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真・恋姫†無双 ~天命之外史~  作者: 夢月葵
第一部・桃園結義編
7/30

第三章 旅立ち

沢山の人に見送られ、旅立つ。


寂しさを心に秘めたまま、前に進んでいく。

それでも涙は、いつの間にか出てしまうのだった。




2009年10月12日更新開始。

2009年12月7日最終更新。

「ん…………。」


 鳥のさえずりと陽の光を受けて、(りょう)はゆっくりと目を覚ました。

 目の前には、見慣れない天井。

 そう言えば昨日もそんな風に思ったっけ、と思いながら、一つ欠伸をする。


「もう少し寝ようかな……。」


 そう呟いて目を瞑り、左に寝返りをうつ。

 すると、心地良い香りが鼻に伝わり、次いで誰かの寝息が聞こえてきた。


「え…………?」


 ゆっくりと目を開けると、そこには見知った人の寝顔がある。

 穏やかな顔で定期的に呼吸をし、安眠しているのがよく解った。


(な、何で桃香(とうか)が俺の隣に寝てるんだ!?)


 突然の事にドギマギする涼。

 二人の距離は30センチも離れていない。


(えーっと……昨夜は“桃園の誓い”の後に宴をして……。)


 そこから先が思い出せない。

 酒は誓いの時の一杯しか飲んでいない。ひょっとしたら、その一杯だけで酔い潰れたのだろうか。


(この状況はヤバいって! まさか俺、酔って桃香と……!?)


 頭の中で桃色な妄想を浮かべながら、同時に慌てふためく。

 それでも状況を確認する為に自分や桃香を見ると、二人共寝間着に着替えている。

 が、桃香の寝間着は寝相で着崩れし、目のやり場に困った。


(うわあ……間近で見ると本当に大きいな……って、何を考えてるんだ俺は!)


 慌てて目を逸らすが、直ぐに目線が元に戻る。

 やっぱり涼は男の子なのだ。


(ノーブラ……? いや、ブラって寝る時は外すんだっけ? ……そもそもこの世界の下着ってどんななのかな……?)


 桃香の豊かな胸から目を離せない涼は、チラチラ見ながらそんな事を考えている。


(……ハッ! だから、こんな事しちゃいけないんだって‼)


 再び目を逸らした涼は、その勢いのまま目を瞑って反対方向に寝返りをうった。

 すると、


「すぅ……すぅ……。」


といった寝息が前から聞こえてきた。

 まさか、と思いながら目を開けると、そこにはやはり見知った黒髪の少女がスヤスヤと寝ている。

 しかもまたかなり近い距離に二人は居るので、香りや寝息が直ぐに伝わった。


(あ、愛紗(あいしゃ)迄ここに!? ま、まさか俺は二人と!?)


 再び涼の頭の中で、桃色の妄想が脳内絶賛放映中になる。

 よく見れば、愛紗の寝間着も着崩れして胸がはだけている。

 桃香には負けるものの、愛紗もかなり大きい胸の持ち主なので、目のやり場に困るのは変わらない。

 と言うより、涼は目を離せないでいた。


(愛紗も中々大きいな……。形も良いし、張りも良さそう……。)


 何だか、段々と涼の理性が無くなってきている気がする。

 まあ、二人の美少女(しかも巨乳)が隣で寝ていて、しかも肌を露わにしていれば、そうなるのも理解出来るが。

 因みに、二人共大事な部分はちゃんと寝間着に隠れています。

 それでも十代の思春期真っ盛りな少年には、目の前の光景がかなり刺激的なものなのは間違いない。


(…………ハッ! だから落ち着け俺! 未だそうと決まった訳じゃ無いんだからっ‼)


 慌てて頭を振り、落ち着こうとする涼。


(先ずは、現状認識から始めないと……。)


 そう心の中で呟くと、ゆっくりと起き上がって周りを見る。

 この部屋は八畳くらいの畳張りの部屋。

 その真ん中に布団が二組敷いてあり、涼の布団には桃香が一緒に寝ており、その右隣には愛紗の布団がピッタリとくっ付いて敷いてある。


(ん?)


 よく見ると、愛紗の右隣に小さな女の子がやはり寝間着を乱した姿で寝ている。


(あれは……鈴々(りんりん)か。まさか俺は鈴々とも……な訳無いか。鈴々は子供だしなあ。)


 本人が聞いたら怒りそうな失礼な事を、涼は頭の中で呟いた。


(まあそれは置いといて……。)


 置いとくのかよ。


(俺の体の感じからすると、どうやら二人とそういった事はしてないみたいだ。……ホッとしたやら残念やら……。)


 やはり鈴々は除外されている。

 本人が知ったら、間違いなく蛇矛(だぼう)で殴られるだろう。

 流石に斬られる事は無い……筈。

 ……その前に、涼が思った事をちゃんと理解しているかが疑問だが。


(じゃあ何で俺達は一緒に寝てるんだろ……ん?)


 考えていると、桃香が涼の手を掴んで抱き寄せる様に引っ張った。

 目が覚めたのかと思って顔を見ると、相変わらずの穏やかな寝顔がそこにある。


(ね、寝相なのか? てか、桃香、その位置はマズいって!)


 抱き寄せているので、涼の手は桃香の豊かな胸に挟まれている。

 なので、柔らかな感触がダイレクトに伝わってくる。

 それを感じて平常でいられる思春期の男子は、そうそう居ない。


(これって、嬉しいけど有る意味拷問だ〜っ!)


 涼は頭の中でそう叫んだ。

 とは言え、無理に引っ張ったら起こしてしまうかも知れないので余り動けないし、かと言ってこのままでは涼の理性が飛ぶのは時間の問題。

 と、その時、後ろから声が聞こえてきた。


「……御主人様、一体何をしているのですか?」


 凛とした声が、いつもより低い声で涼の耳に入ってくる。


「あ、愛……紗…………?」


 恐る恐る振り向くと、そこには満面の笑みの愛紗が立っていた。

 だが、その笑顔とは裏腹に、ゴゴゴゴ……といった恐い擬音が似合いそうな雰囲気を出している。


「あの、これはその、誤解で……っ。」

「ほぅ、桃香様の胸を触っているのが誤解なのですか。」

「触ってるのは確かだけど、俺から触った訳じゃなくて……。」


 表情は相変わらず笑顔のままだが、段々と声がトゲトゲしくなってきた。


「あの……愛紗さん?」

「何でしょうか?」


 涼は思い切って言ってみた。


「誤解なんだから、見逃してくれないかな?」

「それは勿論……ダメに決まっているでしょう‼」


 そう叫ぶと、愛紗はいつの間にか手にしていた自分の武器を大きく振り上げる。


「ちょ、ちょっと待って! 話せば解るからっ‼」

「問答無用っ‼」


 涼の懇願を愛紗は聞き入れず、武器を思いっきり振った。


「ぎゃーーーーーっ‼」


 その結果、涼は壁に激突して気絶。代わりに、衝撃音に驚いた桃香と鈴々が目を覚ました。

 十数分後。


「御主人様、申し訳ございません‼」


 先程の部屋には、桃香と鈴々に頭や背中を冷やして貰っている涼と、その涼に対して深々と頭を下げている愛紗が居た。


「いやまあ、誤解が解けたみたいだからもう良いよ。」


 涼はそう言って愛紗の頭を上げさせようとするが、当の愛紗は中々頭を上げようとはしなかった。


「いえ……私は、主である涼殿の言い分を聞かず、感情のまま武を奮い、怪我をさせてしまいました。……この関雲長(かん・うんちょう)、どの様な罰も受けさせて頂きますっ!」

