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千夏ルート 六


二回戦、三回戦と続け様に勝利すると、選手にはお昼の休憩時間が設けられた。

俺は千夏を誘い、店の外へと出る。向かいのファミレスで軽く済ませる予定だったのだが、お昼時で通常の客も多い上に同じ考えの選手たちも集まっており、既に順番待ちの列ができ始めていた。


「こりゃ、並んでたら飯食う時間無いかもな」

休憩してたら試合に遅れた、なんて洒落にもならない。

「千夏、ラーメンにしよう」

ここから俺の家に向かって歩くと、途中にラーメン屋がある。

駅とは反対方向なので、そう混雑はしていないだろうし、ラーメン屋なら回転率も良いからすぐに食事を済ませられるはずだ。

「奇遇だな、アタシもラーメン屋を提案しようとしてた所だ。太洋軒だろ?」

千夏も太洋軒に行ったことがあるため、話が早い。俺たちは迷わず足を進めた。


ご高齢の夫婦とその息子…と言っても息子も五十代くらいのおじさんなのだが、その二人で経営している町中華がある。

あそこのチャーハンと天津麺は絶品だ。値段の割にボリュームも十分で、まさに隠れた名店。

外観と内装が非常に年季が入っているため初見には避けられがちだが、本当に勿体無いことだ。


太洋軒に着くと、案の定お客さんは数名程度。二階席に通してもらい、すぐに着席できた。

「いらっしゃい。ご注文は?」

と、おじさんが手書きの伝票を構える。

メニューを見るまでも無く、頼むものは決まっている。

「「チャーハン大盛りで!」」

なるほど、千夏もチャーハンか。分かってんなこいつ。

ここのチャーハンはしっとり系だ。卵はダシが効いており、しっかりと火が通っている。

肉は分厚いチャーシューが用いられているが柔らかく、脂の量も絶妙。

具材にはその他にナルト、ネギが使われており、様々な食感で飽きさせない。

セットの中華スープはさっぱりとした仕上がりで香りも良く、適度な塩味だ。これ単品でも嬉しいクオリティだが、チャーハンを頼むとオマケとして付いてくる。

総じて、町中華とは思えないレベルだ。


そんな神がかったチャーハンは、十分もしない内に運ばれてきた。大盛りになると、食べ盛り男子の俺でも満足な量がある。

そして千夏だが、見た目に反してかなり大食いだ。あの細い身体のどこに入ってるのか不思議でしょうがない。

その上、食べるのもやたら早い。意識しているわけでも無いらしく、本人は普通に食べているつもりらしい。

ちなみに、職に困ったらフードファイターになれば良い等とは絶対に言わない方が良い。抉るようなグーが飛んでくる。

なんて考えている間に、千夏は既に半分程食べ進めていた。


「あー……食ったぁー」

食後の充足感に浸っていると、なんかもうこのまま帰って寝た方が幸せなんじゃないかと思えてしまう。

今なら数秒で眠れる自信があった。

「お前、あんま食いすぎると頭回らなくなるぞ」

確かに千夏の言う通りなのだが、同じものを食ったお前に言われたくはない。

「そうは言うが、お前だって大盛り食ってただろうが」

「ちゃんと眠くならない量に抑えてるよ。本気で食うなら天津麺とチャーハン両方頼んでた」

なんてやつだ。

「まあ、まだ時間はあるし。少し食休みしてから行こうぜ」

あと十五分ほどはゆっくりできるだろう。ここはもうしばらくこの食後の幸福に身を委ねるとしよう。


「結翔、なんでAWG出ようと思ったんだよ」

「んー……何でだろうなぁ」

今にして思えば、本当になぜだろうか。ガラじゃないのは分かりきってるし、正直今だって店舗代表になれるとは思っていない。

それでも、俺が参加を決めた理由。

「……ちょっと憧れてるやつが出るって言うからさ。どこまで行けるのか、身近で見届けなくなったのかもな」

「へえ。結翔にも憧れてるプレイヤーとかいるんだな。プロ……じゃないよな、AWGだし」

「プロじゃねーよ。いつかプロにはなるんだろうけどな」

毎日毎日、飽きずによくもまあ腕を磨いて。

直向きで、真っ直ぐで、目標に向かって突っ走って。

茨の道の先にある狭い狭い門を潜ろうと足掻き続けてる。

「そいつの背中が眩しくて……例え触れられなくても、ほんのちょっとでも近くから応援したくなったのかもな」


どうせ、こいつは気付かないんだろうが。

俺にとっては、理不尽に全部薙ぎ倒していく天才よりも。

自分にある物を全部使って一歩ずつ前に進んでいくヒーローの方が輝いて見えるのだ。


「……ふーん」

何やら急に不機嫌そうな声を上げる千夏。

「なんだよ、何かあったか?」

「別に。今の話、ハニーにも聞かせてやれよ。アタシはもう行くからな」

と言うなり、荷物を持ってさっさと行ってしまった。

「……どうしたんだアイツ?」

特に変なことも言ってなかったと思うのだが、何か気に障ったのだろうか。

今の話……恥ずかしくて本人には面と向かっては言わないが、千夏のことだ。だが、それを白栞に話した所で、何になる事も無いと思うのだが。

やはり女子の考えはよく分からない。


そうこうしている内にいい時間になっていた。千夏の事は気になるが、ぼちぼち行くとしよう。

俺は伝票を持って一階に降り、レジにいたおじちゃんに渡す。

「毎度!チャーハン大盛りふたつで千六百円です!」


当然、俺はチャーハンを一つしか食べていない。

だと言うのに、会計はその倍。つまり。


……あの野郎、会計せずに店出やがった。

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