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千夏ルート 十


――千夏side――


地区大会まであと二週間。アタシは比較的近場のショップの中からレベルの高い所を選び、ショップバトルに参加し続けていた。

武者修行という程ではないが、強いプレイヤーとの対戦経験や、様々な相手との練習は身になる。構築やプレイングを変えながら挑んでいるのだが……。

「これはちょっとヤバいかな……」

ここ一週間の戦績は、ショップバトルと練習試合、オンライン対戦も合わせて六十九勝九十九敗。かなり負け越している。

プレイングや構築を試しながらの練習方法なので、普段も大きく勝ち越すことはないのだが、それでも勝率はほぼ五分だった。

この大事な時期に勝率が落ち込むのは、いくらアタシでも焦りを覚える。

対戦を振り返ってみると、相性のいいコントロールや、練度の差が出るアグロ同士の対戦は問題がなかった。

ミッドレンジには少し不利だ。環境的にはビートダウンの中でもミッドレンジ寄りなものが増えつつある今、このまま芸のないアグロでは喰われて終わりだろう。

当然対策は立てる必要があるが、そうなると今度はミラーマッチで速度負けする可能性があったり、手札事故のリスクも上がる。さて、どうするか。

結局のところ、全てに勝てるデッキなど存在しないのは間違いない。リスクの最も少ない選択は何か、どこまでリスクを許容するかの決断こそがデッキ選択と構築において重要だとアタシは考えている。


「あれ、千夏じゃねーか。練習帰りか?」

最寄り駅の改札を出てすぐ、後ろから声をかけられた。

「結翔は部活帰りってとこか。ハニーは一緒じゃないのか?」

「だからハニーじゃねえっての。白栞なら、スポンサーとの会食だとかでちょっと早めに抜けてったよ」

「……そうかい」

胸の奥に、鈍い痛みが走る。

すでにスポンサーがいて、ほぼプロとして活動している幼馴染。

がむしゃらに強くなろうとしてきた自分が、未だ辿り着けぬ場所。そこに既に立っているのだ。

アタシは……白栞にだけは、負けたくないのに。どんどん差がついていってしまう。


「千夏、ちょっと付き合えよ」

そう言うが早いか、不意に結翔がアタシの手を取り歩き出した。咄嗟のことに対応できず、引きずられるように着いていくことになる。

「おい、どこ行くんだよ。早く帰って練習したいんだケド」

「うるせー、いいから着いてこい」

久々に見た、結翔の頑固モード。こうなるとこちらにお構いなしだ。諦めるしかない。

だが、こいつが頑固になった時、悪い方向に転がったことは無い。仕方なく、夜の街を手を引かれるがままに進んでいった。


「ここは……」

煌びやかでカラフルな明かりが灯り、中から流れてくるBGMと騒音。

結翔に連れられてやってきたのは……。

「ゲーセン、久々に来たな」

「なんでゲーセン……?」

最後に来たのは中学上がって間もない頃だったか。そうなると、およそ三年ぶりということになる。

三階まであり、音ゲーやシューティング、クレーンゲームなど様々な機械が並んでいるが、中にはかなり年季の入っているゲームも設置されていた。

「そういや、前来た時はこれクリアできなかったよな」

そう言って結翔が指さしたのは、協力プレイが可能なシューティングゲーム。

襲い来るゾンビを倒しながら進んでいくものだ。当時、結翔と二人で最終ステージまで進めたが、最後のラッシュを越えられずにゲームオーバーとなったはず。

ちなみに、白栞はお化けやゾンビといったホラー系が本当に苦手なので、このゲームはプレイできなかったのだ。

アタシと結翔、二人だけの思い出といえばこれぐらいかもしれない。


「今だったらクリアできるんじゃね?」

結翔は財布から百円玉を二枚取り出し、機械に投入した。

「ほら、千夏は右な」

勝手に準備を進めていく結翔。

アタシは結翔の右に立ち、機械に備え付けられている拳銃型のコントローラーを手に取った。

「コンティニューは無し、付き合うのはこれ一回きりだからな」

大会まで時間もない中でゲーセンまで来てるのだ。クリアするまでチンタラ付き合ってはいられない。

「はいはい。トチるなよ?」

「お前こそ」


三年も前にプレイしたきりなので、当時の記憶なんてうろ覚えだ。初見同然の情報しかない状態でゲームを進めていく。

廃村を進む二人のキャラクターは、正面から迫りくるゾンビを撃ち倒しながら、レンガ造りの廃墟に避難する。しかし、そこもゾンビの巣窟だ。


こういったゲームはギミックを記憶して、難所はお互いがどう動くかを事前に決めていくのが攻略のコツだ。だが、今回はそれがない。

以前はどうだっただろうか。別にお互いにこのゲームをやりこんでいた訳でもなかったように思う。では、どうやって最終ステージまで進めたのだったか。


ゲームは順調に進んでいく。既に第四ステージまでクリアしているが、お互いあまりダメージを負っていなかった。

結翔は普段からFPSゲームをプレイしていることもあって、こういうゲームは得意そうだ。アタシが対処が遅れた際に上手くフォローしてくれている。

一方で、気合で突っ込んでいくと一気にピンチになるのがこいつだ。だからこそ、隣にいる結翔のテンションを意識し、時にはサポートに回れるように備えるようにしていた。結果的に、お互いフォローしあう形が自然とできていたようだ。

