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4-3


椅子から立ち上がって見送ったあとも、興奮が醒めないままの私はきょろきょろと視線を動かして、見えることに感動していた。

アレクシアさんがコホン、とわざとらしく咳払いをする。


「さて、大いに喜んでもらい嬉しい限りだが、今日はまだ楽しい事があるのをお忘れかな?」


片目を閉じてちらりと視線を私に向けたアレクシアさん。その芝居がかった台詞で、私はここに来るまで楽しみにしていたことを思い出す。


「魔法の練習!ですよね!」

「その通り!」


大仰に反応をくれるアレクシアさん。今日のアレクシアさんはなんだかノリが良い。気取った台詞を言ってみたり、王子様みたいにエスコートをしたり。しかもそれがあまりに堂に入っているので、見惚れてしまうのだ。


部屋の中央へと場所を移してからは、魔法の講習の開始だ。


「まず始めに、この部屋は頑丈に作られた上に結界が張られているため、魔法攻撃や物理攻撃にとても強い。なので最初のうちは、この部屋で魔法を練習すること。使ったことのない魔法は外で使わないこと。いいかい?」

「はい」


アレクシアさんが手を振ると、空中に光の剣が現れた。

手のひらを下へ振ると、勢いよく前に飛び出していく。そのまま壁に激突すると、光の剣はぱりんと音を立てて崩れて消え去った。


「すごい…」

「こうやって攻撃しても今みたいに弾かれるから、安心して魔法を使うといい。まぁ今は攻撃魔法より生活魔法が先だね。スミレなら簡単に具現化できるだろう」

「えっ、そんな風には思えませんが…」

「ニホンでは、様々な映像を作り出したり、それを見ることが出来るだろう?魔法はそういう想像力が必要なのだけど、ニホン育ちのスミレなら容易に出来る気がしてね」


一つずつ、言われた通りに目を閉じる。

深呼吸をして心を落ち着かせて、身体の中を巡る血液を想像する。そこに一緒に流れているのが魔力。体中を巡回している魔力を一部だけ動かして、人差し指に集める。その魔力の熱を感じとるようにして、いつもと違う感覚がしたら上手く出来た証拠。発現させたい魔法を思い浮かべて、集めた魔力を外に押し出すイメージ。


「まずはマッチ棒に灯るような、小さい火を出現させてみようか。自分で作る魔力の火は熱くないから思い切ってやってみて」


言葉で説明を受けながら、身体の中に意識を向ける。

指先が暖かくなる気がして、これが魔力なのだと想像する。昂る感情を抑えながら、指先に灯る小さな火を思い浮かべる。サイズはこのくらいで、指からこのくらい浮いていて。


想像を固めてから、集まった熱を一気に押し出すイメージをすると、ずるりと熱が指先から飛び出していく。閉じていた目を開いてみると、想像した火より二回りほど大きな炎が、人差し指の先に浮いていた。


「やった、やりました!」

「すばらしいです、スミレ様!」


メアリさんが声をあげて喜んでくれて、本当に魔法が使えたのだと実感する。アレクシアさんも満足気に微笑んでくれた。


「魔法の発動は今の流れが基本だよ。自分の魔力量には限度があるから、具合が悪くなったりしたら魔法を使うのはやめること。魔力がなくなると倒れてしまうんだ」


じゃぁもう少しやってみようと言われて、私は火を出した方法と同じく他の魔法にもチャレンジしてみることにした。


空のコップに水を生み出す魔法、そよ風を出す魔法、小さい光源を生み出す魔法。属性魔法と呼ばれるそれらを一つずつ教えて貰いやってみると、少し時間はかかったけれど成功させることができた。

アレクシアさんに覚えがとても早いと褒めてくれて、私は子供の頃のようにはしゃいでしまいそうになる。

どうやら私は、アニメや物語などの娯楽の影響なのか、こちらの人よりも想像力が高いらしい。


最後に治癒の魔法を試してみようと言うと、アレクシアさんはためらいなく自らの指を光のナイフで切る。血がぷつりと溢れた指を差し出されて、こんな簡単に傷を作っていいのだろうかと困惑した。メアリさんも小さく溜息をついている。


「多分、スミレの世界の一般知識があれば治癒も可能なはずだ」


ぽたりと垂れていく血を見ていられず、即座に目を瞑って想像する。はじめは治る過程を想像したけれど、途中で傷がつく前に巻き戻るようなイメージに変えた。

よし、と目を開けると指先からふわりと揺らぐような光が現れた。薄く幾重にも光る色はまるでオーロラみたいだ。その光がすうっと消えて、アレクシアさんは血を拭って傷口を確認する。私には綺麗に塞がっているように見えた。


「できた…?」

「これは予想以上だ、止血だけじゃなく傷も綺麗に無くなっている。スミレは魔法の才能があるよ!これならすぐに上達するだろう」


大げさなくらいに褒められて、えへへ、とぎこちなく微笑む。


「こんなに褒めてもらえたのは久しぶりで…すごく嬉しいです」


はにかみながら告げると、二人とも嬉しそうに微笑んでくれた。

初めて魔法を使ったので疲れが出てはいけないからと、今日のところはここまでだ。これからも定期的に教えてくれるそうなので、次の機会を楽しみに待とうと思う。



薔薇の宮に帰るためには、また同じ場所を通ることになる。

先程のような好奇の視線にさらされないように、アレクシアさんが私のドレスの色と髪色を魔法で変化させてくれた。眼鏡も外したので同一人物とは思われないだろう。

メアリさんに少し胸を張るとより別人に見えますよ、と言われて背筋を伸ばす。


少し緊張しながら昇降機を降りて、受付のあるフロアを抜ける。

先ほど待合にいた貴族らしき男女は既にいなくなっていて、人も減っていたのでほっと胸をなでおろした。アレクシアさんがいるので視線は方々から送られてくるものの、直接的な言葉が聴こえてくることは無かった。


そのまま三人で本館の入口を出て、転移陣のある別館へと向かう。アレクシアさんはまだ仕事があるので、転移人では私とメアリさんだけ送り返してもらうことになった。


「――誰よ、あの女」


本館を出る私の背中を、顔を歪めた女性が睨みつけていたことに、私は気が付くことは無かった。



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