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14-2


ノルクスさんを襲った犯人は捕まって、ひとまず事件は一段落したらしい。

心配していたノルクスさんも現在はピンピンしているそうで、顔確認の時には犯人たちに「知ってること吐かねぇなら拷問だなぁ」と拷問についてねっとり説明して震え上がらせていたそうだ。お陰でぺらぺらと自供したので、捜査もスムーズに進められるという。

流石です…ノルクスさん。



それから、私の身分について話し合う事になった。


「私が、貴族に…」


提案されたのは、私が他国の貴族令嬢となること。

近いうちにアレクシアさんを通してお披露目をし、私の後見をしているとアピールすることで、殆どの貴族から身を守ることが出来るらしい。


国としても身分がある方が庇護しやすいと聞いて、確かにそうだと自分の短絡的な考え方を反省する。


ずっと平民として暮らす可能性を考えて動いていたし、自分に貴族としての生き方は会わないと思っていたから。

あまり目立つのは得意ではないし、その方がずっと気楽だと思っていた。



でも―――この薔薇の宮のみんなと、アレクシアさんと離れずにいるには、平民ではなく貴族になるべきなのだ。

やっぱり…アレクシアさんと離れるのは寂しいから。


先日のカサンドラ様とのやり取りが脳裏に蘇って、ぎゅっと目を閉じた。


貴族なら、いずれ薔薇の宮を離れることになってもまた会う機会があるはず。それなら出来る限り傍にいられるように頑張りたい。

覚悟をきめて、私はアレクシアさんを真っすぐ見つめた。


「提案をお受けしたいと思います」


部屋の中に漂っていた緊張の糸が、そっと解けていく。

アレクシアさんは気が抜けたように肩を落として、ははっと安堵したように笑った。


「良かった…!今すぐ平民になりたいと言われたらどうしようかと」

「それは…ちょっと考えてましたけど」

「うっ、そうか……でも、本当に良いの?」


「はい!私ここの皆さんが大好きなんです。少しでも長く薔薇の宮で皆さんと過ごせるなら、出来ることは頑張りたいと思います」


「まぁ、スミレ様ったら…」

メアリさんが嬉しそうに微笑んでくれる。


「スミレ、その皆の中に私も入っている?」


ちらり、と自信なさげにアレクシアさんが聞いてきたので、私は笑いを零してしまった。


「ふはっ、当たり前じゃないですか!むしろアレクシアさんと離れちゃうのが一番嫌だからです!」


胸を張って伝えると、きらきらと目を輝かせたまま、アレクシアさんの口元がむずむずと動く。

当たり前のことなのに、そんなに可愛い反応をするのはずるい。


「あらやだ、アレクシア様お顔が崩れていましてよ」

「うるさい、噛み締めさせろ」


いつもの和気藹々とした空気が部屋の中に戻ってくる。こんな日々が、もう私の宝物になっているのだ。


ここでは皆が相手を思いやって、喜怒哀楽を共有してくれる。過ごした時間が心を温めてくれる。私は薔薇の宮が大好きだ。



**



他国の貴族として、王家主催の夜会でお披露目されることが決まった。


夜会といえば必須のダンスをものにするために、レッスンの時間を増やすことにした。

私の日々は筋肉痛との闘いになった。悲しいかな、この数年まともな運動をしていなかったツケがまわってきている。


とにかく背筋を伸ばして姿勢を維持することが難しい。最近はようやく足のステップを覚えて、エドワードさんにもパートナー役として練習に付き合って貰っていた。


「今日のダンスレッスンは私と一緒に踊ろう」


「アレクシアさん!?お仕事だったのでは?」


「午後から非番になったんだ。エドワードもダンスレッスンに参加していると聞いたから、私もスミレを応援したくてね」


にっこり笑うアレクシアさんは、いつにも増して神々しい。その光の裏で、書類を抱えて右往左往するエドワードさんを幻視してしまい苦笑する。


「まだまだ拙いですが、胸を借りるつもりで頑張ります」

「ふふ、スミレとダンスを踊れるなんて夢みたいだよ」


カツカツと規則的に鳴るメトロノームに合わせて、二人で足を踏み出す。

流れるようにステップを踏むアレクシアさんの足を踏まないように、頭をフル回転させて足を動かす。次はこっち、その次は――。

なんとか一曲、集中して踊り終えた。


「ふう、緊張しますね」

「緊張なんてする必要などないのに。さぁもう一度、次は私の方を見て」


そう言われて、私はずっと足元を見ていたことに気が付いた。顔を上げると、アレクシアさんの綺麗な瞳と目が合う。


「このまま、目を逸らさないで」


熱のこもった瞳でじっと見つめられてしまい、目が離せないまま足を踏み出す。アレクシアさんを見上げたまま、ずっと絡んだままの視線がひどく甘く感じて、心臓が早鐘を打つ。これじゃあまったく集中できない。


「あっ…」


ステップを踏み間違えそうになると、アレクシアさんが導くように腕を引いてくれるのでダンスが止まるようなミスを防いでくれる。

その度に目を細めて私を愛でるように笑うので、私は自分の顔に血が上っていくのを感じた。


「かっ…」

格好よすぎませんか、アレクシアさん!こんなの女性陣は耐えられるの!?


「ん?どうしたの?」

「いえっ、何でもないです」


そんな感じで、アレクシアさんに翻弄されながらのダンスレッスンは半分意識を飛ばしながらあっという間に終わった。

最後のダンスで「頑張ったね」と耳元で囁かれて私に限界が訪れた。

アレクシアさんはきちんとご自身の魅力をわかっているのだろうか、これは夜会で失神する人が出るくらい危険だと思う。


うう、アレクシアさんと平常心で踊れる日は来るのだろうか。


「スミレ、無理してない?」

「大丈夫です!!頑張ります!!」


反射的にぐっと拳を作って返事をする。私はあきらめが悪い女、夜会ギリギリまで練習をして何としてでも踊れるようにならないと。

元々社畜だった私ならできる!と頬をぺしぺしと叩いて自分を鼓舞するのだった。



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