしながら辺りを見回す。
すると、桃香は涼の左前方約十メートル先に居り、そこで黄巾党の一人と打ち合っていた。
「丁峰さん、剣を退いて下さいっ! 私達は無益な争いを望んでいません‼」
「俺達の仲間を殺しておいて、今更何を言いやがる!」
桃香は宝剣「靖王伝家」を両手で構え、丁峰と呼んだ黄巾党に呼び掛けながら何度も剣を振るっている。
桃香が黄巾党の男の名前を知っているのは、恐らく先程の馬元義と同じ様に名乗ったのだろう。
「桃香……っ!」
「戦いの最中に、何余所見してやがる!」
思わず駆け寄ろうとする涼だが、馬元義の攻撃がその進路を阻む。
「くっ……!」
涼は馬元義に斬りかかりながら、桃香の方に目をやる。
今の所は何とかなっているが、元来戦いに向いていない桃香が長く保つとは思えない。
もっとも、戦いに向いていないのは涼自身もなのだが。
(邪魔するなっ‼)
涼は急に湧き出た怒りに任せて剣を振るうと、運良く馬元義の剣を弾き飛ばす事が出来た。
そのまま馬元義に向かって剣を振り下ろそうとした涼だったが、何故かその手は途中で止まった。
(くっ……!)
涼は止まった手が震えているのが解った。
決心していた筈なのに、いざ人を斬るとなると躊躇ってしまう様だ。
そうして動けない涼を、馬元義は見逃さなかった。
「おらっ‼」
「うわっ!」
馬元義の左キックが涼の脇腹を狙い、涼はガードする間も無く蹴り飛ばされた。
涼は何とか受け身をとる事が出来たが、その間に馬元義は自分の剣を取り戻し、そのまま涼に向かってきた。
「死ねえっ‼」
涼は、マンガとかでよく聞く台詞だなと思いながら攻撃を必死に避け、立ち上がって剣を構える。
だが、その剣は依然として震えていた。
(……くそっ! 震えるなよ、震えるなって‼)
涼は必死に震えを止めようとするが、止まる気配は全く無かった。
相手が恐くて震えている訳では無い。相手を斬ることに怖れて震えているのだ。
そして、この震えを収める術が一つしか無いのを、涼は理解していた。
だが、「それ」が出来ないから困っている訳で。
「おりゃああっ‼」
「くっ!」
攻撃を避けながら、「それ」をしないといけないと思いつつ出来ないジレンマに苦しんでいた。
(早く桃香の援護に行かないといけないのに……!)
焦る気持ちをつのらせながら、涼は剣を振った。
だがその動きは遅く弱く、とてもじゃないが当たる様な一撃では無い。
涼の攻撃を何の苦も無く避けた馬元義は、逆に斬りかかって涼を追い詰めた。
馬元義の剣の腕は、ハッキリ言って良くは無い。それは、戦いの素人である涼が動きを見切れている事からも解る。
だが、涼と馬元義では決定的に違う事が有る。
それは、
“人を斬った事が有るか無いか”
の一言に尽きる。
馬元義は今迄何人も斬ってきたのだろう。剣を振るう動きに迷いが無い。
だが、涼は違う。
平和な世界に生まれ育ち、今この乱世の世界に生きていても、ずっと仲間達に守られてきて未だ一人も斬った事が無い。
斬らないで済むなら一番良いが、それが簡単な事では無いのも解っている。
斬らなければ自分が斬られると解っていても、最後の決断に踏み込めない。
それは普通の人間として当然の事だった。
いざ剣を振るって斬ろうとすると、手が止まって剣が震える。
仮に振れたとしてもその速度は遅く、簡単にかわされる。
これでは、例え百万回チャンスが有っても成功はしないだろう。
(俺は……負ける訳にはいかないのに……っ!)