「困ったなあ……。」


 その言葉通りに困った涼は、隣に居る桃香や鈴々に助けを求めようとするが、二人からは「頑張って♪」とのアイコンタクトが返ってくるのみだった。

 結局、涼は困ったまま考えるしかなかった。

 そもそも、何故誤解が解けたかと言うと、話は今から数分前に遡る。

 目が覚めた桃香と鈴々が、気絶している涼と怒っている愛紗を見ると、何が起きたのか愛紗に聞いた。

 怒りによる興奮覚めやらぬ愛紗が、怒気をはらんだまま説明していくと、突然鈴々が桃香を見ながら苦笑し、こう言った。


「あちゃー……桃香お姉ちゃん、またやっちゃったみたいだねー。」


 すると桃香も、


「うん……やっちゃったみたいだねー。」


と、やはり苦笑しながら応えた。

 そのやり取りの意味が解らない愛紗は、キョトンとしたまま二人を見ている。

 そんな愛紗に気付いた桃香が、少し顔を紅くして俯きながら口を開く。


「実は私…………抱きつく癖があるんだ。」

「…………はい?」


 桃香の言葉の意味が解らないのか、愛紗は珍しく間の抜けた声を出してしまっていた。


「時々だけどね、寝癖で布団とか枕を抱きしめているんだ。」

「鈴々も、桃香お姉ちゃんと一緒に寝ると、よく抱きつかれるのだっ。」


 そう言った鈴々だが、嫌では無いらしく、満面の笑みを浮かべている。

 一方、二人の話を聞いていた愛紗の表情は、物凄い速さで青くなっていった。


「で……では、涼殿が誤解だと仰っていたのは…………。」

「うん、多分本当だよ。だって、涼兄さんが私を困らせる様な事はしないと思うし。」

「ごっ……御主人様ーーーーーっ‼」


 桃香が断言すると、愛紗は慌てながら依然気絶中の涼の(もと)に駆け寄っていった。

 それから間もなく涼が気が付くと、愛紗は土下座をするかの如く頭を下げ、何度も謝り続けた。

 そして今に到る。

 あれから何度言っても愛紗は納得せず、涼からの罰を受けようとしている。

 それは彼女が人一倍真面目な性格だからだ。決してそうした趣味が有る訳では無い。勘違いしない様に。

 それを理解した涼は、やれやれといった表情のまま、愛紗に告げる。


「……じゃあ、愛紗には罰を受けて貰う。」

「兄さん!?」

「お兄ちゃん!?」


 涼のその言葉に桃香と鈴々は驚きの声をあげ、発言の撤回を求めようとする。

 だが、


「二人共黙って。理由はどうあれ、罰を与えないと愛紗は納得しないみたいだから。」

「はい……。」

「解ったのだ……。」


 そう言われて二人は渋々ながら納得した。

 そんな二人を一度見てから、涼は愛紗の前に片膝を着いて座り話しかける。


「愛紗。」

「……はっ。」


 愛紗は俯いたまま涼の裁きを待つ。

 そんな愛紗に涼はゆっくりと罰の内容を告げる。


「君への罰は…………自分自身をもっと大切にする事だ。」

「…………えっ?」


 予想外の言葉に思わず顔を上げる愛紗。

 そんな愛紗を見ながら、涼が更に続ける。


「今、これが何故罰なのかって思っただろ?」

「は、はい……。」


 愛紗は戸惑いつつも涼の問いに答える。

 そんな愛紗に涼は説明を始めた。


「愛紗は、俺達と義兄妹(きょうだい)義姉妹(しまい)の契りを交わした。そして、俺達四人の中で今まともに戦えるのは、愛紗と鈴々だけだ。」


 涼の言葉を黙って聞き続ける愛紗。

 また、桃香と鈴々も同様に静かに聞いている。


「そうなると、必然的に俺と桃香は守られる立場になる。一応俺達は“天の御遣い”と“劉勝(りゅうしょう)の末裔”だしね。」


 苦笑しながら自分や桃香の肩書きを述べる涼。


「だから、愛紗と鈴々は自分より俺や桃香を優先しているんじゃないか? 特に愛紗は、君の性格を考えるとそういった気持ちが強い感じがするし。」

「そんな事は……っ。」

「無いって言い切れる?」

「う……。」


 愛紗は言葉に詰まった。

 涼が愛紗達と出会って未だ二日しか経っていないが、その性格は段々と解っていた。

 桃香はのんびり屋だが確固とした信念を持っており、その意志は簡単に挫けない。

 鈴々は見た目も考え方も子供っぽいが、戦いに関する覚悟は誰よりも強い。

 そして愛紗は真面目で、こんな風に融通が利かない事もあるが、人一倍他者を思いやる心を持っている。

 けど、だからこそ自分を省みていない様な気がしてならなかった。

 もしそうなら、少しずつで良いから自分を大切にしてほしい。

 だからこんな罰を与えるんだ、と思いながら、涼は愛紗を優しく抱き締める。


「ご、御主人様っ!?」


 突然の事に愛紗は驚き、上擦った声をあげる。

 桃香と鈴々も驚いてはいるが、それを止める様子は無く、顔を紅らめながらその光景を眺めていた。


「俺達は義兄妹になったんだろ? なら、無理はしないでよ。兄妹なら兄妹らしく、助け合える筈だからさ。」

「御主人様……。」

「まあ、それには俺が強くならないといけないんだけどさ。」


 そう自嘲しながら、ゆっくりと愛紗から離れる涼。


「いえ……そのお気持ちだけで私には充分ですよ。」


 愛紗は顔を少し紅らめながらそう言うと、表情を引き締め、姿勢を正してから涼に告げた。


「御主人様からの罰、謹んでお受けします。必ずや、御主人様が納得する結果を出して見せます。」

「うん。大変だけど頑張って。」


 そう言って涼は愛紗に笑顔を向ける。

 愛紗も、多少顔を紅らめながら笑顔を返した。

 そんな二人を、羨ましそうに桃香と鈴々が見ている事には、二人共中々気付かなかった。

 その後、二人が散々冷やかされたのは言う迄もない。

 それから、朝食をとりながら何故四人が一緒の部屋に寝ていたのか皆で考えた。

 その結果、涼は自身の予想通り最初の一口だけで酔い潰れたらしく、一番最初にあの部屋に向かい、着替えて布団を敷いて寝たらしい。

 続いて酔い潰れたのが桃香で、やはり着替えて寝たのだが、酔っ払っていた所為か涼が寝ている布団にそのまま寝てしまったらしい。

 その後、愛紗と鈴々が酔い潰れて部屋に来て、布団を敷いて寝たらしい。勿論、ちゃんと着替えてから。


「酔い潰れていたのにちゃんと着替えているなんて、有る意味凄いな、俺達。」

「本当ですね、兄さん。」


 普通は、酔い潰れていたら着の身着のままで寝ているだろうし、布団だって敷いていないだろう。

 変な所で規則正しい生活をしている涼達だった。


「それで御主人様、今日はどの様に過ごされるのですか?」


 味噌汁を飲み干した愛紗が涼に尋ねる。


「そうだな……いつ迄もここに居る訳にもいかないし、旅の準備をしないとな。」

「旅って?」


 涼の言葉に、鈴々が疑問符がついた表情で尋ねる。


「世直しの旅さ。」


 涼はそう言って、朝食をどんどん食べていく。

 今日から忙しくなるぞ、と思いながら。

 朝食後、鈴々と一旦別れた涼達は桃香の家へ帰って行った。

 すると、桃香の母から「徐福(じょふく)さんが来ているわよ。」と告げられ、涼達は徐福が居る部屋へと向かった。


「おや、皆様方。お帰りなさいませ。」


 涼達が入って来たのを確認すると、徐福は飲んでいたお茶から口を離してそう言った。


「ただいま。……って、今日はどうしたの? また黄巾党(こうきんとう)が現れたのか?」


 涼がそう尋ねると、隣に居る桃香と愛紗の表情が険しくなる。

 だが徐福は普通の表情のまま答える。


「いえ、街は今至極平和です。それに、もし黄巾党が現れたのなら、ここでのんびりとお茶を飲んでおらずに皆様方を探していますよ。」

「そ、それもそうだね。」


 ホッとしながら三人は徐福の側に座る。


「なら、何の用で家に来たの? 徐福ちゃんが只遊びに来たって訳じゃ無いんでしょ?」


 徐福を見ながら、桃香が尋ねる。


「ええ。先ずは皆様方にはこれに目を通して戴こうかと。」

「これは?」


 服の内側にポケットでも有るのか、徐福は数枚の紙をそこから取り出し、涼達に渡す。

 受け取った涼はそれが何かよく解らなかったが、次の言葉で理解した。


「先日の戦いの報告書です。」


 そう言われて紙に目を通すと、「死傷者数」「捕縛数」等の文字と、それ等の横に漢数字が記載されていた。

 因みに、この世界の文字の読み方が解らない涼は、取り敢えず読める文字だけを読んでいる。


(皆と話す事は普通に出来るのに、何で読む事は出来ないんだろ。……何だか理不尽だ。)


 そんな事を涼が頭の中で愚痴っていると、徐福が報告書の説明を始めた。


「そこに書いてある通り、昨日の掃討戦でこの辺りに居た黄巾党は壊滅しました。また、捕縛した黄巾党の人間から、色々と有益な情報を手に入れる事も出来ました。残念ながら、首領である張角(ちょうかく)の情報は有りませんでしたが……。」


 始めはテンポよく話していた徐福だが、最後の部分は良い情報では無かったからか、声のトーンが若干下がっていた。


(張角か……。確か、三国志演義では黄巾党の乱の最中に病死したんだよな。情報が無いって事は、こっちの張角も既に死んでいるのか?)


