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24-3


流石王族の仕え人、あっという間にテーブルが増えて料理が並べられ、楽器を弾ける人たちは思い思いに曲を奏でていく。

幻想的なガゼボは、あっという間にパーティー会場へと早変わりだ。


皆に飲み物が行きわたったのを確認すると、アレクシアさんはグラスを掲げた。


「本日、私とスミレの婚約が調った。このように祝福される日がくるとは、スミレが現れなければ考えもしなかった。私に幸福を与えてくれたスミレに心からの愛を。そして、私たちを支えてくれる皆へ心からの感謝を。今日はありがとう、乾杯!」


それぞれグラスを上に掲げて乾杯と声を上げる。

私とアレクシアさんがちりんとグラスを合わせると、それを見ていた人たちが面白がってグラスを合わせ始めて、涼し気な音がそこかしこから聞こえてきた。


もしかしたら薔薇の宮だけの乾杯のルールになるかも、と思ってメアリさんを見ると、執事長のグラスに躊躇いもなくぶつけていた。少し慌てたようにグラスを両手で掴む執事長を見て満足気に笑うメアリさんは今日も通常運行みたいだ。


食事をしながら和気あいあいと会話が弾んでいく。皆からは一人ずつ祝福の言葉をいただいて、私も心からの感謝を伝える。


「ノルクスさんも来てくれたんですね!」


私が駆け寄って声を掛けると、ノルクスさんはにっと片方のだけ口角を上げて笑った。


「師長が来いってうるさくてな。二人とも、婚約おめでとう」

「ありがとうございます」

「ありがとう、ノルクスのお陰でスミレもすっかり回復した。今日なんて海に入って遊んだよ」

「ははっ、そいつぁ良い!最近はシケたことばっかり続いてたからな。久しぶりにがっつり飲ませてもらうさ」


ノルクスさんはそう言って、エールの入ったジョッキをこちらに突き出した。私たちは手に持ったグラスを優しく当てて乾杯した。



「アレクシア様、スミレ様。ご婚約おめでとうございます」


「おめでとう!いや~ようやくくっついてくれて嬉しいよ~!」


メアリさんとエドワードさんが声を掛けてくれる。二人にはとてもお世話になっているので、こうして祝福してもらえてうれしい限りだ。


「わたくし、ずううっと板挟みだったんですよ。気持ち悪いくらいにスミレ様に執着しているのに中々行動に移せないダメ主…失礼、奥手な主に、スミレ様はなかなか気付かずやきもきしておりました」


「メアリ、色々と酷くないか?」


「あの時はご迷惑をお掛けしました…!」


「ふふっ、気持ち悪いって…くくっ」


突っ込みを入れるアレクシアさんに、平謝りの私とこっそり笑うエドワードさん。

三者三様の反応だったのに、アレクシアさんとメアリさんは揃ってエドワードさんを睨みつけた。


「ひぃっ!なんで俺!?」


含み笑いから一転して飛び上がるように怯むと、私の後ろにさっと隠れる。


「スミレちゃん、俺をかばって!」


「スミレの後ろに隠れるな、消し飛ばせないだろうが」

「エドワード様は本当に面白い御方だこと」


いつもの軽快かつ毒舌なやり取りが始まって、やいのやいのと騒ぐ。

そして酔っぱらったエドワードさんがちょっと墓穴を掘って、アレクシアさんとメアリさんに追いかけ回され始めた。お酒もまわり、身内だけの無礼講ということで皆羽目を外しているのがわかる。