焦って剣を振るうも、やはり当たる筈も無く、運良く当たろうとすると手が止まった。
そんな繰り返しが何度も続き、気付けば涼は孤立していた。
周りには味方である連合軍奇襲部隊も、敵である黄巾党主力部隊も居ない。
よく見れば、涼の遥か前方で彼等の戦いは続いていた。
幸い、桃香は無事の様だが、桃香が戦っていた相手である丁峰もまた無事だった。
「味方は来ねえみたいだな、天の御遣いさんよぉ!」
「ちぃっ!」
馬元義もまた周りをよく見ていたらしく、そう叫びながら剣を振り回す。
その攻撃も難無くかわす涼だったが、バックステップでかわした後、背中に何かが当たった。
(木!? しかも結構大きい‼)
涼の背後には樹齢何十年になるか解らない大木が在った。
その為、これ以上下がる事は出来ない。
「もらったあっ‼」
下がる事が出来ない涼に、馬元義は左から右への斬撃を放った。
次の瞬間、キィン! という甲高い金属音が鳴り響いた。
涼の剣が、左から迫ってきた馬元義の剣を防いだからだ。
だが、ギリギリで防いだ為、僅かに剣の刃先が涼の肩に触れていた。
防ぐのが後少し遅かったら、間違いなく肩を切り裂かれていただろう。
「……はあ……はあ…………っ‼」
涼は殺されそうになった恐怖の余り、呼吸が必要以上に荒くなっている。
また、目の焦点は合っておらず、体温は急激に下がっている様に感じていた。
「ちっ、運の良い奴め。ならばもう一度……!」
馬元義はそう言いながら剣を引こうとした。
だが、剣は涼の後ろに在る大木に刺さっていて中々抜けない。
「……くない。」
涼は、目の焦点が合わないまま何かを呟いた。
「ああ!?」
中々剣が抜けない馬元義は苛立っている。
「……たくない…………。」
再び呟く涼。
その時、少しずつ馬元義の剣が大木から抜けてきた。
「よし、このまま……!」
それによって馬元義の苛立ちは収まりつつあり、攻撃も間も無く再開されようとしていた。
その時、
「…………死にたく、ないっ‼」
涼はそう叫びながら剣を動かし、自らも右前方へと踏み出した。
数秒後、涼は剣を右手に持ち、相変わらず目の焦点が定まらないまま立っていた。
近くの大木の根元には、一人の男が俯せに倒れている。
男は首の右側から腰の左側にかけて刀傷が有り、そこから紅い液体が流れ出ていた。
大木にもその液体が飛び散っており、また、その木に留まっていた小さな虫も真っ赤に染まっている。
「はあ……はあ……っ。」
涼は荒い呼吸を繰り返す。
手は震え、それによって剣がカタカタと音を立てて震えていた。
白いコートは左側が紅く染まっている。勿論、涼の顔にも紅い液体が飛び散っていた。
涼は手を震わせながらゆっくりと振り向いた。
視界に入ってきたのは、紅く染まっている大木と、その根元に倒れている一人の男。
「…………っ‼」
男はピクリとも動かない。呼吸もしていない。
男が倒れている場所には紅い水溜まりが出来ており、男が頭に巻いている黄色い布も、今ではその半分以上を紅く染めていた。
「俺が……っ。」
涼は、弱々しく声を震わせながら呟く。
「俺が……馬元義を殺した…………!?」
戸惑いながらそう呟いた涼の剣からは、馬元義を斬った時に付いた血が滴り落ちていた。
涼は信じられないといった表情をしていた。
だが、馬元義を斬った感触は確かに有る。
今迄経験した事の無い、肉が裂け、骨が砕ける、あの感触。
それを思い出した瞬間、涼は激しい嘔吐感に襲われた。
「うっ……ぐぅっ…………!」
だが涼は必死になって吐くのを我慢した。酸っぱい液体が胃に戻っていくのを感じる。
我慢した理由は、連合軍の総大将として、ここで吐く訳にはいかないと思ったからだ。
(これで……後戻りは出来ないな…………。)
元々逃げるつもりは無かったが、人を斬った事で尚更逃げる事が出来ないと悟った。
手の震えは、いつの間にか治まっている。
人を斬った事で、「人を斬る恐怖」が無くなったからだろう。
実際、涼は未だ自分のした事を直視出来ないでいるが、人を斬る事に対する躊躇いは無くなろうとしていた。
(どんな理由があれ、本当は人を殺しちゃいけない。……だけど、この世界ではそうも言っていられない……。)
剣を握る手に、自然と力が入る。
(けど……それを言い訳にして人を殺すのを正当化したくない。だから……だから、この気持ちは絶対に忘れない!)
涼はそう固く決意すると、桃香の援護に向かった。
先程迄居た場所に戻ると、そこでは尚も戦いが続いていた。
先程より黄巾党の数は増えているが、連合軍奇襲部隊にも、罠の事後処理を終えた愛紗の部隊が合流している。
兵の数では負けてはいないし、愛紗や鈴々が農民上がりの黄巾党に負ける筈も無い。
そんな戦いの中、涼は桃香の姿を確認した。
愛紗達とは少し離れた所にへたり込む様に座っていて、側には靖王伝家が落ちている。
そして、桃香の前には一人の男が倒れていた。
「桃香!」
慌てて駆け寄るが、桃香は前を見たまま反応しない。
それに、まるで先程迄の涼の様に、目の焦点が合っていない。
そこで涼は気付いた。桃香の前に倒れている男が血を流して死んでいる事。