 報告書を取り敢えず読みながら、涼は情報を整理していた。

 これからも戦うであろう当面の敵、黄巾党について。

 一通りの説明が終わり、涼や愛紗、桃香との意見交換を終えると、徐福は再びお茶を飲み始めた。


「ところで、皆様方はこれからどうするおつもりなのですか?」


 お茶を飲み終えると、徐福は涼達を見ながらそう尋ねた。

 それに対し、三人を代表して涼が答える。


「成程、黄巾党を殲滅させる為に旅立ちますか。」

「ああ。」


 強い意志がこもった声でハッキリと答える涼を、徐福は感心した様に見ながら暫く考える。


「で、具体的にはどうするのですか?」

「それは未だ決めてない。」

「…………は?」


 予想外の応えに、徐福は思わず目を点にしながら、間の抜けた声を出してしまった。


「取り敢えず、義勇兵を集めていこうとは思ってるんだけど。」

「……では、その義勇兵を集める為の資金は有るのですか?」

「無い。けど、何とかなるでしょ。」

「…………。」


 遂に反応出来なくなったのか、徐福は口を開けたまま黙ってしまった。

 涼はその様子に怪訝な表情をしているが、隣に居る桃香と愛紗は徐福の異変に気付いたらしく、無意識の内に座ったまま後退りしていた。

 それに気付かない涼は、徐福に声をかけようとする。

 すると、


「……貴方は何を考えているのですかっ‼」

「わっ!?」


メチャクチャ大きな声で怒鳴られたのだった。


「目標を持ったのは良しとしましょう。ですが、その為の指針が何も無いというのはどういう訳ですかっ‼」

「ちょっ、徐福!?」


 怒りで興奮している徐福が涼に詰め寄る。

 余りの迫力に思わず後退る涼だが、徐福はその分も詰め寄っていく。


「これでは、感心した私がバカみたいではないですかっ!」


 遂には、涼の襟元を両手で掴んでしまう徐福。

 流石に桃香と愛紗も止めようとしたが、徐福に睨まれるとそれ以上動けなかった。

 あの関羽を威圧するとは……徐福、恐るべし。


「まあまあ、落ち着いて。」

「これが落ち着いていられますかっ!」


 涼の制止の言葉にも、耳を貸そうとしない徐福。

 だが、それでも涼は言葉を繋いでいく。


「確かに今はお金が無いよ。けど、当てが無い訳じゃ無いんだ。」

「……と、言いますと?」


 またも予想外の言葉を聞いた徐福は、ピタッと怒りを鎮めて涼の話を聞きだした。

 まあ、依然として襟元を掴んだままだが。


「お金が無いなら何とかして増やせば良い。例えば、何かを売るとかね。」

「それはそうですが、それなりの物で無ければ、売っても二束三文にしかなりませんよ。」

「うん、確かにそれなりの物じゃないとね。……徐福、俺の肩書きは何か言ってみて。」

清宮(きよみや)殿の肩書きですか? それは勿論“天の御使い”……あっ!」


 何かに気付いた徐福が涼を見つめる。


「もしや、天の国の物を売るのですか!?」

「御名答♪ 俺の世界じゃありふれた物でも、この世界じゃ物珍しい筈。なら、結構良い値で売れると思うんだけど、どうかな?」

「それは……確かに……。」


 涼の説明を聞いた徐福が右手を口元に当てながら考え込む。

 やはり依然として襟元は掴んだままだが。


「天の国の道具を好事家(こうずか)に見せれば、ひょっとしたら物凄い額になるかも知れません。」

「だろ?」


 徐福が賛同したので、涼は笑顔で徐福、桃香、愛紗に顔を向ける。

 それを見て、桃香や愛紗もホッとしたのか笑顔になった。

 だが、徐福はそんな雰囲気を壊す一言を放つ。


「ですが、清宮殿の計画に相当する好事家を探すのは簡単じゃないですよ。」

「え?」


 途端に涼達の表情が曇る。


「確かに好事家は欲しい物珍しい物を手に入れる為なら、お金に糸目は付けません。……が、義勇兵を雇い装備も調えられる額を出せる好事家は、そうそう居ないでしょう。」

「幾ら好事家と言っても、当然ながら資金には限りがあるからな。」

「ええ。清宮殿が義勇兵をどれだけ集める気か解りませんが、かなりの額が必要になるのは明らかですからね。」


 徐福が冷静にそう言うと、涼は困った顔をしながら頬をかく。


「うーん……良いアイデアだと思ったんだけどなあ。」

「あいであ?」


 聞き慣れない単語を耳にして、思わず聞き返す徐福。


「天の国の言葉で、考えや思いつきって意味だよ。」

「成程。確かに清宮殿の“あいであ”は良いと思います。後は、その大金を出せる好事家が居るかどうかだけです。」


 涼の説明を聞いた後、徐福はそう言って涼の「あいであ」を認めた。

 だが、かといって問題が解決した訳では無いので、涼達四人は揃って頭を抱えてしまった。

 この時になって漸く、徐福は自分が涼の襟元を掴んだままなのに気付き、慌てて手を離し涼に謝罪する。

 だが、涼はさほど気にしてなかったのか別段咎めはしなかった。

 そんな事もありながら考えていると、不意に桃香が手を挙げながら提案した。


「えっと……取り敢えず、ここで考えていても好事家が見つかる訳じゃ無いから、外に行ってみない?」


 それは凄く単純だが、だからこそ皆が失念していた事だった。


「そうだな。確かに桃香の言う通り、ここでウンウン唸ってたって好事家は見つからないしな。」

「でしょ? 愛紗ちゃんはどう?」

「私も、桃香様や御主人様が仰る通りだと思います。」


 桃香の提案に、涼と愛紗は直ぐ様同意した。

 なので、そのまま出掛けようとした涼達だったが、何故か徐福がキョトンとしていたので、涼達は立ち上がったまま徐福に話し掛けた。


「徐福、どうしたの?」

「……ああ、いえ、何でもありません。」

「何でもないって表情じゃ無かったよー。」


 徐福は平静を装うものの、桃香に突っ込まれて思わず俯いてしまう。

 それから暫く考えてから徐福は尋ねた。


劉備(りゅうび)殿達は、お互いの真名(まな)を預けたのですか?」

「うん、昨夜の宴の中でね。」


 徐福の質問に桃香が答える。


「そうでしたか。皆さんは昨日、お互いを姓名で呼んでいたので、今の会話は少々驚きました。」

「そうか?」

「ええ。……もしや、皆さんは既に閨を共にする仲になっているのですか?」

「「ぶっ‼」」


 徐福がそう発言した途端、桃香と愛紗は殆ど同時に顔を真っ赤にし、慌てふためいた。

 だが只一人、涼だけはキョトンとしていた。


「なあ愛紗、“ねや”って何の事だ?」

「なっ!?」


 涼に尋ねられて、紅かった顔が更に紅くなる愛紗。

 尋ねられてない桃香も、心なしか紅くなっている様だ。


「えっと……それはですね…………。」


 愛紗は律儀に答えようとするが、慌てふためいていて中々答えられないでいた。

 そんな愛紗を見かねてか、代わりに桃香が答えようとする。

 もっとも、その桃香も未だ顔を紅くしているのだけど。


「りょ、涼兄さん、本当に閨を知らないの?」

「知らないけど……ひょっとしてその言葉って、知ってて常識だったりする?」

「えっと……この場合の意味は子供は知らないかも知れないけど、私達くらいの歳の人なら、大体の人は知ってると思いますよ。」

「??」


 桃香の説明を聞いても、涼はイマイチピンとこなかったらしい。

 と、そんな時、徐福がクスクス笑いながら涼に対して詳しく説明を始めた。


「清宮殿、閨とは寝床の事。特に、夫婦や恋人同士が共に寝る寝床の事をそう言うのです。」

「……な、成程、そうだったんだ……。」


 理由は解った涼だが、その所為で急に変な汗をかき始めていた。


(夫婦や恋人が寝る寝床ってわざわざ言うって事は……つまりは、“ああいう事”をする寝床って意味だよな……。)


 流石に、高校生である涼は彼女達の言わんとする事を理解している。

 なので、桃香と愛紗が顔を紅くした理由も(ようや)くだが理解していた。


「ところで清宮殿。」

「何?」

「先程、劉備殿が清宮殿の事を“涼兄さん”と呼んでいましたが、それはどういう意味なのでしょうか?」

「ああ、それは……。」


 徐福に尋ねられた涼は、隣に居る二人に話して良いか確認してから、昨夜の事を話し始めた。


「……成程、皆さんは義兄妹・義姉妹の契りを結んだのですか。」

「ああ。差し詰め、“桃園の誓い”ってとこだな。」


 三国志演義における、人気エピソードのタイトルをそのまま告げる涼。


「“桃園の誓い”、ですか。中々雅な例えですね。」

「本当だねー。」

「確かに。」


 どうやら、涼が考えたオリジナルの名前だと思ったらしい。

 まあ、三国志演義を知らないのだから当たり前ではあるが。

 説明するのも面倒なので、それについて涼は何も言わなかった。


「それじゃ、改めて行こうか。」


 涼がそう言うと、四人は今度こそ部屋を出た。

 街に出た涼達は、手分けして好事家を探し始めた。

 とは言うものの、やはりそう簡単に見つかる筈もなく、涼達は休憩をとりながら探し続けている。


「中々見つからないねー。」

「そうだな。」

「やっぱり、徐福ちゃんが言ってた通り、簡単にはいかないのかなあ。」

「かもな。」


 街を歩き回りながらそんな会話を続けているのは、桃香と涼の二人。

 愛紗と徐福は、鈴々を迎えに行ってから、そのまま探しに行くと言っていた。

 その言葉通りに探しに行ったのか、愛紗達は未だ涼達と合流していない。


「うーん……。」

「どうした?」


 そんな中、気が付くと桃香がこちらを見ながら唸っていた。


「涼兄さん、好事家さんが見つからないのに全然焦っていませんよね。」

「そう見えるか?」

「うん。」


 そう言って桃香はさっきより強く見つめてくる。

 だが涼は素知らぬ顔で歩き続ける。

 その内心では、桃香の事を意外と鋭いなと思っていた。


(昨夜、俺達が桃園の誓いをした事で、この世界が三国志の世界、それも三国志演義を元にした世界だと確信出来た。)


 「桃園の誓い」は、正史の「三国志」には無い「三国志演義」の創作である。

 正史の「三国志」が歴史に忠実に描かれているのに対し、「三国志演義」は劉備や諸葛亮(しょかつりょう)を主人公にしている為か、創作部分がかなり多い。

 「桃園の誓い」以外にも、「赤壁の戦い」における諸葛亮の活躍等も幾つかは創作だと言われている。

 勿論、創作がダメだというのではないので、誤解しないでほしい。

 兎に角、この世界が「三国志演義」がベースになった世界なら、涼達が旅立つ為の準備が出来る様になる筈だ。

 だが、


(だとすれば、この場面では当然あの二人が出て来る筈だけど……。)


