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第二十章 明朝への旅

春の訪れとともに、旅立ちの気配が静かに広がります。

新たな時代への一歩を踏み出す人々の思い、土地ごとの空気や出会い――

それぞれの心に残る風景と、未来への静かな決意を感じていただければ幸いです。

 元和2年(西暦1616年)5月

 初夏の気配が大和の城下にも静かに満ち始めた頃、秀頼のもとに、ついに明国からの正式な返書が届いた。

「渡航、許可す――」

 その知らせは、家中に新たな緊張と期待をもたらした。


 秀頼は千姫とともに、明への旅支度に余念がなかった。

 城の奥座敷には、贈り物の候補を記した紙が何枚も並べられている。

 障子越しに差し込む初夏の光が、畳の上に淡く広がっていた。

 千姫は筆を手に、思いつくままに品名を書き出していく。

「南蛮渡りの硝子器、京の絹織物、堺の茶器、珍しい薬種……それから、舶来の香水や時計も加えてはいかがでしょうか?」

 幼い頃から“高級”と教えられてきた品々を、次々と挙げていく千姫。

 だが、秀頼は静かに首を振った。

「お千、それらは確かに珍しいが、明の都ではすでに見慣れているものも多かろう。南蛮の品は、むしろ向こうの商人が持ち込んでいる。

 我らが誇るべきは、日ノ本ならではのものだ。」

 千姫は少し戸惑いながら、筆を止める。

「では、何をお持ちすれば……?」


 秀頼は、用意していた別の紙を広げ、落ち着いた声で言った。

「まずは、幕府より特別に許された金と銀。これは、あちらの国でも何より価値がある。

 それから、我が国の刀剣、漆器、伊万里の磁器、和紙、染めの反物――

 どれも、日ノ本の技と心を伝える品々だ。」

 千姫は驚きの表情を浮かべる。

 金銀の持ち出しは、幕府の厳しい制限があると聞いていたからだ。

「金銀まで……幕府の許しを得ておいでなのですか?」

 秀頼は静かに頷いた。

「うむ。外交のため、特例として持ち出しを許された。これも、我らの誠意を示すためだ。」

 千姫は、夫の働きかけと信頼の大きさに、思わず感嘆の声を漏らす。

「やはり、殿は頼もしいお方です。私など、ただ珍しいものを並べていただけでしたのに……」


 秀頼は、そんな千姫の横顔を見て、ふっと優しく微笑む。

「いや、お千の目は確かだ。そなたが選ぶものは、どれも人の心を惹きつける。

 余がこうして考えをまとめられるのも、お千がいてくれるからだ。」

 千姫は、思わず顔を赤らめて俯く。

 けれど、秀頼の言葉が嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。

「殿……お上手です。でも、そう言っていただけると、私も少し自信が持てます。」

 秀頼は、そっと千姫の手に自分の手を重ねる。

「これからも、共に歩んでくれ。どんな国へ行こうと、どんな相手であろうと、千がいてくれれば、私は心強い。」

 千姫は、秀頼の手の温もりを感じながら、

「はい、どこまでもお供いたします」と、

 小さく、けれど確かな声で応えた。


 ふと、秀頼は遠い昔の故事に思いを馳せる。

「ただ、忘れてはならぬのは、向こうの国は“朝貢”という形にこだわることだ。

 昔、聖徳太子が“日出づる処の天子”と名乗ったように、我らも誇りを持ちつつ、礼を尽くして道を開かねばならぬ。

 ……心まで頭を下げることはないが、形は大切にせねばならぬな。」


 初夏の風が障子を揺らし、二人の間には、旅立ちを前にした静かな高揚と、夫婦だけが分かち合う温かな空気が、そっと満ちていた。



 その時、千姫はふいに手を口元に当て、わずかに顔をしかめた。

 秀頼はすぐに気づき、心配そうに身を乗り出す。

「お千、いかがなされた。どこかご気分でも悪いのか。」

 千姫はしばらく息を整え、恥じらいを含んだ笑みを浮かべて、そっと秀頼を見上げた。

「……殿、今しがた、胸が少しむかつきましてございます。されど、どこかで覚えのある感覚にございます。」

 秀頼はまだ状況が呑み込めず、真剣な面持ちで千姫の顔を覗き込む。

「無理はなさらぬように。旅支度もあるゆえ、疲れが出たのやもしれぬ。」

 千姫はそんな秀頼の様子に、ふっと柔らかく微笑んだ。

「ふふ……殿、もしかいたしますれば、また新しき命を授かったのやもしれませぬ。」


 秀頼は一瞬きょとんとし、次いで驚きと喜びが入り混じった表情になる。

「お千……それは、まことか……?」

 千姫はその反応を見て、思わず声を立てて笑った。

「殿のお顔、まるで数月前の幸昌様のようにございます。あの折、お東様のおめでたに気づかれず、皆の前で本当に驚いておられました。あの幸昌様のご様子、今の殿とそっくりです。」

