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千夏ルート 九

誤字報告やブックマーク、ありがとうございます。

また、日々閲覧いただいている皆様もありがとうございます。

自身のモチベーションに繋がっています。

今後もキミカドをよろしくお願いします。


店舗代表決定戦で千夏に負けてから早数日。

千夏は全勝で代表となり、日々練習に打ち込んでいる。

反対に、俺は今年の予定もなくなったため、まったりと日々を過ごしている。負けた日は悔しかったものだが、翌日には「まあこんなもんだろ」と割り切れた。


部活に顔を出しはするが、桂木さんにアビカを教えたり、白栞に相手になるようせがまれたり。大会前の日常にすっかり戻っていた。

いや、白栞は前よりもやる気になっているか。本人の練習というより、俺の強化に対してだが。

どうやら俺がAWGの本戦に参加できないことが相当悔しいらしい。本人より悔しがる現象はジュニアプレイヤーの保護者を髣髴とさせた。


今日ものんびりアビカして、オリジナルコンボデッキを磨こうとしていたのだが。

「なあ結翔、まだ【ウルフビートバーン】持ってるか?」

と、千夏から声をかけられた。

「ああ、一応今日も持ってきてるぜ。構築はテンプレに戻してある」

あの日は本命のデッキを忘れてしまったため、仕方なく自分が使いやすいように構築を変えたのだが、大会が終わった今となっては仮想敵として機能してくれたほうがありがたい。

そのため、構築はあの日のうちに戻していた。

「ちょうどいいや。ちょっと相手してくれよ。多分、地区大会はビートの割合が多いだろうから練習しておきたい」

千夏の言うことはもっともで、店舗代表戦でも比較的多かったビートダウンの割合はじわじわと増加傾向にある。

当然ビート対策を搭載したデッキも出てくるため、もう少し経てばある程度落ち着くだろうが、複数回対戦していけば必ず当たるだろう。

こうした環境予測は長年の経験もあり、多少は自信がある。千夏と考えが一致しているなら、ほぼ間違いはないだろう。

ギミックは異なるが白栞も今期はビートダウンを使用しているし。

「いいぜ。んじゃ、用意するわ」

俺はデッキを取り出そうと鞄に手を伸ばし――


「ストップ!結翔、私もビートと練習したいよー!」

横から白栞が勢いよく突っ込んできた。

先ほどまで部長と対戦していたはずだが、どうやら対戦終了後に駆け込んできたらしい。

「んじゃ、千夏とちょっと対戦したら次は白栞な」

時間にもまだ余裕があるし、二回ずつくらいはできるだろう。もう少しゆっくり遊びたい気分なのだが、二人とも大会を控えた選手なのだ。多少でも力になれるなら手伝ってやりたかった。

だが、白栞は首を横に振る。

「今日まだ一度も結翔と対戦できてないんだよ?残りの時間くらい欲しいよー」

「アホか。こういうのは順番だっつの」

そもそも俺との練習など、そこまで大きな経験値になるわけでもない。白栞が声をかければ、全国レベルの相手だって用意できるだろう。

つまり、こいつは単に俺とアビカがしたいだけだ。全く練習にならないということもないので、誘われれば無下にはしないが。


「じゃあ、私が千夏に勝ったら、結翔は残りの時間は私の相手をするっていうのはどう?」

まるで名案を閃いたとでも言わんばかりに、白栞が俺たちに問う。

俺は、その提案がどうなるかを知っている。なぜそうなるかは知らないが、結果だけは分かりきっている。

「お前、それは――」

「――分かった。アタシはショップで適当に練習相手を見つけるよ」

俺が白栞のくだらない提案を却下するよりも早く、千夏が引き下がった。

「おい、千夏」

さすがにそれは無いだろう。道理として間違っていると、この場で言うべきだ。

だが、千夏は踵を返し、鞄を持つとそのまま部室から出てしまった。


「結翔、やろ?」

白栞が、何事も無かったかのように俺の前に座る。

千夏と白栞は、普段から仲がいい。アビカさえ関わらなければ。

「……なあ、白栞」

「ん?どうしたの、結翔?」

いつもと寸分違わぬ笑顔で対戦準備を進める白栞。

長年の疑問。いつか気付かぬ内に解決するだろうと決めつけ、目を伏せてきた過去。

何度違和感を覚えたか、何度聞こうとして踏みとどまったか分からないそれを、俺はいよいよ確認しなければならないのだろう。

もう、見て見ぬフリはできないところまで来ていた。


「お前と千夏の間に、何があったんだよ」

白栞の視線は、手元のカードに向けられている。シャッフルは流麗で淀みない。

「何も無かったよ」

そしてその手を止めぬまま、ただ一言。白栞は否定のみを口にした。

「そんなわけないだろ。十年だぞ!長く一緒にいるのに、お前らはもう十年も対戦してない。どう考えたって不自然だろ!」

俺は白栞に食って掛かる。ごまかせるようなレベルではないのだ、白状するしかないのだと。


白栞はシャッフルを終えてデッキを置く。その目は俺をじっと見つめている。

俺も、ここで目を逸らすことはできない。その目を見つめ返し続けた。

いつもなら、ここで白栞は照れちゃうだのとふざけるのだ。長い付き合いだ、それくらい予想できる。


「何も無かったんだよ、結翔。何かあったほうが、今より良かったのかもしれないけどね」


だから、白栞が困ったように目を細めてそう言った瞬間。俺が思っているより、事態はずっと複雑なのだろうと悟った。

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