表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葛藤の上に花は咲く ~序章~  作者: 優月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/12

初めての対話

「…橋本!おい、何をしている」


美優は気づけば、自分自身の規律を破り、彩花に声をかけていた。美優にとって、他者の行動に干渉することは、己のエネルギーの無駄でしかない。だが、彩花のあの執拗なまでの努力は、彼女の合理性を乱した。


腕立て伏せの姿勢から、彩花は慌てて身体を起こした。道着は汗で道着が張り付き、顔は真っ赤に染まっている。


「えっ…自主練です。こうしないと、上村さん始め、ついていけないから…」


彩花は、率直に、そして屈託のない笑顔を見せた。その言葉には、成績最下位であることへの卑屈さは微塵もなく、ただ純粋な焦燥と、追いつきたいという意志だけが宿っていた。


「ついていけない? 自主練でどうにかなるレベルではないだろう」


美優の口から出たのは、冷徹な分析だった。それは事実だ。彩花の成績は、一朝一夕の努力で埋まる差ではない。


「そう、ですよね!」彩花は肩を落とすどころか、笑った。「でも、やらないと不安で。上村さんみたいに、才能も実力もないなら、人より多くやるしかない、って思って」


「才能?」


その言葉に、美優の眉がぴくりと動いた。美優の強さは、「才能」などという曖昧なものではない。それは、血を吐くような自己規律と鍛錬によって、積み上げられた「結果」だった。


「私に、才能なんてものはない」美優は断言した。「あるのは、努力と、勝利への合理的なアプローチだけだ」


「えー!そんなことないですよ。剣道の授業を見た時、上村さんだけ、動きが全然違いました。まるで、水が流れるみたいで……。すごいなって」


美優は、ただ見つめた。自分に向けられた、その曇りのない尊敬の眼差しを。それは、彼女の孤独な城の中では聞いたことのない、「友情」や「仲間」の領域に属するような、熱を帯びた感情だった。


彩花は慌てて竹刀を手に取り、美優に差し出した。


「あ、あの!よかったら、少しだけ、見ていただけませんか? 打ち込みが、全然うまくいかなくて…」


ーー他人に干渉するな。己の鍛錬に集中しろーー


頭の中の規律が警鐘を鳴らす。だが、美優の足は道場の中央へと動いていた。


「……一回だけだ。無駄な時間を割く気はない」


そう答えた美優の心臓は、高校時代、個人戦の決勝に臨んだ時よりも、強く、不可解なリズムで脈打っていた。


その一瞬、美優の「個人戦の応用」という完璧な武装に、初めての亀裂が入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