エドワードさんの逃げ足の速さに感心しつつ端の方で見守っていると、頭上から声を掛けられた。



「楽しそうだな」


「はい…って、えっ!?エルモンド様!」


「来たぞ。婚約したんだってな」


旅装姿のエルモンド様が、いつものように勝気に笑って立っていた。

まさか来てくれるとは思っていなかったので、いきなりの登場に目を丸くしてしまう。


「おめでとう」


「あっ、ありがとうございます!エルモンド様には色々とお世話になりました」


「本当にな。姉上もスミレも手が掛かった」


やれやれと両手を広げてため息をついたエルモンド様は相変わらずだ。けれどその旅装を見て、ふとエルモンド様の予定を思い出した。


「エルモンド様、もしかしてこのまま出発ですか?」


「あぁ、今回は南国から回っていくからな。ここの転移陣で王国最南端まで移動して、そこから入国する」


そう、エルモンド様はまた外遊に出る。長期休暇で心身共に充填したといっていたので、今回も長期に渡って各国を巡ることにしたらしい。


「寂しくなりますね」


ぽつりと零すと、エルモンド様は私の頭をぽんっと撫でた。


「結婚式には戻ってくる。その時はまたニホンの話を聞かせてくれ」


「わかりました、その頃には話術も磨いておきます」


「頼もしいな。次に会う時は義妹か、そなたは」


ぐりぐりと頭を撫でられていると、ようやく追いかけっこを終えたアレクシアさんが駆け足でやってきた。


「来てたのかエルモンド!」


「婚約祝いと、未来の義妹に挨拶をな」


ぱっと手を放したエルモンド様が、またなと柔らかく微笑んだ。

それからエルモンド様はアレクシアさんといくつか言葉を交わした後、集った皆で外遊の旅路の安全と成功を祈願して送り出した。エルモンド様は嬉しそうに口元を緩めて、手を振って去っていった。


そっか、義妹になるのか。

アレクシアさんは王位継承権を破棄して公爵となる予定なので、私は王族にならないけれど、エルモンド様との関係は間違いなく義妹となる。

家族が増えることは、こんなにも嬉しいものらしい。



「スミレ、こっちへきて」


私はアレクシアさんに連れられて、ガゼボから少し離れて湖の方へやってきた。湖畔で立ち止まって空を見上げれば、夕日が沈んですっかり暗くなった空に星々が輝いている。


アレクシアさんは湖の方へ一歩踏み出すと、真剣な面持ちで瞳を閉じた。


それから何かを呟きながら片手を上げる。

するとアレクシアさんの手から黄金の光が飛び出して行って、湖の上から天に向かって続く階段のように大きな道を作り上げていった。


その道は私がこの世界にやってきた時に見た光芒の道とそっくりで、瞬きを忘れて見入ってしまう。


「これは…あのとき見た光の道と一緒です…」


「あぁ――やはり私が生み出した光だったんだね。これは魔術的根拠のないただの光の道。でもあの時スミレをこちらへ導きたいと強く願った時、私の願いが魔力に乗って顕現したんだろう。そうとしか言い表せない。そして今は、スミレの父上を思ってこの光の道を作った」


「私の父ですか…?」


驚く私にアレクシアさんはふっと笑って、肩をすくめた。


「まだスミレの父上に報告していなかったからね」

「あ…!」


その気持ちが嬉しくて、私も一歩踏み出した。差し出された手を繋いでアレクシアさんの隣に並び立つと、互いに目を合わせて頷いた。


「私も報告して良いですか?」


「もちろんだよ」


この道の先に居るはずの父を想い、私は思いっきり息を吸った。


「お父さん!お父さんのおかげで私、アレクシアさんと出会えたよ!そして結婚することになりました!今とっても幸せです!これからも見守っていてね!」


私の声に金の光が反応したように舞って、道の上を駆け上っていく。その光景はまるで本当に父のもとへ届いているようで。込み上げてくる気持ちを留めるように、ぐっと奥歯を噛み締めた。


私が伝え終わると、アレクシアさんもすうっと息を吸った。


「スミレをこの世界へ送っていただき感謝申し上げます!アレクシア・ミア・ノルスタシアは、あなたの大切な娘を生涯幸せにすると誓います!」


アレクシアさんの言葉に込められた想いも、眩い光となってくるくると踊るように登っていく。

そのあまりにも美しく幻想的な光景に、ガゼボの方からもひっきりなしに歓声が上がっている。

今までに感じたことのない高揚感に、私は今この時をしっかりと胸に刻み込む。


私はこの世界で、アレクシアさんと共に生きていくのだ。


もう一人なんかじゃない、支えてくれる人、関わってくれる人全てを大切にして前に進んでいく。どんなに大きな苦難が待っていても、私たちならきっと乗り越えていける。


もう弱って下ばかり見ていた私はいない。


つないだ手の先から、未来につながる温もりを感じて。


「愛しています、アレクシアさん」




顔を上げて空を見上げれば、伸びた道の先で流れ星がきらりと一筋輝いた。



ここまでお読みいただきありがとうございました!


今後の二人について、まだまだ書きたいお話もあるので番外編としてアップしていこうと思います。

(時期は未定ですが…)

それではまた!

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