そして、桃香の剣である靖王伝家に血が付いている事に。
「わ……私……っ!」
桃香は声を震わせていた。
「戦っている時に転んじゃって……そしたら丁峰さんが私に斬りかかったから、私……私…………っ!」
「……もう良いから。」
涼は桃香を抱き寄せて、必死に落ち着かせようとした。
だが、それでも桃香は落ち着かず、声だけでなく体迄も震わせている。
それを見た涼は、先程迄の自分を見ているかの様に錯覚した。
「咄嗟に剣を突き出したら……丁峰さんの体に刺さって……それから……それから…………っ!」
尚も落ち着かずにいる桃香は、いつの間にか涙を流していた。
「覚悟していた筈なのに……解っていた筈なのに……っ! 結局、私は何も解っていなかったんだ…………っ!」
涙を拭く事すら忘れ、自分がした事とその結果に恐怖し、自我を保てなくなっている。
この世界で生まれ育った人間でも、皆が皆人を殺すのに慣れている訳では無い。寧ろ、涼の世界と同様に人を殺した事が無い人の方が多いのだ。
だから桃香のこの反応は自然なものであり、決しておかしくはない。
義勇軍の指揮官としてはおかしいかも知れないが、桃香はついこの間迄普通の女の子として育ってきたのだから、仕方が無いだろう。
「大丈夫……解っていなかったのなら、これからちゃんと解れば良いだけだ。俺も一緒だから、心配するな。」
涼は子供をあやす様に桃香を抱き締めながら、柔らかな口調で語り掛ける。
すると、桃香は少しずつ落ち着きだし、目の焦点も合ってきた。
「涼……兄さん…………?」
涼を見ながら漸く気付いたかの様に呟くと、安心したのか体の震えが治まってきた。
「涼兄さん……。」
もう一度呟いてから涼に向き直り、涙を拭う。
そこで初めて、涼の服や顔に血が着いているのに気付いた。
桃香は驚きつつも目を逸らさず、そのまま涼に尋ねる。
「涼兄さん……もしかして……。」
「ああ……さっき、斬った。」
靖王伝家を拾いながら、淡々と答える涼。
その剣をブンッと振って、剣に着いた血を地面に飛ばし、桃香に渡す。
暫くの間手に取るのを躊躇した桃香だが、やがてしっかりと剣の柄を握り、そのまま目の前で倒れている男−丁峰に目をやった。
「ごめんなさい……。」
そう呟くと、ゆっくりと立ち上がる。
「……でも、貴方を殺した事を無意味にはしません。約束します。」
物言わぬ骸と化した丁峰にそう誓うと、表情を引き締めて涼に向き直った。
「行きましょう、涼兄さん。少しでも早くこの戦いを終わらせないと!」
「ああ!」
そう言葉を交わした二人は、愛紗達が居る前線へと走る。
涼も桃香も、動揺が完全に無くなった訳じゃ無い。
だが、いつ迄もそのままではいられない。
怖れ、悔やみ、泣くのは戦いが終わってからで良い。
涼と桃香はそう思いながら剣を構え直した。
張宝は焦っていた。
当初は劣勢だった黄巾党も、援軍の到着によって一時は立場が逆転した筈だった。
だが、今現在優勢なのは連合軍。そう、張宝の敵の方だった。
更に、悪い事は重なる物らしい。
『馬元義将軍が討たれました!』
『丁峰将軍、戦死!』
戦いの最中、部下が伝えてきた二つの凶報。
張宝率いる黄巾党第三部隊の主力が二人も討ち死にした事は、張宝だけでなく黄巾党全体に大きな衝撃を与えた。
張宝の檄によって上がっていた士気も、今では著しく低下しており、それによって次々と部下が討たれている。
(こんな……こんな事って無いっ‼)
慌てる張宝の耳に聞こえてくるのは、士気高らかに進む連合軍の兵の声と、地面に倒れ死んでいく黄巾党の兵の断末魔。
今や味方の兵は三十にも満たず、対する連合軍は数百を超えている。
勢いでも数でも負けていては、勝てる筈が無い。
(嫌よ……こんな所で死にたくないっ!)
逃げたいと思う張宝だが、部下を見捨てて逃げる訳にはいかない。
だが、このままここに居ては間違いなく殺される。
選択肢は限り無く少なくなっていた。
そんな時、張宝の近くに居た部下の一人が矢を受けて倒れた。
部下は張宝に逃げる様言いながら死んでいった。
張宝は慌てて矢が飛んできた方向を見る。
そこには、桃色の長髪を靡かせ、大きな胸を揺らしながら弓矢を構えている少女が居た。
そしてその少女の近くには、「劉」と書かれた旗が風に靡いている。
(“劉”の旗……! それって、天の御遣いと共に戦ってる指揮官の名前と同じ……っ! 名前は確か、劉備玄徳……‼)
張宝は、以前張梁から聞いた情報を思い出しながら劉備――桃香を見続けた。
先程の矢は、部下を狙ったものではない。矢は確実に張宝に向かって飛んできていた。
それが部下に当たったのは、部下が身を挺して張宝を守ったからに他ならない。
(……天和お姉ちゃんみたいな大きな胸と、ノンビリしてそうな顔をしてるくせに、意外とやるじゃない……。流石は義勇軍の指揮官って訳……?)
張宝は考えようとした。が、考える暇が有る様な状況では無くなっていた。
残った部下が、身を挺して戦っていた。
張宝の前に壁になる様に並び、斬られても射られても直ぐには倒れない。
そして皆口々にこう叫んでいた。
地和ちゃん、逃げろ……!
