千夏ルート 十三
いよいよ全国大会進出をかけた試合が始まろうとしている。
会場内もピリピリしてきた。応援してる選手の運命がかかってるからな。
《それでは、トーナメント表を発表いたします!》
先ほどまではマッチングは毎回発表となっており、勝った後で誰と戦うかは分からなかった。
だが、ここから先はトーナメント表が出る。つまり、千夏と白栞が勝ち進んだらいつ戦うことになるかが明らかになるのだ。
あるいは、トーナメント一回戦から当たるかもしれない。
観客に過ぎないこちらまで緊張してきた。固唾をのんで見守るとはこういう状態のことを言うのだろうか。
「千夏……」
千夏はただモニターを眺めている。ここからでは、千夏がどんな顔をしているかは見えない。
程なくして、先ほどまで真っ黒だった会場のモニターが一斉に光を放つ。トーナメント表が公開されたのだ。
そしてその瞬間、ステージで一人の選手が崩れ落ちた。
「どおじでだよぉぉぉ!」
崩れ落ちた選手は、悲痛な叫びを上げて地面に倒れこんだ。
表示されたトーナメント表を見るに、最初に白栞と戦う選手のようだ。
とうに成人を迎えている男性プレイヤーが衆人環視の中で涙を浮かべて歯を食いしばっている様子は、色々と痛ましいものがあった。
千夏はどうだろうか。先ほどと同じ恰好でトーナメント表を見ているため、相変わらず表情は見えない。
トーナメント表をしっかり見ると、二人が勝ち進めば決勝戦で当たることになる。
千夏はどう思っているだろうか、熱い展開だと思うか、それとも。
「燎さんの対戦相手、過去に全国出場経験があるっぽいっすね」
土間がスマホを操作しながら呟いた。対戦相手は確かな強豪だということだ。
ここで負けたら全国へは行けない以上、何がなんでも勝ってほしいが……。
ちなみにトーナメントからは、各選手の盤面や手札を観客席に配置されているモニターや端末で確認できる。
これも全世界に配信されており、自宅でも観戦が楽しめる。
それでも観客たちが会場に足を運んでこうして残っているのは、会場でしか感じられない緊張感や熱気を楽しめるから。
そして、選手を間近で応援したいからだ。
「頑張れよ、千夏」
ぼそりと呟いたエールは、もちろん千夏の耳には届かないだろう。
宙に溶けて消えていく言葉が、何か少しでも千夏の力になってくれればいい。そう思った。
……なんかエモいな、こういうの。
「先輩、そんな声じゃ燎さんに聞こえないっすよ?」
「台無しだよコンチクショウ」
♢♢♢
《それでは、全国大会参加をかけたトーナメント一回戦、スタートです!》
アナウンスと共に、一斉に試合が始まった。
俺は迷わず千夏の試合を観戦する。
「対戦相手のデッキは結構予想しにくいデッキタイプっすね。自分らは手札も見えるから分かりますけど」
土間は手元の端末で別の試合を再生しつつ、こちらの画面を覗き込んでいた。
カードショップの店員としてはそれでいいのだが、同時に見てて混乱しないのだろうか。
「だな。テンプレデッキじゃねえ、かなりオリジナル入ってるな」
原型となったであろうデッキには心当たりがあった。数年前に発売された【討伐部隊】というテーマを主軸にしたデッキだ。
ガーディアン同士の戦闘でパワーが上がる特性を有しており、ボードで優位を取っていく展開をする。
妨害を積むか、フィニッシャーを積むか。あるいは別のテーマと混ぜたっていい。汎用性に富んだテーマで、多くの派生デッキが生まれていった。
時代の流れでガーディアンの性能が上がっていった現代じゃそうそう見ないが。
しかし、盤面制圧能力は極めて高いのは事実だ。アグロは総じてステータスが高くないので、相性的には厳しいと言える。
唯一救いなのは、アグロ体面に特化せずに広く対戦を想定した構築になっていることか。
速攻を仕掛ける千夏と、盤面の制圧にかかる相手選手。
相手のライフ四点に対して千夏のライフは六点だが、場に出ているガーディアンの数は相手の方が多いのだ。状況は不利に思えなくもない。
だが、制圧相手の対策を何もしてないわけでもないだろう。速さに特化した構築だが、プレイングでのカバーを諦めているわけではないはずだ。
「私は《迎撃態勢》をプレイ。妨害カードを二枚手札に加えて番を終える」
《迎撃態勢》は討伐専用の妨害を二枚サーチして番を終える効果だ。強力だが、そのターンに討伐関係のガーディアンが二体以上、攻撃の権利を放棄しないと使えない。
千夏の場にはガーディアンが二体。しかしそれだけではライフは削り切れないため、殲滅ではなく返しの千夏の反撃の手を潰しにきたのだろう。
「軽量な低級スペル用の妨害とはいえ二枚を構えてる。結構手堅いっすねー。燎さんはここまでに手札の消耗も激しかったし、ギリギリ届かないんじゃないっすか?」
「イヤ、ギリ足りる」
表示されている千夏の手札を見る限り、このターンで決着だろう。
この勝ち筋を、千夏が見逃すはずはない。
「そうっすね。さすが師匠」
「お前試しやがったな?」
ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべて褒めてくる様子を見る限り、どうやらこいつにも勝ち筋はちゃんと見えていたらしい。