果たして本当に出て来るのか、不安が無い訳でも無かった。


「大丈夫大丈夫。心配しないで良いって」

「涼兄さんがそう言うなら、私も気にしないけど……。」


 だが、その不安を桃香に悟られない様に、涼は努めて明るく振る舞っていた。

 と、そんな時だった。


「あんたが清宮様と劉備様かい?」


 二人は後ろから声をかけられた。

 急に声をかけられた事に少し驚きながら、涼と桃香は同時に振り返る。

 そこには小柄なツインテールの少女と、涼と同じくらいの身長の少女が立っていた。


「そうですけど……貴女達は?」


 桃香がそう答えながら逆に問い掛ける。


「あたいは馬商人の張世平(ちょう・せいへい)。こっちは私の従姉妹で相棒の……。」

蘇双(そそう)と申します。どうかお見知り置きを。」


 桃香の問いに対して、比較的長身の少女が張世平と名乗ると、続けて小柄なツインテールの少女が蘇双と名乗った。


(来たか……。しかし、やっぱりこの二人も女の子なんだな。)


 涼は張世平と蘇双を見ながら、この世界に来て何度目か解らない感想を呟く。

 しかし、いつ迄もそう思う訳にもいかないので、取り敢えず二人の話を聞く事にした。

 すると、二人は涼達が好事家を探している事を人伝に聞いたらしく、涼達の力になれると言ってきた。

 それを聞いた桃香は素直に喜んだものの、自分達が必要としている額を考えると、途端に不安になってしまった。


「涼兄さん、どうしましょうか?」

「取り敢えず、もう少し話を聞いてみようよ。」


 涼がそう言うと、桃香は静かに頷いて話を続けた。

 すると、彼女達が出せる金額は涼達が必要としている金額以上だった。

 思わず桃香が尋ねる。


「馬商人って、そんなに儲かるものなんですか?」

「あたい達は元々、中山(ちゅうざん)の豪商だったからね。かなりの数の好事家と繋がりが有るのさ。」

「元々?」


 桃香が何気なく呟くと、二人は表情を暗くして話し始めた。


「……あたい達の家族は、黄巾党の奴等に殺されたんだ。」

「……!」


 静かに告げられた事実に、思わず絶句する涼と桃香。


「あたい達は何とか生き延びられたから、家族の仇を討ちたい。」

「けど、私達には力がありません。ですから、私達の願いを聞き届けてくれる人を探していたのです。」


 そう話す二人の瞳には、悔しさと悲しさ、そして希望が同居していた。

 そんな二人を、涼と桃香が放っておける筈がない。

 涼と桃香は二人の申し出を受ける事にした。

 それでも、一応確認したい事が有ったので、涼は二人に問い掛ける。


「何故、俺達なんだ? ここに来る迄にも、有力な将や太守は沢山居たんじゃないのか?」


 「三国志演義」を知っている涼には聞く必要が無い質問なのだが、それでもここは異世界なので、聞いておきたかった様だ。


「確かに、ここに来る迄に沢山の人に会ったよ。けど、その殆どが私利私欲にまみれた奴ばっかで、あたい達が望む人物は一人も居なかった。」

「そんな中でこの街に着くと、お二人の噂を耳にしたので、私達の願いを託そうと思ったのです。」

「噂を聞いただけで決めて良いのか? 実際には、俺達も私利私欲にまみれた奴かも知れないのにさ。」


 涼は敢えて自分達を卑下した物言いをしてみる。


「勿論、人の噂は当てにならない事も多くあります。」

「だけど、あんた達を見て確信したよ。あんた達は、あたい達が望んだ人物だ。」

「何でそう言い切れるんですか?」


 自信満々に話す張世平に対し、桃香が問い掛ける。

 すると、張世平は涼と桃香を見ながら答える。


「瞳さ。」

「「瞳?」」


 張世平の言葉を、涼と桃香の二人は同時に繰り返した。


「あんた達の瞳は、他の奴等とは違う。確固とした意志や信念を持っている。それは、今の時代に必要なものだよ。」

「それが無い者に、私達の願いを預けたりはしませんから。」


 張世平、そして蘇双はそう言って、涼と桃香を見つめる。

 二人の眼には、先程と比べて涼達に対する信頼が多く溢れていた。

 それを感じた涼と桃香は思った。

 二人の、いや、沢山の人々の期待に応えられる様に、精一杯頑張らないといけないな、と。

 そう決意した涼達は、話の続きは場所を移してからする事にした。

 その場所は、愛紗達との合流場所でもある鈴々の家である。

 鈴々の家に着くと、そこには鈴々と愛紗、そして徐福が居た。

 どうやら、三人はこれから涼達と合流しようとしていた様だ。

 何でも、鈴々を起こしてから好事家を探しに行ったものの見つからず、前もって決めていた合流場所であるここに一旦戻ってみたが、涼と桃香も未だ戻っていないので、暫く休憩していたら涼と桃香が戻ってきた、という感じらしい。