いつの間にか、張宝は馬を後方に向けて走らせていた。
少女が立ち塞がる黄巾党の最後の一人を斬り倒すと、少女は兵に向かって大声をあげた。
「張宝を逃がすなっ! 弓兵隊はどうしたっ!?」
「駄目ですっ! 馬が速く、既に射程外です!」
兵の報告を聞いた少女は、無意識に歯軋りをした。
「ならばこちらから距離を詰めるだけだっ!」
「し、しかし、人間の足では馬に適いませんっ!」
「そんな事は百も承知! だが、だからと言ってここに留まっていても、射程外のままだ!」
少女は長い黒髪を揺らしながら、兵達に向かってそう叫ぶ。
「敵将をここ迄追い詰めておきながら逃げられては、我等義勇軍の沽券に関わる! 総員、我に続けーっ‼」
自身の得物、青龍偃月刀を掲げながら、少女は張宝に向かって走り出す。
少女の気迫に圧されたのか、兵達も大声を上げながらついて行った。
その様子を、別の部隊の兵が小さな少女に伝える。
「関羽将軍の部隊は張宝を追う様です。我が隊はどうします?」
「愛紗が行くなら、鈴々も行くのだっ。あ、念の為何人かはお兄ちゃん達についていてほしいのだ。」
「解りました、張飛将軍。」
張飛――鈴々は、関羽――愛紗が張宝を追い掛けたと知ると瞬時に指示を出した。
「それじゃ皆、鈴々に続くのだーっ!」
丈八蛇矛を掲げた鈴々が走りながら号令を出すと、鈴々の部隊もまた張宝を追って走り出した。
その様子を見ながら、涼と桃香は自分の部隊に指示を出していた。
「負傷者はここに残って治療を受けて下さい。無事な人は私達と一緒に張宝さんを追い掛けますっ。」
「情報を得る為にも、出来れば張宝は生け捕りにしたい。けど、それが出来そうに無いなら無理はしないで良いから。」
指示を受けた兵達はそれぞれの役目を果たすべく動き出した。
少なからず負傷者は居るし、死者も居る。
崖を登った時は五百人居た奇襲部隊も、今では四百五十人前後になっている。
その内の約半数が愛紗と鈴々の部隊の為、ここに居るのは残りの約二百人。それは決して多い人数では無かった。
「……涼兄さん。」
「どうした?」
そんな部隊の確認をしていた涼に、桃香が声をかけてきた。その声は何故か沈んでいる。
「あの……さっきはごめんなさい。」
「さっき?」
桃香は涼に対して謝ったが、涼は何故謝られているのか全く解らなかった。
「その……張宝さんの居る方向に向かって、私が矢を放った事です。」
「ああ、あれか。」
確かあれは、張宝の側に居た黄巾党に当たったなと涼は思い返した。
「……勿論、私は張宝さんを狙った訳じゃないの。近くに居た黄巾党を狙ったら、その射線上に張宝さんが居て……。生け捕りにする筈なのに、殺そうとしてごめんなさい……。」
「そっか……。まあ、幸い張宝は未だ無事だから余り気にするな。」
「うん……。」
未だ若干複雑な表情ながらも、少しホッとする桃香。
「けど、何で弓矢を使ったんだ?」
「それは、相手がちょっと遠くに居たんで、落ちていた弓矢を拾って攻撃したの。……あの弓矢、誰のだったのかな?」
落ちていたって事は、戦死した連合軍の兵士か黄巾党の兵士の物だろう。
生きているなら武器を落としたままにはしないだろうから。
(張宝は、史実だと皇甫嵩に、演義だと朱儁に敗れて戦死している。小説とかだと張宝を討ったのは劉備で、しかも弓矢を使っていた。だから、桃香が弓矢を使ってもおかしくは無いな。)
とは言え、普段の桃香が弓矢を使うのはやっぱり違和感が有るなと涼は思った。
涼は取り敢えず、慣れない武器は使わない方が良いんじゃないかと桃香に助言してから張宝を追った。
張宝は必死に馬を走らせていた。
本陣には数万の味方が居る。
彼等と合流すれば、数百しか居ない敵兵なんて簡単に倒せると、そう思っていた。
だが、その思惑は脆くも崩れ去る事になる。
「何……これ…………!?」
本陣に辿り着いた張宝の視界に入ってきたのは、黄巾党と連合軍の戦いだった。
しかも連合軍の数は黄巾党を圧倒しており、旗色は明らかに悪かった。
「地和……ちゃん……。」
その光景を前に呆然としている張宝の前に、黄巾党の一人がふらついた足取りでやってきた。
「一体……何があったの!?」
「鉄門峡前に居た……連合軍が雪崩込んできて……この有り様です……!」
「鉄門峡って……あそこに配置していた部隊は何やってたのよっ!?」
「どうやら……全滅した様です。恐らく……先程の裏切り者達が倒したのかと……!」
「そ、そんな……っ!」
張宝は絶望的な状況を悟り戦慄していた。
数で互角になっていた黄巾党が連合軍に勝つ為には、この山の地形を生かした戦いをしなければならなかった。
だが、最早それが可能な状況では無い。
張宝は、自分の命運が尽きようとしている事に、今迄感じた事の無い恐怖を感じていた。
「地和ちゃん……逃げてくれ……っ! 俺達はもう駄目だが、地和ちゃんが……天和ちゃんや人和ちゃんと合流出来れば、黄巾党は未だ……っ‼」
男の言葉はそこで途切れた。
男はその場に倒れる。背中には無数の矢が刺さっていた。
「……っ‼」
張宝は一瞬息をするのを忘れた。
目の前で部下が死ぬのは何回も見ているが、今は状況が状況だけにその恐ろしさは計り知れないものになっている。
遠くで張宝の名前を呼ぶ声が聞こえる。
そのトーンは決して友好的なものでは無い。
張宝が声のした方向に目をやると、そこには「曹」や「董」、「盧」の旗が揺れていた。どれも連合軍の武将の旗だ。
(ちぃ……死ぬの…………!?)