 秀頼もつられて微笑み、

「幸昌も、ああ見えて案外うろたえるものよ。

 されど、家族が増えるは、やはり嬉しきことなり。」

 千姫は、少しだけ照れたように言葉を続けた。

「もし今度の子が男子にてございましたら、殿の世継ぎとなりましょう。私も、少しは役目を果たせた気がいたします。」

 秀頼は、千姫の手を優しく包み込み、静かに首を振った。

「お千、そなたに無理を申すつもりはない。

 男子であれ女子であれ、健やかに生まれてくれれば、それで余は十分にございます。そなたが変わらず元気でいてくれること、それが何よりの幸せなり。」

 千姫は、夫の言葉に安堵しながらも、

「それでも……もし叶うなら、今度こそ祖父上にも、元気な孫の顔をお見せしたく存じます。

 この前お会いした折、千代のことを本当に嬉しそうに抱いてくださったゆえ……」

 秀頼は、千姫の気持ちを受け止め、穏やかに微笑んだ。

「大御所様には、必ずや知らせよう。そなたと子のこと、余の誇りとして伝えたい。

 幕府の安寧のためにも、家の幸せのためにも、これからも皆で力を合わせて参ろう。」


 千姫は、秀頼の言葉に心からの笑みを浮かべ、

「はい、殿。どのような子であろうとも、大切に育ててまいります。そして、殿と共に、家を守り抜きとうございます。」


 初夏の陽射しが二人の間に降り注ぎ、新しい命の予感と、夫婦だけが分かち合う温かな未来への希望が、静かに広がっていった。



 城下にまだ薄い霞が残る頃。

 秀頼は、内記、毛利勝家、全登ら信頼する家臣たちを呼び集めていた。

 旅支度を整えた一行は、静かに城門をくぐり抜ける。


 城の高台からは、千姫や家族、家中の者たちが見送りに立っている。

 秀頼は一度だけ振り返り、静かに頭を下げた。

「皆、しばし留守を頼む。」

 内記は、道中の警護や手配に目を配り、勝家は、無骨な表情で一行の後ろを固める。全登は、静かに周囲の気配をうかがいながら、秀頼のすぐ傍らに控えていた。



 秀頼一行は、旅立ちに際して大坂城を経由することなく、まっすぐ堺の港へと向かった。

 かつての本拠であり、数々の思い出が残る大坂城――

 だが今、秀頼は新たな時代への歩みを乱さぬため、あえてその城門を遠くから眺めるだけにとどめた。

「過ぎし日々に心を引かれぬよう、今は前だけを見据えたい」

 そんな静かな決意が、彼の胸にあった。


 堺の町は、海の香りと商人たちの活気に満ちている。

 秀頼は、これから始まる大陸への旅路の前に、

 この港町で最後の準備を整えようとしていた。


 風が一行の衣を揺らし、

 新たな時代への一歩を踏み出す気配が、静かに広がっていった。



 堺を発った秀頼一行の船は、昼過ぎには兵庫津の港へと滑り込んだ。

 港には潮の香りが満ち、商人たちの威勢のいい声や、荷を運ぶ人々のざわめきが響いている。

 白壁の土蔵や町家が整然と並び、道端には紫陽花が咲き乱れていた。


 港の桟橋には、池田家の家老・本多重次、筆頭家老・河合道臣らが家中の者たちとともに整然と並び、秀頼一行を迎えた。

 本多重次が一歩前に進み、深々と頭を下げる。

「権大納言殿、ようこそ兵庫津へお越しくだされました。

 あいにく殿はご病気にて、若君もご幼少ゆえ、我ら家中一同にてお迎え仕ります。」

 河合道臣も続き、礼を尽くす。

「ご旅路のご無事と、これよりの大事が滞りなく進まれますよう、兵庫津一同、心よりお祈り申し上げます。」

 秀頼は、内記・勝家・全登らを従え、静かに一礼した。

「ご丁寧なるおもてなし、かたじけなく存じます。池田家のご安泰と、殿のご快癒を心よりお祈り申し上げます。」


