第八話 リザードマンと知性
ラルゴを頼ることでフォスキアの街に入ることができた一行。かっこよく去る予定だったラルゴを引き止めて街を歩くための御駄賃を要求した。
ラルゴに少量の軍資金をもらった三体の魔物は、念の為見つからないようにと宿の窓から抜け出し、裏路地を這っていた。
「ゴミの掃除とかしないんですかね」
「裏路地だし、見えにくいから後回しなんでしょ」
「でも、ゴミ箱のゴミはちゃんと回収されてるみたいね」
目に見えたものについて話しながら這って進む。
「ところで赤スライムさん」
「フーガだけど、何かあった?」
「それの話」
カストラータはもちっと、若干上下に跳ねた。
「ああ、この魔石?」
「なんで今のジェスチャーと指示語だけでわかったんですか」
「その魔石。さっきの黒い竜人さんの言いぶり的に特別なものなんでしょ?多分、スライムでも扱えるとかそんな感じなんじゃない?」
フーガの中で、赤い魔石が揺らいでいる。石を切り出したような、ごつごつとして不規則な多面体をしているそれは、赤いオーラを放ち、滲み出た魔力がスライムの身体を赤く染めている。
「そういうもんなのかな?復活草もあるし、一回持ってみる?」
フーガがぷるぷると身体を揺すると、ころんと魔石が落ちた。そして赤く染まってたその身が元の緑色に戻っていく。
「ありがと。一般スライムが持てる魔石なんだもんね」
かストラータがその魔石を取り込むと、ぷかりとその中に浮かび上がった。
「あっ、待ってこれ無理だ死っ」
一秒と持たずぱんっと弾け飛んだ。
「カストラータさーん!?!?」
「あーあ。カノン、復活草お願い」
カノンとフーガが飛び散った残骸をかき集めて、そのそばに復活草を置いてやった。それから数秒かけて一箇所に集まり、元の形状に戻っていく。
「いったー……あなた、本当に魔石の魔力に耐えられるのね」
「そうみたいだね。特別な力がどうとか、正直お膳立てとかそういうもんかと思ってたけど」
「こっち、カ?」
表の通りから声が聞こえた。三体は息を止め、ゆっくりと音を立てないように声がした方向から離れる。
「……なニも、ぐる……い゛なイぞ、?」
カタコトで鳴き声混じりの声で誰かと話しているのは、黒いコートを羽織ったリザードマンだった。裏路地の中に入り、ゆっくりと歩くとコートが揺れ、腕には小さい、綺麗な球状をした水色の魔石が埋め込まれている銀色のブレスレットが見えた。フラワーホールには黒っぽい青色の石が装飾されている。その後ろに続く二体のリザードマンはいたずらに小さな鳴き声を漏らしながらその後に着いている。その二体からは魔石の放つ光は見えなかった。
「コの、ちかぐを、みてロ」
「ぎゅうっ」
黒いコートは指示をするとそのまま歩いて行き、灰色のコート二体は二手に分かれて裏路地を出た。それから数秒すると、そこにあったゴミ箱がかたかたと音を立てると、蓋が持ち上がり、ふさふさとした葉っぱと黄色く光る目が見えた。
「……多分、もうー、大丈夫、かな?大丈夫みたいです」
カノンが根っこを伸ばしてゴミ箱の中から出てくると、それに続いてフーガとカストラータが跳ねて出てくる。
「もう行ったかな」
「ゴミの中ってわけじゃなかったけど、うう……」
カストラータはぷるぷると身体を震わせる。
「でも、ちょっとまずいかもね」
「警戒されてることがですか?」
「それと、あの青の階級証明石。多分、Under-2だ。灰色コートの方はよく見えなかったけど、Under-1あってもおかしくない」
「氷魔法の魔石ももらってるみたいね。こっちに火属性があるとはいえ、ああいうのと接敵したら面倒なことになりそう」
「とりあえず、ずっとここにいるわけにもいかない。さっきの感じだとこの辺はもう警戒されてるし、どこかに……」
フーガはちらとその街の景色を見た。入るときはラルゴの中に隠れていたし、外に出たときも裏路地ばかりであまり見えなかった景色だった。家々は灰色のレンガで造られ、どの方向を見ても視界のどこかに時計が入ってくる。人間はぽつぽつと歩いているが、皆常に時計をちらちらと見て時間を気にしているようだった。そして、いたるところに灰色のコートのリザードマンが立っている。
「ずっとこんな感じなのか、この街は……」
フーガが様子を伺っていると、一体の灰色のコートのリザードマンが歩いて寄ってきた。
「ぐりゅ……おまエ……」
見下ろすリザードマン。見上げるスライム。
「あー、こんにちは?僕ら観光できたんですよ。どうです?フーガなんてそんな、僕悪いスライムじゃないですよ?」
フーガはぷるぷるとしながら早口に言い訳を並び立てる。じーっと見ているリザードマン。
「……そウ、か……」
そのリザードマンは振り返ってそのまま元ついていた場所に戻っていった。
「……見せかけじゃねぇのこの街」
「なんであれで大丈夫だったんですか」
「アホ」