張宝の体は震えていた。
次々と倒れていく部下達。雷鳴の様な大声を上げながら近付いてくる連合軍。そのどれもが恐怖の対象でしかない。
そんな状況に置かれた少女が冷静で居られる筈は無く、少女は只一目散に逃げ出した。
そこに居たのは黄巾党の指揮官である張宝では無く、普通の少女である張宝だった。
数刻後、この山に居た黄巾党は殆どが討たれ、残った者は皆投降した。
只、指揮官である張宝は遂に見つからなかった。
黄巾党が敗北する少し前、張宝は山の中をさまよっていた。
「……こんな……こんな筈じゃ無かったのに…………。」
張宝は泣いていた。
負けた事を悔やんで泣いていた訳では無く、恐怖の余りに泣いていたのだ。
山の中を無我夢中で逃げ回った為、体中に枝や葉によるひっかき傷が出来ており、勿論服もボロボロで、馬もまた疲れ果てている。
そんな張宝に、更なる災難が降り懸かった。
「もらったあっ‼」
「えっ!?」
突然木の陰から一人の少女が飛び出し、張宝に斬りかかってきた。
咄嗟に体が動いた為に避ける事が出来たが、弾みで馬からは落ちてしまった。
「痛っ!」
落ちた場所は草が被い茂っていたので怪我はしなかったが、それでもそれなりの痛みが体に伝わってきた。
「いたた……っ‼」
張宝が体を起こそうとすると、その喉元に大剣が突きつけられた。
「確認するが……お前が張宝だな?」
張宝が目線だけを上げると、短い髪の少女が大剣を手にしたまま彼女を見下ろしている。
その表情は冷たく今にも張宝を殺しそうだが、だとしたら確認をとらずに斬り殺しているだろう。
直ぐに殺さないのは、何か理由が有るのだろうか。
「捕らえたのか、時雨殿?」
近くから別の少女の声が聞こえてくる。
その少女は白を基調とした服を着ており、水色の髪に白い肌。そして手には装飾豊かな槍を持っていた。
「一応な。今確認している所だ。」
白い服の少女に「時雨」と呼ばれた大剣の少女は、張宝を見据えたまま白い服の少女の問いに答えた。
「あちらは大勢が決した様だ。早くしないと、そなた達が合流出来なくなると思うが?」
「解ってる! ……ん? 星よ、お前達は共に行かないのか?」
「私達はもう少し旅を続けるつもりだ。やはり、自分が仕える主はきちんと見極めたいのでな。」
「お前らしい考えだな。」
相変わらず大剣を突きつけたまま会話を続ける時雨。
その時雨は、白い服の少女を「星」と呼んだ。
「……私を、どうするつもり?」
張宝は俯いたまま尋ねる。
それに対して、時雨と星は張宝を見ながら口を開いた。
「知れた事。お前が張宝本人なら、その首を貰う。」
「もっとも、嘘をついても意味は無いぞ。捕虜に聞けば貴公が張宝かそうでないかは直ぐに判るからな。」
それを聞いた張宝は、表情をまったく変えずに、心の中で二人に向かって小さく舌を出した。
(皆に聞いたって、皆がちぃの事をバラす訳無いじゃない。コイツ等……バカ?)
張宝がそう思う様に、黄巾党の人間は張三姉妹を心酔している。
実は今迄、張三姉妹の実態はよく判っていなかったのだが、それは黄巾党が鉄の結束とも言うべき団結力で、張三姉妹の事を秘密にしてきたからだ。
だから、今回も誰も口を割らないだろう。それ程皆、口が固いのだ。
そう結論付け、安心した張宝はつい言ってしまった。
「黄巾党の皆が、私の事を話す訳が無いじゃない。」
それを聞いた時雨と星は唖然とした。
暫くの間、辺りに沈黙が流れる。
「……な、何よ?」
「いや……。」
「まさか、自分から正体をバラすとは思わなかったのでな。」
「えっ……? …………ああっ‼」
漸く自身の失態に気付いた張宝は、大声を上げて落胆した。
黄巾党は口が固いが、肝心の張宝自身は口が軽かった様だ。
「うぅ……。」
「まあ……手間が省けたと思えば良いか。」
「そうだな。」
そう言って互いに顔を見合わせ、それぞれの得物を握り直す。
「可哀想だとは思うが……覚悟!」
時雨と星、二人の少女が得物を振り上げ、張宝に向かって振り下ろそうとした。
その時、
「わーっ! その娘を斬るのはちょっと待ってーっ‼」
緊迫した場面に似合わない高く甘い声が、かなり慌てたトーンで辺りに響き渡った。
何事かと思った二人が辺りを見渡すと、後ろから一人の少女が息を切らせながら走ってきた。
「と、桃香っ!?」
「えっ? ……あっ、時雨ちゃんだあ。」
時雨は驚きながら少女の真名を口にした。すると、真名を呼ばれた少女もまた時雨をちゃん付けで呼んだ。
「時雨殿、もしや彼女が?」
張宝が逃げない様に目を光らせながらその様子を見ていた星が、時雨に確認をとる。
「ああ。コイツが、俺と雫が合流しようとしていた相手の劉玄徳だ。」
「えっ、雫ちゃんも一緒なの?」
時雨が星の問いに答えると、桃香は時雨の答えの中に出て来た固有名詞に反応を示した。
「ああ、今は近くで仲間達と一緒に待っているぞ。」
「そうなんだあ。早く会いたいなあ♪」