 一行が港町の屋敷へ案内される道すがら、秀頼はふと西の海岸線を眺め、家臣たちに静かに語りかけた。

「この兵庫の西には、一ノ谷がある。

 かつて、平家が源氏と死闘を繰り広げ、戦の火蓋が切られた場所にございます。

 思えば、あの時もし早くに戦をやめていれば、あれほどの惨劇は避けられたやもしれぬ。

 戦は始めるより、やめることのほうが難しいもの。されど、泰平を守るためには、どんな時も和を選ぶ覚悟が肝要と心得ております。」

 内記や勝家、全登もその言葉に深く頷き、池田家の重臣たちもまた、秀頼の志に敬意を込めて頭を下げた。


 港町の一角に設けられた屋敷では、池田家の重臣たちが用意した膳が並び、瀬戸内の新鮮な魚や、播磨の名産がふるまわれた。

 内記は荷の点検を済ませ、勝家は警護の配置を確認し、全登は静かに周囲の様子を見渡している。

「殿、兵庫津は人も多く、賑やかにございますな。」

 勝家が低くつぶやくと、内記が頷く。

「この地での補給も万端、明日の出立も滞りなく進めましょう。」

 全登は、町の商人たちから瀬戸内の潮の流れや次の寄港地の情報を集めていた。

「殿、ここより先も順風にて進めそうにございます。」


 池田家の家老・本多重次は、秀頼に向かい、

「この地にて何かご入用のことがあれば、何なりとお申し付けくださいますよう。」

 と、誠意を込めて応じた。

 秀頼は、旅の目的やこれからの大陸渡航について簡潔に伝え、

「このたびは、朝鮮・明国との和睦のため、旅路の安全と諸国のご協力を賜りたく存じます。」

 と、静かに語った。

 河合道臣は深く頷き、

「池田家としても、権大納言様のご志に敬意を表し、この兵庫津より、旅のご無事をお祈り申し上げます。」

 と、改めて頭を下げた。


 その夜、秀頼一行は兵庫津の屋敷で一泊し、初夏の夜風に吹き渡った港町で、次なる旅路への英気を養った。


 翌朝、兵庫津の港は、初夏のやわらかな陽射しに包まれていた。

 夜明けとともに、町は静かな活気に満ち始め、潮の香りとともに新しい一日の始まりを告げている。

 紫陽花の花が朝露に濡れ、白壁の土蔵や町家の屋根には、青空が広がっていた。

 内記は荷の積み込みを見守り、勝家は警護の者たちに最後の指示を与えている。

 全登は、町の商人たちから潮の流れや天候の情報を集めていた。

「権大納言様、風も潮も順にございます。今日のうちに鞆の浦まで進めましょう。」

 全登が静かに報告すると、秀頼はうなずき、

「皆、抜かりなく頼む」と声をかけた。



 船は穏やかな瀬戸内の海を進み、昼過ぎには鞆の浦の港へと到着した。

 入り江には大小の船が浮かび、波止場には塩や魚、酒樽を積んだ荷車が行き交う。

 町並みは石畳の坂道が続き、古い町家や茶屋が軒を連ねている。


 港の桟橋には、正則が家臣たちとともに姿を現した。

 正則は浅葱色の肩衣に白の小袖、家紋入りの袴をきちんと着こなし、腰には家伝の太刀を佩いている。

 格式を保ちつつも、風を受けてどこか親しみやすい雰囲気を漂わせていた。


 正則は一歩前に進み、朗らかな声で出迎える。

「大和殿、ようこそ鞆の浦へお越しくだされた。

 この福島正則、心より歓迎仕る。」

 秀頼は家臣たちとともに深く一礼し、

「正則殿のご厚情、かたじけなく存じます。

 このたびは大陸への旅路、瀬戸内の安全とご助力を賜りたく、立ち寄らせていただきました。」

 正則は大きく頷き、

「大和殿のご志、まことに立派なもの。

 瀬戸内の海は我が広島藩が守っておる。

 この先、どの港でも困ることはなかろう。

 何かあれば、遠慮なく申されよ。」