 その涼と桃香が、見知らぬ二人の少女と一緒だったので、愛紗達は一瞬だけ怪訝な表情をしたが、直ぐ様表情を明るくして涼に尋ねた。


「御主人様、もしや?」

「ああ。探していた好事家本人じゃないけど、その好事家と繋がりがある馬商人の、張世平さんと従姉妹の蘇双さんだ。」


 涼がそう紹介すると、徐福は二人をジッと見始めた。

 二人は大きさや色が違うものの、基本的なデザインが同じ服を着ている。見た感じ、余り高い服には見えない。

 簡単に言うと、張世平は黒を基調としたノースリーブにホットパンツ。蘇双は白を基調とした長袖にロングスカートという格好だ。

 そんな二人に徐福は、


「馬商人ですか。失礼ですが、余り儲かっている様には見えないのですが。」


と、先程の桃香と同じ様な事を言った。

 思わず噴き出しそうになった涼達だが、それを何とか堪え、経緯を簡単に説明する。

 そうして徐福が納得したところで、涼達は商談を始めた。

 と言っても、売り物は涼が持っている「天の国の道具」くらいしか無いのだが。


「それで、一体何を売ってくれるんだい?」


 張世平が涼に尋ねた。

 尋ねられた涼はバッグを開け、そこから細い棒を取り出し張世平に見せる。


「それは何ですか?」


 恐らく、涼以外の全員が思っていた事を、まるで代表するかの様に愛紗が尋ねた。

 涼はその棒を指先で回転させながら答える。


「これは“ボールペン”っていう、俺の国の筆記用具の一つだよ。」


 そう言って涼は「ボールペン」の説明をしていった。

 墨を使わず、キャップという蓋を外せば直ぐに文字が書けると知ると、桃香達は皆一様に驚いていた。

 勿論、説明しただけで売れるとは思っていないので、ちゃんと実演もしてみせる。

 この世界では紙は貴重品なので、実演には持っていたメモ帳を使った。


「わあっ。」

「凄いのだー。」


 自分の名前「清宮涼」をメモ帳にスラスラッと書くと、桃香達は皆、さっきの説明を聞いていた時よりも大きく驚いていた。

 やがて、自分達も書いてみたくなったのか、皆一様にボールペンを凝視している。

 その雰囲気に押されたのか、涼は少しだけ、という条件をつけてボールペンを手渡した。


「これが“ぼぅるぺん”……何とも珍妙な名前の筆記用具ですね。」


 ボールペンを手に取った愛紗がそう呟く。

 そして、同じく手渡したメモ帳に「関羽雲長 愛紗」と書くと、


「ほお……こんな小さな物がこれ程書き易いとは……やはり天の国とは凄い国なのですね。」


と感嘆の声を上げた。

 桃香達も早くボールペンを手に取りたい様だが、愛紗は熱中しているのかそれに気付かない。

 鈴々に取られそうになって、漸く気付いたくらいだ。

 そんな光景を見ながら、涼は張世平に尋ねる。


「どう? これは好事家が欲しがると思う?」


 多分大丈夫だろうと思いつつも、少し不安にも思いながら答えを待つ。

 すると、


「欲しがるも何も、(むし)ろこれを欲しがらない人間が居たら見てみたいね。」


というお墨付きを貰った。

 それから涼は、桃香達全員が試し書きを終えたのを確認してからボールペンを回収し、張世平に渡して代金を貰った。

 その金額は、百人以上の兵を集められる程の大金だった。

 それから数日は、旅の準備でてんてこ舞いだった。

 同行してくれる義勇兵を集め、武具を揃え、馬を揃える。

 まあ、馬に関しては張世平、蘇双がサービスとしてくれたので楽だったが。

 もっとも、大変だったのは桃香達で、涼は何もしなかった。

 いや、出来なかったというのが正しいか。


「お兄ちゃん、大丈夫ー?」

「な、何とかね……。」


 今、涼は布団に寝ており、鈴々に看病されていた。

 この状態が、かれこれ三日も続いている。

 この間の涼は、腹痛で寝込んでいた。

 かといって何かの病気という訳ではない。単に腹を壊しているだけなのだ。

 前日、前々日は何とも無かったが、張世平達との商談を終えた日の夜から体調を崩し、桃香達の勧めもあって休んでいる。

 異世界に来て、食べ物や飲み物が体に合わなかったのが原因と思われるが、初日や二日目は何ともなかったので、腹痛の時間差攻撃に涼は想像以上にまいっていた。

 何せ、現代と違って腹痛を治す薬が簡単に手に入る訳では無いし、トイレも洋式で無ければウォシュレットも当然無い。

 今更ながら、涼は異世界に来ている事を実感していた。

 結局、涼が全快したのは旅立つ準備が終わる前日の事だった。

 涼の体調が良くなり、旅立ちを翌日に控えた夜、涼達は桃香の家に集まっていた。


「今更ながら確認するけど、皆俺に付いて来てくれるんだね?」

「当然です。私達は義兄妹・義姉妹なのですから、常に一緒です。」

「もし鈴々達を置いてったら、直ぐに追い掛けるのだっ。」

「そうだね。涼兄さん、私達を置いて行っちゃダメですからね。」


 愛紗、鈴々、そして桃香の三人は微笑みながらそう告げる。


「解ってるよ。……三人共、有難う。」


 涼はそんな三人に深く感謝しながら頭を下げた。


「桃香達はこう言ってるけど、君達はどうなんだい?」


 続いて、桃香達の反対側に座っている三人に確認をとる。


「私は、先日の黄巾党討伐の時から清宮殿について行くと決めていました。失礼ながら、この街の義勇兵の隊長では、私の実力を発揮出来ない様ですしね。」


 イタズラっぽい笑みを浮かべながら、徐福も同行すると宣言する。


「勿論、あたい達もあんたについて行くよ。何せ、あんた達はあたい達の希望だからな。」

「うん……頑張って下さい。」


 続けて、張世平と蘇双の二人も同行すると宣言した。

 すると、彼女達の視線は自然と涼に集まっていた。

 皆の視線を受けた涼は、全員をゆっくりと見渡してから告げる。


「皆、本当に有難う。心強い仲間が出来て、俺はとても嬉しく思ってるよ。」


 そして深々と頭を下げ、感謝の意を示す。

 すると、涼が頭を下げたので、桃香達も同様にして頭を下げた。

 そうして互いに顔を見合わせると、柄にもない事をした所為か自然と噴き出してしまった。


「まあ、固っ苦しい挨拶はこれくらいにして、これから頑張っていこう。勿論、俺も頑張るからさ。」

「解りました。我が青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)に誓って御主人様をお守り致します。」

「鈴々も、丈八(じょうはち)蛇矛に誓うのだっ。」

「わ、私も靖王伝家(せいおうでんか)に誓うもんっ。」


 固っ苦しい挨拶は無しと言った傍から誓いだす三人。

 しかし、その気持ちは嬉しいので素直に受け取る涼だった。


「三人共有難う。けど、俺もいつか皆を守れる様に強くなるからね。」

「うん、期待してるよ、涼兄さん。」

「ですが、我等が主は行き当たりばったりな上に、直ぐ体調を崩される様ですからな。今は私達が主を守らなければいけないのが現状ですね。」

「まったくです。」

「……それを言うなよ。」


 折角の決意が揺らぎそうな事を言う徐福と愛紗であった。


「さて、では私からも一つ申し上げても宜しいでしょうか?」

「……何?」


 涼が軽くへこんでいるのを知ってか知らずか、徐福はマイペースに尋ね、そして話し出す。


「実は先程、清宮殿にお仕えするにあたり、名を改めたのです。」

「えっ、名前を!?」


 淡々と喋った割には内容が予想外だった為、涼だけでなく桃香達も驚いた。

 そんな涼達に対し、徐福はあくまでマイペースに話し続ける。


「はい。兼ねてから、仕えるべき主が現れた時に名を改めようと思っていましたので。」

「そうだったのか。それで、何て名前にしたの?」


 先程は忘れていたので驚いたが、「三国志演義」を知っている涼は勿論その名前を知っている。

 だが、当然ながら桃香達は知らないので一応聞いてみた。


「徐福の“福”を“庶”に改め、“徐庶(じょしょ)”にしました。」

「徐庶ちゃんかあ、良い名前だねっ。」


 笑顔を浮かべた桃香が、徐福改め徐庶を見つめる。


「有難うございます、劉備殿。……折角ですから改めて自己紹介をしましょうか。私の姓は“徐”、名は“庶”、字は“元直(げんちょく)”、真名は“雪里(しぇり)”と申します。以後、お見知り置きを。」


 そう言って徐庶は深々と頭を下げる。


「ああ、こちらこそ宜しく、雪里。」


 涼は早速徐庶を真名で呼び、改めて挨拶を交わした。


「それじゃあ、あたい達も改めて自己紹介しとくか。」

「ええ。」


 雪里に触発されたのか、張世平と蘇双も自己紹介を始めた。


「あたいの姓は“張”、名は“世平”、真名は“(よう)”だ。宜しくな。」

「私の姓は“蘇”、名は“双”、真名は“(けい)”です。宜しく。」


 そう言って頭を下げる張世平と蘇双。

 そうして二人の自己紹介が終わると、桃香達も改めて自己紹介をして親睦を深めていった。


「それじゃあ、心機一転した徐庶や、張世平達が真名を預けてくれたお祝いに、今夜は宴なのだーっ。」

「これ鈴々っ。確かに雪里殿達の事は目出度い事だが、今日宴を開くなら、それは主に我等が主の出立を祝ってだろう。」

「あ、そうだったのだ。」


 楽しそうに提案するも、愛紗に注意されてハッとする鈴々。


「まあまあ、今日はお母さんが腕によりをかけて料理を振る舞うって言ってたから、楽しくいこうよ♪」


 桃香がそう言うと、鈴々は子供の様にはしゃいだ。

 ……まあ、見た目も子供ではあるが。

 結局その日は、涼達の旅立ちを祝って盛大な宴が夜遅く迄続いた。


「ん…………。」


 宴が終わり、今は誰もが寝静まっている真夜中。

 そんな時間に、涼は不意に目が覚めた。


「うぅ……頭が痛い…………。」


 どうやらまた酔い潰れたらしいと思いながら、額を抑え、そのまま辺りを見回した。

 今居るのは先程迄皆で御馳走を食べていた部屋。

 涼自身は毛布一枚かけていただけで、着ている服は寝間着ではなく普段着のままだった。


「……またかよ。」


 よくよく見れば、部屋には愛紗、鈴々、雪里、葉、景の五人が毛布にくるまって寝ている。

 何だか最近見た光景だなあと思いながら、涼はゆっくりと立ち上がり部屋を出た。

 別に何かしたくて部屋を出た訳では無い。

 只、女の子が寝ている部屋に居るのが少しばかり居心地悪かっただけだ。


(また誤解されても困るからなあ。)


 そう思いながら自然と体が震える。

 どうやら、愛紗の一撃は体が覚える程に痛かったらしい。


(ん……?)


 そんな事を考えながら廊下を歩いていると、とある部屋から人の話し声が聞こえてきた。


(この声は……桃香か?)


 そう言えばさっきの部屋には居なかったなと思いながら、涼は声がする部屋に近付いていった。


「……遂に、この日がやってきたのですね。」


 続いて聞こえてきたのは、桃香の母の声だった。


「劉勝の末裔である貴女は、いつかは国の為民の為に立ち上がらなければなりませんでした。その為に私は、貴女に人として王としての生き方を教えてきたのです。」

「そうだったんだ……。けど、人としては兎も角、王としての生き方は教えて貰ってない気がするんだけど?」


 桃香は母に尋ねた。

 確かに、桃香が自分自身を劉勝の末裔だと知ったのは最近の事であり、それ迄は普通の少女として育ってきた筈だった。


「そんな事は有りませんよ。……桃香や、王に必要なものが何か解りますか?」

「王に必要なもの? ……う〜ん……やっぱり、誰にも負けない強さと、類い希な精神力とかじゃないかなあ?」


 強くなければ敵から国や民を守れないし、精神力もプレッシャー等に打ち勝つ為に必要だ。


「確かにそれも大事です。ですが、強さや精神力だけでは駄目なのです。」

「じゃあ、何が必要なの?」


 暫く考えていた桃香だったが、結局解らなかったらしく答えを求めた。

 桃香の母は答える。


「それは、民を思う心と、民に愛される事です。」

「民を思う心と、民に愛される事……。」


 桃香は母の言葉を反芻(はんすう)した。


「国とは民あってのものであり、決して王だけのものではありません。それを忘れてしまっては、王たる資格はありません。……残念ながら、今の漢王朝はその事を忘れています。」


 だからこそ漢王朝は腐敗し、そして黄巾党が現れた。

 それからの事は皆が知る通り。

 黄巾党の乱を鎮圧すべき官軍は頼りにならず、本来は国や民の為に立ち上がった筈の黄巾党は、単なる賊に成り下がった。

 そして、そんな世の中を変えようと沢山の人々が立ち上がっている。


「貴女を、儒学者の廬植(ろしょく)先生の許で学ばせたのも、その事を知ってもらいたかったからです。」

「確かに、廬植先生には色んな事を教わりました。……それに、掛け替えのない友達も出来ました。」


 母の言葉を聞いて当時を思い出したのか、桃香は微笑んだ。

 涼はそんな桃香の声を聞きながら考える。


(桃香の親友……劉備が廬植の許で学んでいた時に知り合った人物と言えば、やっぱり公孫賛(こうそん・さん)の事だろうな……。)


 公孫賛、字は伯珪(はくけい)

 史実や演義で、旧知の仲である劉備を迎えた武将で、北方の勇である袁紹(えんしょう)と戦った歴戦の勇士である。


「伯珪ちゃんの事ですね。彼女も今は幽州(ゆうしゅう)太守として活躍している様です。」

「はい、私も白蓮(ぱいれん)ちゃんの噂はよく聞いています。」


 桃香の母が伯珪ちゃんと呼ぶ。やはり、公孫賛も女の子の様だ。


「何れは、伯珪ちゃんと共に戦うのも良いでしょう。あの娘は中々利口な娘でしたからね。」

「ええ。私も、白蓮ちゃんと一緒に戦えたら良いなって思います。」


 そう話す桃香の声はとても明るく、それだけで公孫賛の人柄がよく解った。


「ならば、先ずは伯珪ちゃんが居る城を目指すと良いでしょう。その道中に居る黄巾党を倒していけば貴女達の評判も上がり、伯珪ちゃんも温かく迎えてくれる筈です。」

「はい、解りました。絶対に白蓮ちゃんの所に行きます。」


 そう言って桃香は母に頭を下げる。

 そこ迄聞いてから、涼は踵を返した。


(これ以上盗み聞きは出来ないな。……戻ろう。)


 本当は盗み聞き自体が駄目なのは涼も解っているが、何だか聞き入ってしまっていた。

 多分、暫くの間離れ離れになる親子の会話に興味があったのだろう。

 それは、無意識の内に自分自身の家族の事を思っていたからかも知れない。

 涼もまた、家族と離れ離れの身なのだから。

 涼はその後、部屋に戻って再び寝る事にした。

 女の子が雑魚寝している部屋に戻るのは少し気が引けたが、ここで別室に移っても却って誤解されそうな気がしたので、結局そのまま寝る事にした。

 一応、少し離れてはみた様だが。


(それにしても……。)


 再び毛布にくるまりながら涼は思う。


(皆、ちょっと無防備過ぎるよなあ。ひょっとして、俺が男だって事を忘れてるんじゃないか?)