時雨から説明を受けた桃香は、満面の笑みを浮かべながらそう言った。
どうやら、桃香と時雨、そして雫は仲が良い間柄の様だ。
「劉玄徳殿、お仲間と戯れるのも結構ですが、一つ尋ねても宜しいですかな?」
そんな中、星が口を開いた。
「何ですか?」
「先程、貴女は張宝を斬るのを待てと仰ったが、それは如何なる理由があっての事ですかな?」
「ああ、それはですね……。」
「それについては、俺が説明するよ。」
星の質問に桃香が答えようとすると、桃香が来た方向から少年の声が聞こえ、ゆっくりとした足取りで一人の少年が現れた。
「貴公は?」
「俺は清宮涼。桃香と共に義勇軍の指揮官を務めています。」
星がその少年――涼を見据えながら尋ねると、涼は丁寧な物腰で自分の名前を名乗った。
「ほう……では貴公が噂の“天の御遣い”殿か。」
「まあ、一応ね。」
涼が天の御遣いだと解ると、星は涼を値踏みするかの様に見つめる。
余りにジロジロ見つめるので、涼は何だか恥ずかしくなってしまった。
「それで、張宝を斬るなという理由は何だ?」
そこに、何故か不機嫌な表情の時雨が尋ねてきた。
その疑問は星も同じだった様で、途端に表情を引き締める。
涼は、時雨の側で俯き涙を流している少女――張宝を一瞥してから口を開いた。
「張宝を斬るなって言ったのは、彼女を殺さないからさ。」
涼のその言葉に、時雨達は唖然となった。
暫くの沈黙の後、最初に口を開いたのは時雨だった。
「お前、何を言っている!? まさか、相手が女だから殺すのが惜しくなったとでも言うのか!?」
「そりゃあ、見た所可愛い娘だし、そういった感情が無いと言えば嘘になるけど。」
「涼兄さんっ。」
嘘偽り無く正直に話す涼に、桃香は思わず注意する。
その光景を見て、時雨が困惑した表情を浮かべながら尋ねた。
「……桃香、今こいつの事を“涼兄さん”って呼んだか?」
「うん、呼んだよ。」
「……何で?」
「だって私達、義兄妹だもん♪」
桃香はそう言いながら笑みを浮かべ、涼の腕に抱きついた。
すると辺りに、いや、時雨の周りにだけ再び沈黙が流れた。
そして、
「な、なんだとーーーっ!?」
枝に留まっていた鳥や、草に隠れていた動物が一斉に逃げ出す程の、悲鳴にも似た大声があがった。
勿論、その声の主は時雨である。
「と、桃香っ! 何でこんな奴と義兄妹の契りを交わしたんだっ‼」
「こんな奴って……。」
「お前は黙ってろ!」
「……けど俺、無関係じゃないよね?」
「五月蝿いっ‼」
すっかり頭に血が上っている時雨は、涼の言葉に耳を貸そうとしなかった。
「時雨ちゃん、何でそんなに怒ってるの?」
「怒ってないっ!」
とは言うものの、どう見ても時雨は怒っている。
そんなに暑くも無いのに顔が真っ赤な事からも、それは明らかだ。
「……話を戻して良いか?」
そこに、星が口を挟んできた。
話が逸れてきたので、流れを断とうとしたらしい。
「しかし、星っ!」
「今は張宝の処遇についての理由を聞くのが最優先であろう?」
「くっ……!」
正論を言われて反論出来ず、言葉に詰まる時雨。そのまま諦めたらしく、そっぽを向いた。
だが、その直前に涼を睨んだ事に、涼自身が気付いた。
とは言え、それに反応したら繰り返しになってしまうので、涼は何も言わなかった。
「張宝を殺さないのには、ちゃんとした理由が有るよ。」
そう言って話を再開する涼。
「それは、張宝を殺した場合の黄巾党の反応を危惧したからさ。」
「黄巾党の反応だと? 奴等はほぼ全滅した様だが?」
時雨がそう言うと、張宝はビクッと体を震わせた。
「それは張宝が率いていた部隊だろ? けど、首領の張角や妹の張梁が率いている部隊は健在だ。もし、張宝が殺されたと彼女達が知ったら……。」
「恐らく、仇討ちと称して今迄以上に暴れ回るだろう。」
「ああ。だから彼女達は捕らえるにしても殺すにしても、三人一緒じゃないと駄目だ。」
「……求心力になる存在が無くなれば、奴等は力を失うという訳だな。」
「その通り。」
元々、張三姉妹を中心として集まった農民達で結成されたのが黄巾党だ。
もし旗頭である張三姉妹が居なくなる様な事があれば、黄巾党は内部崩壊を起こし、簡単に鎮圧されるだろう。
「理由は解った。だが、ならば張宝はどうするのだ?」
「勿論、逃がすよ。」
「……だと思った。」
時雨は呆れながら言った。
「だが、一体どうやって逃がすつもりだ? 鉄門峡は連合軍が抑えているんだぞ。例え変装させたとしても、お前が見知らぬ女を連れていれば、誰かが気付く。そうすれば全ては終わりだ。」
「時雨殿の言う通りだ。戦場に武将でも軍師でも無い少女が居ては、明らかに怪しまれる。」
時雨の意見に星も同意する。
だが涼は、二人の意見にも全くたじろぐ様子も無く、寧ろ冷静に言葉を紡いだ。
「確かに、普通なら怪しまれるだろうね。けど、この場所に君達が居た事で、作戦は比較的成功すると思ってるんだ。」
「私達が居た事で、」
