千夏ルート 八
――千夏side――
ちなつちゃん、しょうぶしよ!
しょうぶ?いいよ!
わたしがかったら、おてつだいしてほしいの!
おてつだい?
うん!あのね、わたしがかったら――
♢♢♢
勢いよく身体を起こす。夢だ。また昔の夢を見ていた。
寝汗がひどい。梅雨の湿気と気温のせいか、それとも夢のせいか。アタシには判断がつかない。このまま寝直せば風邪をひくかもしれないと、タオルと着替えを取り出した。
窓の外を見ると、仄かに明るみはじめている。あと一時間ほどは寝れるだろうか。
着替えを済ませ、扇風機をつけてからベッドに横になる。
昨日の店舗代表決定戦は、無事に全勝で代表権利を獲得できた。
疲れもあったが結局二時過ぎまで練習をしていたので、このまま眠れないと授業中は間違いなく爆睡コースだ。学校のテストだって近い今、それは非常にまずい。
しかし、寝ようと思うほど寝れないものだ。結局意識を保ったままベッドの上で時間を過ごし、アラームが鳴ると同時に再び体を起こすこととなった。
「おはよう千夏!」
いつもの待ち合わせ場所で二人を待っていると、白栞がやってきた。
結翔は今日もギリギリに来るだろう。
「そうだ、店舗代表おめでとう!次は地区大会だね」
「ありがと。地区大会まで二か月も無いってのは、ちょっと短すぎるよな」
もう少ししっかり準備させてほしいものだが、参加選手には平等な条件でもある。
あまり時間を無駄にしすぎると、当日泣きを見ることになりそうだ。
「まあ、短いって言う人もいるよね。千夏は毎日練習してるし、大丈夫だと思うけど」
「慢心してると足元掬われるからな。これまでより一層練習に打ち込むさ」
今以上に努力をするとなると、本当にアビカにオールインすることになる。部活での練習は、正直物足りない。
近所のショップもそう大差ないので、おそらくはオンラインで対戦相手を見つけての練習がメインになっていくだろう。少し足を伸ばせば極光常盤のホームなので練習相手にはもってこいだろうが、移動時間も惜しい上に戦える確証も無い。
身近に強いやつがいれば、と考えて目の前の幼馴染を見る。
「ようやく勝負できそうだね。早ければ地区大会かな?」
瞬間、白栞から感じたプレッシャー。
ずっと避け続けていた瞬間が迫りつつあるのだ。
AWGに参加すると決めた時、いつか戦うことになるというのは分かっていたはずだ。いつまでも逃げ続けるわけにもいかない。
頭では分かっている。分かっているはずなのに……!
受けて立ってやればいいはずだ。練習の成果を以て勝ってやると。あの頃のアタシではないのだと言ってやればいい。
その気持ちとは裏腹に、返事ができない。声が喉の奥で詰まっているかのようだ。
しっかりしろ。アタシは――
「わりい、待たせた!おはよ」
横から、もう一人の幼馴染の声。
広場の時計に目をやると、待ち合わせの時間から三分ほど過ぎていた。
「もー!遅いよ結翔!」
白栞の興味は、一瞬で結翔に移っていた。いつものように腕を組む白栞と、それを引きはがす結翔。
そして、それをただ眺めるだけのアタシ。
今までと何も変わらない、十年甘んじた日常が今日も始まった。