 そう思いつつ周りを見る。

 そこに居る愛紗達は皆酔い潰れたらしく、着の身着のままの姿で寝ていた。

 毛布にくるまっているとはいえ、寝相で毛布がはだけ、胸元や足が見えたりしている娘も居る。

 涼は思春期真っ盛りの男の子であり、そんな光景を見せられてはかなり困ってしまうのだが。


(まあ、それだけ信頼してくれてるって事かな。……うん、そう思う事にしよう。)


 余り考え過ぎてもいけないな、と結論付ける。

 考えても答えが出ると限らない場合は、下手に考えない方が良い。

 今迄そうしてきたので、これからもそうするだろう。

 そう思いながら、涼は再び眠りにつく。

 暫くして、誰かが涼の隣に寝たのだが、その頃には熟睡していたので気付かなかった様だ。

 翌朝、涼が目覚めた時には既に全員が目覚めていた。


「お早いお目覚めですね。」


 と、雪里に言われたりもした。

 よっぽど遅く迄寝ていたのかと思ったが、丁度朝食の時間だったのでそんなに遅い訳ではない。

 だから何でそんな風に言われたのか、涼には解らなかった。

 皆で集まって朝食をとると、何とお風呂が用意されていた。

 この世界は毎日お風呂に入れる訳ではない。

 現代みたいに蛇口を捻って水を汲む訳ではないし、お湯を沸かす為にガスを使う訳でもない。

 自ら水を汲んで風呂桶を満たし、薪を焚いてお湯を沸かす。その行程はかなり大変だし、水が貴重な世界だから週に一回入れれば良い方だ。

 夏だと川で水浴びとか出来るらしいけど、今は未だ季節じゃないから無理だし。

 そんな貴重なお風呂に入る事が出来る。

 勿論、一度に入る訳じゃ無いので、入る順番を決めないといけない。

 桃香達は主である涼が先に入るべきだと主張し、その涼は女の子が先に入るべきと主張した。

 どちらも譲らないまま数分が経過した所で、雪里が多数決を提案した。


「こら待てっ。それは……!」

「清宮殿が最初だと思う方は挙手を。」


 勿論、結果は涼が入る事になった。


「多数決が数の暴力とは、よく言ったものだよ。」


 風呂から上がり、取り敢えず寝間着に着替えた涼は、縁側に座りながらそう呟いた。

 涼の後に桃香が入り、以降は愛紗、鈴々、雪里、葉、景の順番で入っていった。

 そうして皆が風呂に入っている間に、桃香の母によって服は洗濯されている。

 洗濯機も乾燥機も無い世界で、あの人数分の衣服の洗濯は大変だろう。

 なので、涼達も手伝うと申し出たが、旅立つ前に疲れる事はしなくて良いと言われ、断られている。

 今日は天気も良いし風も適度に吹いている。これなら、昼過ぎには乾くだろう。

 衣服が乾く迄の間、涼達は当面の基本方針を話し合った。

 義勇軍を旗揚げするとはいえ、人数は百人ちょっと。しかもその殆どが、実戦経験が余り無い農民達だ。

 ちゃんと行動しないと、あっという間に全滅してしまう。


「そこで、私の出番という訳です。」


 いつもの様に自信満々に話し出したのは、涼率いる義勇軍唯一の軍師、徐庶こと雪里だった。


「清宮殿達には、先日捕縛した黄巾党の男から有益な情報を得た事は話しましたよね? 実はその情報には、幽州に点在する黄巾党の拠点や人員等の詳細が含まれていたのですよ。」