それなのに届かないなどと嘯いていたのは、俺を試したのか。もし同意していたら、しばらくからかって遊ぶつもりだっただろう。
「いやいや。燎さんがトチったら足りないっす。意外とミスりやすい局面ですしね」
「選手たちにとってはそうだろうな。俺たちは外から見てるから気付けるけど」
さて、千夏のターンだ。もはやドローしたカードなど関係ない。
「《狩猟訓練》を使うぜ。このターン中アタシのガーディアンがダメージを与えた時、一点追加でダメージを与える」
「……妨害しましょう」
「対応無し。《狩猟訓練》は効果を発動できず、トラッシュされる」
千夏がプレイしたバフを打ち消してきた。
現状ではライフは足りるが、速攻持ちガーディアンの追加や連続攻撃を警戒したのだろう。
「《鳥人の本能》をプレイ。アタシのハーピィ二体を選択し、このターン与えるダメージを二点増やす」
「なるほど、それは通すわけにはいきませんね。妨害を」
「対応無し。《鳥人の本能》も効果を発動できず、トラッシュされる」
これで、相手はサーチしてきた妨害を全て使ったことになる。
コストは少し残してあるところを見るに、軽量の呪文なら打ち消せる準備があるのだろう。
だが、それではもう遅い。
「さっき打ち消されたスペルが二枚。そしてこの試合中に使ったスペルと戦闘でトラッシュされたガーディアンが八枚。今、アタシのトラッシュには十枚の赤のカードがある」
「トラッシュに赤が十枚……まさか!」
それは、複数除去や盤面制圧を苦手とした千夏が好んで用いる逆転の一手。
妨害の性能が上がった現代では、使い手はそう多くはないだろう。リソースやライフの管理も難易度が高いのだ、採用しても使える状況ではないなんてこともある。あまりにピーキーな一枚。
そのテキストはいたってシンプル。
「トラッシュの赤のカードを十枚ゲームから取り除き、お互いのプレイヤーに四点のダメージを与える。いくぜ、《晩夏招来》をプレイ!」
中級スペルに分類されているそれは、相手の残りのコストとカードでは打ち消す方法は無い。
千夏が自身を巻き込み発生したダメージは、相手のライフのみをゼロにした。
「さっきのバフ二枚はブラフか。いや、それでも私はバフを止めるしかなかった……」
「盤面の処理は丁寧だったけど、おかげでアタシのライフに余裕があったからな。ま、盤面を残してライフ詰めに来てたら、さっさとバフ使って削りきってたケド」
「……完敗だ。若い世代が出てきたこと、嬉しく思うよ」
《まず一組が決着!勝者、燎千夏選手!》
がむしゃらに突っ込むだけがアグロの本領ではない。それを見せつけた千夏に、会場からは大きな拍手が贈られた。
強豪選手をしっかりと倒して勝利。これで全国大会の参加は確定だ。
「うおお……!あいつ、本当にやりやがった!」
相当な努力があったことは分かってるが、それでもまさか初参加で全国大会への切符を手にするとは思っていなかった。
「久遠さんももう終わりそうっすよ。どう見ても久遠さん負けないだろうし、先輩の幼馴染は二人とも強いっすねー」
「ああ、ほんと……すげえよ」
店舗予選も上がれなかった俺と違って、二人とも全国大会出場とは。
本当に、俺とは住む世界が違う気がしてくるな。
「あとは優勝争いっすね。順位で賞品変わるし、みんな必死になるところっす」
「ああ、そっか。トロフィーだけじゃないんだっけ」
「ですです。もらえるプロモや新弾のボックスの量、それに賞金が変わってくるんすよ。あ、上位プロモ売るならうちに持ってくるように先輩からお願いしといてください!」
「売らねーだろ……」
土間としょうもない話をしていると、全卓対戦が終了したようだ。
改めてトーナメント表を見る。
「燎さんの対戦相手を見る限り、相性は悪くないっす。で、久遠さんは……あちゃー、不利対面っすね」
「でも見ろよ、白栞の対戦相手。浮かない顔してるぜ」
「デッキ相性が良いからこそ、負けられないプレッシャーも大きいっすからね。全国配信だから余計に緊張するでしょうし」
あれだけガチガチになってると、普段の力なんて発揮できないだろう。相性が良くたって、勝利が約束されているわけじゃない。
有利だからと勝負を仕掛けずにいれば、そのアドバンテージはジワジワと失われてしまう。気が付いたら勝てない状況になっていた、なんてこともあるのだ。
もしかしたら、千夏と白栞で決勝戦が見られるかもしれないな。
その結果がどうであれ、幼馴染がワンツーフィニッシュなんて周りに相当羨ましがられるだろう。昨年白栞が全国的に有名になった時なんて、サインやら連絡先やらねだられることが多かったからな。全部断ったけど。
「なんか先輩、ご機嫌っすねー」
「まあ、あの二人の久々の試合がこんな大舞台なんて、楽しみにもなるさ」
まずは準決勝の応援と、試合開始を静かに待つ。
昔何があったか知らないが、こんな晴れ舞台で戦えるなら二人も燃える展開じゃないだろうか。
これをきっかけに、また二人がアビカで遊べるようになったらいい。
しかし、俺の描いた決勝戦は。この日、実現することはなかった。
間が空いてしまいましたが、コミティアの準備も出来たのでまた更新していきます。