「作戦が成功するだと?」
星と時雨は涼の言葉を繰り返した。
桃香もよく解っていないのか、キョトンとした顔のまま涼を見つめている。
「本当は、この先に在る獣道を張宝一人で通ってもらう予定だったんだ。」
「獣道? そんなものが在るのか?」
「ああ。うちの軍師が集めた情報で、さっき愛紗……関羽にその道が麓に続いているのを確認してもらった。」
「ちょっと険しいけど、普通の女の子一人でも充分降りられる道だって言ってたよ。」
桃香は張宝をみつめながら、涼の話を補足する様に言った。
一瞬だけ目が合ったが、張宝は直ぐに目を逸らした。
「けど、本来なら連合軍と黄巾党以外は居ない筈のこの山に君達が居た。なら、これを利用しない手はない。」
「……まさか、張宝を我等の仲間として扱うつもりか?」
涼の説明の意図に気付いた星が尋ねる。すると、涼は首を縦に振って肯定した。
「この山にも数人ずつなら登れる小さな道は幾つか在るらしいから、君達の存在もそんなに不自然じゃないし。それに、君が桃香の知り合いなのも成功率を上げる要因になる。」
涼はそう言って時雨に向き直る。
「張宝を桃香の友達の娘って扱いにし、桃香に会う為に仲間と旅をしていたって事にすれば、武将でも軍師でも無くても怪しまれない筈だ。」
「いざという時には、時雨殿や私が守ってきた事にすれば良い訳ですからな。」
「ああ。」
涼の説明に星は頷きながら確認をとる。
時雨は少し納得していない様だが、黙って話を聞いていた。
「幸い、張三姉妹についての情報は連合軍でも不足しているから、誰も張宝の顔は知らない。」
「先の戦いで顔を見られたのでは?」
「その可能性は有るけど、それは変装して尚且つ他人への露出を少なくすれば危険性は減る筈だ。」
「もしもの時は、間違って襲われたって言えば良いしね。」
星と涼がそう話していると、再び桃香が補足する様に話した。
それから暫くの間、星は静かに考え込み、やがて涼を見ながら口を開いた。
「……確かに成功率は意外と高いかも知れんな。……だが清宮殿、解っているのか?」
「何がだい?」
「貴公は敵を助けようとしている。それがどんな意味を持つのか、まさか解らない訳ではあるまい?」
「……解ってる。もしバレたら、俺や桃香だけでなく義勇軍全体が逆賊として狙われるだろうね。」
真面目な表情で尋ねる星に対し、涼もまた表情を引き締めながら答えた。
星は尚も尋ねる。
「それ程の危険を冒して迄、張宝を助ける理由は?」
「……今回の戦いで、沢山の人が死んだ。連合軍の兵士も、黄巾党の兵士も、沢山……。」
表情を曇らせながら、涼は言葉を紡いでいく。
「死んだ人は生き返る事は無い。……だから、一人でも多く生き残ってほしい。」
「だが、張宝が張角達と合流すれば、黄巾党の勢力が再び強くなるかも知れん。そうなれば、もっと多くの人が傷つき、死んでいくかも知れぬぞ。」
「勿論それも考えた。けど、ここで殺して火に油を注ぐよりはマシだと、俺は思う。」
星の指摘はもっともだった。
張宝は黄巾党の指揮官の一人であり、その影響力は黄巾党という反乱勢力が出来上がった事からも実証済みだ。
黄巾党の怒りを買っても、張宝を殺した方が結果的に良いと思うのも仕方がない。
だが涼は、それでも意思を曲げそうに無く、星と真っ直ぐに向き合っていた。
「……とんだ甘ちゃんだな。」
そこに、時雨が呆れながら声を出した。
その目には怒りが表れており、ジッと涼を睨みつけると、そのままゆっくりと近付いていった。
「世の中は、そんなに甘くねえんだよっ!」
そして次の瞬間、涼の服の襟を掴んで激昂した。
突然の事に桃香は慌てふためき、張宝も驚いている。
だが、星は何の反応も示さず、目の前で起きている事態を静かに見守っていた。
「……黄巾党が今迄何人殺したか知ってるのか!? 殺された人の殆どは何の落ち度も無い、普通の人達だった! それを……それをこいつの仲間は、自分達の欲望の為に殺したんだっ‼」
空いている手で張宝を指差しながら、時雨は叫んだ。
その張宝は、時雨の迫力に圧されたのか自責の念に囚われたのか判らないが、震えながら再び涙を流しだした。
「それなのにこいつを逃がすだと! 人を斬った事も無い甘ちゃんらしい、反吐の出る理想論だな‼」
「……っ!」
時雨がそう罵ると、涼は自分の襟を掴んでいる時雨の手を掴みながら言った。
「なら……これを見ろよ……。」
ゆっくりと腰に有る剣に手を伸ばす。
それを見た時雨は、今も握ったままの大剣の柄に力を込める。
一触即発。いつの間にかそんな空気が立ちこめていた。
それでも涼は剣の柄を握り、鞘から少しだけ抜く。
すると、それを見ていた時雨の表情が変わった。
「お前……。」
それを見た時雨は、いつの間にか涼の襟から手を離していた。
「……これで解ったか?」
そう言って涼は抜きかけていた剣を鞘に収める。
「……お前、人を斬った事あったんだな……。」
時雨はそう呟きながら涼を見つめる。