「結構上手いじゃねーか、千夏!」

「うるせー、さっきから無茶な突撃しやがって!フォロー入れるこっちのことも考えろ!」

おかげで集中しっぱなしだ。そろそろ疲れてきた所で、最終ステージに突入した。

キャラクターたちは地下へと落ちていく。暗い地下道は道が分かれており、左右からゾンビが出現する。

ここは奥の部屋で待ち構えるボスを倒した後、最後にゾンビの集団に追われることになる。それを全てうまく捌かないとゲームオーバーだ。

前回ちょっと悔しかったので覚えていた。確か、あの時は結翔がボスを倒し、調子に乗ってたらラッシュを食らったのだ。

「今度こそ油断すんなよ?」

ステージの奥まで進み、ムービーと共にボスが登場する。

最後のラッシュが本命なのだろう、こいつはそこまでの難易度ではなかったはずだ。

「わーってるよ、任せとけ!」

そう言いながらマシンガンを乱射する結翔。

「ああもう、ここでマシンガン使ってたら最後のラッシュどうすんだよ!」

「ちょっと温存しとくって。あとは千夏に任せる!」

何が千夏に任せる、だ。さっきからノーガードで突っ込みやがって。

お返しにとばかりに、こちらもノーガードで突っ込んでいく。瞬く間にボスのHPを削っていく。

左右の巨大な手を振りかざすボスに対して、こちらは二人でその手を撃ち落とす。

タイミングを合わせる必要は無い。隣の幼馴染がどう動くつもりかなど分かるのだから。

アタシの立ち回りにも若干のミスはあったはずだが、それは結翔がカバーしているのでノーダメだ。

結果、ボスはあっけなく沈んでいった。


「こっからだな」

結翔がコントローラーを構え、やや腰を落とす。

「前はお前の油断で負けたんだからな。油断すんなよ」

アタシもコントローラーを構える。二人とも装填を終え、来るべき時を待った。

そして、キャラクターたちがボスの奥にあった部屋を開けた瞬間、轟音が鳴り響く。

振り返ると、後ろから何十というゾンビの群れが一斉に迫ってくる。キャラクターたちはまっすぐに逃げるが、不規則に後ろを向くのだ。そのタイミングで素早くゾンビを倒さねばならない。

記憶は頼りにならない。自前の反射神経で何とかするしかない。

真ん中あたりに出てくるゾンビが厄介なのだ。二人で同じゾンビを撃ってしまうと、処理できる数が減ってしまう。

しかも、とっさに声を掛け合うには時間が足りないのだ。ゆえに、本来は打ち合わせが必要だろう。


だが、アタシたちには必要なかった。どうせこいつはこのゾンビを撃つだろう、と考えている通りに進んでいく。


昔からこうだ。一番口喧嘩も多いし、生意気だし、こちらの気も知らずにズケズケ言ってくるし。アタシもそれに容赦なく言い返す。

でも、一番分かり合える。だから一緒にいて楽だ。それに――


「千夏!」

「オッケー!」

上下から迫りくるゾンビ。アタシは上を、結翔は下をそれぞれ撃ち抜くと、画面からはゾンビがいなくなった。


《た、助かったのか……?》

画面の中で、キャラクター二人が最奥の扉へと辿り着いた。


「千夏はさ」

結翔から声をかけられる。画面から目を外してそちらを向けば、結翔もこちらを向いていた。目と目が合う。

「昔からあれこれ考えすぎなんだよ。猪突猛進って風を装って、考えすぎて同じ場所ぐるぐる回ってる。そんで勝手に弱気になりやがってよ」

「む……」

そう言われると思い当たる節はある。元々は不安症なタイプなのだ。

猪突猛進はどちらかと言うと目の前のコイツだったのだが、アタシと違って突っ走る事に躊躇は無かった。

コイツが突っ走らなくなったのも、アタシが突っ走ろうと思ったのも、遠い昔の話だ。


「どうせなら、もっと後先考えずに突っ走ってみろよ。一番お前がしたいようにすれば良いだろ。今年負けたら終わりって訳でも無いんだ」

「簡単に言うけど、店舗代表になるのだってかなり苦労したんだぜ。地区代表になれなきゃ、ここまでの努力も水の泡じゃんか」

アタシがそう言うと、結翔は不思議そうな顔をした。

「大会で負けたって、お前が弱くなる訳じゃないだろ?次の機会に勝てばいいじゃねえか」

さも当然のように言い切る結翔。

簡単に言ってくれるものだ。


だが、その通りでもあった。アタシの積み上げてきた努力は、負けたからといってリセットされるものでもない。

だったら、足踏みしてないで突き進んでも良いのだ。そっちの方が、アタシのなりたいアタシらしい。


「結翔」

「あん?」

たまには、本当にたまには。このバカに感謝を伝えてやっても良いだろう。

「その……ありがーー」


その瞬間、画面から流れてくる大きな爆発音。

慌ててそちらを向くと、倒したはずのボスがキャラクター達の前に降ってきた。

そのまま腕を振りかぶると、キャラクター達は薙ぎ払われ、画面にはゲームオーバーの文字が流れた。


「は……はあ⁉︎」

どうやら、ゾンビラッシュの後でボス戦があったようだ。まさかの展開にしばし呆然とする結翔。

「は……ははっ!あっははは!」

トンデモ展開に一瞬思考が止まったが、その突拍子の無さと結翔のリアクションがどうにもおかしく、笑いが溢れてきた。

結翔も一瞬の間の後、同じように笑い出した。

「なんだよあれ!ズルすぎるだろ……ははっ!」

「ゆ、油断してんじゃねーよ!あははは!」

二人揃っての大爆笑は、しばらく続いた。



ゲーセンを後にして、アタシたちはそれぞれ帰路へついた。

ちょっと悔しかったが、結局コンティニューはしなかった。

また二人で来た時に、今度こそ倒してやればいい。チャンスはいくらでもあるのだ。

AWGが終わって、オフシーズンになったら。結翔を誘ってまたゲーセンに行こう。

久しぶりにできたアビカ以外の予定を楽しみにしつつ、自室でデッキの調整を始めるのであった。

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