 秀頼の傍らで内記が小声で「正則公自らのお出迎え、ありがたいことでございますな」とつぶやき、

 勝家は警護の者たちに目配せをしながら「広島藩の備え、さすがに抜かりなし」と感心していた。

 全登は港の賑わいを見渡しつつ、「この地の商人たちも、正則公のもとでよく働いております」と静かに報告する。

 正則は、秀頼の一行に地元の名産や酒を贈り、

「道中、これを楽しみながら進まれよ」と、にこやかに笑った。

 港町には、陽射しとともに、大名同士の信頼と新たな時代への期待が、静かに満ちていた。


 その夜、鞆の浦の屋敷では、港から届く潮騒と町の灯りが静かに揺れていた。

 権大納言秀頼は家臣たちと膳を囲み、正則から贈られた地酒を酌み交わしながら、旅路の無事と新たな時代の行方について語り合った。

 町の夜は穏やかで、遠く船の帆が月明かりに浮かび上がっていた。



 夜明け前、鞆の浦の港町はまだ静けさに包まれていた。

 遠く波止場からは、漁師たちの舟が朝靄の中を滑り出していく。

 秀頼は、家臣たちとともに港へ向かい、福島正則から贈られた名産の酒や干物を船に積み込む様子を見守っていた。

「皆、支度は整ったか」

 秀頼の問いに、内記が「はっ、すべて滞りなく」と答え、

 勝家は「警護の者も抜かりなく配置いたしました」と力強く頷く。

 全登は、港の商人たちから潮の流れや天候の情報を集めていた。


 光が海面にきらめき始める頃、一行の船は鞆の浦を離れ、瀬戸内の穏やかな波を進んでいった。

 やがて、厳島の島影が近づく。

 海上から望む厳島神社の大鳥居は、朝の光を浴びて朱色に輝き、背後の緑深い山々と相まって、神々しい静けさを湛えている。


 船が桟橋に着くと、島内の神職や僧侶たちが、白衣に浅葱の袴、烏帽子姿で整然と並び、秀頼一行を迎えた。

「権大納言様、この厳島へようこそお越しくださいました。

 旅路のご無事と、これよりの大事が滞りなく進まれますよう、神前にてご祈祷を執り行わせていただきます。」

 秀頼は家臣たちとともに深く一礼し、

「ご丁寧なるおもてなし、かたじけなく存じます。このたびは大陸への旅路、道中の安寧を祈念し、厳島の神々にご加護を賜りたく存じます。」


 神職たちは一行を神社へ案内し、清らかな海風と松の香りが漂う参道を進む。

 本殿では、祝詞が厳かに奏上され、秀頼と家臣たちは静かに頭を垂れ、新たな時代への無事と成功を心から祈った。

 参拝を終えた後、神職たちが島の名産や神饌を贈り、

「道中、どうぞお役立てくださいませ」と、

 心からのもてなしを示した。


 厳島の静けさと神聖な空気の中で、秀頼一行は心を新たにし、次なる寄港地――赤間関への旅路へと船を進めていった。



 海を進み、秀頼一行の船はやがて長門の赤間関へとたどり着いた。

 関門海峡を望む港町は、潮の流れが速く、大小の船が行き交い、町には西国と九州を結ぶ活気が満ちている。

 遠くには、白壁の屋敷や寺院の屋根が連なり、港には毛利家の家臣たちが整然と並んでいた。


 桟橋に降り立つと、風が潮の香りを運び、町の賑わいとともに、どこか静かな緊張感が漂っていた。

 やがて、毛利秀就が家臣たちを従えて姿を現す。

 秀就は落ち着いた色合いの直垂に家紋入りの袴を身につけ、若き藩主らしい端正な佇まいで一行を迎えた。

「権大納言様、ようこそ赤間関へお越しくだされました。この毛利秀就、心より歓迎仕ります。」


 秀頼は家臣たちとともに深く一礼し、

「秀就殿のご厚情、かたじけなく存じます。

 このたびは大陸への旅路、長門の安全とご助力を賜りたく、立ち寄らせていただきました。」

 秀就は静かに頷き、

「大和殿のご志、まことに敬服いたします。

