返答。
(美優さんって、こんなにも不器用な人だったんだ)
上村美優・・・という人間は、教場で主席を張り、どんな困難な訓練でも表情一つ変えなかった・・・はずだった。
しかし、あの美優が、今、人目をはばからず、ガチガチの緊張で、声も身体も震わせながら彩花に告白していた。
その姿は、あまりにも人間味に溢れていて、美優が長年装ってきた「孤独な完璧主義者」の仮面は、彩花の前では完全に脱ぎ捨てていた。
彩花は、その偽りのない姿を見て、胸の奥が熱くなるのを感じた。美優への愛おしさが、また津波のように押し寄せていた。
そして、美優の告白の内容――同性同士で、恋愛関係で付き合ってくれ、というストレートな言葉に、彩花は最大の驚きを覚えた。
自分の美優への感情が、憧れや尊敬、そして深い友情を伴う好きであることは自覚していたが、美優がここまで真剣に、「恋愛」としての関係を求めているとは予想していなかった。
しかし、美優は真摯に、そして震える声で告白してくれた。
(私も美優が好きだ。美優さんが、私の不完全さを愛おしいと言ってくれたように、私も美優さんの不器用な強さが愛おしい。)
彩花は、その人間味溢れた、偽りのない姿を見て、「はい」と答えようとした。
・・・
だが、彩花の冷静な部分が、一瞬だけ踏みとどまった。
(でも、私たちはこれからようやく一人前の「警察官」になる。公務と秘密の愛を両立させる覚悟が必要だ。特に、同性愛がオープンではない世界で。私たちの関係が、美優さんの完璧なキャリアを傷つけることになってはいけない・・・)
彩花が求めたのは、単なる答えの保留ではない。
卒業後にお互いが正式な警察官になってから、「公私を分け、二人の未来に真摯に向き合う時間」が、ほんの少しだけ必要だった。
・・・
彩花は、静かに、しかし決意を込めた眼差しで、美優の目を見つめ返した。
「上村・・・美優さん、ありがとうございます。すごく、すごく嬉しいです。私も、美優さんのことが大切です」
彩花は、そっと美優の震える手を包み込んだ。
「だから…ごめんなさい。返事を、卒業後まで、待ってもらえませんか? 「警察官」としての一歩を踏み出してから、改めて、二人で向き合う時間を少しもらいたいです。その時、美優さんに、ちゃんと私の覚悟を伝えたいんです」
彩花は「警察官」という職業の重みから、公私を区別し、二人で覚悟を持つための猶予を求めた。
美優は・・・その「猶予」を受け入れるしかなかった。