「それは凄いな。なら、人数が少ない所から叩いていけば……。」

「黄巾党の数は減り、我等は名声を得る事になりますね。」

「そしてそうなれば、自然と人や物が集まってくる、と。」

「そう上手くいくかは解らないけど、可能性は高いと思います。」


 雪里の報告を聞くと、涼達の話は一気に盛り上がっていった。


「けど、ずっと戦っていたら疲れるしご飯も無くなるのだ。鈴々達だけじゃ、その内お腹が減って戦えなくなるよ?」

「ああ、その点なら大丈夫だよ。」


 鈴々が疑問を口にすると、桃香が笑顔を鈴々に向けながら話し出した。

 それは昨夜、桃香と桃香の母が話していた内容だった。


「幽州の太守は公孫賛って人なんだけど、この人は私の幼馴染みなの。だから、戦功を挙げていればきっと快く受け入れてくれると思うんだ。」

「ですが、いくら友達とは言え相手は太守です。そう易々と受け入れてくれるかどうか……。」


 桃香の説明を聞いていた愛紗が不安を口にする。

 だが桃香は、そんな愛紗の不安を無くすかの様に、笑顔を向けて話していく。


「大丈夫だよ、愛紗ちゃん。白蓮ちゃんは優しくて良い娘だから、きっと私達を受け入れてくれるよー。」


 義姉(あね)である桃香にそう迄言われては、義妹(いもうと)である愛紗はそれ以上何も言えなかった。


「……解りました。では御主人様、私達の当面の目標は、公孫賛殿が居る城に向かいつつ黄巾党を討つ……で、宜しいでしょうか?」

「ああ、それで良いよ。」


 愛紗が確認すると、涼はあっさりと決めた。

 難しい事が苦手なのと、当初の目的としては充分だと思っていたので、反対する理由が無いからでもある。

 それから詳細を決めていき、終わった時には丁度昼食の時間になった。

 これが、桃香にとって一先ず最後になる母の手作りご飯。

 次に食べられるのは何年後になるか解らない。

 だからだろうか、桃香は一口一口を噛み締める様に食べていった。

 勿論、その様子を皆に悟られない様に、出来る限り普通に振る舞っていた。

 昼食を終えた頃、洗濯していた衣服が乾いた。この季節にしては暑かったのが早く乾いた要因らしい。

 涼達は直ぐに着替え、続けて武器や道具を身に付けていく。

 桃香は宝剣「靖王伝家」を、

 愛紗は大薙刀「青龍偃月刀」を、

 鈴々は長矛「丈八蛇矛」を、

 武器を持たない雪里は「大きな中華鍋」、

 葉は「巨大算盤」、

 景は「巨大巻き尺」をそれぞれ携える。

 そして涼はと言うと、旅の準備中に街の鍛冶屋に造らせた、外見が全く同じ二振りの剣、所謂「雌雄一対の剣」と、借りていた「靖王伝家(予備)」を持つ事になった。

 本当は「雌雄一対の剣」が出来た時に「靖王伝家(予備)」は返すつもりだったのだが、桃香の母が、


『未だ返さなくて良いですよ。武器は使われてこそ意味が有りますから。』


と言い、桃香も、


『何だかお揃いみたいで嬉しいですっ。』


と笑顔で言っていたので、何となく返しそびれていた。

 そのお陰で、涼は三つもの剣を持つ事になってしまっている。


「外見だけは立派な剣士ですな、清宮殿。」

「どうせ俺は弱いですよー。」


 桃香を除いた残りの全員は今、桃香の家の門前に集合し、そんな事を話して待っていた。

 やがて、家の中から桃香と母が出て来る。


「それじゃあ……行ってきます。」

「ええ……気を付けるのですよ。」


 短く言葉を交わすと、桃香は深々と御辞儀をし、涼達の許に向かった。

 涼達は桃香が合流すると同時に、桃香の母に向かってやはり深々と御辞儀をする。


「皆さんも、どうか無事に帰ってきて下さいね。」


 涼達は、桃香の母にそう言われて送り出された。

 桃香の母に見送られた涼達は、一路街の広場へと向かう。

 そこには、涼達と共に義勇軍に参加する者達が主の到着を待っていた。

 集まった義勇兵は百人以上。殆どは農民や商人の次男や次女だが、中には先の黄巾党征伐に参加した軍人も居り、涼達に対する期待の大きさが窺える。

 涼達が広場に着くと、到着を待ちわびていた人々から大きな拍手が巻き起こった。


「す、凄いな……!」

「う、うんっ……!」

「お二人共、何を驚いているのですか。」


 拍手に驚いている涼と桃香を、雪里が窘める。


「先日の黄巾党征伐の時には、もっと沢山の兵が居たではないですか。」

「それはそうなんだけど……。」

「この人達全員が俺達が率いる兵だと思うと、何だかプレッシャーが……。」

「ぷれっしゃあ?」


 涼が言った言葉の意味が解らず、キョトンとした顔で聞き返す雪里。


「えっと……つまりは“精神的重圧”って事。」

「成程。しかし、これからは何千何万もの兵を率いる事もあるのですよ。これくらいの事で萎縮していては困ります。」

「そりゃあそうなんだけどさあ……。」


 戦争の無い国で生まれ育った涼には、些か荷が重い状況だろう。


「大丈夫ですよ、御主人様、桃香様。私達もついているのですから、御安心下さい。」


 そんな涼と桃香を愛紗が励ますと、鈴々達も同意するかの様に頷く。

 その様子を見ていた雪里は、はあ、と溜息をつきながら愛紗に言う。


「愛紗殿達は、直ぐにそうやって清宮殿と桃香様を甘やかす。」


 だが、愛紗も負けずに言い返す。


「そうか? 私には、雪里が少しばかり厳しい様に見えるがな。」

「軍師とは、主に媚びへつらうだけでは意味がありませんからね。これは性分みたいなものです。」


 愛紗の指摘にも表情一つ変えずに答える雪里。

 それを見た愛紗は、納得した様な表情を浮かべながら言葉を続ける。


「成程。まあ、私もお二人が今のままで良いとは思っていない。少しずつでも我等が主として成長してもらわないとな。」


 そう言うと、愛紗は二人の主にそれぞれ目をやる。

 その視線が鋭かったからか、涼と桃香はビクッとしながら声を発した。


「えっと……頑張ります。」

「わ、私も頑張るよっ。」


 そう答えながら、情けないなあと思う二人だった。


「では、参りましょうか。皆がお二人のお言葉を待っています。」


 愛紗に促され、涼達は前に進んだ。

 左右に分かれた義勇兵達の間を、涼と桃香を先頭にして、続けて愛紗、鈴々、雪里、葉、景の順に歩いていく。

 進んだ先には、直方体の台座が設置してあった。

 数日前には無かったので、今日の為に作ったのだろう。

 その台座に、涼達は義勇兵達から見て左から景、葉、鈴々、桃香、涼、愛紗、雪里の順に並んでいく。

 そうして並び終わると、涼は改めて辺りを見渡す。

 目の前には武装した義勇兵約百人。そしてその後方には、その様子を見ている街の人や旅人の姿がある。

 その表情には、涼達に対する期待と、子供や友達を送り出す不安が同居していた。


(もしかしたらこれが今生の別れになるかも知れないんだから、当たり前だよな……。)


 愛紗にああ言った手前、頑張らないといけないのだが、責任の重さが急激に襲いかかってくるのを涼は感じていた。

 普通の高校生が他人の命を預かる事等は先ず無いのだから、その事で不安になるのは仕方ないだろう。


「……さんっ。涼兄さんっ。」

「えっ?」


 声を掛けられている事に気付き、涼はハッとする。


「大丈夫ですか? 何だか急に暗い表情になっていましたけど……。」


 声を掛けていたのは、隣に立つ桃香だった。

 心配そうに見つめる桃香を安心させないといけないと思った涼は、表情を取り繕って答える。


「大丈夫だよ、ちょっと考え事をしてただけだから。」

「それだけには見えなかったんだけど……」


 尚も心配する桃香。そんな桃香の気を逸らそうと、涼は話題を変える事にした。


「それよりほら、愛紗が皆に話しているんだから、ちゃんと聴こうよ。」


 涼がそう言う様に、今は愛紗が義勇兵達に対して義勇軍の心構えを説明していた。


「我等義勇軍には黄巾党という無法者共とは違い、鉄壁の規則が有る。私がこれから言う規則を、皆は守れるか?」

 愛紗の問いに、義勇兵達は雄叫びで答えた。


「良かろう、では……。」


 愛紗はコホンと咳払いをしてから、規則を一つ一つを凛とした声でハッキリと説明していく。


「一つ、将の命令を守る事! 一つ、目の前の利益に惑わされずに大志を抱く事! 一つ、自らより国を思う事! 一つ、略奪や弱者を傷付ける事は禁止! 一つ、軍規を乱す者は追放! ……以上だ‼」


 愛紗が規則を言い終わると、暫くの間辺りに静寂が訪れたが、やがて、先程よりも大きな雄叫びが湧き起こった。

 雄叫びがあがったという事は、どうやらここに居る義勇兵は皆規則を守れるという事らしい。


「では桃香様、皆に一言お願いします。」

「えっ、私っ!?」


 尚も雄叫びが続く中、急に話を振られた桃香は驚いた。

 自分には無理だと言って断っていたが、桃香も義勇軍の指揮官の一人なので、結局話さなければならなくなった。


「落ち着いていけば大丈夫だよ、桃香。」

「う、うんっ。」


 涼に励まされて少し緊張がほぐれた桃香は、ゆっくりと前に立ち、義勇兵達の雄叫びが止むのを待ってから語りかけた。


「えっと……殆どの人はこの街の人だから私の事を知っていると思うけど、一応自己紹介しますね。私の名前は劉備玄徳、中山靖王劉勝の末裔です。」


 桃香がそう言うと、結構大きなどよめきが起きた。

 考えてみれば、桃香自身も自分の出自を最近知った訳で、それからも殊更に話し回ってはいなかった。

 先日の黄巾党征伐の折に少し話してはいたものの、参加していない人に迄は余りその出自が知られていなかった様だ。


「今の世の中は間違っています。ほんの一握りの人達だけが我が物顔で暮らしていて、それ以外の多くの人達は苦しい日々を送っています。」


 初めは緊張気味だった桃香だが、話している内に緊張がほぐれてきたらしく、段々と饒舌になっていった。


「私は、この世の中を変えたい。誰もが笑顔で生きていける世の中にしたい。……けど、幾ら私に中山靖王の血が流れていても、一人では何も出来ない。」


 桃香はそう言うと一度目を瞑り、両手を胸に添えながら話を続ける。


「けど、私には仲間が居る。私と義姉妹の契りを交わした関雲長ちゃんに張翼徳(ちょう・よくとく)ちゃん、とっても頼りになる軍師の徐元直ちゃん、いつも元気で明るい商人の張世平ちゃんに蘇双ちゃん、そして……。」


 そこで一旦言葉を区切ると、後ろに居る人物に向かって振り返り、その手をとった。


「そして、そんな私の……ううん、私達の力になってくれる人。その人がこの、“天の御遣い”こと清宮涼さんっ。」


 桃香に引っ張られる様にして前に出た涼は、躓きそうになるも何とか耐えた。

 そして感じた。皆の注目が、桃香から自分へと移っていったのを。

 そんな視線を交わす様に、涼は小声で桃香と話す。


「桃香、俺を紹介するのは良いけど、急に引っ張らないでくれよ。」

「ゴメンね、涼兄さん。一人じゃこれ以上耐えられそうになくて……。」

「そうは見えなかったけど……。」

「けどそうなのっ。」


 桃香はそう言うと、何故か顔を紅くしてそっぽを向いた。

 未だ何か言おうとした涼だったが、義勇兵達に向かって桃香が再び話し始めたので、結局言えなかった。


「知っている方も多いでしょうが、清宮涼さんはこの大陸に平和をもたらす為に、天から遣わされたのです。そして先日の黄巾党討伐で、早速私達を勝利に導いてくれましたっ。」

(いや、あれは別に俺は何もしていない様なものだけど……。)


 涼はそう思ったが、義勇兵や街の人達は桃香の話を鵜呑みにしたらしく、涼に対して歓声を送っていた。


(いやいや、この中にはあの時参加してた人も居るよね?)


 そんな涼の心のツッコミも、義勇兵達には当然聞こえない訳で。

 その歓声は暫くの間止む事は無かった。


「私達は、そんな御遣い様と共に立ち上がるのです。そして、いつか必ず平和を取り戻し、家族や友が待つこの街に戻ってきましょう!」


 右手を高々と上げてそう言うと、義勇兵達は更に大きな歓声で応えた。

 桃香はそんな義勇兵達を心強いと思いながら、隣へと視線を移す。


「それじゃあ涼兄さん、最後に一言お願いします。」

「やっぱり?」

「うん♪」


 笑顔で答える桃香に涼は何も言えなかった。

 立場上何か言わないといけないとは解っていたものの、沢山の聴衆の前で話した経験が殆ど無い涼は、何を話したら良いか解らなかった。

 と、そこで、義勇兵達がざわついているのに気付いた。

 聞こえてくる声から察するに、涼の服装や剣に注目している様だ。

 この世界の人間は誰もコートやジーパンなんて見た事無いだろうから、それは仕方ないだろう。

 しかも、腰の左右には雌雄一対の剣を下げ、背中には靖王伝家(予備)を背負っている。

 その姿と先程の桃香のスピーチで、涼がかなりの実力者だと思っているのかも知れない。

 実際には未だ一人も斬った事が無いというのに。


「えっと、皆さん初めまして。只今、劉玄徳から紹介された清宮涼です。」


 取り敢えず涼は、挨拶から始めてみる。


「彼女が言った通り、俺はこの世界の人間ではありません。だから、天の御遣いという説明は解り易いとは思っています。」


 そう言うと表情を引き締め、前を見据える。


「けど、だからと言って俺は万能じゃ無い。何でも出来るなら黄巾党は勿論、あらゆる悪党をとっくに殲滅している訳だしね。」


 そう言った瞬間、義勇兵達はざわめいた。どうやら、涼が不思議な能力を持っていると思っていた者が多かった様だ。


「けど、俺が皆に無い能力(ちから)を持っているのは確かだ。それはここに居る義勇兵や後ろで聴いている人達、そしてここに居る劉玄徳達は勿論、この世界の誰も持っていない能力だ。」