 この赤間関より西、我が毛利家が海路の安全をお守りいたします。何かご入用のことがあれば、遠慮なくお申し付けくださいますよう。」


 秀頼はしばし海峡の向こうを眺め、やがて静かに語り始めた。

「この海は、かつて源平両家が死闘を繰り広げ、やがて平家が滅びの淵に沈んだ場所にございます。

 あのような惨劇を、余は二度と繰り返したくはござらぬ。戦は、ただ人の命と家の誇りを奪うのみ。

 今の余は、天下泰平を守るため、いかなる困難があろうとも、戦を避け、和をもって世を治める道を選びたいと存じます。」

 秀就はその言葉に深く頭を下げ、

「大和殿のお志、まことに敬服いたします。毛利家もまた、平和の世を願い、力を尽くす所存にございます。」

 秀頼は微笑み、

「これより先も、いかなる時も、戦を避ける道を共に探ってまいりましょう。」


 潮騒と夜風が、二人の間に静かに流れた。

 歴史の記憶を胸に、秀頼は新たな時代の泰平を強く誓うのだった。



 更に西へ進み、秀頼一行の船はやがて博多の港へと入った。

 博多の町は、古くから大陸との交易で栄えた港町。

 石畳の道には商人や旅人が行き交い、町家や蔵が立ち並ぶ。

 港には、九州各地から集まった船がひしめき合い、潮の香りとともに活気が満ちていた。


 桟橋には、福岡藩主・黒田長政が家臣たちとともに姿を現した。

 長政は、深い藍色の直垂に家紋入りの袴を身につけ、穏やかながらも威厳ある佇まいで一行を迎えた。

「権大納言様、ようこそ博多へお越しくだされました。この黒田長政、心より歓迎仕ります。」


 秀頼は家臣たちとともに深く一礼し、

「長政殿のご厚情、かたじけなく存じます。

 このたびは大陸への旅路、筑前の安全とご助力を賜りたく、立ち寄らせていただきました。」

 長政はにこやかに笑みを浮かべ、

「大和殿のご一行が博多にお越しとあらば、町の者どもも大いに沸いております。

 この地は昔より異国の風が行き交う港、珍しきものも多うございます。どうぞ、博多の賑わいと味を存分にご覧じろ。」

 秀頼は町の活気に目を細め、

「この地もまた、幾多の戦乱を経て今の繁栄がございます。余は、これからも戦を避け、和をもって世を治める道を選びたいと存じます。」

 長政は杯を手に取り、

「大和殿のお言葉、まことにありがたく存じます。筑前の者どもも、平和の世を何よりの宝と心得ております。道中、何かあれば遠慮なくお頼みくだされ。」


 秀頼の傍らで内記が「黒田家のご配慮、ありがたいことでございますな」と小声でつぶやき、

 勝家は警護の者たちに目配せをしながら「博多の備えも、さすがに抜かりなし」と感心していた。

 全登は港の商人たちから、次の寄港地や海路の情報を集めていた。

 長政は、秀頼一行に博多の名産や酒を贈り、

「道中、これをお役立てくだされ」と、にこやかに微笑んだ。


 その夜、秀頼一行は博多の屋敷で休息をとり、町の夜には祭り囃子が遠く響き、家臣たちはそれぞれの役割を確認し合いながら、次なる旅路への思いを新たにした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

この章では、秀頼一行が西国の港を巡り、さまざまな人々の思いと歴史の記憶に触れながら、

新しい時代への旅路を歩み始める姿を描きました。

次章では、さらに新たな地での出会いと物語が待っています。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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