先程時雨が見たのは、剣の刃に残っていた紅い血の跡。
それは、少なくとも生き物を斬ったという証だった。
今の涼は、トレードマークとも言うべき白いコートを着ていない。
何故着ていないかというと、先程の戦いで返り血を浴びて汚れた為に脱いでいたのだ。
もしそのコートを着たままならば、時雨はそのコートに着いた返り血を見て、涼が人を斬っている事に気付いていただろう。
因みに現在の涼はTシャツにジーパンといったラフな格好。それだけでは締まりが無いという事で、雪里が仕立てた青色を基調とした羽織りをその上に着ていた。
「俺は人を斬った上でこの決断を下した……。勿論、人を斬る苦しみも意味も知っている。」
服を整えながら、涼は静かに言葉を紡ぐ。
「甘い考えかも知れないけど……それでも、理想を捨てる気も諦める気も無いよ。」
そう言った涼の瞳には、一寸の迷いも無かった。
そんな瞳を見せられては、時雨は何も言えなかった。
「お主の負けだな、時雨殿。」
涼と時雨の衝突を見ていた星が、軽く笑いながら言った。
当の時雨はと言うと、星の言葉が図星だったのか何も言い返さないでいる。
そんな時雨を見てから、涼は未だに座り込んだままの張宝の前にゆっくりと進み、その身を屈めた。
「取り敢えず、俺からの提案は以上なんだけど……どうかな?」
涼は張宝に尋ねた。
今迄張宝の処遇について散々議論してきたが、肝心の張宝自身には全くと言って良い程訊かなかった。
だから涼は、確認の意味を込めて尋ねているのだ。
張宝自身はこれからどうしたいのか、と。
暫くの沈黙の後、張宝は口を開いた。
「……今の話、本気で言ってるの?」
「うん。」
「……こんな事して、アンタに何の得が有るのよ?」
「君を助けられるっていう自己満足かな?」
「助ける振りして、後で殺すとかじゃないわよね?」
「違うから安心して。」
「じゃあ……ちぃの体が目当てとか?」
「えっ!? ……えっと、君は可愛いけど、流石にそんな卑劣な事はしないよ。」
「ふーん……。」
いつの間にか、張宝の表情から陰が無くなっていた。
その張宝は暫く涼を見つめると、笑みを浮かべながら言った。
「解ったわ。どのみち選択の余地は無いみたいだし、アンタの言う通りにしてあげる。」
「有難う、張宝。」
張宝の返事を受けて、涼は笑みを返しながら手を差し出す。
張宝がその手を掴むと、涼はゆっくりと引っ張って張宝を立たせた。
すると、張宝は涼の腕に抱きついてきた。
「えっ!?」
「ちょ、張宝さんっ!?」
突然の事に涼と桃香は驚き、時雨と星も唖然としている。
「どうせなら彼女っぽくした方が怪しまれないでしょ♪」
「ええっ!?」
「さっ、早く私を変装させてよ、涼♪」
「また呼び捨てっ!?」
まるで恋人の様に涼に密着する張宝と、曹操と同じ様にいきなり涼を呼び捨てにする張宝に驚く桃香。
涼は戸惑い焦り、時雨は呆れ、星は笑うのを堪えていた。
「え、えっと……それじゃ桃香、俺は一旦愛紗達と合流するから後をお願いっ。」
「えっ!? ちょっと涼、待ちなさいよっ。」
「解りました涼兄さん。さあ張宝さん、変装しに行きましょう♪」
涼が逃げる様にその場を去ると、そこには何故かホッとする桃香や不満げな張宝、笑っている星と呆れる時雨が残された。
第五章「黄巾党征伐・後編」を読んでいただいて有難うございます。
余りのボリュームに前・後編に分けましたが、何とか収まりました。
構成としては、今回も「横山光輝三国志」を参考にしています。崖を登ったり祈祷したりはそこからです。
この作品で主人公を原作の「北郷一刀」にしなかった理由である、「主人公が人を斬る」シーンがこの章で初登場します。
個人的に、一刀が直接戦う描写のイメージが湧かなかったんですよね。けど、主人公にも少しは活躍してほしいなと思い、オリジナル主人公「清宮涼」を作りました。
かといって、無敵の強さをもつ、なんて設定じゃ愛紗達の存在意義が薄れるので、涼はあくまで「愛紗達のお陰で少しだけ戦える強さ」を持つ主人公にしています。これは基本的に変えません。間違っても、呂布(恋)とタイマンはれる強さにはなりませんので御安心を(笑)
作中の「演義」説明の部分には、多分に小説の要素が含まれています。これは、執筆当時の資料が「横山光輝三国志」しかなく、更にそれが吉川英二の小説を元にしている事を知らなかった為のミスだったりします。
新キャラも何人か出てきましたが、この時点では皆真名しか表記していないので、原作キャラは兎も角、オリジナル武将は誰か判らないですね。一応わざとぼかしているのですが、不親切な部分ではありますね。
この章の一番の誤算は張宝こと地和の扱いです。この時点ではああなる予定はまったくありませんでした。最初は普通に逃がして、三姉妹の再会に繋げる予定だったんですけどね。
さて、次ではいよいよあのキャラが出てきます。お楽しみに♪
2012年11月27日更新。