第七話 上位ランクの魔族なんであってただの迎えに来てくれる近所の兄ちゃんじゃねぇんだぞ
新たな仲間、カストラータにアホを露呈したフーガとカノン。やいのやいのと言い合っていると、後ろから竜人、ラルゴが迫っていた。
ラルゴはオーバーサイズのコートを着て、シルクハットを被って再び街の入口へ来た。
「どーもぉ。一時間以内に戻って来たから金はかからねぇよなぁ?」
門番のリザードマンは目を細め、格好の変わったその竜人を訝しげに見る。ラルゴの方は、何も変わった点がないと言うように、さっき街に入ったときと同じ視線を送っている。だが見るからに、コートの下が何か少し動いているように見えるし、体格も良くなっている。シルクハットは明らかにサイズが合っていないように見えるが、頭の上で顔が見えるようにちょうどいいところでストップしている。
「……」
「ぐるる……」
二体のリザードマンは槍を交差させて通さないようにしている。一方はじっと見つめて、もう一方は唸って圧をかけようとしている。ラルゴは、困ったと言うようにふぅっとため息を吐いて、コートのポケットをまさぐると、中身のぎっしりと詰まった、重そうな小さな袋を二つ出した。
「一般的なUnder-1の給与の……何倍か、まあそんぐらいは入れてあるぜぇ。通しなぁ」
門番にだけ聞こえる程度の大きさの声で言ってから、その目の前で袋をゆらゆらとさせてみる。リザードマンはそれをじっと見つめたあとで、あっさりと槍を降ろし、それを受け取った。怪しみつつも中身を覗いてみると、そこには本物の金貨が詰まっていた。それからまたラルゴのことを見ようと顔を上げたが、もうすでに街に入った後だった。
ラルゴは灰色のレンガでできた宿の一室に着くと、ベッドに腰を下ろし、コートを脱いだ。
「ぷはぁっ。もうついたの?」
「本当にこの竜人は味方なのね?」
「もちろんだよ」
コートの内側に隠れていた二体のスライムがぴょんとベッドから飛び降りる。
「頭の上にいてもいいって言ってくれるならもう味方ですよ多分」
今度はシルクハットを取ると、そこからカノンが表れて、がさがさと身体を横にゆすった。
「そんでお前らぁ、真正面からこの街に入ろうとしてたのかぁ?」
「うん。そんな早く話が行ってるとは思わなかったし、お話してお金払ったらいけるかなーって」
「相変わらず能天気だねぇ……」
はぁ、と息を吐くが、口角を少し上げていた。ラルゴが首を多少下げたことによって、頭の上にいたカノンが転げ落ちた。
「で、フーガさんとラルゴさんはどういう関係なんですか?」
「育て親だね」
「そうだねぇ。懐かしいなぁ」
ラルゴは懐かしそうな視線を送り、フーガはその足元にぴっとりとくっついた。
「育て親?竜人がですか?」
カノンがそうやって、体を傾げて疑問をぶつけてみると代わりにカストラータが答えた。
「スライムは魔力の溜まった場所に自然発生するんだよぉ。それで、幼体のスライムは他の魔族に拾ってもらって、保護されるの」
「僕の場合はそれがラルゴだったんだ」
「へー!じゃあ、フーガさんの幼い頃とか知ってるんですか!」
「ああ」
ラルゴは気怠げな目を向けながら頷いた。
「昔、ちょっと遠くの街に一緒に行ってたらなぁ、目離した隙に人間、しかも冒険者の方に走っててなぁ。ずっと人間のことなんて口で聞かせたことしかなかったからかねぇ、スライムってのはすばしっこいんだねぇ」
フーガを持ち上げて膝の上に乗せる。膝の上でぷるぷると、赤い魔石を揺らめかせている。
「じゃあ、どこで拾ったかとかって」
「ちょっと待ってくれ」
ラルゴは強引に切り上げるように言った。視線はフーガを向いている。
「球状じゃない魔石……この魔石、どこで手に入れた?」
「え?えーっと、反逆を持ちかけた協力者の……」
「カデンツァさんです!」
「カデンツァ……へぇ……カデンツァ……」
眉をひそめ、フーガの中の魔石を見つめる。何かをぶつぶつと言ってから、フーガを床に下ろし、三体へ視線を移す。
「お前ら、あー、カストラータちゃんは途中参加だなぁ、結構な大物に期待されてんだねぇ。仕事はしっかりしといたほうが身のためだろうねぇ」
「カデンツァさんって、やっぱりすごい人なんですね?」
「ああ。そりゃあな」
ラルゴはベッドをきしませて立ち上がり、部屋のドアの方へ歩いた。
「じゃ、オレはタバコ買ってくるからぁ。あとはお前らでやれよぉ」
「ちょっと待って?赤スライムの育て親なんだし、協力してくれないの?」
「オレはオレで別に目標があるからねぇ」
「ああ、四天王の一角になるって話?」
「ふぅん。よく覚えてるもんだねぇ。ま、それが諦めきれてないってことだよぉ」
ラルゴは片手をポケットに突っ込み、猫背を三体の方に向けながら部屋を出た。
「あ、ラルゴー!」
「なんだぁ」
「僕ら薄給すぎてお金ないんだー!お小遣いくれるー?」
はぁっと大きなため息が聞こえると、ラルゴが戻ってきた。
「あのさぁ、オレお前らの兄ちゃんじゃねぇんだわ別にぃ。で、いくらいるんだぁ」




