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千夏ルート 三


店舗大会も明日に迫った土曜日。

授業を全て終えた俺と千夏、桂木さんは、最寄りのショップへと向かっていた。


結局、翌日には白栞も千夏も何事も無かったかのように会話していた。

桂木さんも俺も最初こそ気にかけていたが、一日様子を見ても問題なかったため、どうやら心配ないらしいと結論付けた。

俺が知らないだけで、今までもこういった事があったのだろうか。それを知るすべは、今の俺にはない。


「しっかし、白栞が風邪ひくとはなぁ」

この場に白栞がいないのは、単に病欠のためだ。聞いた話じゃ38.5と中々の高熱だそうで、今日一日で治すのは厳しそうだった。

予選免除じゃなければ、0回戦敗退だったかもしれない。

「あいつ滅多に風邪ひかないけど、毎回症状が重いんだよな。結翔にうつしたくないって言って完治するまで家に篭るから、週明けも学校休むんじゃねえかな」

「白栞ちゃんの結翔くん愛は筋金入りだね。早く良くなるといいんだけど」

風邪といっしょに俺への態度も改善されるといいんだが、会えなかった分と言って復帰明けはずっとくっつかれるであろう事は想像に難くない。

今から憂鬱だ。


ショップに到着すると、フリースペースを素早く確保した。四人掛けの席ではあるが、机がやや大きく、ゆとりのある席だった。

「奇数だからな。ローテーション組んで順番にやろう」

と、千夏の提案で対戦順を決めていく。

まあここに白栞がいでも、千夏は白栞と戦わない。結局ローテーションになるんだけどな。


「じゃあ、最初は千夏と桂木さんでやっててくれ。俺はケースを見てくる」

ここはレディファースト、と思い席を立つ。絶賛金欠中なので特にカードを買う予定は無いのだが、それでもケースを見てるだけで楽しいのは不思議だ。

アビカはデザインも良く、レアカードは加工もかなり綺麗な物が多い。そのため、綺麗にカードが並んだケースを見るだけでも結構時間を潰せてしまう。

俺が大金持ちなら、毎弾出るたびにハイレアリティのカードを買いあさって飾るんだがなぁ……。

財布の中身を見ると、小銭数枚と千円札が一枚。あとはレシート、ポイントカード、買ったまま財布に入れっぱなしのシングルカード数枚という、何とも心もとない状態だ。

今日の昼飯で大半が消え去ることを考えると、やはりカードは買えないだろう。


しかし、ここで事件が発生した。

「嘘だろおい……〈奇跡の翼〉が二千円!?」

レアリティはさほど高くないのだが、本来三千円弱のカードだ。特定の種族のガーディアンをトラッシュから場に蘇生させることができる。

その汎用性の高さから、あまり市場に出回らないカードだ。

俺としても使い道のあるカードなので、これはぜひとも欲しい。


急いで席に戻ると、ちょうど千夏と桂木さんの対戦が終わった所だった。

「お、結翔。次はアタシとやろうぜ」

「千夏、そんな場合じゃない!千円貸してくれ!」

「……は?」



俺は千夏に、手短に事情を話した。桂木さんはよく分かってない様子だが、千夏にはこの凄さが伝わっただろう。


「なるほど、そりゃお買い得だな」

「だろ?ってわけで千円貸してくれ!」

俺が必死に頼んでいるのに、何やらニヤリとした笑みを浮かべる千夏。

「悪いが、そりゃ無理だ」


嫌な予感がした。

紛れもなく何か悪いことを企んでいる、そんな表情だ。


そして。


「なぜなら・・・アタシが買う!」

そう言うが早いか、千夏は売り場へ走り出した。


「ず、ずりいぞ!」

一拍置いて、俺も走り出す。

ショーケースは複数あるため、千夏は探すのに手間取っていたようだ。その間に目的のケースに走り出すと、千夏も慌ててついてきた。


「バカめ、俺のほうが早いわ!」

なお、そもそもお金を借りないと買えないことは既に忘れていた。


「クッソ、追いつけねぇ!」

そして、後で聞いた話だが、実は千夏の財布にも二千円は入っていなかった。


つまりこの時、まったく意味のないレースが繰り広げられていたのだが、この時の俺たちはそんなことは知る由もなかった。


千夏と競り合い押し合いながらコーナーを曲がると、目的のショーケースの前には店員さんがいた。ちょうどいい。

「すいません、ケースお願いしま……!?」


そこで、俺たちは見てしまった。

目の前の店員さんが取り出していたのは、まさに俺たちが欲していた特価二千円の〈奇跡の翼〉だった。

それを、横にいた客に渡していた。


つまり、俺たちは負けたのだ。


あの時、余計な争いをしていなければ。

そもそも俺がちゃんとお金を持っていれば。

後悔ばかりが押し寄せた。


「……戻るか、結翔」

「ああ……戻ろう、千夏」


どうやら、奇跡の翼はここでは手に入らない運命だったようだ。

そう割り切るしかない。


俺と千夏はすごすごと席に戻ったのだった。


そして、桂木さんからは、店内を走らないようにと叱られた。

面目ない。

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