 能力と言ってはいるものの、ファンタジーによくある魔法の様な不思議な能力じゃない。

 天界ーーつまり現代の知識や道具を使えるに過ぎない。

 だが、そんな事ですらこの世界の人々は驚いてしまう。それは以前、桃香達に携帯電話や携帯ゲームを操作してみせた時に実感していた。

 だから、涼にとっては当たり前の事でも、この世界の人々にとっては不思議な事なのだ。


「俺はその能力を皆の為に使う。そして、より効果的にする為には皆の協力が必要なんです。」


 そこ迄言うと、ふうと息を吐き呼吸を整える。


「皆さん、どうか俺達に力を貸して下さい! そして、先程劉玄徳も言った様に、いつか必ず平和を取り戻し、俺達と共にこの街に戻りましょう‼」


 涼は拳を握り締めながらそう言った。

 そして暫くの沈黙の後、桃香の時よりも大きな歓声が辺りを包んだ。

 その歓声が、涼達に対する期待の表れだというのは解る。

 だが、自分の言葉に何故こんな風に反応してくれたのか、涼自身はよく解っていなかった。

 力強くは無く、頼りにもならない言葉だったんじゃないかと思っていたのに。

 それなのに、目の前では皆が手を天に突き上げて涼達の名を叫び、絶叫にも似た歓声があがっている。

 涼にとってその光景は、まったく現実感がない光景に感じていた。


「それだけ、皆が世の中を憂いているという訳ですよ。」


 隣に立つ愛紗が、前を見据えたまま呟く様に話し掛ける。


「苦しいからこそ、自分達を助けてくれる人を求めているのです。」

「俺は……俺達は、彼等の期待に応えられるのかな。」

「何を今更言うのですか。」


 名前を呼ばれた愛紗は義勇兵達に手を振りながら、視線だけを涼に向けて話す。


「たった今、御主人様は皆に約束したのですよ。“皆で平和を取り戻してここに戻ってこよう”、と。」

「……そうだったな。」


 前から考えていた言葉ではない。直前に桃香が言っていたから、心に残っていたのかも知れない。

 だけど、言ったのは間違いなく清宮涼本人であり、それは変えようのない事実だ。

 だったら、自分の言葉に責任を持たないといけない。

 少なくとも、精一杯頑張って結果を出せる様にしないと駄目だ。


「……愛紗、これから宜しくな。」

「それこそ今更ですよ、義兄上(あにうえ)。」


 愛紗は微笑みながらそう答える。

 その笑顔に思わず赤面してしまう涼。

 普段の凛とした表情も可愛いのだから、笑顔も可愛いのは当然ではある。

 多分、普通の感性を持つ男性なら皆、この笑顔にクラッとくるだろう。

 ……いや、下手をしたら女性もクラッとくるかも知れない。


「そ、それもそうだな、愛紗。」


 平静を装いつつ、前を向いて義勇兵達の声援に応える涼。

 顔が紅くなっているのを自覚しつつ、何とか気付かれない様にしていく。

 幸いにも、愛紗には気付かれずに済んだらしく、その場はそれで終わった。

 只一人だけ、そんな涼の様子に気付いていた人物は居たのだが。

 それから涼達は義勇兵達を各部隊に振り分けた。

 因みに部隊は涼や桃香達を守る部隊、愛紗が率いる部隊、鈴々が率いる部隊、雪里が率いる部隊、の四つだ。

 振り分けが終わると、涼達と一部の義勇兵達は馬に乗って行進を始めた。それ以外の義勇兵達は、勿論徒歩での行進となる。

 本当は全員分の馬を用意したかったのだが、葉達のサービスを含めても流石に全員分の馬を調達する事は出来なかった。

 馬を用意するだけなら何とかなるが、馬の飼料代とかを考えると予算を大きくオーバーしてしまうのだ。

 生き物を飼うって結構大変なんだよね、これが。

 そうして隊列を成した涼達は今、街の大通りを通り街の外に向かっていた。

 隊列の先頭には、異なる旗を持った二人の男性――つまり旗手が並んで歩いている。

 旗の一つは緑と白を基調とし、中央の丸の中には黒い筆文字で「劉」の一文字。

 もう一つの旗は青と白を基調とし、中央の丸の中に黒い筆文字で「清」の一文字が入っている。

 どちらもこの数日の間に作った旗の一つ。因みにこの二つは大将旗なので、普通の旗より一回り大きく作られている。

 その後ろには三列になって進む歩兵が居て、少し後ろに涼と桃香が馬に乗って並んで進んでいた。


「玄徳ちゃん、しっかりねー。」

「あ、有難うございまーす♪」

「御遣い様、どうかこの国をお願いします。」

「はい、任せて下さい。」


 道行くすがら、集まった人々から声を掛けられる一同。

 その声一つ一つに、丁寧に応えていく涼達。

 そうしてゆっくりと行進する隊列の真ん中に、愛紗と鈴々が馬に乗って進んでいる。

 愛紗は姿勢を正しくして真っ直ぐ前を見ている。

 だが、鈴々はキョロキョロと辺りを見回していて落ち着きが無い。

 その様子に気付いた愛紗が声を掛けた。


「どうした、鈴々?」

「な、なんでもないのだっ。」


 鈴々はそう答えるも、やはり周りをキョロキョロし続ける。


「寂しいのか?」

「そ、そんな事無いのだっ。……ただ……。」

「ただ?」

「おばちゃんと離れ離れになるのが、ちょっと嫌なのだ。」


 そう言うと、鈴々はあからさまに表情を暗くした。

 幼い頃に両親を亡くしている鈴々にとって、おばちゃん−桃香の母は母親代わりだ。

 そんな大切な人と離れるのだから、寂しくない訳がない。


「大丈夫だ、私達が功を上げれば呼び寄せる事も出来る。直ぐに会えるさ。」

「……うんっ。」


 愛紗が言った一言で鈴々は少しだけ元気になる。

 功を上げる事が簡単じゃないのは鈴々も解っているが、それでも元気になる理由には充分だった。

 だから、潤んだ瞳を腕で拭って前を見る。

 情けない姿を見せたら、心配させてしまうから。

 それだけは絶対にしたくなかった。

 そんな二人の少し後ろには雪里が、その後ろには葉と景が並んで馬に乗って進んでいる。

 また、その少し後ろには、「関」「張」「徐」の旗を持った騎手が並んで進んでいる。

 因みに「張」は張飛ーー鈴々の旗で、張世平の旗ではない。

 張世平ーー葉と蘇双ーー景は戦いに参加しないので旗は作っていないのだ。

 それから三列に並んで歩いている歩兵が続き、最後尾を騎兵が二列になって進んでいく。

 百名程の義勇兵達だが、皆が武装し行進している姿はそれなりに迫力がある。

 だからだろうか、街の人達の声援は止む事が無い。

 そんな声援を受けながら、涼と桃香は街と外を区別する門を潜る。 桃香はその瞬間、何気なく振り返った。

 それは、暫く離れる事になるから最後に一目だけでも、と思って振り返っただけだった。

 けど、桃香は振り返って良かったと思った。

 桃香の視線の先に、よく見知った姿があったからだ。

 その姿は、大通りに集まった人達の中にあったのではない。近くに在る丘にあった。

 勿論、遠くてハッキリと見える訳じゃない。

 だが、そこに居るのは一人の大人の女性で、何より髪型、服装、佇まい。そのどれもがあの人と同じだった。


(お母さん……っ!)


 思わず泣きそうになったが、何とか堪えた。

 鈴々と同じで、情けない姿は見せたくないから。

 例え、遠くて涙が見えなくても、泣く訳にはいかなかった。


「桃香、大丈夫か?」


 桃香の異変に気付いた涼が声を掛ける。

 それに対し、桃香は零れかけた涙を手で拭って答えた。


「……大丈夫だよ。覚悟はしていたし、それにこれが今生の別れって訳じゃ無いんだから。」


 そう言うと、表情を引き締めて前を見据える。

 涼はそんな桃香を見て、それ以上何も言わなかった。

 下手に言っても逆効果になるし、何より掛ける言葉が思い付かない。

 涼自身も親と離れているし、自由に帰る事が出来ない状況だから。


(……俺はいつ帰れるんだろう? この大陸が平和になったら帰れるのか? けど、だったら……。)


 一体何年掛かるんだろう、と不安になる涼。

 この世界が「三国志」や「三国志演義」を基にした世界なら、大陸が平和になる迄何十年も掛かるんじゃないだろうか。

 「三国志」や「三国志演義」に詳しい涼は、そんな事を考える。


(ま、深く考えても仕方ないか。なる様になるさ。)


 そう思い直し、涼は馬を進める。

 これが、長く厳しい旅の始まりだった。

第三章「旅立ち」を読んでいただき、有難うございます。


今回はタイトル通り、涼達の旅立ち迄のお話です。

原作では未登場の張世平、蘇双を登場させたり、徐福を徐庶に改名させたりと、「三国志演義」や「横山光輝三国志」を参照にしたエピソードを出しました。

張世平と蘇双の出番がこれ以来殆ど無いのは誤算でした。ホントは色々活躍させる予定だったのですが。近い内に再登場させたいです。


それにしても、ルビ打ちは結構大変ですね。どれに振れば良いか迷います。

次は第四章の編集終了後にお会いしましょう。



2012年11月26日更新。

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